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遺伝子を継ぐもの  作者: ポンスケお茶おいしい/キチキチキッチン
第一巻
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第一話 ファッキン老害ゴーホーム


「ファッキン老害ゴーホームッ!」


 少女が拳を振りぬき、滑走路から無人の管制塔へと人影が吹き飛ぶ。無人の管制塔は衝撃で倒壊。


 半袖のワイシャツにベストを重ねて着た、中東の日差しで少し小麦色に焼けた十代のスカートの少女。薄い茶髪のポニーテールのはつらつとした印象とは裏腹に、美しく、りりしい顔立ちから輝く深紅の目には鬼気迫る物があった。


「今のうちに早く運んで!」


《すまない、カレン。助かった》


 少女が装備している小型のカメラが搭載されているインカムから中年男性の声が響く。彼女のすぐ側では大型のトラックが十メートルはある巨大な長方形の石の箱を載せて、一目散に輸送機へと向かっていた。トラックの向かう先では四発の特大エンジンを翼下にぶら下げた輸送機が離陸を心待ちにしている。


「ラマヌジャン、石棺の収容にあと何分かかるの?」


《輸送機まで目と鼻の先だ、あと二、三分くらいだと思う》


「ほんとに二、三分なのね? それ以上は保障できないから」


《ああ、大丈夫だ》


 ラマヌジャンと呼ばれる男が返事をした次の瞬間、カレンと呼ばれる少女のインカムから、別の男から通信が入る。


《こちら将軍、トラックが故障したようだ。石棺の収容の時間が延びる》


「……」


《支援のために戦略機動歩兵がそちらに向かっている。なんとか時間を稼いでくれ》


 将軍が通信を終えると再びラマヌジャンがカレンに話しかける。


《という事だ。カレン、気をつけろ、シスダーは予言の来訪者だ。伊達じゃないぞ》


「上等、殴り倒してあげる。古代人になんて絶対負けないッ!」


《カレン、シスダーはXクラスだ。今のうちに薬を使っておいた方がいい》


「あれあんま効かない」


《無いよりマシだ》


 そう言われ、しぶしぶと足に装備していたホルスターからペン型注射器を取りだす。


『警告:後方からシスダー接近』


 インカムから機械的な音声が警告。


 カレンが後方へ振り返ると、大きな布をまとった大きな男が人間とは思えない速度で近づいてくる。が、意に介さず少女はペン型注射器を自身の腕に注射する。


「ぐおおおお」


 カレン達からシスダーと呼ばれている男が少女の目の前へ踏み込み、腕を横へなぎ払う。その瞬間、シスダーの掌が爆弾の爆発とも思えるほどの巨大な衝撃波を振り払った先に放出した。


 しかし、身をかがめて回避したカレンは、逆にシスダーの懐へ入り込み、注射の効力を見せつける。


「必殺! 老害死ね死ねパンチ!」


 瞬きをする間にシスダーの胴体には破裂音と共に強烈な衝撃が何発も入る。


「ぐううぅ」


 再び数十メートル吹き飛ばされるシスダー。


『気をつけてください、先ほどの攻撃はおそらく対消滅を起こしています』


「つまりどういう事?」


『当たったら痛い、ではすまないと言う事です』


《コリエル、石棺の収容予想時間は後どれくらいだ?》


『どうやら変速機が故障しているようです。あともう三分はかかります』


 機械的な音声、人工知能のコリエルが絶え間なくデータベースに上げられる情報を処理してラマヌジャン達に伝える。


《開眼者が二人もいるんだ。急がないと空港が消滅するぞ》


『戦略機動歩兵が作戦エリアに入りました。このままコントロールを私に――』


「ゴメン、ちょっとヤバい、助けて」


 インカムで話しあっていたラマヌジャンとコリエルの会話に割り込むカレン。


 先ほどの攻撃が効いたのか、般若の面のような表情で衝撃波を連続で放つシスダーにカレンは対応できなくなっていたのだ。


《早いな》


 将軍が思わずつぶやく。


《シスダーはXクラスの開眼者ですから。良く持ちこたえたほうです》


《まあいい、すでに戦略機動歩兵を空港に到着させた、コリエルやってくれ》


『了解、戦略機動歩兵のコントロールをまかされました』


 将軍の承認を受けて戦略機動歩兵が人工知能コリエルの支配下にはいる。


「ちょっと、助けてだれか――」


カレンが空を見上げると、金属の装甲で覆われた十メートルほどの機械の巨人が五機、空港の巨大な施設とカレンの頭上を飛び越えて、そのままシスダーに襲いかかった。


戦略機動歩兵の一機が手を振り払い、シスダーを吹き飛ばす。子供がスーパーボールを叩きつけたように簡単に吹き飛び、着弾した先ではモクモクと激しい砂埃が舞い上がる。


すかさず追い打ちとして戦略機動歩兵が装備している銃型の荷電粒子砲が火を吹き、シスダーの近辺を焼き払う。


「助かった……」


《カレンも今のうちに輸送機に乗るんだ》


 ラマヌジャンに促され、トラックと共に輸送機へ向かう間も金属の巨人がシスダーに攻撃を加える。


「コリエル、戦略機動歩兵には人は乗っているの?」


『人手不足ですべて私が遠隔操作しています』


「だったら心おきなく突撃して」


『はい』


《コリエル、シスダーのフォースフィールドは破れそうか?》


 将軍が通信を介してコリエルに尋ねる。


『さすがにXクラスの開眼者の体表に発生するフォースフィールドにはほとんど効きません。離陸まで時間稼ぎに徹したほうがいいでしょう。多少被害はでますが、接近戦でシスダーを吹き飛ばして輸送機との距離を稼ぎます』


《ラマヌジャン、戦略機動歩兵は大丈夫だと思うか?》


《ゴータニウム装甲でできているのでおそらくシスダーの攻撃は防げます》


 ちょうど接近戦を仕掛けた戦略機動歩兵にシスダーが衝撃波をぶつける。爆弾のような衝撃波から半径十メーター以内にある建造物はすべて跡形もなく吹き飛ぶほどの爆風が発生する。


 結果は、


《ほらね》


 見事シスダーの衝撃波に耐えた戦略機動歩兵がもう一度シスダーをなぎ払う。


《やったか?》


 将軍がその言葉を放ったとたん、


「ぐおおおおお」


シスダーが雄叫びを上げ、戦略機動歩兵の腕部に取りつき、関節を破壊し、衝撃波でカレンの乗るトラックへと破壊した腕部を吹き飛ばす。


《カレン、防御!》


「このおおおおお」


ラマヌジャンが知らせると同時にカレンはトラックの荷台から飛び出し、吹き飛んできた腕部に渾身の一撃をくらわせる。


なんとか石棺への直撃コースをずらすことができたが、車輪に辺り、輸送機の目の前で石棺を運ぶトラックは停止してしまった。


《ああっ! 輸送車が壊れた!》


「私が押す」


 トラックのお尻を押すカレン。


《正気か? 十トンはあるぞ》


《開眼者は核融合で動いていますから、これくらいは余裕です》


 ラマヌジャンが答えるとすぐに車両が動き出す。


 カレンに押され、じわじわとトラックが進み、ついに輸送機に石棺の収容が完了した。


『戦略機動歩兵、小破二、中破一、押されています。さすがに五機だけだと厳しいですね』


「待ってて、今そっちに行く!」


《目的は棺桶の輸送だ、そのまま輸送機に乗ってくれ》


 修羅場に戻ろうとするカレンを将軍が止める。


「でも……」


『戦略機動歩兵の損傷が激しくなってきました、離陸を急がせてください』


 エンジンを全開にして輸送機はハッチを開いたまま加速し、離陸を開始した。


戦略機動歩兵に殴られながらシスダーが今度は外れた脚部を投げつける。


『直撃コースです』


《カレン頼むッ!》


「いい加減にしてぇ!」


 輸送機の後方で開いたままのハッチから、巨大な石棺のフタを飛んでくる脚部に投げつけるカレン。


 石棺のフタはその身を犠牲に見事脚部に命中し輸送機の手前に落ちる。


《ああっ、なんてことを!》


 粉々に砕け散る石棺のフタをカメラで確認したラマヌジャンが悲痛な叫びをあげる。


《行け! 行けっ!》


 将軍の声と共に輸送機はその翼に風を捉え、離陸に成功した。


《我々の勝利だ》


◆◆◆


『このまま戦略機動歩兵の核融合炉を爆発させてシスダーを攻撃します』


 作戦空域から離脱した、輸送機を確認したコリエルが残された兵器の処遇を報告する。


《やってくれ》


 将軍が許可を出すと、コリエルがカウントダウンを開始する。


『核融合炉、起爆まで5、4,3、2――』


 突然カウントを停止するコリエル。


 輸送機で体を休めているカレンが窓からはるか彼方の空港を見つめる。


「今、なにか出た」


『戦略機動歩兵、全機停止しました』


《考えられるのは……電磁パルスか。いったいどうやったんだ》


 ラマヌジャンがつぶやく。


 電磁パルス攻撃、強力な電磁波を機械に当てて電子機器をショートさせ、破壊する攻撃の事だ。


《将軍、すでにシスダーは我々の手に負えなくなっています。探さなければなりません、一緒に世界のために戦ってくれる、遺伝子を継ぐ者を》


《……そうだな》


 将軍とラマヌジャンが話しあっている最中、カレンはフタを失った巨大な石棺を覗き込んでいた。


「ミイラってもう少し愛嬌があると思ってた」


《大切に扱ってくれ、そんなヤツでも僕らの先祖だ》


 ラマヌジャンもカレンのインカムについているカメラから中身を確認する。


「これが――アヌンナキ」


 そこには巨人のミイラがおさめられていた。

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