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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第一章 召喚編
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何でちょっと触るだけのことがこんなにややこしい話になるのか

光弥サイドやエイシアサイドも書きたい……やることが……やることが多い……!

 最上部から降りて、黒いロングコートと仮面を外す。

 これは変身ではなく変装で、身体自体はインヤの時と全く同じだ。一応幻術で髪を暗い藍色に変えてはいる。


 今回の作戦はこうだ。


 一、障壁塔を攻略する。

 ニ、鍛冶師イーヤが障壁塔を占拠したことにする。

 三、改造魔法で障壁塔の軍備を固める。

 四、光弥を倒して聖剣を奪う。


 そう、カゲヤの状態で光弥を倒してはいけない以上、真っ向勝負の白兵戦で勝つのは無理だ。

 ならば、罠を仕掛ければいい。生産系チート能力の本領発揮である。


 なりふり構わなくていいなら光弥が入った瞬間に塔を崩落させるのだが、近くにエイシア王女もいる。手段は選ばなくてはならない。

 となると光弥のみを攻撃するゴーレムや自動銃座タレットなんかを大量にしかけておきたい。だが、対象が光弥かどうか判別する方法に迷う。自分で考えて動けるほど上等な手駒を大量生産できる暇があるわけじゃないのだ。

 一応間違って殺してしまっても蘇生できるが、蘇生アイテムの在庫はあまりない。できる限り誤認識の可能性が低い、確実な方法を取るべきだろう。


「一番確実なのは生体情報で判別することなんだが……」


 髪の毛一本、もしくは血の一滴もあれば確実に光弥のみを狙い撃てる。

 だが、光弥の髪や血なんて回収していない。こんなことなら王城にロボを潜入させた時にこっそり採取させておくんだった。


「まあ、あとでカゲヤになって合流した時に回収できる機会ぐらいあるだろ」


 そうと決まれば早速改築である。こんなしょっぱい塔じゃ心許ないので、ちょっとした要塞のようにしてやろう。


「どうせ一回しか使わないし、耐久度を減らして頑強さを増すか。――《大規模改造》」


 ――瞬間、障壁塔が凄まじい光を伴った紫電を撒き散らす。

 雷の柱が立ったような光景が数秒続き、障壁塔がその姿を変える。


 灰色の石で出来ていた塔の材質が黒い鋼のようなものに変わった。塔の全てが漆黒で彩られ、先程のそれよりよほど魔王の塔と呼ぶにふさわしい見た目となる。劇的な……否、撃敵なビフォーアフターだ。


 ……見た目通り頑丈になったのだが、材質自体はひどく劣化しやすくなってしまった。多分一ヶ月も経たずに崩落するだろう。


 さて、結構魔力を使って疲れたが休んでなどいられない。準備する物はまだまだある。


 罠、ゴーレム、タレット、演出装置、段取り、隠し部屋、パターンに対応したセリフ……。……やることが……やることが多い……!


 やることは多いが物量で攻めるだけでは不安なので、対人性能の高い高性能ゴーレムも一体作っておく。よし、こいつが鍛冶師イーヤの真の姿ということにしておこう。

 塔にやってくる鉄帝国の騎士団に対処したり、鉄帝国に向かって定期的に要求を宣言したり、ドンゴ三世であまり煽りすぎないぐらいに街の上空を飛び回ってみたり、迷惑料代わりに伝説の剣をそれとなく配ったり、「ふはは、よく来たな勇者!」「喰らえイーヤ、私の渾身の一撃を!」「貴様なぞあのカゲヤに比べれば何も恐ろしくはない……」「私を置いて先にいけ!」とセリフを練習したりしてる内に、ドンゴ二世から鉄帝国に到着したという通信が入った。


「わかった、後で俺も合流する。現状でできるだけの準備は終わったから、足止めの必要はないぞ」

Year(イェア)


 あとは光弥の生体情報を確保できれば完了だ。

 まあ他にも色々用意したからなくてもなんとかなるが、今のうちに確保しておけば仮に今回失敗しても色々と使える。


 いくらこの旅が急ぎだからと言って、到着してから即突入なんてことにはならないだろう。一日ぐらいは猶予があるはずだ。なかったら作る。


「《自己改造》。……今回はあんまり目立っても面倒だし、普通の服でいくか」


 適当なTシャツとジーパンを身に着け、その上からアイテムボックス付きのジャケットを羽織る。


 そして、「ずっと前からこの塔を監視していましたよ」的な動きをして塔を出て、わざとらしく「よし、そろそろ光弥と合流するか」などと呟いて鉄帝国の街へと向かう。一応あたりに人がいないことは確認しているが、用心するに越したことはない。



「おい、誰だあの可愛い娘」

「知らねえ、あんな娘がいたら絶対忘れないと思うが……。どっかの貴族のお嬢様じゃないか?」

「貴族はあんな格好しないだろ。他国からやってきたエルフとかじゃね?」

「いやいや、耳が長くないし、そもそもエルフでもあんな美人はいねえよ」


 ドンゴ二世から教えられた情報に従い光弥達のいる場所に行こうとしたが、カゲヤの容姿は普通に目立った。色んな男性に話しかけられて、なかなか進むことができない。


 そりゃそうだ、どれだけ命をかけて可愛く作ったと思ってる。服を変えた程度で地味になるような生易しい美少女っぷりではない。だけど今はそういうの求めてないんだ、早く合流させてくれ。


 仕方なく「この国は暑いな……」などと呟いてシャツの襟を引っ張る。当然、胸元が少しばかり露出する。

 周囲の男性の視線が集まる中、全身全霊の演技力を使ってそれとなく胸の谷間に隠したリモコンのスイッチを押した。


「(ドンゴ二世、こっちに来てくれ)」


 しばらくすると、遠くから喧騒が聞こえてきた。そして俺の周囲にあった人だかりを突っ切って、ドンゴが馬車を引いて俺の元までやってくる。


「ちょっとドンゴ、止まりなさい、止まりなさいってば、きゃあっ!」


 ドンゴが俺の前で急に止まったせいで、御者台に乗っていたメイドのイティーが反動で飛んでいった。

 慌てて受け止め、地面に下ろす。


「大丈夫ですか?」

「か、カゲヤさん……。え、ええ、大丈夫です」


 少し赤くなって俺から離れるイティー。「きゃあっ」とか言っちゃったのが恥ずかしかったのだろう。普段クール系な女の人が恥ずかしがるのって可愛い。


「アング、やっぱりドンゴが命令を聞いてないじゃないですか!」

「すいません、本当にすいません! 後でまた修正しておきます!」


 馬車の中から、エイシアがアングを叱る声が聞こえてくる。

 まあ修正されたら改造魔法で元に戻すだけなので何も問題はない。


「落ち着いてよ、エイシア。そのおかげで影耶と合流できたんだから」

「……そんなにカゲヤと会いたかったんですか、コウヤ?」

「うん、心配だったからね」

「……むぅ……」


 すこし待っていると光弥が降りてきて、俺に声をかけた。


「久しぶり、影耶」

「久しぶりと言っても数日程度だがな。まあ、特に怪我もしていないようで何よりだ」


 そう言いつつ、ゆっくりと、そしてさり気なく光弥に近づく。

 エイシアやアングが馬車から降り、ドンゴが道の路肩に止まる。


 ――よし、ここだ。


 一瞬全員の気が緩んだ隙を見計らい、身体のバランスを意図的に崩す。

 そして、足指の力だけで光弥に向かって勢いよく跳ぶ。


「うわあーうっかり足を滑らせてしまったー」

「えっ!?」


 かなりわざとらしいが、このまま光弥に体当たりして、髪を一本抜き取ってみせる。

 なんなら髪じゃなくて血でも構わない。



 そして、気がつくと光弥にお姫様だっこされていた。



 …………?


 なんだこれは。何が起きた。


「ふう、危ない……。大丈夫だった?」

「あ、ああ……」


 呆然としている俺を地面に下ろした光弥は、何事もなかったかのように予定していた宿屋へと歩いていく。


 その、まるで先ほどのことなんて日常茶飯事であるかのような顔を見て、俺は悟った。


「(こいつ、異常なほど女性を抱き止めるのに慣れてやがる……!)」



 ――その後も、様々な方法で事故に見せかけて接触しようとしたが、ことごとくが未然に防がれた。


「うわーこんなところにバナナの皮がー」

「おっと、大丈夫?」


「あーこんなところにハエがいるなーおおっと手が滑った―」

「え、どこ? ……何で壁殴ってるの?」


「光弥、髪にゴミがついているぞ、取ってやろう」

「あ、ありが――」

「コウヤ様、私が取ったので安心してください」


「(もうとりあえず死ねぇ!)」

「ぐほぁ!?」

「あ、アングさん!?」


 受け止められる、避けられる、エイシアが邪魔をする、偶然アングが間に入ってしまう、などなど……。もはや何か運命とか乱数調整とかを感じるほどの奇跡によって、俺の行動は妨害された。


 俺の体当たりを脇腹に食らって悶絶しているアングに謝りつつ、光弥を睨む。


 惜しい所までいってはいるのだが、なかなか接触することができない。

 というかこっちにも少なくないダメージがある。なんで野郎にお姫様抱っことかされにゃならんのだ。もう精神的にキッツい。


 それに、あんまり転んだりしすぎていると不自然だし、完璧美少女のイメージが危うくなる。


「明日は早いし、そろそろ寝ようか。みんな、おやすみ」

「そうですね。コウヤ、おやすみなさい」

「……ああ、おやすみ」


 そんな感じで一日が終わってしまった。宿のロビーで明日の予定を確認した後、各々の部屋へと戻っていく。


 部屋に戻った俺は、ドアに鍵をかける。

 鍵をかけたのをしっかりと確認し、ドアに背を預けて呟く。


「……つらい……」


 一日でもうズタボロである。こんなんでこの先やっていけるのだろうか。なんだか涙腺が熱くなってきた気がする。つらい。


「はあ……。……よし、寝ている間に髪一本抜くぐらいなら、ロボを使えばいけるだろ」


 気を取り直して、懐から自律式魔法ロボ――『ミニカゲヤ一号』を取り出す。全長十五センチの、デフォルメされた暗黒姫騎士風の可愛いロボットだ。弱いモンスターぐらいならパンチで殴り倒す可愛くない戦闘力を持っている。


「よし、ゴー!」


 てくてくと部屋の外に歩いていくミニカゲヤ。

 しかし、ドアを開けられずに立ち止まった。……うん、鍵かけてたんだった。


 鍵を開けて廊下にミニカゲヤを置く。


「今日は暑いから窓が開いてるはずだ。一旦外に出て、壁をよじ登って潜入しろ」


 コクリと頷いて歩いていくミニカゲヤを見送る。

 俺は扉を閉めて、一息ついた。


「……着替えるか」


 ジャケットとTシャツを脱ぎ、ブラジャーのホックを外すために背中に手を回す。

 最近は結構慣れてきたが、恥ずかしいのはまだ克服できていないので着替えには結構手間取る。

 カゲヤの姿になるまで知らなかったのだが、寝る時にブラジャーを着けたままだと結構苦しい。とはいえノーブラだと胸を意識してしまって逆に寝れないので、就寝用にノンワイヤーブラ、いわゆるゆるブラに代えてからパジャマを――


「カゲヤ、部屋で神聖魔法の練習をしてたら影耶に似た人形が――、あ」


 ――ガチャリ、と扉が開き、光弥が部屋に入ってきた。


 一瞬、何も考えられなくなった。


「い、いや、わざとじゃなくて――」

「出て行け馬鹿ぁあああ!!」


 手加減がどうとか、私怨がどうとかは関係なかった。ただただ、羞恥からくる怒りだけを込めたパンチを、光弥の顔面に叩き込んだ。


 光弥が吹き飛んで廊下の壁に叩きつけられると同時に、扉を閉め、鍵をかける。


 はーっ、はーっ、と息を荒げながら、パジャマを着る。


「(ミニカゲヤを廊下に出す時に、鍵を開けたままだったの忘れてた……!)」


 許さない、あいつだけはもはや絶対に許さない。

 偶然だろうがわざとじゃなかろうが、自分()以外に誰にも見せたことがなかったカゲヤの裸を勝手に見た罪は、その命を以て償ってもらう。


「絶対に殺してやる……。障壁塔に来た時がお前の最期だ……!」


 グッ、と拳を握る。


 そこで、手に何かがついているのに気がついた。


「……あ」


 光弥の血だ。さっき殴った時についたのだろう。

 図らずも、これで光弥の生体情報を手に入れることに成功した。


 アイテムボックスから取り出した生体解析用マジックアイテムで光弥の情報を解析し、障壁塔のゴーレム達に送信する。


 その後は、寝室に過剰すぎるほどに防衛用のアイテムを設置し、赤くなる顔を抑えながら床についた。

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