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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第IF章 番外編
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帰還ルート:学園ラブコメ

 番外編のストーリーは、本編では有り得ないIFルート集です。

 各話ごとに本編とは一部の展開や設定が変化しています。

 光弥の運命力が強化されてたり、エイシアが光弥をそこまで好きじゃなかったり、シエディアとの事情が変わったり、カゲヤちゃんがちょろかったり(いや、最後は本編と同じか……)様々な前提が異なるため、ところどころ齟齬があります。

 おまけコーナー程度の気持ちでお楽しみください。

 窓から廊下へと、朝の爽やかな風が吹く。


 元の世界の町並みを見ながら、小さく息をもらす。

 帰りたくない帰りたくないと思ってはいたが、いざ帰ってみるとそれなりに懐かしいものだ。


 現実から目を背けるように窓の外を眺めていると、壁越しに声が聞こえてきた。


「えー、それでは最後に。今日は、このクラスに転校生が来ます」


 教師の声と、ざわつく生徒たちの声。特に男子生徒たちの声が大きい。


 なんだかもう憂鬱になってくるが、そんな俺に無情にも声がかけられる。


「皆さん、静かに。では、佐藤さん。入ってきてください」

「……はい」


 靴音を響かせながら、静まった教室内へと入っていく。


 扉を開けた瞬間、廊下から吹き込んできた風が、俺の長い黒髪と、制服のスカートをたなびかせた。

 鈴のような声を凛と鳴らし、端的な自己紹介を言い放つ。


「今日からこのクラスに編入することになった、佐藤影耶だ。よろしく頼む」



 今から一ヶ月ほど前、俺と光弥は、元の世界へと帰還した。

 最初は死んだと思わせる予定だったのだが、それだとどうしても光弥が不憫に思えて、つい一緒に帰ることにしてしまったのだ。


「すいません、王女様」

「謝らないでください。今はもう、コウヤのことは何とも思っていないんです。……ほんの少し何かが違えば、あなたたちをこんな気持ちで送り出すことはできなかったでしょうね」


 僥倖だったのは、エイシアが異世界移動魔法を改良してくれていたことだろう。イーヤとして確保した心臓の半分は使わずに済んだため、こちらの世界に持ってきてある。

 素材があまりないので、あちらに戻るためのアイテムを作り出すには少し時間がかかりそうだが……数十日もすれば出来上がるはずだ。


「予想はしていたが、この世界でも魔力が使えるみたいだな。これなら、生活も何とかなるはず……」

「あ、ついさっき、家の屋敷に影耶の部屋を用意してもらったから問題ないよ」

「へ?」


 その間どこで生活しようかと悩んでいたのだが、なんと光弥の家は世界的な大財閥であり、家も戸籍もないカゲヤを軽々と養える常識外れの財力を有していた。


「……で、光弥の実家はどれだ?」

「ここから見える建物は全部鈴木家の物だよ。本邸は目の前にある屋敷だけど」

「もう一個の町じゃないか……」


 初めは悪いし断ろうと思ったが、光弥の実家の圧倒的な豪邸っぷりを見た瞬間、そんな罪悪感は消し飛んだ。


「佐藤影耶です。しばらくお世話になります」

「しばらく、なんて遠慮することはない。いくらでもいてくれて構わないとも」

「ええ、娘ができて――じゃなくて、できたみたいで、私も嬉しいのよ」

「光弥がモテるのは前からだけど、こんな可愛い子を連れてくるなんて、姉として鼻が高いわ」

「は、はあ……」


 俺は嬉々としてその提案に飛びつき、光弥の家族からの謎の好意に戸惑いつつも、快適な生活を楽しんでいた。


「夢にまで見た三食おやつ昼寝&専属メイドさん付き生活だ……ふへへ……」


 元の姿に戻れる機会がなかなかないのは困りものだが、以前迷宮内にエイシアと光弥の三人で一週間閉じ込められたこともあって、ある程度は慣れている。一人になれる時間も多いし、数十日程度なら耐えきれるだろう。

 

「影耶ちゃんの部屋って、ちょっと殺風景じゃないかしら? ほら、もうちょっとインテリアにこだわった方がいいと思うわ」

「だ、大丈夫だ、光華(みつか)さん。私にはあまりこういうのは似合わないから……」

「いいからいいから。あ、あと私のことは光華お姉ちゃんって――」


 だが、二週間ほど経ち、あんまり女の子らしいものを貰っても困るなあと思いながら用意された部屋でゴロゴロしていると、唐突に光弥がやってきてこう言った。


「影耶! やっと高校への編入手続きが済んだ!」

「……? そうか、転校でもするのか? まあ、それなりに期間が空いたからな」

「いや、僕は転校しないけど」

「え? それなら……あっ」

「うん、時間がかかったけど、影耶も高校に――」

「いやいや! その、私はほら、四年も前に卒――じゃなくて、一年も異世界にいたから!」

「うん……本当なら二年のクラスなんだけど、留年ってことになるんだ、ごめん」

「えっと……あの、その……」

「もう準備も済んでいて、制服の仕立て屋さんも――」



「…………」


 周囲からの視線を感じつつ、無言で用意された席に座り、チラ、と自分の身体を見る。


 いつも通りの完璧美少女なカゲヤの身体は、いつも通りの似非ブレザー制服と違い、周囲の女子生徒と同じような、ちゃんとしたセーラー服を纏っていた。


 普段の装備ならなんとも思わないのだが、リアルな女子高生がすぐそこで着ている制服と、全く同じ服を着るっていうのはこう……なんとも言えない複雑な感覚だ。動悸がやばい。


 冒険者活動で身につけたクール美少女オーラで周囲を威圧し、近寄りがたい雰囲気を意図的に生み出す。名付けて孤高フィールド。


「(大丈夫、この雰囲気を保っていれば、当分は話しかけられなくなるはず!)」


 内心で大量の冷や汗をかきながら、澄ました顔で適当に取り出した教科書をめくる。


 ……流石に四年も経ったから、結構な内容忘れてるな。

 カゲヤが頭悪いと思われても嫌だし、ちゃんと復習しておくか――と考えていると、背後から空気を読まない声がかけられた。


「おはよう、影耶」

「……ああ、おはよう」


 そうだよな、お前はそういうやつだよな、光弥。なんで同じクラスなんだ。


 それを皮切りにして、話しかけたそうにしていた生徒たちが次々と声をかけてくる。


「佐藤さん、鈴木君と知り合いなの?」

「……朝に会って、少し顔を知っているだけだ。知り合いってほどじゃない」

「え、影――」

「じゃあ、休学中に出来た彼女とかじゃないんだ。佐藤さんには彼氏いるの?」

「そういうのは苦手なんだ、やめてくれ」

「前はどこの学校に?」

「えーっと、星央学園だ」

「部活どこ入るか決めてるの?」

「しばらくは忙しいから、落ち着いてから決めるつもりでいる」


 光弥のせいで孤高フィールドが崩れたが、気を取り直して冷静に返していく。

 うん、意外と何とかなりそうだな。この感じのままなら、孤高フィールドを再展開できるはず――


「髪すっごいさらさらだけど、シャンプーとかって何使ってるの?」

「…………えっと」


 ……髪の手入れは改造魔法で一発だが、それを言うのは色んな意味でダメだろう。


「肌も綺麗だし」

「……その」


 肌の手入れも改造魔法で一発である。


「いい匂いするし」

「あの……」


 改造魔法で一発である。


「スタイルも良いしね、モデルみたい」

「いや……」


 改造魔法である……改造魔法である!


 どの質問も答えづらいし、なんだか申し訳なくなってくるので、こちらから質問することで有耶無耶にしよう。


「ところで、今日の時間割はどこに書いてあるんだ? 口頭で教えてくれてもいいんだが……」

「ああ、それなら、一限は数学A、二限は現代文、三限は化学、四限は体育。今日は二学期が始まったばかりだから、午前中で終わりだね」


 光弥がさっと説明してくれる。既に色々としんどかったので、午前中で終わるのはありがたい。――って、ちょっと待った。


「なあ、光弥」

「ん? どうかした?」

「……体育って言ったか?」

「うん、四限は体育。体力テストだったかな? 移動するけど、皆についていけば大丈夫だから」

「そう、か……」


 一日目にして最大の危機が迫ってきたな……どうしよう。



 手首の腕時計を確かめながら、女子更衣室へと歩いていく。


 《瞬間着替え》を発動できそうな隠れられる場所を探しているのだが、なかなか見つからない。


「(いや、まずいだろこれ……)」


 流石に女子高生と一緒に着替えるような度胸はない。何とかしなければ。


 更衣室の手前で立ち止まり――残像を残して移動する。


「どうしたの、佐藤さん?」


 女子生徒が残像に話しかける声を聞きながら、誰よりも早く更衣室に入り、《瞬間着替え》で体操服に着替え、瞬時に外へ出る。


「どうした? 私はこっちだ」

「え、あれ? おかしいな、さっきまでここにいたのに……」

「というか、いつの間に着替えたの……?」

「普通に更衣室で着替えたぞ? 廊下で待っているから、着替え終わったらグラウンドに案内してくれ」

「あ、うん」


 よし、何とか誤魔化せた。……授業が終わった後の着替えはどうしよう。


 運動場へと移動し、授業が始まる。

 今回は体力テストなためか、男女混合だ。


 出席番号順に並んで、呼ばれるのを待つ。


「じゃあ次、佐藤」


 体育教師からハンドボールを二つ渡された。

 体力テストの種目の一つ、ハンドボール投げは、直径二メートルの円の中に立ち、ボールを遠くまで投げてその飛距離を測定するものだ。ボールは二回投げ、結果の良い方を記録する。


 が、ここで問題が一つ。


「(……これ、どれぐらい投げればいいんだ?)」


 ハンドボール投げにおける、高校生男子の平均記録は確か二十五メートルである。


 女子の平均記録は覚えていないが……恐らく二十メートル弱ぐらいだと思う。しかし、カゲヤの身体能力で、そんな中途半端な距離に投げれる自信がない。


 全力で投げればとんでもない記録が出ることは間違いないだろうし、異世界に関わることは光弥とその家族以外に言っていない以上、どう考えても面倒なことになる。

 ドゥリンダナによる補助があれば何とかなったのだが、こんなところで剣を取り出せるわけもない。


 けど、あんまり手加減し過ぎてカゲヤが軽く見られても嫌だし……。


「(こう、地面に向けて投げればいけるか?)」


 握りづらい大きなボールを持つ。手が小さくなったこともあって、しっかり持たなければ取り落としそうだ。

 少し力を込めながら、叩きつけるようにして投げる。


「せいっ!」


 ヴォッ、というボールを投げたとは思えない重低音が響き――ほぼ同時に、二十メートル先の地面が爆ぜた。


 なおも勢いを殺しきれないボールがギュルギュルと地面を抉り、摩擦熱と煙を撒き散らして、止まる。


「………………」


 無言になる教師と生徒達。いかん、やらかした。


「……て、手が滑りました」


 色々と厳しい言い訳をしながら、もう一個のボールを持つ。


「影耶……」


 光弥が残念そうな顔でこちらを見るが、何も言い返せない。


「え、えーいっ」


 自分でもわざとらしい感じの女の子投げで、軽ーくボールを投げる。


 二回目の結果は、八メートルだった。



 光弥と一緒に、学校の帰り道を歩いていく。


「……」

「その、影耶。元気出して――」

「うっさい!」


 鞄を思いっきり振り回すが、片手で軽く受け止められる。光弥以外だったら数メートルは吹き飛んでいただろう。


 あの後、短距離走や走り幅跳びでもやらかしまくった俺は、かなり消沈していた。


「ああもう! なんでお前はあんなに無難な記録を出せるんだ! 私がバカみたいじゃないか!」

「……いや、影耶が不器用なだけだと思う」

「うぐ……!」


 こ、こいつ……! 勇者のくせに生意気な……!


 ぼかぼかと魔力を込めて殴りつけるが、戦闘力が圧倒的に成長した光弥に、今更そんな攻撃が通用するはずもない。

 まあ、当たったとしても小突くぐらいの効果しかないだろうが、それでもこう簡単にいなされるとむかつく。


 それどころか腕を掴まれ、ぐいっと引っ張られた。


「あ、こら!」

「ほら、前食べたいって言ってたスイーツ奢るから」

「む……」


 光弥の腕を振り払い、逆に掴み直す。


「え?」

「早く行くぞ、今日だけで十店回るからな」

「いや、そんなに回っても食べきれないんじゃ……」


 残念だったな、カゲヤちゃんの胃袋が満腹になるということはない。小遣いを使い果たしてやるから覚悟しろ。


 俺は光弥を連れ回し、日が暮れて財布が空になるまでスイーツ店を巡るのだった。

解放条件:帰還ルート

・カゲヤの好感度を本編の三倍以上稼ぐ。

・記憶喪失イベント時に、カゲヤを気絶させない。

・迷宮で「ボスを倒す」ではなく「カゲヤ達を助けに行く」を選択する。

・最終決戦で魔王からシエディアを守る。

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