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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第一章 召喚編
6/49

流石に二日以上元の姿に戻れてないと不安になる

「(やばい、ロッジさんの宿に戻ってきたのはいいけど、姿を元に戻すの忘れてた!)」


 寝起きだったせいか、宿の裏にある隠し階段ではなく、直接宿の方に入ってしまった。

 まあ、カゲヤは何度かインヤに会うために(という建前で)宿に訪れたこともあるので大丈夫だろう。


「……おお? カゲヤさんか、久しぶりだな」

「あ、ああ、久しぶりだな、ロッジさん。えーと、インヤは部屋にいるか?」

「昨日から部屋を出てないはずだから、多分いると思うぞ。部屋まで案内するか?」

「いや、覚えているから大丈夫だ。ありがとう」


 適当に愛想笑いを返す。いつもならロッジさんを適当にからかって楽しむのだが、今は急いでいるのでそのまま部屋へと向かう。


「あ、カゲヤ姉ちゃん!」

「ロン君か。悪いが今は急いでいるから後でな」

「えー。……ん、なんか酒臭くね?」

「いやいや何を言ってるんだそんなわけないじゃないか(《四番、簡易幻術》)。ほーらよしよしよし、どうだ、臭くないだろう」

「ちょっ、や、やめろよ! 俺もう十歳だぞ、子供扱いすんな!」


 小声で腕時計の機能の一つを発動させ、幻臭を纏った状態でロンを抱き上げて頭を撫でる。

 腕から抜け出て、少し赤い顔でどこかへ行くロンを尻目に部屋へと向かう。


 念の為扉の前でインヤに呼びかけ(ているというアピールをし)てから部屋に入り、地下室へと降りていく。


 いつもの部屋に戻り、一息つく。

 そして、腕を顔にあて、匂いを嗅ぐ。


「……そっか、酒臭いか……」


 自分ではわからなかったが、確かに少し酒の匂いがするかもしれない。

 身体についた汚れや匂いは微弱な魔力で勝手に浄化されていく便利仕様だが、体内に入れてしまうと違うのかもしれない。普通の食物は魔力に分解されるはずだから、エタノール、それかアルコールだけが魔法や魔力に対して何らかの抵抗力を持っているという可能性もある。酒で魔力が清められるとかそういう感じだろうか。


「と、とりあえず服は洗濯して……。身体の方についた匂いは……どうしよう。今から風呂?」


 いやいやいや、と頭を振る。この姿で風呂なんて一回しか入ったことがない。その時は頭が茹だりすぎてのぼせた上に一時間以上時間をかけてしまった。そんなことをしている暇はない。


「待て、普通に元に戻ってから風呂に入れば……いや、それでも時間かかるし、ちゃんと消えるかわからないか」


 時計を見ながら焦るが、ふと思いついて手の平を身体に当てる。


「《一部改造》、《抽出》。――よし」


 激しい音を立てて紫電が踊り、手で作った皿に透明な液体が満ちる。


 自分を対象にして改造魔法を使い、身体に残った酒精を抽出したのだ。チート最高。


 身体に匂いが残っていないことを確認し、いつもの装備に着替えていく。

 それと忘れないように勇者対策の装備を身に着けた後、王城へと向かっていった。



 騒がしい歓声が聞こえる大通りを、勇者一行は特注の馬車に乗って進んでいく。向かう先は王城だ。


 南の門から始まったパレードは一度王城に入城し、夜に城でパーティーを行ってから、翌朝また北の門につくまでパレードすることになる。


「勇者様、がんばれー!」

「おい、あれ魔剣士カゲヤじゃねえか?」

「おお、あれがそうなんですか……。本当に美人……っていうか可愛い……」

「装備のせいもあるが、勇者よりよっぽど目立ってるな!」

「異世界人ってみんな美形なんですかね?」


 やだなーもー、もっと言って。

 だらしなく緩みそうになる頬を引き締め、凛とした表情で前を見る。


 どうやら、光弥よりも(カゲヤ)の方が多くの注目を集めているようだ。


 それは(カゲヤ)が一年ほどこの街で知名度をあげていたというのもあるが、魔王の脅威を知っている人間があまりいないということが大きいだろう。

 魔王の伝説を知っているとしても、まるでおとぎ話か何かのように思っている人が大半だ。故に、民衆にとってこの勇者のお披露目は、ほとんど国主催のお祭りのような認識なのかもしれない。


 俺が昨日の噂のせいで削れた心が癒えるのを感じている中、馬車は多くの人が集まる大通りを通ってゆっくりと王城へ向かっていく。


 時々観衆に向かって軽く手を振ったり微妙に微笑んだりしてその反応を楽しんでいると、隣でエイシア巫女姫が俺と同じように手を振っているのが見えた。

 が、観衆の反応はあまり芳しくないようだ。エイシアもかなりの美少女なのだが、第三王女ゆえにあまり顔が知られていないのかもしれない。


 ぶんぶんと勢いよく手を振るエイシアとその腕の動きにつられて揺れる胸を見ていると、俺が見ていることに気づいたエイシアがこちらを振り返った。


「……わ、私は第三王女だから、多少知名度が低いのは仕方ないんです!」

「え、そ、そうなのですか」

「なっ……なんですか、自分だけやたらちやほやされてるからってその余裕は!」

「え……す、すいません。ですが、王女様は大変お美しいですし、知名度がなくても結構な人が反応してくれていますよ」

「あなたに言われても嬉しくありません!」


 ぷい、とそっぽを向くエイシア。……仲良くしたかったんだが、失敗したな。

 まあ、これから旅をする仲間だし、ゆっくり親しくなっていけばいいだろう。


 そう思いつつ馬車に乗っている者たちの姿を見渡す。


 まずは、勇者コウヤ・スズキ。

 異世界から召喚されたイケメンチート勇者だ。緊張しているのか、特に観衆へのアピールはしていない。していないのに通りからはキャーキャーという黄色い声が上がっている。なんだこのイケメンっぷりは。こいつの方がよっぽどファンタジーの人間じゃないか?


 次に、錬金術師アング。

 ……正直なぜよりにもよってこいつが、と思うが、実力があるのは確かだ。錬金術師と名乗っているが魔術師としての腕前も相当なものだし、冒険者としての実戦経験も豊富だ。あくまでサポート系の後衛であるが故にⅣランク冒険者に留まっているが、強力な前衛に恵まれればすぐにでもⅤランク冒険者になれるだけの資質がある。戦闘においてこれ以上信頼できる後衛は、冒険者全体で見ても少ないだろう。先日の件があるので戦闘以外の面が色々と信頼できないが。


 そして、巫女姫エイシア・スペイディア。

 うん、なんで王女が勇者パーティに入っているのかはわからないが、彼女も実力は確かだ。他に類を見ない王家特有の「星の魔法」でのサポートは、戦闘以外でも力を発揮してくれるだろう。彼女が死んだら光弥を送り返せないんじゃないかと思ったが、魔王の心臓があれば星の魔法がなくても送還はできるらしい。まあ、王女を死なせるとか勇者が死ぬ以上に面倒そうな気もするので、流れ矢なんかには十二分に気をつける必要があるだろう。本当になんでついてきたんだ。


 他には、王女付きで世話をするメイドのイティー。

 有能そうな二十代後半の女性で、戦闘はできないが雑務全般を行ってくれるらしい。


 最後に俺。異界の魔剣士カゲヤである。


 RPG的に考えるなら「勇者」「剣士」「魔法使い」「賢者」(それと非戦闘員)となかなかバランスのいいパーティだが、現実的に考えると頭数が少なすぎる気がする。


「俺が知る限りまだ魔王の本格的な侵攻は始まっていませんが、始まってしまえば強者を遊ばせる余裕がなくなりますからねぇ。最低限の精鋭で五つの塔と魔王を攻略しろってことなんでしょう」


 というのは、アングの言だ。


「それに、コウヤ様が強くなれば俺たちが何人いようが代わりになりませんから。カゲヤさんでも、障壁塔を三つ攻略する頃には力量を抜かれているかと」

「……まあ、それはそうかもしれないな」


 つまり、基本は光弥のサポートということだ。

 正直うちの完璧美少女であるカゲヤちゃんが脇役とか気に食わない。気に食わなくて光弥を刺したくなるが、今は我慢だ。無理やり仲間にしやがってこの野郎。


「(というかメインで戦うことばっかだから、サポートとかできないけど大丈夫かな)」


 この世界に来たばかりの頃は、冒険者インヤとして遠距離主体のサポートをしたことが何度かあったが、近接戦でのサポートなんてやったことがない。

 まあ、上手くできなかったらアイテムでなんとかしよう。


 そんなことを考えているうちに、馬車は王城へと入っていった。



「影耶はドレスを着てきたんだ。すごく綺麗だよ」

「……仲間が作ってくれたんだ。いつもの装備のままでいいと知っていたら持ってこなかったんだがな」


 自然体ですけこましてくる光弥にイラッとしつつ、パーティーの様子を眺める。


 更衣室に案内されたのでとりあえずアイテムボックスに入れておいた暗色系のシックなドレスを着てきたのだが、単に身だしなみを整えてこいというだけで着替える必要はなかったらしい。確かに、魔王を倒す面々を紹介するのに礼服というのはおかしな話かもしれない。パーティーという言葉のイメージだけで考えてしまっていた。

 何故かそのままでいいと言われたので、他の三人が武装している中(とはいえ、流石に武器は持ち込んでいないが)、一人ドレスで会場へとやってきた。


「いやあ、いつものカゲヤさんも素敵ですが、そういう格好をしているとまるで貴族のお嬢様の様ですな」

「そうか? ありがとう」


 アングにしては良いこと言うじゃないか、もっと言え。

 光弥に対してもこういう風に反応できればいいのだが、私怨が強すぎて素直に受け取ることができない。それになんかもう無意識の内にこちらを落とせると思っているような光弥の態度が気に食わない。いや、これも私怨からくる勝手な印象だが。


 実際光弥のモテ度は相当なものだ。異世界にきて一ヶ月とたたずに一国の王女を落とすなんて、率直に言って頭おかしい。今もちょっとニコっとするだけで貴族の令嬢が次々に落ちている。もはや異能の域だ。一体どれだけチート能力を持てば気が済むのか。


「ん? アング、この飲み物は?」

「ああ、それは鉄帝国から入ったドワーフ製の蒸留酒ですよ。カゲヤさんも飲みますか?」

「……いや、やめておく」


 この身体で酒を飲むのは多分よくない。リセプの家で飲んだ後どうなったのかはよく覚えていないが、記憶があやふやになるぐらい酔うという時点でもうダメだ。


「へえ、異世界の料理も結構おいしいね。影耶は食べないの?」

「私は少食なんだ。それにこういう所で食事をするのはあんまり得意じゃない」

「けど、明日は朝から王城を出発するし――」

「わかったわかった。ここで食べてるから、光弥はエイシア王女の相手をしてろ」


 光弥が(カゲヤ)に構っているせいで、エイシアがこちらを見る目つきがどんどんキツくなっていっているのだ。

 確かに俺にはこれ以上ないほど身近に美少女がいるが、だからと言って他の美少女から嫌われてもいいというわけではない。勇者よ、ここは私に任せて先にいけ。


 そんな感じで、パーティーは進行していった。






 そして特に問題もなく、パーティーは終了した。




「つ、疲れた……」


 呟いて、割り当てられた部屋のベッドに倒れ込む。

 カゲヤの姿なら肉体的な疲労はほとんど感じないので、これは精神的な負荷による疲労だ。


「流石に二日連続でカゲヤの演技しっぱなしってのはキツいな……」


 旅の間これがずっと続くというのは正直つらい。何か時折単独行動できるような理由を今のうちにでっち上げておくべきだろうか。


 できれば今夜は元に戻って寝たいが、朝は城のメイドが部屋まできて起こしにくるらしい。下手に変化を解くのは危険だ。


「はあ、一人でいる時なら何日でもいけるんだけどな……。甘く見てたか……」


 そう言いつつ服を着替え、アイテムボックスから小型警備ロボを取り出す。

 流石に王城で何か(よこしま)なことをしようという輩はいないだろうが、無駄にセキュリティが万全ないつもの地下室に比べると不安なのは確かだ。念のために置いておこう。


 ベッドに横になってしばらく旅の間の対策を考えていたのだが、思った以上に疲労が溜まっていたらしい。数分と経たない内に、俺は眠りに落ちていった。


〜おまけ~

―――――

鈴木光弥 男性 異世界人 16歳

聖剣術/ランク4

神聖魔法/ランク4

肉体強化/ランク4

魔力増大/ランク4

―――――

佐藤陰矢 男性 異世界人 22歳

改造魔法/ランク10

―――――

佐藤影耶 女性 異世界人 17歳

剣術/ランク6

闇魔法/ランク5

魔術/ランク3

―――――

アング 男性 人間 30歳

錬金術/ランク5

魔術/ランク5

体術/ランク2

―――――

エイシア 女性 人間 15歳

星魔法/ランク6

魔術/ランク4

―――――

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