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遺伝子を継ぐもの  作者: ポンスケお茶おいしい/キチキチキッチン
第一巻
7/21

第七話

◆◆◆


 地下に潜った後は簡易的な電気自動車で大きな通路を移動する。


光矢がどこをどう移動したか、とても覚えてはいられないほど広大な敷地だ。


しばらくして、今日、光矢が一日歩き回ったくらいの距離を移動したころ、やっと電気自動車が止まる。


「すげぇ……基地の地下にこんな広い空間があったなんて」


 光矢が無邪気にキョロキョロと地下基地を見回している様子を見て、カレンは得意気な顔で一応、釘をさす。


「内緒にしておいてね、世間にばれると大変なことになるから」


 たしかに世間に公表されたら騒ぐ人数は片手だけでは済まないだろう。いままで隠してこられたのも、施設があまりにも巨大で全容を口にしたらあまりにも荒唐無稽、そしてここが日本の領土ではないからできる事だ。


「まぁ信じる人なんていないでしょうけど」


◆◆◆


 それからしばらく時間が立ち、光矢は基地の医療班の治療を受け、カレンに基地内のとある一室に案内されていた。広い室内では息を吸い込むと思わず咳をしてしまう。エアコンの湿度設定を間違えているのかと感じるほど、やたらと乾燥している。簡素な椅子とテーブル、ホワイトボード、そして全長十メートルほどの長方形の箱しか置いていない質素な部屋だ。


電子ドアが設置されている部屋でカレンが光矢にこれまでの事情を説明してくれたところだ。


「じゃあさっきのおじさんはただの頭のおかしい人じゃなくて、テロリストだったのか」


 先ほどの不審者をテロリストで片づけるのはどうも納得がいかないが、光矢はその疑問を胸に無理やり押し込んだ。


「さらに言えば、ミサイルを直撃させても、戦略機動歩兵の荷電粒子砲を当てても、まったくの無傷なの」


椅子の背にもたれかかりながらカレンは光矢の質問に答えている。


「ちょっと信じられないなぁ」


 光矢が腕を組み、怪しむ。


「あなたも同じよ」


「さっき怪我したばかりなんだけど……」


 そうは言われても怪我をした腕を見る限り、とてもシスダーと同じとは光矢には思えない。


「まだ体が慣れてないからよ、あと少し時間が経てばビームだって放てるわよ」


「ちょっと、ちょっと待ってくれ! 頭が混乱する、一体俺の体に何が起きているんだッ!?」


 ただでさえ理解不能な異常事態が立て続けに起きているうえに、米軍の地下基地にいるという状況で、光矢の容量の足りない頭がクラッシュを繰り返している。


「それについては僕が説明しよう。ちょっと口をあけて――はい協力ありがとう」


 急に会話に割り込んできた男はいきなり光矢の口に綿棒を突っ込み、口の内壁をなで回した。


 正装をしているが、彼の風貌は無頓着を体現したようだった。


服を選ぶのが面倒くさいからとりあえず正装をしておくか、という意思が伝わってくる。


いきなり口の中に綿棒を突っ込まれ、口内をかき回される光矢が、誰なのこの人? という視線をカレンに送ると彼女が答え始める。


「このおじさんはラマヌジャン、インド人」


「米軍基地になんで外国人が居るの?」


「僕は研究とか装備開発をしているんだ」


 光矢が怪しむのも無理はない。


基地で研究をするなど光矢にとっては初耳だった。


「この基地は特別でね、グリーンカードをとるためにここで働いているのさ」


 グリーンカード、つまりアメリカ永住資格の取得をするために働いているということらしい。


「カレンはなんでここにいるの?」


「私はボランティアをするためにアメリカから来たの」


 ボランティアが戦闘する。


光矢は理解できない。


なので聞いてみる。


「ボランティアがなんで戦ってたの?」


「戦ってない。言葉が通じない人と体で話し合ってるだけ」


「そうなのか」


 光矢は納得した。


 しかし、あの死闘を話し合いと表現するカレンに光矢は震える。


 光矢の口の中をなで回した綿棒を保存容器に入れたラマヌジャンは、光矢の隣の椅子に腰掛け、オカルトチックな事を話し始めた。


「話を戻そう。光矢、君の体は先祖の宇宙人の遺伝子が発現しているだけなんだ」


 かなりすごいことを口走ったが光矢は意外とすんなりと受け入れた。


「俺のおじいちゃんは宇宙人なの?」


 ラマヌジャンは首を左右に振り、否定する。


「もっともっと昔、だいたい三十万年前くらいの話で、人類はみんな宇宙人、アヌンナキの遺伝子を受け継いでいるよ。たまたま先祖帰りを起こしたのが君なんだ」


「わたしも先祖帰りを起こしているの」


 カレンが光矢に自分の赤い目を見せる。


「いやいやいや、信じるわけないじゃん」


「まあそうだろうね。こんなこともあろうかと、この部屋に連れてきたんだ。コリエル、やってくれ」


 ラマヌジャンが合図すると自動で巨大な箱の上部に取り付けられていた扉が開く。


「うおおぉぉ――ッ! なんだこれ……」


 中から顔を出したのは、巨人のミイラ。


ミイラになってもわかるほどの強靭な体躯。乾燥して骨に張りついた皮膚、水分が抜けた目は大きくくぼみ、大きさは人間離れしていた。立てたとしたら二階建ての家の瓦すら見下ろせているだろう。


「アヌンナキ、と呼ばれている古代の神様のミイラだよ」


「え、本当にこれ作りものじゃないの?」


「中東の遺跡から発掘したものだ。正真正銘、本物の巨人のミイラだよ」


「運んできた時は石でできた棺ですっごく重くて大変だったんだから」


「ああ、これ外側は石じゃないのか」


 光矢が触った箱はプラスチックのようなさわり心地の材質でできていた。


「壊れちゃったからね、保存しやすい新しい容器を作ったんだ」


「誰が壊したんだよ、うわーもったいない」


「……そ、それは全部シスダーがやったの」


 目の焦点が安定しないで、震えた声でシスダーに全責任をなすりつけるカレン。


 カレンの言葉に横に居たラマヌジャンが眉をひそめる。


「マジかよシスダー最低だな」


「カレ――」


「とにかく! これで信じる気になった?」


「……分かった、信じる」


 もういろいろと納得がいかないが、とりあえず話を進めるために光矢は深く聞かないことにした。


「で、話を戻すと先祖返りを起こした人たちの事を僕たちは開眼者と呼んでいる」


 開眼者、もともとは仏教用語で悟りを開いた者のことであるが、ここではそのような意味を込めて名前を付けたのだろう。


「開眼者はなにができるの?」


「共通しているのは、深紅の眼と君たちの細胞一つ一つに冷たい太陽がたくさんあるってことだね。それ以外は君の想像力しだいだ」


「ちなみにわたしは「怪力だろ」


 朝も午後も目の当たりにしている光矢はカレンの言葉を遮り、即答する。


「そうだけどもうちょっと言葉を選んでよ!」


 カレンは頬を膨らませて、へそを曲げてしまう。しかし、他になんと言えばいいか光矢にはわからない。


「それならシスダーは何ができるの?」


「シスダーは特別、あいつは古代の石棺を解放したら出てきた、いわゆる古代人だ」


 ラマヌジャンは自前の黒い物体をかじりながら説明し始める。


 それを不思議そうに光矢が見つめていると、


「ん? ああ、これは羊羹だ。日本に来てからハマってね、いまでは主食になっている」


「俺も食べたい」


「もぉ~、話をそらさないでっ!」


 羊羹談議に花を咲かせ始める男性陣に辟易したカレンが本題を再開する。


「シスダーが出現したせいでアドバンスドフォースと呼ばれる開眼者を集めた組織ができたの。それで開眼者の私はここでボランティアをしているわけ」


 カレンのボランティアとはそういうことだったのかと、光矢は納得した。


「古代人ねぇ」


 はるか彼方を見つめるような目で光矢はつぶやく。決して古代人を疑ったり、ラマヌジャンが信用できないと思っているわけではない。決して疑っているわけではない。


「古代人、もといシスダーは別格だ、古代人だからかは分からないがパワーの安定具合が段違いだ。おそらく古代のノウハウを持っているのだろう」


さらにまくしたてるように説明し続けるラマヌジャン。憎たらしく思っているようだが、同時に彼の表情からは畏怖の念が感じ取れる。


「特に興味深いのは反物質を使った対消滅パンチだ、あれのせいでどんな装甲も紙切れ同然だ」


「……?」


 次々と出てくる人生初の用語に光矢の理解力が追いつかない。


ただ、最初から話に追い付いていないので今更どうということも無いが。


「シスダーは何でも爆発させちゃうの」


 カレンが光矢のために噛み砕いて説明してくれた。


非常にわかりやすい。しかし、光矢は腑に落ちない。


「あれ? バリアーじゃないの? ミサイルが効かないんじゃないの?」


「開眼者は強弱の差はあるけど、みんな細胞からバリアーみたいなものは出ているのさ」


 先ほどラマヌジャンが持ってきたのだろうか、いれたてのコーヒーが入ったカップが三杯、テーブルに置いてあった。


席に着いたラマヌジャンは一つを光矢に手渡し、各々が飲み始める。


 同時に外国のお菓子が出てきたので、光矢は夢中で食べ始め、質問する口を自ら封じた。


 彼らは一息ついて、またおしゃべりを始める。


「能力差は大別して三段階、強さのランクがあるの、CとMとXね。わたしはMクラスでシスダーがXクラス」


 分かりやすく説明するためにカレンが部屋に備え付けられていたホワイトボードにペンで図を描く。


「MクラスはCクラスより十倍パワーがある、XはMよりさらに十倍以上。だから僕らはシスダーを止めるためにXクラスの開眼者がのどから手が出るほどほしい」


 光矢はラマヌジャンとカレンの言うことを、光矢にとって苦すぎるコーヒーに砂糖とミルクを大量に投入しながら適当にうんうんとうなずく。細かいことは後でまとめて聞くつもりだ。


 つまり、あまり理解していない。


「でも、Xクラスは片手で数えるほどしか存在しないから、すごい困っているの」


「ところが少し前からチベットで予言が出てきた。それがどうもすごい開眼者に関するものらしいから、ワラにもすがる思いで日本に調査しに来たのさ」。


「予言? チベットの予言がどうして日本と関係あるの?」


 光矢のコーヒーをかき混ぜているスプーンを持った手が止まる。


「異世界の来訪者が災いを運びこむとき、弓の国から放たれた矢が闇を祓う……弓の国ってなんだか日本ぽいじゃないか」


 確かに日本列島の形は見方によっては弓にも見えなくもない。


 しかし、そんなことで日本に来るとは本当に切羽詰まっているようだ。


「それだけで日本に来たの? シスダーも? 何を考えているの……」


「無駄じゃなかった、君が居た、そしてカレンと出会った、それだけでも十分だよ」


 ラマヌジャンはちらりとカレンのほうに目配り、意味深げに話す。


その視線を感じ取ったカレンはプイッと顔を光矢のほうからそらしている。照れ隠しだろう。


「それに、ここら辺は開眼者が発する電波のようなものが非常に多く出ている、つまりホットスポットなんだ。だからシスダーもここへ来たんだと思う」


 ラマヌジャンがポケットから紙となんらそん色ない電子ペーパーをとりだし、世界地図を表示した。


地図には所々に赤いモヤがかかっており、同じように日本にも、というより御殿場市に他の地域と比べてより濃いモヤがかかっていた。おそらくこれがホットスポットなのだろう。


「まだ俺みたいなのがこの町に居るってこと?」


「うじゃうじゃいると思う」


神妙な顔つきでラマヌジャンが肯定する。


光矢も笑えなくなっていた。また爆発が起きたり、シスダーによる誘拐などが起こってしまうかと考えると、穏やかではいられない。


「どうして開眼者なんて出てきたの?」


「さぁ……はっきりとはわからないけど、噂では遺伝子を残した宇宙人、アヌンナキが三千六百年ぶりに地球へ訪れようとしているからとか」


 ラマヌジャンはあいまいな口調で答える。


はっきりと言っても良いか迷っているようだ。


しかし、宇宙人という単語が出てきて、適当に話を聞き流していた光矢も変わった。ラマヌジャンの不安もお構いなしに光矢の好奇心は先ほどから出てくる未知の単語に向かう。


「そう言えば、アヌンナキって何?」

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