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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
最終章 魔王編
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帰還

「やっと来たか。遅かったな」


 数日後、星王国に帰った僕とエイシアを待っていたのは、黒い仮面とロングコートを着けた、藍色の髪の男だった。


「い、イーヤ……?」

「そんな、貴方は魔王に激突して死んだってコウヤが……」

「一度お前に殺されて蘇ったのだ。二度蘇ろうと同じことだろう」


 なんでもないことのようにイーヤは言って、僕に向かって手を伸ばす。


「では、魔王の心臓を寄越せ」

「だ、ダメです! これは、コウヤが帰るために――」

「ああ、勘違いするな。凍結されたままでは使い物にならないから、解凍してやるだけだ」


 エイシアとひと悶着あったものの、イーヤは言葉通りに魔法で心臓を解凍し、僕らへと返した。


「そういえば、魔王と戦った者には心臓の半分を進呈する、だったな?」

「けど、それは……」

「カゲヤは死んだ。お前も見ていただろう。……やれやれ、ドンゴに自爆装置を積んだのは、お前を殺すためだったのだがな」

「……」


 僕は歯を食いしばり、下を向く。


 イーヤはため息をつき、エイシアへと話しかけた。


「エイシア王女が勇者と一緒にあちらに行くというなら――」

「いいえ。……カゲヤがいないなら、私は、行きません」


 エイシアがイーヤの提案を断り、僕の方を向く。


「コウヤ……」

「……うん」


 そして僕は、影耶が帰るために使うはずだった心臓の半分を……イーヤに手渡した。



 王城前の広場には、多くの人たちが集まっていた。


 アングさんやイティーさん、星王国の国王など、僕が異世界で関わった人たちが見守る中、エイシアが魔法陣を描き、魔王の心臓を配置する。


「準備が終わりました。……これから、勇者の送還を開始します」


 僕の服装は、召喚された時に身につけていた高校の制服だ。


 国王から大きな袋が手渡される。中には感謝の印として、この世界にしか存在しない貴金属や宝石、魔法のアイテムなどが入っている。

 ……上手くやれば莫大な財産になるだろうが、正直なところ、持て余しそうな気しかしない。


 集まった人たちに感謝の言葉をかけられた後、魔法陣の上に乗った。


 エイシアが魔力を込め、魔法陣が光り輝く。


「……さようなら、コウヤ。本当に、ありがとうございました」

「……うん。さよなら、エイシア」


 エイシアが少し悲しそうに笑って言う。


「けれど、もし、あなたが――」

「……?」

「……いえ、何でもありません。いきます! 《牡羊座(アリ)の使徒――かの者を、かの場所へ》!」


 エイシアが魔法陣に大量の魔力を込めた。


 地面から目も眩む光が放たれ、眩さに僕の顔が自然と上を向く。


「え……?」


 そして――空を舞う一体の鋼のドラゴンと、その上に乗る一人の少女の姿を見つける。


 長い黒髪を風に揺らしながら、彼女は僕に向けて手を振っていた。


「……! 影耶――」





 そして、魔法陣の光に包まれ――僕は、元の世界へと帰っていった。












 カゲヤの姿でドンゴ三世に乗った俺は、星王国の上空を優雅に飛んでいく。


 光弥も無事に見送ったし、これにて一連の騒動は終了だ。

 光弥と初めて会った日から、大体四ヶ月ぐらいか……いやー、長かった。


 俺が満足感に浸っていると、通信機から不満気な声が聞こえてきた。


『なんでああいう煮え切らないことしちゃうかなぁ……』

「……いや、だってあのまま死んだと思わせてたらなんか可哀想だし……」

『そういうのがよくないんだと思う。こんなんだから、カゲヤちゃんはツンデレヒロインとか言われるのよ』

「誰がツンデレヒロインだ。というか初めて言われたんだけど」


 さて、これからどうするか。魔王の心臓で何か作りたいところだが、魔王との戦いで結構な素材を使ってしまった。


 龍王にねだれば何かくれるだろうが、流石にもう少し時間を空けた方がいいだろう。


「となると……魔界にでも行ってみようかな」

『え? ほんと!?』

「あー……けど、やっぱりしばらく一人でゆっくりしたいかも……」

『そんなこと言わないで来てよ! 待ってね、今転移魔法陣描いてくるから!』

「あ、待ってくれお母さ……切れた」


 せっかく地上が平和になったのだ。しばらくは何も起こらないだろうし、このまま星王国でゴロゴロしていても――


「……!」

「ん……?」


 今、光弥の声が聞こえた気がしたが……気のせいだな。

 

 あいつは、確かに元の世界へ帰っていった。勇者を召喚するための魔王の心臓のもう半分だって、俺が回収している。


 こんな幻聴が聞こえるとは、俺も存外あいつに絆されて――


「影耶ー!」

「…………」


 ……ず、随分はっきり聞こえる幻聴だなぁ……。


「待ってくれ、影耶!」

「あーあー! 聞こえない聞こえなーい!」


 耳を抑え、ちら、と後ろを向く。


 ――俺の作った鎧をつけた光弥が、魔力の翼を生やし、猛スピードで追ってきていた。


「なんでこっちにいるんだ、光弥! 帰ったんじゃなかったのか!」

「エイシアが、星魔法を改良してくれていたんだ――」


 何やってんだあの王女様。そう簡単に魔法の改良なんて……。


「――影耶と僕と三人で、一緒に元の世界に戻るために!」


 ……無駄に好感度稼ぐんじゃなかった!


「あー、もう! お母さん、早く転移魔法陣描いて! 逃げるぞ、ドンゴ三世!」

「待ってくれ! 今度こそ、君を絶対に元の世界に帰してみせる!」


 勇者と二人、異世界の空を飛び回りながら、俺は、絶対に元の世界には帰らないと誓うのだった。

これにて「絶対に元の世界には帰らない!」、完結です。

ここまで読んでくれた皆さん、本当にありがとうございました。

よければ↓から評価をしてくれると嬉しいです。


今後も、気が向いたら番外編を投稿するつもりでいます。それではまた。

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