2つのデート。
俺は今駅で穂希を待っている。
以前にした約束だ。
「光くん!ごめんなさい待った?」
「俺も今さっき来た所だよ。」
穂希も大分化粧が上手くなった
毎日キリチャンネルを見て練習していると言ってたからな。
「今日は私行きたい所決めて来ました!」
「ん?どこに行くの?」
「動物園です!」
「イイねー!動物園とかいつぶりだろ!」
俺は動物が好きだ。
主に猫なのだが動物を見るとテンションが上がる。
「うわ!ゴリラだ!デカ!!」
「ちょっと恐い…」
「カッコいいじゃん!あっ!あっちライオン!穂希行こう!」
「ちょ光くん!す、少し休憩させて!」
俺は子供のように夢中になった。
「光くん。ちょっと休憩しよ!」
「あ、あぁ悪い!ちょっと夢中になり過ぎてしまった。」
飲み物を買いベンチへ座った。
「動物好きなんだね!」
「動物は好きだ!癒されるんだよなぁ〜」
「少し意外でした。こんな無邪気な光くんは初めてです!」
「そ、そうか?ははは」
そしてしばらく園内を歩いていると、猫と触れ合えるコーナーがあった。
これは是非行かなければならない。
吾輩は猫が好きなのである。
「かわいい〜!」
俺はこんなに猫を触れる機会なんてあまり無いので肉球をプニプニと触り続けていた。
「光くん、この子猫ちゃんすごい懐いてきますよ!」
穂希はその子猫を抱き満面の笑みでこちらに振り向いた
不思議とその笑顔に吸い込まれるような感覚に陥った。
穂希わ子猫で腹話術のように話してくる
「光くん最近なんか元気なさそうで心配したニャー」
「え?」
「今日は動物園選んで正解だったニャー!力にはなれないかもしれないけど話なら聞くニャ元気出すニャ!」
「はは、ありがと!」
穂希は少し照れくさそうにしていた。
あの穂希が元気づけてくれたのには少し驚いたがなにか少し気持ちが穏やかになった。
俺はクリスマスパーティー以来無意識のうちに顔に出していたのかもしれない。
泉の事も穂希の事も2人共俺には掛け替えのない存在だから…
「今日は楽しかったです!ありがとうございます!」
「こちらこそありがとう!また来ような!」
「はい!デートってこんな感じなんですかね?」
「ん〜多分?俺も分からん!」
「あははは!…でも今日は忘れられないです。
以前の私なら多分こんな大イベント起こりもしてないでしょうし、素敵な友達達も出来てなかったですから…」
「それは穂希が一生懸命やってきた成果だろ?凄いよ本当に。」
穂希は本当に凄い。
自分で自分を変えるのがどれだけ難しい事だろうか。
「全然…。私は光くんが居たから変われました。あと師匠も。
でもでもキッカケは全部光くんが作ってくれました。
それからずっと光くんに見ていて貰いたくて私はそれで頑張れたから…
私は光くんの事…」
「ちょっちょっと待って!!」
「……。」
「ごめん…。」
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「はぁー!?それ絶対地味子ちゃん告ろうとしてきたよね!?
うわっダサっ!ダッサ!!最後まで聞かずにごめんって!地味子ちゃん可哀想ー。もうフラれたって絶対思ってるよそれ!」
「それは穂希さん可哀想…」
俺は後日中島と古谷に会っていた。
「だよなー。変な空気になってさ、何喋って良いか分からなくなって…。」
「じゃあさ、やっぱりお前は泉ちゃんなの?」
「分かんねーんだよ。だからあそこで穂希の言いそうな事聞けなかったんだよ。」
「てっきり俺、佐久間は地味子ちゃんをずっと想ってると思ってたんだけどな。
てか、古谷!お前可愛いな!!」
「今頃!?でも、ありがとう!
佐久間くんも難しいよね。元カノの泉ちゃんが帰ってきて猛アピールされたら困るよね。」
「まぁ…ぶっちゃけあいつが帰って来た時は嬉しかった。また桐ちゃんと3人で前のように遊べるし、お互い嫌いになって別れた訳ではないから。付き合ってた時もカップルらしい事は何一つしてないんだけどな…」
「泉ちゃんともデートして来いよ!」
「それは良いかもね!」
そして泉とデートをする事になり俺は割と緊張していた。
「ひーくんからデートとかどうしたの!?びっくりしたよ!嬉しかったけどー!」
「まぁあれだ、修学旅行の時はあんまりゆっくり出来なかったしな。」
「じゃあ私行きたい所あるの!」
泉に連れて来られた所は水族館だった。
「ここね本当はひーくんと別れる前に来ようとしてた所なんだー!私が引っ越しになって計画がパーになっちゃったけど。」
「あー!確かにそんか計画してたよな!デートとかした事無いからって!」
「うん!だから今日はその時を思い出してここに来たかったの。
ひーくん!行こ!」
泉は手を握り引っ張るように水族館に入った。
そこは一面大きなガラスのトンネルで無数の魚が自由に泳いでいる。
幻想的な気分だ。
「すごーい!デカーい!あっサメ!」
泉は子供のようにはしゃぎ興奮を抑えられないでいた。
「イルカショーがあるらしいぞ!」
「見たーい!早く行こ!」
そこではお客さんも大勢集まり、飼育員さんの合図でイルカが色々なパフォーマンスを披露していた。
これには俺も興奮する。
「最後はイルカさんの大ジャンプでーす!水しぶきが飛んでくるかもしれないので皆さん傘かカッパの用意は良いですかー??」
傘?カッパ?
そういえばなんか傘やカッパを配っていたな…
「泉、傘かなんかもらったか?」
「え!?ひーくんもらってると思って貰ってない!」
「えー!?」
「では行きますよー!」
ピーー
飼育員の笛の合図でイルカは見事な大ジャンプを見せた。
俺たちはビチョビチョだ。
水しぶきというかもう波だった。
「ぷっ…あははは!」
「笑い事じゃねーぞ!俺らだけだぞこんな濡れてんの!」
「だって面白いじゃーん!」
売店でこの水族館のティーシャツを買い着替えた。
「おぉ!ペアルック!」
「仕方ないだろ。あのままじゃ風邪ひくわ!」
「カップルみたいだね!こういうの憧れてた!」
「な、なに言ってんだよ。」
「やっぱりひーくんは面白いなー!可愛い!」
「うるせ!行くぞ!」
水族館は最高に楽しかった。
見た事の無い魚や神秘的な海月達に夢中になった。
「あっペンギン!可愛い。」
「お!鳥類の中でもダントツの癒し系!」
「あははは何それ!
知ってる?ペンギンって夫婦になったらどちらかが死ぬまで一緒に居続けるんだって。」
「現代の人間は離婚だとかすぐしちゃうもんなぁ〜」
「あ、あれ夫婦かなぁー?
素敵だよねぇ。どちらかが死ぬまで一緒って私は出来るなら一緒に死にたいな。
そしたら天国でもずーっと一緒に居られる。」
「そんな寂しい話するなよ!でもそれが1番幸せな事だよな。」
「例えばだよ!それだけ好きな人とは一緒に居たいと思うよ!ね、ひーくん!」
「う、うん。」
泉は別れてからもずっと俺の事を好きで居てくれている。
実際に泉と居るのは楽だし楽しい。
でも、俺の気持ちは……
「疲れちゃったねぇ〜。そろそろ帰ろっか!」
「そうだな、もう外も暗くなったしな〜」
家まで泉を送っている間も話題は尽きなかった。
バカみたいな話をしたり学校の話をしたりと。
「ちょっと休憩しよー。」
ちょうど公園にベンチがあり飲み物を買い少し座った。
「誘ってくれてありがとね。ちょー楽しかったよ!」
「楽しかったな。すげー濡れたけど。」
「良い思い出だよ!ペアルックも出来たし!
ねぇ…ひーくん…私とじゃダメかな?私あのペンギンのように裏切らないよ?
私はひーくんが大好き…」
急に泉は真面目な顔になった。
「え…っと…」
すると泉は近くに寄って来てそのままキスをしてきた。
「お、おい」
「あなたが好き。」
もう一度優しくキスをしてきた。
「もう離れたくないよ」
更にもう一度
しかし、俺の頭の中では穂希の顔が浮かんできた。
胸が締め付けられるようなそんな気持ちだった。
「わ…悪い。泉…。」
「やっぱり地味子ちゃん…?」
「………うん。ごめん……。」
「やだよ…」
「ごめん…」
「私もっと良い子になるよ…」
「ごめん…。」
俺は「ごめん」としか言えなかった。
泣き崩れる泉に何もしてやれなかった。
ただただ時間だけが過ぎて行く。
「はぁ……ごめんねいっぱい泣いちゃった。へへへ」
「悪い…」
「もういいよ…聞き飽きた。」
「俺は穂希の事が…好きだ。泉…お前の事が嫌いになったとかそんなじゃないからな…
普通に遊んだりしたいし、ほら桐ちゃんも遊びたがってたし、中島や杏も古谷もみんな仲間だし…」
「最後まで優しいね…。傷つけないよう傷つけないようしてくれてるでしょ?ありがとう…
でもね?やっぱり傷つくよ…。
優しくされればされる程……。
だけどそんなひーくんが好きだったんだ…」
「ありがとう…。」
「ひーくん!笑って!」
泉は俺の頬を引っ張った。
「そんな悲しそうな顔しないで!私はもう笑ってる!だから笑って!」
泉は目に涙を溜めながらも笑顔で居てくれた。
優しいのはどっちだよ…
1番辛いのはお前のくせに…
「じゃあ私は帰るね」
「家まで…」
「大丈夫!ここからは1人で!」
「そうか…」
「ひーくんありがとう。じゃあねバイバイ。」
しばらく俺はベンチから立ち上がれなかった。
これで良かったのか本当に分からない。
でも、それじゃ泉に失礼過ぎる。
確かに俺は穂希の事が好きだ。
今日確信したんだ。
俺は穂希が好きだ。