魔人ルート:ある日の女子会(偽)
短めですが、書きかけだった話を。
一口、酒を飲んだ。
リセプとシエディアが心配そうな目で見つめてくる。
「注いでおいてなんだけど、カゲヤちゃん本当に大丈夫? めちゃくちゃ弱いのにお酒飲んで」
「多分ダメね。インヤさんは陽気になるぐらいだけど、カゲヤちゃんはもう弱いってレベルじゃないわ」
「いや、一口ぐらいなら大丈夫だろう。せっかくリセプが勧めてくれたのだから、断るのも悪いし――あ、このお酒美味しい……リセプさんありがと、えへ……」
「ほら、私の言った通りでしょ?」
なんだか失礼なことを言われている気がするが、いまいち頭に入ってこない。お酒美味しいし許しちゃおう。
「魔王討伐祝賀会……というにはだいぶ時間空いたけど。まあ、とりあえず乾杯」
「コウヤ君が戻ってきたり、カゲヤちゃんが魔界に来たり、色々あったからねえ」
「……というか、何故シエディアさんがここに? コウヤ様から死んだと聞いたのですが」
イティーがシエディアに訝しげな目を向ける。
「え? んー……カゲヤちゃん、どうしよ。ママのことなんて説明する?」
「イティーさんのジト目可愛い……」
「どうにもならないわねこれ」
だって、クール系美人メイドさんのジト目だ。最高だ。……ううむ、なんだか語彙が浮かんでこない。参ったな。
「とりあえず酒飲も……んぅ、美味い……」
「……まあ、カゲヤさんもイーヤも実は生きていたんだから、今更ですね」
イティーがため息をついた。
どうにも疑問を抑えきれない様子のリセプが、改めて俺に問いかける。が、俺の頭の中はもうぐにゃぐにゃだ。
「結局、カゲヤちゃんはシエディアさんとどういう関係なの?」
「んー……? えっと、シエディアは……ママ?で……料理が得意で……強くて……魔法で、カゲヤをいい感じにしてくれて……大好き大好きって言ってくれるから、実は……ちょっとすき……ふへ」
「ちょっとどうすればいいのこれ」
「ね、ねえカゲヤちゃん! もっかい、もっかい言って!?」
「え〜? 恥ずかしいから、ダメ……」
「これ本当にカゲヤさんなんですか?」
シエディアがぎゅっと俺を抱き締めてくる。柔らかくて気持ちいいが、ちょっと苦しい。
「離してぇ……」
「ダメ! 今日はもうずっと抱っこしてるから! ふへへへへ、やっぱりカゲヤちゃんは私のもの……! 帰還ルートなんてなかった……!」
俺を抱くシエディアの腕がさわさわと動き、胸元を撫でる。
「んぅ……!? や……!」
「ぐはぁっ!?」
腕を振り払いながら魔力を放出する。シエディアは回転しながら吹き飛んでいった。
「くっ……! やっぱり夜想曲じゃないとこれ以上はダメね……!」
「何の話してるんですか……」
イティーが再度呆れたようにため息をつく。何か困っていることでもあるのだろうか。
「イティーさん……大丈夫……?」
「え、ええ、大丈夫ですよ」
「そうですか……? よかった……」
安心した俺は、残りの酒を飲んでいく。……ああ、なんだかフラフラしてきた。
「……カゲヤさんの上目遣い、なんて言うか、凄いですね」
「カゲヤちゃん! 私にも! 私にもやって!」
シエディアが何か言っているが、よくわからない。まあどうせ大したことじゃないだろうし、気にせずに酒を飲み干していく。
そんな俺に、リセプが不安気に近づいてきた。
「か、カゲヤちゃん……これ以上はやめた方が……」
「にぁー……? にゃんでぇ……」
「猫語になってる……ほら、酒瓶離して!」
「だいじょぶぅ……いつもはロング缶開けても平気だしぃ……」
「ロング缶……? ほら、いいから離してってば。まだ十七なんだからあんまり飲んだら良くないよ。いくら星王国じゃ年齢制限がないからって」
「本当はいい大人だもん……」
「いい大人が『だもん』なんて言わないでしょ」
これぐらいじゃ全然酔わないのに、リセプは大袈裟だ、全く。そんなに言うなら改造魔法で酔いを覚ましてしまえばいい。……ええっと、どうやるんだっけか。なんか、頭の中がぐるぐるになってるから、それを綺麗にさせるためにばーっと……。
「あ、カゲヤちゃんそれダメなやつ……」
「ふにゃんっ!?」
紫電を手に纏わせ自分の頭に触れた瞬間、何かが吹き飛んだ。
「にゃ、にゃぁあ……ここどこぉ……?」
「こ、これ大丈夫なんですか?」
「まあその内戻るでしょ」
「そんな適当な……。あ、今の内に酒瓶没収ね」
※
目の前にばちりと青い雷が走って、俺は目を覚ました。
いつの間にか家のソファで、シエディアの膝の上に乗せられている。頭はまだフラフラとして、夢見心地だ。
「とりあえず記憶だけ戻したからね。あ、お風呂と着替えはちゃんと堪能させてもらったから安心して」
「うー……シエディアぁ……」
酒の匂いは薄れて、石鹸の匂いと、わずかにシエディアの香りがした。
「シエディア……」
「どうしたの? 改変魔法でアルコールも抜く? けど、アレはあんまり身体に良くないから――」
「好き」
「へ?」
「話してると楽しいし、意外と優しくしてくれるし……ちょっと迷惑もかけられるけど、でも、そんなに嫌じゃないし……出来たら、俺、もっと……」
「ちょ、ちょっとカゲヤちゃん?! あ、寝ちゃダメ! もっかい、もう一回ちゃんと聞かせて!」
ゆさゆさと揺さぶられるのが心地よくて、俺はそのまま眠りに落ちていった。
解放条件:魔人ルート
・本編終了後、魔界への逃亡に成功する
・シエディアとインヤ&カゲヤの関係が本編終了時の三倍以上
・インヤ、カゲヤ、両方の状態でデートイベントを発生させている




