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遺伝子を継ぐもの  作者: ポンスケお茶おいしい/キチキチキッチン
第一巻
16/21

第十六話

◆◆◆


 射撃場につれてこられた光矢。


戦車を格納している場所とまでは行かないが、なかなかの広さである。なので、部屋の電源を喪失した状態では満足に部屋全体を照らすことはできないと思われたが、緊急時の光源があり不自由なく事に当たる事が出来た。


 光矢は何をするのかよくわからないまま入室し突っ立っていると、ラマヌジャンが銀色のアタッシュケースを持ってきた。開くと、ペン型注射器が三本。一本ごとに赤、青、黄と色分けし、保管されている。


「この注射器は開眼者用の薬だ。普通は開眼して力が安定してから使うものだが、非常事態のため特例だ。この三本の注射器のうち二つを注射すれば、ビームがバンバン撃てるぞ」


 そう言うとラマヌジャンは青と黄色の注射器を光矢に渡した。


 これでシスダーに一矢報いる事ができると、光矢の目が輝く。


「三本目は?」


「百パーセントの力が使えるようになる、しかし使ったらミトコンドリアが急激に核融合を起こす。結果、大爆発して死ぬ……かもしれない」


 あいまいな表現に光矢に疑問が生まれる。


「なんでそんなのがあるの?」


 聞いてはいたが、若干冷や汗が出てくる光矢、強くはなりたい、しかし爆発はしたくない。


両方の思いがせめぎ合う。


「もうすこし時間がたってミトコンドリアが体に馴染めば三本目を注射しても死なないのだが」


 ミトコンドリア、と難しい顔をして難しい話をするラマヌジャン。


光矢は早く要点だけ言ってくれないかなとポケッとしていると、ラマヌジャンも気が付き、話すことをやめた。


 そもそもラマヌジャンが説明しても分かる人などあまりいないのだ。


平常運転である。


「いいか、三本目の注射器は絶対使うな、絶対だぞ」


 やけに念を押してくるラマヌジャン。光矢だって爆発など望んでいないし、注射も大嫌いなのだ。


絶対にやるわけがない。


なぜそんなことを言ってくるのか光矢にはまったく分からなかった、


「分かった、絶対使わない」


 光矢は約束した。


「でもなんで使わないのに三本目まで俺に渡すのさ?」


「シスダーにさらわれた時に使う自決用だ」


「……なるほど」


 単純明快、死なばもろともの精神だ。


「まずは一本目だけを注射しよう」


 ようやく光矢は注射をすることにした。


痛みへの耐性は幼稚園児並みの光矢だが、ラマヌジャンが言うには無痛針を使っているので痛くないとのことらしい。


「よし、えいっ」


 光矢は覚悟を決め、勢いよく腕にペン型注射器を腕に押しつける。


 注射した瞬間、光矢はまるで猫が驚き飛び跳ねるように体をびくつかせて、失神した。


 ラマヌジャンは倒れる光矢が頭を打ちつけないように抱きかかえ、光矢の頭がさらにパーになることを防いだ。


「まぁ、こうなるな」


 光矢を床に寝かせ、金属でコーティングされた天井を仰ぐラマヌジャン、基地に文明を与えている予備電源は曇った表情の彼を照らす。


「……もし光矢が予言の子ならば、この絶望的な状況も乗り越えられるはずだ……子供に頼らなければならない、情けない大人たちをどうか許してくれ」


◆◆◆


 光矢の意識が回復すると、カレンが彼の顔を覗きこんでいた。彼は若干の戸惑いを覚えながら、自身の周りを取り巻く状況を確認する。


「……ここは?」


窓があり、雨が降っている、ここは地下基地ではない。


二次災害を危惧して、光矢は地上の米軍キャンプに移されたのだ。


というよりは注射時に爆発しても被害が最小限に抑えられるように射撃場で投薬したのかもしれない。


外は暗いのに、富士山の土の中に居ないという事は、気絶してからたいして時間を浪費していないということでもある。


「光矢、よかった気がついて」


 光矢は後頭部に妙な柔らかさと温もりを感じた、カレンが膝枕をしていたせいだ。


 光矢は体にだるさをまだ残していたので、もう少しカレンの膝を借りることにした。


 何も言葉を発さず、ただカレンを見つめる光矢に困った彼女。


耐えきれず目をそらすカレン。


カレンはさまざまなセリフがのど元まで湧きあがるが、彼に語りかけるまでに至らない、それは彼女の後ろめたさの表れでもあった。


しかし、覚悟を決め、カレンは光矢を見つめ、胸中を告白した。


「こんなことに巻き込んでごめんなさい。本当は私たちだけで解決しなければいけないのに」


 彼女の本心を聞き、表情には出さないが光矢は驚いた、


「……別に気にしてないよ、それにやっと恩返しができそうだしね、カレンにも、みんなにも」


 カレンは光矢が選択を強制してしまった事に心を痛めていた。その心中を察してか、本心からか光矢はすっとボケたような顔をして答えた。


「……ありがとう」


 ◆◆◆


普段なら昼ごはんを食べている最中だろうか、太陽が真上に昇るころ、光矢は富士山上空に居た。


奇跡的にモールス信号で外部と連絡を取ることに成功し、県外からの軍用ヘリが作戦に必要な装備と共に飛来し、光矢とカレンを運んできたのだ。


 ヘリの回転翼が爆音を奏でながら、決戦のリングへと光矢たちを運ぶ。


 光矢が上空から地上を観察してみると、昨夜の兵器たちが規則性を持って富士山中腹に並んでいた。


《光矢、聞こえるか? 通信はコリエルを通して行う》


「聞こえるよ」


 荷電粒子ビーム生成用の金属片とメガネ型ウェアラブル端末、ステルス・コート、そして残りの注射器を持たされ、ヘリに乗せられた光矢は将軍と共に富士山中腹に陣取っているラマヌジャンに答える。


 カレンは光矢とはまた違ったインカム型のウェアラブル端末を耳に装備している。光矢はなぜカレンは別な物を装備しているのか聞いてみたところ、メガネがダサいからと返された。


《作戦は昨日説明した通りだ。光矢とカレンは富士山中腹で核爆弾の破壊、および、シスダーの撃退だ》


 ラマヌジャンの隣に居る将軍が光矢に作戦内容を伝える。


「やっぱりこの作戦は狂ってるよ」


『普通の人間はシスダーに近づくことすらできません。これが一番の戦術です』


 コリエルも光矢をサポートするためにウェアラブルメガネのレンズ上に戦術情報を表示させる。


気温から軍の陣取りまで様々な詳細が一目でわかるようになっていた。


《心配するな、持てるすべての戦力を使って君とカレンを支援する》


頼もしい将軍の言葉に一瞬だけ心強くなったが、光矢はすぐに我に帰り、涙目で言い返す。


「支援って言っても、退役した武器しかないよね?」


《いや、日米の両空軍が航空支援を行う。安心して戦え》


 将軍がそう言うと、端末に支援用の戦闘機と思われる飛行ルートが表示される。モールス信号が効いたのだ。


 聞けば自衛隊と米軍が訓練で小さな移動目標に爆撃を行うという名目らしい。運よく東富士演習場にシスダーが潜伏してくれて助かった。


「やったぜ」


 地獄にクモの糸がたれ始めた。


《光矢、二本目の注射をしてくれ》


「分かった」


 ラマヌジャンに促され、光矢は昨夜と同じ要領で注射器を腕に刺した。


 少し身構えて針を刺したが、今回はショックで気絶することも無く薬を投与することができた。


「おっ、今度は何ともないや」


《体が馴染んでいる証拠だ》


 ラマヌジャンの言うとおり、光矢の体から量子波が出る。


 光矢から発される量子波にカレンが驚きの表情を見せた。それは光矢が普通ではないことの表れでもある。


「力が……湧いてくる!」


 光矢は不安や疲れが体から消え去ったかのように感じた。


 それは彼らにとって綱渡りで安定棒を渡されることに等しい。


《いい傾向だ、これならシスダーを倒せなくても時間は稼げる》


「勝てないならよくないんじゃない?」


 光矢は将軍のもの言いにハテナマークがついた。


《我々の目的はシスダーを倒すことではない。最優先目標は仕掛けられている核爆弾を無力化することだ。そうすれば後はなんとかなる》


「そっか、倒さなくてもいいのか!」


 倒さないのであればいくらでもやりようがある、そう光矢は考えていた。しかし、それは問題を先送りにしているだけなのだが、彼はまだ気が付いていない。


それでも今の状況よりはだいぶマシだ。特に問題ないだろう。


《光矢、何度も言うが、絶対絶対、絶対に三本目は使うなよ》


「わかってるよ、ラマヌジャンは心配性だな」


 光矢はしつこく聞いてくるラマヌジャンに若干戸惑いを感じながら言い返す。そんなことがあるわけないのに。

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