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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第一章 召喚編
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ある時は錬金術師、ある時は美少女魔剣士、そしてまたある時は――

 二日目のパレードも無事に終わり、いよいよ旅立ちである。


「それでは、北門に到着したのでここから馬車を乗り換えます」

「あ、さっきまでの馬車で行くんじゃないんだね」

「ええ、あれはパレード用ですよ。コウヤと私がこれから乗る馬車はこっちです」


 という自分と光弥しか見えていなさそうなエイシアの案内で、北門の前に停められた馬車の元まで向かう。できたらもうこの二人だけで行ってほしい。


 そこにあったのは、軽く幅三メートルはある日本の道路を絶対に走れなさそうな超大型馬車と――


「えっと……これ、馬車じゃないよね、エイシア」

「あえて言うなら竜車……いえ、実際には竜でもないので悩ましいところですね」


 ――金属で出来た、体長五メートルほどのドラゴンだった。

 まるで生物のように動いて馬車を引いているが、無機質に輝く瞳のランプと、小さく響く歯車の音がそれに命が宿っていないことを示している。


 光弥が驚愕する中、俺はこっそりと胸の谷間に隠したリモコンのスイッチを入れ、小声でささやく。遊び心でここに隠してみたけど普通に不便だこれ。バレたらどうなるかと気が気でない上にかなり恥ずかしい。だが……だがこれは、確かなロマンがある。胸の谷間に隠す用リモコンを開発せねばなるまい。


「(聞こえるか、ドンゴ二世)」


 一瞬、ドラゴンゴーレム――略してドンゴの瞳のランプが小さく点滅し、俺だけに聞こえる合成音声が響く。


Yes(イエス、),Sir(サー)

「(今の俺はサーではなくマムだ。それはともかく、状態に問題はないよな?)」

OK(オゥケェイ)

「(よし。それじゃあ事前の打ち合わせ通り頼むぞ)」

Year(イェア)


 スイッチを切り、光弥に馬車の解説をしているエイシアに意識を戻す。


「このドラゴン型ゴーレムと大型高級馬車は、先日指名手配された鍛冶師冒険者イーヤによって作成された物です」

「へぇ、ゴーレム……。って、指名手配?」

「ええ。通報を受けた騎士団が駆けつけたところ、イーヤの自宅には大量の戦闘ゴーレムが配備されていました。襲いかかってくるそれらを突破した先にあったのが、高性能なマジックアイテムの数々とこのゴーレム馬車『ドンゴ』です。非常に高い有用性があったので、星王国の方で引き取りました」

「……それって、大丈夫なのか?」

「当初は暴れて手がつけられなかったそうですが、そっちのアングによって改造され、今は私とイティーの命令にのみ従うようになっています」

「はい、自爆装置なんかも積んであって苦労しましたが、今は大丈夫ですぜ」


 などとアングが言っているが、当然ながら全然大丈夫ではない。


 もちろんドンゴの作成者は俺であり、眼の前にあるのは三日ほど前にドンゴとすり替えておいたドンゴ二世だ。当然自爆装置も搭載済みで、いざという時には光弥もろとも爆発してもらう手筈になっている。


 無駄に戦闘をすることになった騎士団には申し訳ないと思うが、誰も大きな怪我をしないようにしておいたし、迷惑料代わりに高性能マジックアイテムをいくつか置いていったので許してほしい。旅が終わったらドンゴ二世も一世とすり替えて星王国に本当に引き取ってもらう予定だ。


「では……ドンゴ、馬車の扉を開けてください」

Yes(イエス、).Miss.Aceir(ミス・エイシア)

「おお、喋った……。すごいね、エイシア」


 ドンゴが尻尾を器用に使って馬車の扉を開く。


 馬車の中はそれなりに快適にしてあるが、どちらかといえば実用性を重視したので内装はあまりこだわっていない。こだわっていなかったのだが、王女であるエイシアが乗車することを考えてか、限られたスペースを使ってできる限り豪華にされているようだ。


「イティー、出発して」

「かしこまりました、エイシア様」


 王女付きのメイドであるイティーが御者台に座り、馬車を走らせる。ドンゴは馬車とは思えないほどの静かさとスピードで北東に向かって進んでいった。まあこの馬車、風魔法の浮遊(ホバー)装置とかついてるからな。


 俺が窓の外を眺めていると、アングが地図を広げ、光弥が話を始める。


「それじゃあ、旅の目的を再確認しようか」

「ええ。私たちはこれから魔王を無敵とする五つの塔……障壁塔の破壊に向かいます。正確には障壁塔に設置された遮断要石シャットアウターの破壊ですが。これは聖剣を持つコウヤにしか壊せません」


 遮断要石シャットアウター。数万平方キロメートル以上にわたる広範囲から特殊な魔力を吸収し、魔王の元に転送するという不思議物体らしい。障壁塔はそれを守るために魔王の配下が建てた塔だとか。


「王女様。一応聞いておきますが、私が聖剣を借りて一人でそれを壊してくるとかはできないんですか?」

「できるわけないでしょう、常識で考えてください。聖剣には魔法による契約があるので、コウヤ以外には扱えません」

「……すいません」


 まあ、わかってたことだ。


「障壁塔は鉄帝国クラビウス、神光国ハーティリア、技錬国ディーヤ、竜公国ジョルカー、そして魔王が住む不毛の地、トラニピアに設置されています。障壁塔が万全の状態になる前に、なるべく早く遮断要石を破壊しなければなりません」

「なんで障壁塔はまだ万全じゃないの?」

「コウヤを通常より数年以上早く召喚することができたからですね。星の並びに左右される魔法なので、魔王誕生から十年も召喚の機会が訪れないなんてことが普通にあったそうです。魔王城さえまだ未完成の、魔王が誕生したばかりの段階で召喚できたのは、奇跡と言ってもいいでしょう。その上今回はドンゴもいるので、相当な早さで各障壁塔に行くことができるはずです」

「で、俺たちはまず鉄帝国に行くってことですな」

「ええ。単純にここが一番私達に近く、魔王城から遠いですからね。聖剣の力が解放されていないコウヤでも十分破壊できる塔です」


 ……ふむ。

 よし、仕掛けるか。まだ俺より弱い光弥に破壊できるほど防備が薄いなら、俺ならすぐにでも攻略できるはずだ。


「それなら、私は先に鉄帝国に行って障壁塔を調べておくか」

「え?」「は?」

「Ⅴランク冒険者にのみ支給される転移護符テレポーターがある。貴重かつ使用制限が厳しいアイテムだが、早いほうが良いと言うなら使うべきだろう」

「いや、待ってくれ影耶――」

「では、後から来てくれ」


 有無を言わせず右手に持った転移護符テレポーターを発動させる――ように見せかけて、懐に入れた左手で俺専用の転移アイテムを発動させる。


 一瞬で視界に映る景色が馬車の内装から俺の部屋へと切り替わった。


「………」


 留守中に問題が起こってないか確認し、一息つく。


「や……っと、帰ってきたー!」


 《瞬間着替え》を発動させて寝間着に着替えると同時に、ベッドの上に転がる。


「あーもう、本当に疲れた……。今日一日ゆっくりしよう……ぅひゃぅっ!?」


 ゆっくりしようとした瞬間、胸が物理的に震える。リモコンにつけた通信機能がバイブレーションで着信を伝えたのだ。

 ……おお、安心しすぎてカゲヤのままだったことも胸元に入れっぱなしだったことも忘れてた。


「あー、ドンゴ? 俺今家だから、なんかあったら連絡してー。はいはーい」


 俺が馬車からいなくなったことに気付いたドンゴとだいぶ雑な連絡を交わし、今度こそゆっくりする。


「はー楽ー。《初期化》っと」


 しなければいけないことは多々あるが、ドンゴのスピードでも鉄帝国に到着するには数日かかる。しばし休養するだけなら問題ないだろう。というかそろそろ休養しないと無理だ。働きたくない。


「だいぶ強引に帰って来ちゃったけど、まあなんとかなるだろ……」


 久々に趣味の工作でもするか。最近必要なアイテムを改造魔法で作ってばかりだったから、たまには手作りで何か作ろう。確か、ロンに水鉄砲作ってやるって前に言ったような……。



「あの人、全っ然協調性ないですね……」


 エイシアが呆れたように呟く。

 まあ、確かに影耶が急に転移してしまったのは僕も驚いたが。


「ま、まあ、カゲヤさんは冒険者としてはほとんど単独ソロで行動していましたから。俺のような他の冒険者と一時的にパーティを組むことはあっても、正直あの人が強すぎて協力する必要もほとんどありませんでしたので、まあ、仕方ねえかなぁ……と」

「はぁ……アング、カゲヤはそのような有り様で最高位冒険者として大丈夫だったのですか?」

「やや自己中心的で、勝手に魔物の素材を持ち帰ったりするようなところはありましたが、基本的にはすごく良い人ですよ。一度、辺境の寂れた村に最高位冒険者でも命がけでやっと倒せるⅥランクモンスターが大量に出たことがあったんです。その時は村人たちが討伐依頼を出す金がないからって、自分で依頼を出してそれを解決してましたね」


 それは……すごい。

 影耶は僕と同じで、本来この世界とは何の関係もないはずの人間だ。

 なのに、そんな世界の人たちを救うために命をかけるなんて、そうそうできることじゃないだろう。


 この世界に来たばかりの僕が魔王を倒すと決めたのは、結局自分が元の世界に帰るためでしかなかった。魔王から人々を救いたいと思ったからじゃない。……今は、少し違うけど。


「カゲヤさんは鬼気迫る顔でその村に誰よりも早く急行し、他の冒険者が到着する頃には全てのモンスターが討伐済みだったとか。泣きながら感謝する村人に『モンスターの素材が欲しかっただけだから別に頭を下げなくていい』と言って慌てていたそうです」


 慌てている影耶か……。僕と戦っていた時も顔色一つ変えなかった彼女が慌てる姿というのは、なかなか想像できない。


「そ、そうなのですか……。それは、素晴らしい話ですね」

「ええ、見た目より大人びてるのもあってギルドからの信頼も厚いですし、依頼以外のところでもよく人助けをしているので、冒険者以外の人間からも人気がありますね」


 なんだか微妙にエイシアの声が震えている気がするが大丈夫だろうか。影耶が思った以上に強くて驚いているのかもしれない。


「……しかし、独断専行はダメです。魔王の能力にはわかっていないことも多いのに、勝手な動きをされるのは困ります! ですよね、コウヤ?!」

「え? ああ、まあそうだね」


 エイシアがぷんぷんという擬音が付きそうな動きで憤る。


 カゲヤも冒険者として旅をするのは慣れているようだが、可愛い女の子が一人で遠い国に行くというのは僕も心配だ。


「いやいや、カゲヤさんならもしかすると、俺たちが着く頃には障壁塔を攻略し終わっているんじゃないですかね?」

「そんなのダメです! コウヤにはまだ実戦経験が少ないんですから、ちゃんとコウヤのサポートとして戦ってもらわないと!」

「なら、道中でモンスターと戦っていくのはどう? 王城で捕まえてきてもらったモンスターと戦ったりはしたけど、僕も障壁塔に着く前に少し慣らしておきたいし」

「む……。そういうことではないのですが……」

「エイシア様、話の途中で申し訳ありませんが、丁度道にモンスターがいます。どうされますか?」


 それまで静かに御者台に座っていたメイドのイティーさんが、僕たちに向かって呼びかける。


「ああ、なら倒しておきましょう。イティーさん、停めて下さい」

「あっ、待って下さいコウヤ」


 馬車から降りようとする僕に、エイシアが慌ててついてくる。


「それで、モンスターはどこに?」

「あそこです、コウヤ様。ドンゴ、しばらくここで待って――」

Feuer(ファイエル)!」



 ――イティーさんが命令しようとした瞬間、カッ、とドンゴの口から光が放たれ、ほとんど同時に前方で爆発が起きる。



 そこにいたというモンスターは、どんな姿だったのかわからないほど跡形もなく消し飛んでいた。



「……ちょっと、アング。ドンゴが命令を聞いてませんよ」

「い、いやー、命令が入力される直前にモンスターを迎撃する機能が働いたのかな、と……。というかアレほどの威力はなかったはずなんだがなぁ……」


 アングさんが冷や汗をかいている。……これ、ドンゴがいれば障壁塔の攻略も余裕なんじゃないか?


 その後も何度かモンスターと戦おうとしたのだが、発見するやいなやドンゴが消し飛ばしてしまい、ついに一度も戦うことなく、僕たちは鉄帝国クラビウスにたどり着いたのだった。





「はぁ、はぁ……! 貴様、何者だ……、四天王候補であるこの私、金色の悪魔クローバーンを、こうも容易く――ガッ!?」

「謎の暗黒姫騎士女子高生だ。平和に暮らすこの国の民と、俺のために死んでくれ」


 ピッ、とドゥリンダナについたモンスターの血を振り払う。


 ――障壁塔を攻略した俺は、先程死んだモンスターが守っていた最上階へと登っていく。


 そしてそこにあった遮断要石を無視して、床に魔法陣を描いた。


「来い、ドンゴ三世」

Yes(イエス、),Ma'am(マム)


 瞬間、全長十メートルを超える金属製のドラゴンゴーレムが現れ、天井を破壊して鉄帝国上空を飛び回る。

 

 街中の人々が突然現れたドラゴンに驚愕する中、障壁塔の最上部へ跳び乗り鉄帝国クラビウスを見下ろす。


 俺は《瞬間着替え》と《初期化》を使い、魔剣士カゲヤの姿から、錬金術師インヤ――ではなく、黒いロングコートと仮面をつけた、「鍛冶師イーヤ」の姿へと変装した。


 仮面に取り付けられた拡声器を使い、地上の街に向けて叫ぶ。





「フハハハハ! この障壁塔は、地獄の鍛冶師イーヤが占拠した! ――我が目的は、勇者が持つ聖剣である! 即座に聖剣を差し出さなければ、この国の全てを我の生み出した鉄竜の息吹で焼き尽くしてやろう!」

国の名前はトランプから。

エイシアとイティーもそこから派生した名前です

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