第六話
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煤だらけになりながら米軍基地の近くまで逃走してきた光矢たち。
「ふう……無事でよかったわね、立てる?」
彼女の手を貸してもらい、光矢は立ち上がった。
「さっきの戦いすごいな。今朝、鍛えてるとか言ってたけど、まさかここまでとは思わなかった」
「だってバリツを習ってたもん」
「バリツってなに?」
「知らないの? 日本の格闘術」
「なんだそれ……」
バリツなど光矢にとっては初耳だった。
「まあいいや、助けてくれたのはありがたいけど、君は誰なんだ?」
「わたしはカレン、アメリカ軍でボランティアをしているの」
軍のボランティアは特撮映画を撮れるほど戦闘力を有していることにカルチャーショックを受ける光矢。
「……もう何がなんだかわからない」
ついに光矢の頭の中のダムが決壊し、思考を放棄した。しかし、普段から考えているかというと、そうでもない。
「あなた、怪我しているでしょ? くわしい話は基地の病院で治療してからにしましょう」
気がつくと足をくじいただけでなく、光矢の腕には青あざができていた。
先ほどのシスダーにつかまったところだ。それ以上にカレンに引きずられた場所の方が痛々しく見えるが、とにかく治療が必要なことは明らかだった。
「誘拐とかしないよな?」
一連の出来事に光矢は何を信じればいいか分からなくなっていた。
「嫌ならさっきのおじさんのところに行ったら?」
「喜んでついていきます!」
少女とおじさん、どちらに連れていかれるほうがマシなのかは明白だ。
「良かった、すごい物見せるから期待しておいてね」
根拠はないがカレンという少女は信用できそうだ。
今朝、出会った事でそうなったのか、外見で判断したかは分からないが、ひとまず怪しい布を纏っているわけではないので、彼女についてくことにした。
(高橋のプレゼントはどうしよう……)
光矢は今日中に目的が達成できるか怪しくなりながらも、未知の世界に足を踏み入れていく。
第三章
先の大地震で計画停電が行われた際、各地の重要施設でさえ電力の供給が遮断されたが、御殿場には電源機能が停止していない場所があった。
非常用の設備が完備してあり、停電時にその場所だけが輝く姿は市民に何かあると考えさせるには十分だった。
誰が言ったか、有事の際の本部機能があるとも言われ、面白い噂話が絶えないスポットでもある。
基地の敷地に連れてこられた光矢もそれは知っていた。
「残念だけど基地は見学したことがあるから特に驚くことは無いよ」
もちろん基地に訪れたことがない人間にとっては銃を持った兵隊が警備していたり、軍用車が走っているだけで驚くかもしれないが、光矢は何度かここにきており、それらも見慣れた風景だった。
「そんなこといっていたら本当に腰を抜かすわよ」
「たいていの事ではもう驚かないぞ、もし驚いたら百円あげる」
光矢の軽口も気にせず、カレンは、まぁ見ていなさい、という表情でインカムに手を当て、誰かに話しかける。
「コリエル、お願い」
『はい、大型エレベーター起動させます』
光矢の建てたフラグはたった数秒で回収されることとなった。
「う、うおおお揺れる!」
真実は光矢の想像を大きく上回っていた。
光矢とカレンの周辺の地面が割れ、下がって行く。
施設には地下があったのだ。
地上から戦闘機や戦車を運べるほど大きなエレベーターに乗りこみ、地下へと潜っていく様はまるで宇宙戦争や特撮映画のようだった。
「来て良かったでしょ?」
誇らしげな表情、いわゆるドヤ顔のカレン。
光矢は黙ってカレンに百円を渡した。