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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第三章 日常編
38/49

迷宮にて 前編

 アイテムボックス二百個をミニフェルスに乗っける。


「よし、スタンダップ!」

「ヴォ……」

「無理じゃない! お前ならいけるミニフェルス! ちっちゃくなってるとはいえ魔獣だろ?!」

「インヤさん、動物虐待にしか見えないからやめて」

「ごめん」


 アイテムボックスの容量には制限があるし、アイテムボックスはアイテムボックスの中に入れられない。


 なので、魔獣であるフェルスに運ばせようと思ったのだが……流石に子犬サイズだと無理か。かと言って通常状態だと目立ちすぎる。それに一度光弥たちに見られてるし。


 俺はフェルスからアイテムボックスを下ろし、お詫びにキマイラ肉ジャーキーを与えつつ頭を撫でる。


「しかし、どうするかな。荷物持ち用ゴーレムでも作るか?」

「そもそもこんなにいる?」

「……五十個ぐらいでよかったかな?」

「十個もあれば十分よ」

「も、もう十個ほど……」

「我慢しなさい。お金持ってるくせに貧乏人根性出し過ぎ」

「うぐ……」


 一応世界の命運を握る勇者の装備を作ったりするんだぞ、と言おうと思ったがそれこそ一個あれば十分なので口を噤む。

 仕方なくフェルスにアイテムボックスのついたポーチを十個だけ取り付けた。

 見た目は少し重そうだが、これなら大丈夫だろう。


「シエディアは留守番……でいいのか?」

「うん、この間撮ったカゲヤちゃんの写真を整理しなきゃだし」

「この間? 最近写真撮ったことなんてあったっけ?」

「さーて、持ち物確認でもしておこっかなー」


 露骨に話題を逸らすシエディア。おい、いつ撮った。記憶がないぞ。

 はぐらかされた俺はため息をつきつつ、彼女に一個のロケットペンダントを手渡した。


「? インヤさん、何これ?」

「今回はフェルスも連れていくし、魔王用兵器も一応持ってくから、代わりに渡しておこうと思って」

「……開けてみると中に魔力を纏ったお酒が……」

「意趣返しとかじゃないから! 魔界の素材で作った致命傷を肩代わりするペンダント。あ、一個しか用意できなかったし、肌身離さずつけておかないと効果ないからな」

「けど私、死んでも魔界に帰るだけなんだけど。高位魔人だから」

「いやそれ初耳なんだが」

「転移妨害とか張られてない限りは死なないから安心して」


 話しつつ、普段使いのアイテムボックスに装備や道具、非常食を詰め込んでいく。

 できれば素材のために容量を開けておきたいが、ここで欲張ると多分あまりいいことにならない。


 しかし、楽しみだ。どれぐらいの素材が採れるだろうか。魔王並に強いモンスターもいたり……いや、流石にそれはないか。



 翌日。

 カゲヤに変身し、龍巫女服コスチュームを纏った俺は、フェルスを連れてギルドへと赴いた。


 各国に転移できるアイテム、転移護符(テレポーター)の技術は冒険者ギルド(と俺)が独占している。

 作るための材料が貴重で製作期間が長く、使用条件・使用制限などもあり、加えて転移先の国の許可を得てから作らなければいけなかったりするので、そう簡単に入手することは出来ない。いやまあ俺がそういう風にしたんだけど。


 王女であるエイシアでも世界的な組織であるギルドへ強権を振るうことは難しい。勇者パーティを魔王討伐までの臨時的なⅤランクパーティにして、転移護符をギルドから受け取るそうだ。


 ギルドに入ると、アングが先に着いていた。


「アング、もう来てたのか」

「ダンジョンに行くとなると、戦闘以外の用意も必要ですから。俺はそこまで戦闘力が高いってわけじゃないんで、色々準備をしてるんですよ」

「……相変わらず頼りになるな。よければ何か労ってやりたいんだが……」

「じゃあ俺の顔を踏ん――いえ、その言葉だけで十分ですぜ」


 聞こえなかったことにしておこう。


 その後やってきた光弥達と共に、竜公国へと転移した。

 竜公国の町並みを眺めつつ、大迷宮の入り口へと歩いていく。


「……事前に聞いていた話ほど、和風な雰囲気じゃないな」

「けど、影耶の今日の装備はすごく似合ってるよ」

「そうか、ありがとう」

「こ、コウヤ! 私もワフク買ってきます!」

「いや、今から迷宮に行くんだし……」


 イチャイチャし始めた二人から離れ、アングと今日の予定を確認しつつ、他愛のない雑談を挟む。


「そういえばカゲヤさん、その子犬は従魔か何かですかい?」

「シエディアに借りた魔獣だ。探索を手伝ってもらおうと思ってな。……あ、借りたのは昔の話だぞ、うん」

「ああ、シエディアさんの……。カゲヤさんは、彼女が魔人だってことに気づいて?」

「あー……んー、薄々感づいてはいた。一応恩があるし、悪い人ではなかったから、詳しく聞くことはしなかったが」


 適当にこの場で考えた設定を口にする。……後で矛盾が出るかもしれないが、それはその時考えよう。


 俺の適当な話を聞いたアングが、悲しげな顔で呟く。


「その……お母さんのことは、残念でした」

「え? いや、その、えーっと……大丈夫だ、あの人のことだから、どこかで元気にしてるよ」

「ですが、魔王城の跡地は一つの大都市に匹敵するほどの面積が吹き飛んで……」


 ……高位魔人が死んでも魔界に帰るだけ、というのはあまり広まっていない知識なのだろうか。


 なんだか微妙な雰囲気になりつつも、大迷宮に到着した。



 防備を固めていた龍王スペクルは、入り口の魔力感知アイテムが強大な魔力源を感知したことを知り、顔を上げる。


「この莫大な魔力……ついに魔王が来たか。竜公国を攻めずに直接迷宮に来るとはどういうつもりじゃ? それに、何か以前と魔力の質が違う気もするが……まあよいか」


 龍王スペクルは、迷宮内においておよそ無敵と呼べる存在である。いかに魔王であったとしても、迷宮で戦う限り負ける気はしなかった。


「しかし、魔力がかつての数倍以上に増加しておるな……もはや正確な総量がわからん。……星幽剣の効果か? 下手に手を出すのは危険じゃな。ひとまずは様子見といこう」


 龍王は迷宮に命じ、侵入者にモンスター達を差し向けた。



 俺は剣を振るい、モンスター達を切り裂いていく。


「大漁だ! 大漁だぞ、アング!」

「いや、喜んでる場合じゃないですよ! 事前の情報じゃ、これほどのモンスターはいなかったはず……!」


 しかもこいつら、何故か逃げずに俺に向かってくるのだ。素材集めが捗る。

 フェルスに素材を回収させながら、迷宮内を突き進んでいく。


「《双魔一刀・黒龍剣》! 《宵薙ぎの風》! ほら、光弥、何してるんだ、早く行くぞ!」

「……もう影耶一人でいいんじゃないかな?」


 冥刀『千鳥』と、魔法の扇『夜風』を振るい、素材を刈り取っていく。

 迷宮の壁は頑丈なので、あまり力をセーブする必要もない。いつもより羽目を外しつつ、俺は最深部へと進んでいった。



 龍王スペクルは、モンスターからの報告を聞いて、目をぱちくりと瞬かせた。


「やってきているのは人間じゃと? しかし、これほどの魔力……うーむ、どうしたものか……とりあえずはモンスターを撤退させておこう」


 龍王は迷宮を経由してモンスター達に指示を出しつつ、監視装置を設置して侵入者の姿を見ることにした。

 四足でしゃがみこみ、小さな水晶玉を半目で除く。


『逃がすか! 王女様、星魔法であいつらを引っ張ってください!』

『カゲヤ! いい加減にしなさい、私たちは星幽剣を調べに――』

『素材が一杯あれば僕たちも助かると思うし、たまにはエイシアが戦ってるところも見たいな』

『《天秤座(リヴ)の分銅》ッ!! さあカゲヤ、いきますよ!』


 逃げるモンスターを拘束し、殲滅していく少女達を見ながら龍王は戦慄した。


「なんじゃあれ……今時の人間の乙女って愛らしい顔して結構怖いんじゃな……」


 呟きつつ、一緒に入ってきた二人の男を見る。


「ふむ、アレは勇者か……? もしや魔力の発生源はこやつかの? ……隣の男は頭が良さそうじゃし、こやつら二人と話をしてみるか」


 龍王は迷宮を操作し、少女達を分断して、勇者達のみをこちらに来させることに決めた。



 ガコン! と大きな音がして、足元に大穴が空いた。


「え?」

「な――影耶! エイシア!」


 まるで床そのものが変形したかのような唐突な出現だった。夢中になっていた俺は、エイシアと一緒に地下へ落ちていく。

 俺たちが落ちると同時に穴が閉じ、手を伸ばそうとした光弥の姿が見えなくなる。


「きゃあああっ!?」

「っ――王女様!」


 足元に結界を生み出し、足場にすることで中空を跳ぶ。

 エイシアを抱きかかえた俺は、そのままもう一度結界を蹴り、上へと跳び上がった。このまま結界でジャンプを繰り返して天井へ――


 ――瞬間、結界が消えた。


「な……!?」


 もう一度生み出そうとするが、作る度に魔力が霧散し形をなさない。


「嘘だろう……!?」

「カゲヤ、魔法が使えません……!」

「……大丈夫です! しっかり捕まって!」

「は、はい!」


 魔法の扇、夜風の機械式ギミックを作動させ、折りたたまれていた部分を展開し、全力で振るった。

 魔力は霧散するが、カゲヤの腕力であれば扇を振るうだけでも強烈な風が発生する。


 反動で水平方向に飛び、勢いをつけて刀を壁に突き立てる。


「ぐ……!」


 迷宮の強固な壁にはほとんど刀身が刺さらない。しかし、渾身の力を使ってなんとかスピードを落としていく。


 どうにか無傷のまま、地面へと降りることに成功した。



 少女達を分断した龍王は、勇者のいる場所に、自身へと続く近道の通路を作り出す。


「よし、これでいいじゃろう。封星剣ウィルドカルドの残骸で魔法は封じておいたし、邪魔は入らんはずじゃ。……ん? おお、もう来たのか」


 猛スピードで駆け寄ってくる勇者に向けて、歓迎の言葉をかける龍王。


「よく来たの、今代の勇者よ。お主のような強い力を持つ者が勇者とは心強――」

「影耶とエイシアを、返せ……ッ!」

「む!? 待つんじゃ勇者! なんかこれ先代と同じパターンなんじゃけど!」



 何度も壁を切りつけるが、わずかに抉ることしかできない。


「駄目か……」


 エイシアの方を振り返るが、かなり不安そうにしている。……まあ、魔法以外は普通の女の子だもんな。魔法が封じられれば不安になるのも仕方ない。素だと魔法以外一般人な俺が言うのも何だが。


「安心してください、すぐになんとかします」

「べ、別に不安になんてなってません!」


 強がってはいるが、どう見ても不安そうだ。年長者として、平然とした態度でいるべきだろう。


「とりあえず出口がないか探しましょうか」

「そう、ですね……」


 隠し扉でもないかと、壁を触りながら探っていく。……落とし穴の先にそんなものがあるとは思えないが。


「……あの」

「どうしました?」

「カゲヤは――コウヤのことが好きなんですか?」


 なんでこのタイミングで恋バナしてきたんだこの子。

 ……まあいいか。せっかくだし、この機会に誤解や疑念を払拭しておこう。


「好きではないですが……良い奴だと思いますよ。エイシア様が惚れるのもわかります」

「惚れ――た、確かにそうですけど……。でも、私じゃコウヤと一緒に帰ることはできません。……最初から、叶わない恋なんです」

「いいじゃないですか、一緒にあっちの世界に行っても。色々大変だと思いますけど、光弥ならきっと貴女のことを守り抜いて、幸せにしてくれます」

「な――何言ってるんですか! それじゃ、カゲヤが……それに、コウヤは私より、あなたの方が……」


 暗い顔で、俯きながらエイシアがポツリと呟く。……いやもうなんか色々申し訳ないな。


「……まあ、確かにそんなことを言ってはいましたが、きっとちょっとした勘違いですよ。エイシア様の方が、私よりずっと女の子らしくて素敵です」

「す、素敵って……。けど、カゲヤだって、元の世界に……」

「もう家族は死んでます。家も、とっくになくなってるんでしょうね」

「え――?」


 両親が死んだ後、就職に忙しくてその辺の手続きする前に異世界(こっち)に来てしまっていたんだが、俺の扱いとかどうなってるんだろうな。行方不明者?


「まあ、私と帰るより、エイシア様と帰った方が、光弥もきっと幸せになれますよ」

「でも、それじゃ……!」


 しかし、ここはそれほど大きな部屋というわけでもない。すぐに調べ終わってしまうが、当然出口などなかった。……仕方ないか。


「エイシア様、少し目を瞑ってください」

「え……? な、何を……」

「いいから」

「――っ!」


 エイシアをこちらに振り向かせ、壁に手をつく。


「だ、ダメです、カゲヤ……!」

「……? 何の話ですか?」

「へ?」

「ほら、壁に穴ができましたし、行きましょう」

「え? あ、あれ?」


 困惑するエイシア。まあ、急に壁に通路ができたらびっくりするよな。


 魔力のゴリ押しで壁を改造するところを見られると色々めんどくさそうなので、少し目を逸らしてもらったのだ。


「おかしいです、壁にドンって……あれ……?」


 何故か顔を赤くして不思議そうな顔をするエイシアを連れて、俺は上の階への階段を探すのだった。

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