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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第一章 召喚編
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どうあがいても勇者が魔王を倒すのを止められそうにない

「ぢぐしょう……あの野郎……!」


 ファンタジーに似つかわしくない電化(風)製品に囲まれた部屋で、ダンッ、っと机を叩く美少女剣士。そう、俺ことカゲヤである。


「ふざけんな、帰ってたまるか……! 俺がこの生活をいい感じに軌道にのせるまでにどれだけかかったと思ってるんだ……!」


 荒々しくパソコンのキーボードを叩きながら、外では絶対に漏らさない呪詛を垂れ流す。


 なんとか無事に自宅に戻ってきた俺だったが、戦いの後の展開といえばそれはもう惨憺たる結果だった。


『まさか、本当に勇者に勝るとも劣らぬ実力を持っているとは……!』

『王よ、カゲヤ殿こそ勇者様の仲間にふさわしいのでは?』

『それはいい考えだな。勇者殿はどうかね?』

『ええ、僕も影耶が仲間なら頼もしいです』


 あれよあれよと光弥の仲間にされ、極度の焦りと混乱からろくに断ることもできなかった。

 せめてこっそり改造魔法でスカートを修理できればよかったのだが、そんな隙が訪れる前に話がまとまってしまったのだ。


「うう、なんで欲張っちゃったんだ……。俺のバカ……」


 今日まで気づかなかったのだが、カゲヤの身体は涙腺が脆い。もう泣きそう。


「うぐ……《一番・瞬間着替え》。それと《初期化》」


 マジックアイテム化した腕時計の機能で一瞬で男物の服に着替え、元の姿に戻る。

 できれば自分で着替えたいのでこの機能はあんまり使わないが、このままカゲヤでいるのは多分精神的によくない。


「はあ……よし、冷静になったぞ。大丈夫、まだ確実に帰ることになったわけじゃない。光弥より早く魔王を倒してしまうなり、光弥を一ヶ月以内に無理やり帰すなり、まだ方法はいくらでもある」


 流石に話に聞く魔王を倒すにはそれなりの準備や作戦が必要だし、光弥を帰してしまっては仮に魔王を倒せなかった時の対抗策がなくなる。どちらにしろ十分に計画を練ってから慎重に行うべきだろう。

 念の為、核爆弾とかのチートアイテムを作っておくか……。核爆弾の原理自体は割と単純だが、材料を集めるのが厳しい。とりあえずウラン鉱石を探知できるアイテムから作る必要があるだろう。これから忙しくなるだろうことを考えると一ヶ月ではまず無理だ。核爆弾以外の手段を取るにしてもそれはそれで長い準備期間が必要になるだろう。


「しかし、まさか勇者ってのがあれほど強かったとは……」


 パソコンで王城に侵入させた小型魔法ロボを操作しながら、勇者・鈴木光弥の強さにため息をもらす。


―――――

鈴木光弥 男性 異世界人 16歳

聖剣術/ランク10(完全開放まであと60%)

神聖魔法/ランク10(完全開放まであと60%)

肉体強化/ランク10(完全開放まであと60%)

魔力増大/ランク10(完全開放まであと60%)

????/ランク10(完全開放まであと100%)

―――――


 なんだこの能力。舐めてんのか。


 これは、つい先程魔法ロボが光弥を測定した時の情報だ。

 どうやら能力を完全に使いこなせるわけではないようだが、仮に完全に使いこなされたら俺のチート能力なんて屁みたいなもんである。しかも覚醒フラグまでしっかり用意されている。めちゃくちゃ主人公だなこいつ。

 もう少し情報を得るため、魔法ロボに搭載されている魔法カメラを魔法リモコンで起動させる。魔法って便利。


『ふう、疲れたな……』


 光弥が王城の一室に入っていく様子がパソコンのディスプレイに映し出される。どうやらここが自室のようだ。


 光弥が扉を開けた瞬間、部屋の中から銀髪の少女が彼の胸元に飛び込んでいった。


『うわっ!? エイシア!?』

『おかえりなさい、コウヤ!』


 肌の白い、銀髪赤眼の小さな少女。彼女こそがスペイディア星王国の第三王女、「星の魔法」の使い手として名高い巫女姫エイシアだ。

 勇者を召喚したのも彼女だそうだ。なんてことをしてくれたのか。


『戦ってるところ見てました! えへへ、かっこよかったです!』

『そ、そうかな? 正直、手も足も出なかった。最後は影耶の方から引いてくれたみたいだし』

『何言ってるんですか、コウヤの方が強いに決まってます! あの人、コウヤの魔法に驚いて体のいい言葉で降参したに違いないです!』


 ははは、こやつめ。


『けど……正直不安になってきた。この世界の……いや、影耶は異世界人だったけど、あれほど強い最高位の冒険者でも倒せないような魔王を、僕が倒すイメージが浮かばない』


 あれだけチート能力持ってるお前が倒せなかったら誰が倒せるんだよ。いや、倒してもらっても困るけど。


『コウヤは必ず魔王に勝てます! だって、私が召喚した勇者様なんですから!』

『……ありがとう、エイシア』


 光弥は感謝をささやきながらエイシアの頭を優しく撫でる。教科書に載せたくなるようなイケメンにのみ許されたムーブである。

 エイシアは顔を赤らめながら嬉しそうに微笑み、さらに光弥を励ます。


『それに、コウヤがまだ弱いのは仕方がないことです。魔王が作り上げた五つの障壁塔を破壊しなければ聖剣は真の力を発揮できないんですから』

『ああ……。障壁塔を破壊しない限り魔王の障壁は壊れない、そして、障壁塔を破壊できるのは聖剣のみ、だっけ』

『ええ。障壁の守りは空間を遮断し、真実無敵となる防御を生みだします。決して力押しでは壊せません』


 え?

 今なんて言った? 空間遮断?

 なんか核でも倒せなさそうな雰囲気がバリバリ出ているんだけど大丈夫かこれ。


『……けど、それなら聖剣は影耶なんかの、戦いに慣れた剣士に渡した方がいいんじゃないか?』

『もう、前に言ったでしょう? 

 ――聖剣の契約は、勇者が死なない限り消えないって。それに、聖剣の力の全てを引き出せるのは勇者し……』


 その後も光弥とエイシアの話は続いていたが、半ば呆然としつつ俺は魔法ロボを帰還させた。

 そのまま光弥の部屋に置いて監視することも考えたが、神聖魔法の余波で無力化されるぐらいなら手元に戻して別のことに使った方がいいだろう。


 ……さて。


「悪いな、光弥――」


 ――俺の快適な異世界生活を守るためには、お前を殺すしかないようだ。



 ――とはいえ、できれば人殺しはしたくない。

 聖剣に改造魔法を施して契約を書き換える、一旦殺した後で蘇生させる、といったプランも考えておこう。

 チートアイテムの製造計画表を用意するとともに、考えを練る。


「けど、どちらにしろカゲヤがそれをするのはまずいよな」


 快適な異世界生活には魔剣士カゲヤとしての生活も含まれている。

 最悪、インヤとしての立場であれば捨ててしまってもまた別の場所で新しい立場を築けるが、カゲヤの方はそうもいかない。聖剣強奪、あるいは勇者殺しの罪科は、代わりに魔王を倒した最高位冒険者だったとしても拭えはしないだろう。


「まあ、他の冒険者名義もいくつか用意してあるから、インヤの立場も捨てることにはならないだろうけど……」


 鍛冶師冒険者イーヤ、薬師冒険者ヤニーなど、架空のパーティメンバーに罪をなすりつけることになるだろう。パーティの評判が下がるからできればしたくないが。


「……いや、『あのメンバーは実は犯罪者だった』とか言って先にパーティから脱退させておいて、それから勇者をやってしまえば……。うん、検討しておこう」


 計画表の横にもう一枚紙を用意し、今思いつく限りの勇者対策を箇条書きで書き連ねる。


・神聖魔法に対抗できるマジックアイテムを開発する。

・架空のパーティメンバーに罪を肩代わりさせる。

・聖剣を改造魔法で奪い、代わりに魔王を倒す。

・聖剣を殺して奪い、代わりに魔王を倒す。(できる限り蘇生させる)

・光弥を闇討ちできるマジックアイテムを開発する……etc.


「我ながらひどいな……」


 しかし、なりふりかまっていられない。


 勇者が召喚されたことはしばらくしたら大々的に公表して祝うらしいので、まだ光弥が旅に出るまで幾ばくかの時間があるし、それまでにできる限りの準備をしておこう。


 とりあえず、最低でも神聖魔法に対抗できるアイテムはすぐに開発しておくべきだろう。あいつが戦う度にパンチラを気にしなきゃいけない旅なぞ考えたくもない。





【同日・深夜】





 星王国の王城。星の名を冠するこの国の城であっても、夜の闇は等しい暗さで訪れる。


『勇者殿が魔王を討伐する必要はありません。私一人で十分です』

『勇者殿は本来この世界とは何の関わりもない人間のはずです。それを命がけの戦いに駆り出すなんて、決して許されることじゃないでしょう?』

『私がこの世界に訪れたのは偶然です。……帰る手段もありません。ですが、今なら勇者殿を送り返せる。魔王は必ず私が倒します。どんな手段を使っても、どれだけ非道にこの身を貶そうとも』


 異世界に魔王を倒す勇者として召喚された少年、鈴木光弥の脳裏には、ある少女の声が思い起こしていた。


「『異界の魔剣士』影耶カゲヤ、か……」


 格好いい称号だ。少なくとも、光弥にとっては『勇者』なんていうありきたりな響きより、影耶の二つ名の方がよっぽど魅力的に思えた。


 むしろ、一国の王に対して毅然とその行いを咎めんとする姿は、自分よりもよっぽど『勇者』に見えた。


「……可愛かったなあ……」


 凛とした表情、綺麗な黒の長髪、強い意志を宿した瞳……ここまでなら可愛いより美しいという形容の方が似合っているが、同じ年頃の少女に比べて少し低い身長や、彼女の制服が戦闘用の改造がされながらも全体のデザインが少女らしい……クールながら可愛らしいものになっていたことが、光弥の呟く言葉を決めた。


 そして何より――


「――きっと、笑うともっと可愛いんだろうな」


 つぶやきから一拍おいて、小さな苦笑を漏らす。


 これではまるで一目惚れだ。


 エイシアがあれほど好意を向けてくれているのに、それに応えず他の少女に目が映るというのは良くないだろう。


 それに、魔王を倒すというのに恋だ愛だなどと言っている暇などないはずだ。


 影耶に恋をするつもりは無い。だけど――


「ーー例え僕が倒れても、どうか影耶だけは――」


 夜の城にて、勇者は誓いを新たにする。

 高潔にして心優しい、あの悲劇の少女を、いつか必ず救って見せると。



「なんなのあのカゲヤって人! もーっ!」


 王城別室。エイシア巫女姫が両手を振り回して暴れていた。


「私のコウヤをいらないとか! 呼びつけるのはよくないとか! ……そんな女なのに、コウヤは一緒に帰りたいとか言っちゃうし!」


 エイシアは、コウヤと一緒に異世界への帰還についていくつもりだった。王に頼んで、魔王の心臓の全てを使い、二人分の異世界移動を行ってもらうつもりだったのだ。


「けど、あの状況じゃ何にもできなかった……」


 エイシアはぐったりとした顔で机に突っ伏す。

 このままでは、コウヤと一緒に異世界に行くことはできない。

 だが、カゲヤの帰還を取りやめてもらうのは無理だ。世界の希望である勇者の頼みと、ごくごく個人的な理由からの王女の頼み。どちらが優先されるかは考えるまでもない。


 エイシアは自分を無理矢理納得させる。


 ――だが、どうしても見過ごせないことがある。


 コウヤが、カゲヤを見た時の表情。

 あれを思い出すと心がざわつく。


 惚れた女の勘が訴えかけるのだ――コウヤが、カゲヤに恋心を抱いてもおかしくない、と。


 愛する勇者様が帰ってしまうのは仕方がない。

 だが、愛する勇者様を奪われ、自分の知らない場所(せかい)で二人が愛を紡いでいく、なんてことは絶対に許せない。


「絶対に、コウヤがカゲヤに惚れちゃうのだけは阻止しなきゃ……!」




 こうして、巫女姫エイシアは、カゲヤにとってはすごく助かる決意を抱くのだった。




 が、それが実を結ぶかはまた別のお話。

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