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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第三章 日常編
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迷宮にて 後編

 上層へと続く階段を登っていく。

 ……結構落ちてきたんだな。魔法無しでこんな高さを落ちてきたら普通死んでるぞ。もし捕らえるつもりで落としたんだとしたらトラップを仕掛けたやつは相当なアホだな。


 チラリと振り返ると、エイシアが息切れしつつ後ろを登ってきていた。


「よっと」

「あ――か、カゲヤ! さっき言ったでしょう、私のことは気にしなくていいって!」

「王女様に無理をさせるわけにはいきません」


 俺は権力にひれ伏す小市民だからな。いや、あんまり強権振るわれるようなら全力で逃げるけど。


 エイシアを負ぶさり、再度登る。……あれ、この王女様かなり身長低いのに結構おっぱいある。

 まあ、素の状態ならともかく、最高のおっぱいが少し下を向けばそこにあるカゲヤの姿でなら、この程度で戸惑ったりはしない。

 大きさも大事だが、それ以上に形とか質感とか触感とかそういうのって大事だと思う。作っている時、とかく大きさを重視するシエディアとはなかなか相容れなかったが、どうにか双方納得する出来に仕上げた。

 ……できることなら普通に揉みたかった。自分で揉むと揉み心地以上に揉まれ心地が気になって集中できないのだ。こうなると知っていたらこんなに敏感にしなかったのに……触ったら最高の感触なのは間違いない。


 しばらくいくと、少し大きめの広間に出る。それと同時に「ヴァンヴァン」という犬の鳴き声が聞こえてきた。


「モンスター……!?」

「いえ、これは……ミニフェルス!」

「ヴォウ!」


 俺たちの匂いを辿ってきたのだろう。主人とは違い、よくできたわんこである。いや、狼か。


「エイシア様、私の胸ポケットにジャーキーが入っているので、フェルスにあげてください」

「あ、はい……。……!?」

「……あの、エイシア様?」

「な、何でもありません!」


 何故かエイシアが胸ポケットに手を入れた瞬間硬直するも、すぐに気を取り直してフェルスへ手渡す。


 ここではまだ魔法が封じられており、アイテムボックスを使えない。念の為、胸ポケットにもジャーキーを入れておいてよかった。けどこの胸ポケット、ちょっと布地が薄いんだよな。


 そこでミニフェルスが一つの石を咥えていることに気づく。


「ん? ……もしかして、魔力結晶か?」

「ヴォゥ」


 魔力結晶は大型モンスターと、大きなダンジョンの中に生成される。見つけてきてくれたのはありがたいが、迷宮の壁は魔力を纏っているため、《地形改造》を行うのは難しい。

 できないことはないが、もう少し魔力結晶の数がいるだろう。


「コウヤとアングはついてきていないんですか?」

「ヴォーン」

「……敵を倒しにいった、であってるか?」

「ヴァウ」


 敵……ダンジョンのボスとか?


 光弥なら心配はないだろうが、一応合流しておこう。先程のような魔法封じのエリアがあると危ないかもしれない。


 確か、昔存在したと言われたボスはドラゴンだったっけ。魔法が使えないといささか面倒な相手――


「……ん? なんだこの振動……?」

「あ――か、カゲヤ、左から来ます!」


 何が、と聞いている余裕はなかった。


 光とともに変形する壁を見た俺は、エイシアを背負ったまま、フェルスを片手で抱えて飛びずさる。


 現れたのは、一体の蒼い龍。

 もはや測り知ることもできない遠大な歴史を感じさせる風格。

 全てを見通すかのような老成した瞳。

 しかし決して衰えという言葉を感じさせない強靭な四肢。

 その身に纏う練り上げられた魔力……!


「ここにいたか。まさか魔法を封印された状況から脱出するとはの」


 重々しく響く声。魔王に匹敵……否、上回るほどの威圧に、俺の身体が震える。


「何をしに、来た」

「うん? 見た感じ、お主は騎士で、そっちの背負われてるのが姫じゃな。であれば、さっさとその姫を渡せ。ワシの――龍王スペクルの、可愛い孫のために」


 龍王。蒼い龍。魔王を上回る威圧。孫。


「(エイシア様、まさかこのドラゴン……!)」

「(間違いありません、魔王の祖父です!)」

「何をひそひそと話しておる?」

「……ッ、私を連れていって、何をしようと言うのですか!」

「決まっておるじゃろう。我が孫と、『死に至るその時まで、いかに傷つこうとも決して絶えぬ契り』を結んでもらう」

「な……!」


 もはや、その言葉だけでおぞましい契約だとわかる。呪いか何かであることは間違いないだろう。


 俺は、青ざめるエイシアを下ろし、前に出た。


 魔法は使えないが、こんな恐ろしい風貌をしたドラゴンにエイシアを渡すわけにはいかない。

 キャラとか立場とかの話ではない。一人の人間として、大人として、男として――未来ある少女を、見捨てることなんてできるわけがない。


「……なんじゃ、騎士の娘?」

「そうはさせない。王女様は――エイシアは、私が守る」

「無理です、カゲヤ! まだ魔法は……!」

「ほう? 姫は誰にも渡さぬと?」

「ああ、彼女は幸せにならなきゃいけない」

「――!」

「はは、それなら安心するがいい、悪いようにはせん。ま、多少は苦しむことになるかもしれんが……すぐに慣れるじゃろうよ」


 ――もはや腹は決まった。


 刀を抜いて、ドラゴン――龍王へと走る。


「なんじゃ、そんなに嫌か? ならばお主も一緒に向かい入れてもらうか……? 二人となるとそれなりに難しいこともあるかもしれんが……」


 言葉を無視し、刀を叩きつけ――


「《床変形・柱》」


 ガキン、と床から飛び出した柱に受け止められた。


「無駄じゃ、ここが迷宮である以上、いかな存在でも絶対に……いや、基本的にワシには勝てん」

「……知ったことか!」


 とび上がり、刀を振り下ろす。

 空中であれば床や壁の変形は来ないはず――!


「生け捕りは苦手なんじゃが……《罠設置・機械弓/麻痺矢》」


 音もなく、龍王の足元に数十丁のクロスボウが現れ――一斉に、発射された。


 咄嗟に扇を開いて身を守る。だが、矢の一本が俺の脚を掠めた。


「ぐ……!」

「終わりじゃ。その矢の毒は全身を麻痺させ、動けなく――うおお!? 何故動ける!?」


 (カゲヤ)の身体は強い毒性への耐性がある。この程度で動けなくなったりはしない。


 龍王へ剣を振るうが、見た目に似合わぬ軽やかな動きで回避される。


 低い姿勢で疾走しつつ、こちらに放たれる矢を避けていく。

 矢を切り払い、床から飛び出す柱を避け、少し前にシエディアから教わった残像移動で龍王を惑わす。


 苛立たしそうな顔をした龍王が、魔力を纏った前足を地面に叩きつける。


「ええい、面倒じゃな……《罠設置・衝撃床》!」

「がはっ!?」

「あ、いかん……だ、大丈夫か!? 死んどらんよな!?」


 突如として全身に凄まじい衝撃が響き、上へとはねあげられる。意識が朦朧とし、龍王の声も明瞭に聞こえない。


 ふらつきつつも、壁に手をついて立ち上がる。涙が滲むが、懸命にこらえる。


「お、おお! よかっ――」

「《地形改造》……!」

「眩しっ! な、なんじゃこれ!? 何故ここで魔法が使える!?」


 矢を避けつつ拾い集めた魔力結晶を使い、魔力にものを言わせたゴリ押しで、改造魔法を発動させる。

 これほどの大迷宮だ、少し探せばそこらに魔力結晶が落ちていた。もはや、この部屋は俺の制御下にある。魔法の封印も通用しない。


「撃て!」

「うお!? なぜじゃ、何故ワシを撃つんじゃ迷宮!」


 俊敏な動きで龍王は矢を回避するが、徐々に壁際へと追い詰められる。


「馬鹿な、壁変形も使えん……!」


 そして、俺は必殺の一刀に魔力を込める。


 黒い稲妻が刀を収めた鞘へと蓄積されていく。

 鞘の内部に溜まった魔力は刀を神速で抜き放つための圧力となり、同時に敵を消し飛ばすための刀身と化す。


「《双魔一刀・黒龍剣》……!」

「ひ、ひぃ!? ちょっと待つんじゃ、すまん、ほんとワシが悪かった!」

「――《隻聖一刀・白龍剣》!」


 轟音が響き、俺の放った黒い一撃が、駆け寄ってきた光弥の白い一撃に相殺された。


 ペタリとへたり込んだ龍王が、泣きながら光弥へと抱きつく。サイズ差によって、ほとんど光弥が持ち上げられている形だ。


「うぉぉぉ! 助かったコウヤ、さすがワシの孫じゃぁ!」

「いやだから、孫じゃないですって、おじいさん! あんなに無理矢理連れてくるのはやめてほしいって言ったじゃないですか!」

「だって、若者のあんなラブロマンス聞いたらジジイとしては応援したくなるじゃろ! ちょっと強引に姫とくっつけさせようと思って――」



 龍王スペクルとあった光弥は、最初は戦闘に発展しそうになったものの、ギリギリで話し合いに移行し、すぐに和解したらしい。


 そして、光弥がこの世界に来てからの一連の流れを聞いた龍王は、光弥に好きな相手と結婚させてやろうと思い、光弥が止めるのも無視して俺たち二人のところへやってきたそうだ。

 『死に至るその時まで、いかに傷つこうとも決して絶えぬ契り』というのはつまりそういうことだったのである。もうわざとやってるのかと言いたくなるぐらい誤解されそうな言い回しだ。……いや、顔が怖いからって先入観を持ってしまった俺たちにも非があるが。


「なんじゃ、コウヤはカゲヤちゃんの方が好きだったのか。勇者というのは姫とくっつくもんだとばかり」

「確かに好きですけど……別に結婚しようとか考えてるわけじゃ……」

「何を言う、ヒトの一生は短いんじゃから、さっさと行動せんとすぐに終わってしまうぞ」


 ……うん、まあ、何も言うまい。

 どうせ龍王は迷宮の中から出れないそうだし、光弥を帰すための邪魔が入ることもないだろう。


 しかし、あの短時間で初対面の相手をここまで絆すとは……やはり光弥の人たらしの才能は凄まじい。今回は人じゃなくて龍だけど。


「いやホントすまんの、カゲヤちゃん……」

「いえいえ、いいんですよ! 気にしないでください!」


 お詫びとして大量の魔法素材や鉱石を貰った俺は、満面の笑みでアイテムボックスに素材を詰め込んでいく。

 これだけあれば魔王対策も万全だ。今度こそちゃんとしたホムンクルスを作ってもいいな……。


「……けど、それだと微妙に足りないか。龍王様、これとこれとこれ、あと三倍ぐらい貰えませんか? あ、あとブラックミスリルも一抱えほど……」

「国でも買う気かの……? 以前なら渡せなくもなかったんじゃが、ワシが眠っている間に結構な素材が持ち去られてしまったみたいでな……生産は再開しておくから、暇があれば遊びに来てくれ」

「ホントですか!? ありがとうございます!」


 龍王に迷宮へ転移するための魔法陣の写しをもらって、大事に保管する。


 喜んでいる俺とは反対に、光弥たちは暗い顔だ。


 ……確かに、魔王に取り込まれた星幽剣に先代勇者が成長させた力が封印されたまま、というのはあまり良い情報じゃない。

 魔王が復活した後も力が封印されたままならいいが、もし魔王が力の全てを自分のものにしてしまっていれば、光弥でも勝てない可能性だってある。


 だがまあ、これだけの魔法素材があれば魔王さえ一撃で倒すようなアイテムも作れるだろうし……今回思いついたことだってある。


 アイデアを頭の中で反芻させている俺に、未練がましく龍王が問いかけてくる。


「カゲヤちゃんの方は、コウヤとくっつく気はないのかの?」

「ないです。光弥はエイシア様と一緒に――」

「いえ、カゲヤはコウヤと一緒になるべきです」

「ぶっ……!?」


 むせた。


 ゲホゲホと咳き込みつつ、エイシアに向き直る。

 光弥も驚いた顔でエイシアの方を見ていた。

 そりゃそうだ、今までずっと光弥に好意を向けまくっていたのに、一体どういう心変わりなのか。


「な、何言ってるんですか、私よりエイシア様の方が光弥だって――」

「いいえ! カゲヤのような、誰かの幸せを心から願える人なら、きっと私よりコウヤを幸せにできるはずです!」

「いや、その……」


 あれか。さっきの戦闘で好感度稼いじゃったとかそういう感じか?


「けどほら、エイシア様は光弥のことが好きなんでしょう?」

「でも、コウヤもカゲヤのことを誰よりも幸せにしてくれるはずです! ですよね、コウヤ!?」

「え……あ、ああ!」


 ああ! じゃない。流されるな光弥。

 それを見ていた龍王が、光弥の耳元でポツリと呟く。


「……なんかエイシアちゃんもめっちゃいい子じゃし、もう両方貰ってしまえばいいんじゃないかの?」

「……! なるほど、その手がありましたね!」

「え、エイシア!?」

「落ち着いてくださいエイシア様! ミニフェルス、頭冷やして! ほら、光弥、アング、帰るぞ!」


 龍王に見送られ、俺たちは迷宮を出ていった。



 静まり返った迷宮で、龍王は天井を見上げる。


「……みんないい子じゃったの。魔王を倒すためにも頑張らんといかんな……。とりあえず、魔王の復活に備えて簡易的な魔力探知機を作っておくか」


 そうやって迷宮の調整をしていた龍王の後ろで、カゲヤに写しを渡した転移魔法陣が青く輝く。


「ん? なんじゃ、もう来たのか――。――!?」


 鳴り響く警報アラート。それは、ついさきほど作った魔力探知機から発せられていた。


 凄まじい魔力反応に探知機が故障する。

 ――これほどの魔力を持つ存在など、龍王には一つしか思い浮かばない。


「《罠設置・転移妨害》!」


 とっさに転移を妨害するためのトラップを張る。だが、侵入者をそれを無視して、魔力で妨害を突き破ってくる。


「この姿で会うのは初めてだな、龍王スペクル」

「っ――!」


 現れた青黒い色を持つ化物に、龍王は全力で罠を、壁を、柱を、矢を、衝撃を、炎を、雷を、光を放ち――














 ――その日、竜公国から一つの迷宮が消えた。

次話に日常編のエピローグを挟んで、最終章「魔王編」に続きます。


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