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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第三章 日常編
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王城にて

 イティーが言うには、エイシアが探っていた文献に魔王についての情報があったので、話をするために王城に来てほしいとのことだった。


「私に話、ですか?」

「はい。星王国の機密に関わることなので、この場で詳しい話はできませんが……」


 と言いながら、イティーはシエディアの方を一瞥する。


「あの、私はあの場にいなかったのでよく知りませんが……。どうして崩改の魔人シエディアがカゲヤさん――いえ、カゲヤさんたち姉妹と一緒にいるんですか? 以前、義理の母というようなことを言っていましたが……一体どういう関係が……」

「えーっと、まあ、色々複雑な事情があるんです」


 ……うん。それはもう複雑な事情があるのだ。


 聞いても無駄だと思ったのか、仕方なさそうな顔をしてイティーが立ち上がる。


「わかりました、詳しくは聞きません。……王国の敵ではないのですよね?」

「ええ、それは間違いなく。この人は毎日ゴロゴロしてたいだけの暇人です」

「ちょっとカゲヤちゃん」


 何か言いたそうな顔のシエディアを尻目に、イティーと共に王城へ向かった。



 王城の一室に、光弥、エイシア、アングの三人が集まっていた。


「エイシア様、カゲヤさんを連れてきました」

「ありがとうございます、イティー。……よくカゲヤの居場所を知っていましたね」

「ええ、伝手があったもので」


 しれっとしたクールフェイスで誤魔化すイティー。


「(あの、イティーさん。私が言うのも何ですが、インヤ――兄さんのことを隠して大丈夫なんですか? 星王国に仕えるメイドなのに……)」

「(もしコウヤ様でも対処できないような危機が迫れば、その時この国を救えるのはきっとインヤさんだけです。星王国のことを思うなら、彼の不利益になることはできません)」


 やだなもう、急にそんなこと言われたら照れちゃうだろ。……プレッシャーでお腹痛くなってきた。


「カゲヤ、座ってください。今から重要な話をします」

「あ、はい」


 エイシアに促され、着席する。イティーは一礼し、部屋から出ていった。

 ……重要な話か。魔王城も消し飛んだのに、まだ何かあるのだろうか。ああ、そういえば魔王が強くなって復活するから、その対策かな? 光弥がこのまま強くなってけば余裕な気がするけども。


 一冊の古びた本を取り出しながら、エイシアが話を始めた。


「短い期間でしたが、何とか魔王が言ったことの裏づけとなる情報を確認できました」


 過去の情報を集める、というのがどれほど大変なのか俺には伺い知れない。

 だが、星王国を揺るがすような衝撃の事実と、魔王城があまりに突拍子もない手段で消滅したことの対応を行いながらの情報収集はかなりの重労働だったのだろう。エイシアの目にクマが出来ているように見える。


 なんか俺だけ遊んでてごめんなさい、と思わなくもない。いや、別に遊んでただけじゃないし。ちゃんと喫茶店とか子供たちとか大陸とか救ったし。


「新たにわかったこととしては――」


 そこから続くエイシアの難しい話をぼんやりと聞く。

 正直こんなの専門の学者じゃないとわからな――あれ、光弥もアングもなんかふむふむって顔してるぞ。やばい、もうちょっと真剣に聞いておくか……、カゲヤちゃんが脳筋だと思われる……。


「――ですが、それはおかしいんです。これまでの情報を踏まえると、どうしても矛盾が出てくる……」

「ふむ、なるほど。そういうわけですか」

「確かに、エイシアの言う通りだ」


 何が? ちょっと待って、全然ついていけないんだけど。

 鍛えた演技力でクールフェイスを保っているが、内心で汗がやばい。


「そう、魔王が力を得ようとするなら、コウヤに遮断要石を壊させる必要なんてないんです。――先代勇者が強化してしまった星幽剣を食らえばいいだけなのですから」


 あ、なるほどそういう話だったのか。おっけーおっけー。

 確かにそうだよな。契約が切れれば剣が奪った能力は失われるが、成長した力はそのまま受け継がれる。

 魔王が復活直後に、いの一番に聖剣を求めて星王国を襲ってきていてもおかしくはなかったはずだ。


「結論として……星幽剣は、もう一本あったのではないかと、そう思うんです」

「そして、先代勇者が使っていた星幽剣だと思われるのが、さっきエイシアが話してた、竜公国ジョルカーの大迷宮にある剣だね」

「大迷宮のことは俺も聞いたことがありますが、最深部に封じられている剣が、まさか星幽剣だったとはなぁ……」

「あくまで憶測ですが、可能性は高いと思います」


 さっきそういう話してたんだ。全然聞いてなかった。


「ギリギリまで魔法契約をしないように注意しなければいけませんが、成長しきった星幽剣があれば、復活した魔王を倒すことも容易でしょう」

「(そんなのなくても私が作るのに……)」

「影耶?」

「いや何も」


 まあ、今は魔法素材の在庫が少ないから、あんまり高性能な剣を作るのは厳しいのだが……。ああ、重ね重ね魔王軍(そざい)を消し飛ばしてしまったのが惜しい。

 どっかに大量の魔法素材でもあればいいのに。


「それに、竜公国の迷宮は貴重な魔法素材や鉱石が大量にあるそうですし、剣以外の装備を強化することもできるはずです」



 椅子の倒れる音が部屋に響いた。


「……どうしたの、影耶?」

「い、いや……それであの、私たちは今からその迷宮にそざ――じゃなくて、先代勇者の星幽剣を取りに行くんですよね?」


 勢いよく立ち上がった影耶が、期待に満ちた目でエイシアを見る。今まで見たこともないぐらいに顔を輝かせていた。

 もし魔王に対して使っていた「ビーストモード」の状態だったなら、勢いよく尻尾を振り回していそうだ。


「いえ、まずは調査するだけです。それに準備などもあるので、出発は一ヶ月後ですよ」

「えっ――そ、そうですか……」


 しゅん、とした顔で椅子を戻して座り直す影耶。その姿に、つい、犬が耳をへたれさせる姿を幻視して、微笑みを浮かべてしまう。


 視線に気づいた彼女が僕の方を見た瞬間、顔を真っ赤にし、腕を組んでそっぽを向いた。……怒らせてしまっただろうか。


「それに今回、カゲヤが同行する必要はありません。大迷宮には私とコウヤだけで向かいます」

「え? じゃあ、なんで王城に……」

「コウヤが不在の間、アングと共に星王国の防衛についてもらおうかと」

「防衛って……もう魔王軍は消滅したでしょう?」

「だからといって、危険がなくなったと判断するのは早計です。あの隕石が人やモンスターの手によるものだとは思えませんが……。もしあれを引き起こせるほどの存在がいたとすれば、それはきっと魔王を上回る極大の災厄です」


 一瞬、わずかに影耶が顔を引きつらせた。……まさか、何か知っているのだろうか。


「で、でも……光弥と王女様だけだと危ないんじゃ……」

「心配ありません。大迷宮は活動の止まったダンジョンで、最深部の到達者も何人か出ています。今のコウヤなら、単独でも調査に行くぐらい簡単です」

「あれ? それなら王女様がついていく必要はないと思うんですが」

「さ、流石に万が一があるかもしれないじゃないですか!」


 エイシアが顔を赤らめて反論する。

 確かに僕も今は重要人物だけど、エイシアだって王女なんだし、あんまり危ないことをするべきではないと思うのだが……。


 それを聞いた影耶が小さくため息をつきながら、僕の方へ近寄り、くいくいと――いや、ぐいぐいと袖を引く。

 久しぶりに近くで見る彼女の顔と、上目遣いでこちらを伺う姿に、少しドキリとした。


「なあ、光弥も私がついてきたほうが心強いだろ、な?」

「う、うん。僕は――」

「だ、ダメですよカゲヤ! 最近忙しくて全然光弥と二人きりになれなかったのに――あっ」

「え? エイシア、何か言った?」

「おい光弥、今の聞こえてないって大丈夫か……?」


 影耶が戦慄した表情でこちらを見る。影耶のことが気になってしまって集中できなかったのだが……何か大事なことを言っていたんだろうか?


 エイシアが僕から影耶を引き離し、断固として宣言する。


「とにかく! カゲヤは待機していてください、もし事情が変わったら呼びますから!」

「……はい」


 とぼとぼと部屋を出ていく影耶。

 久しぶりに会ったのに、あまり会話ができなかったことに寂しさを覚えつつも、僕はそれを見送った。


「けど、本当によかったのかな、エイシア」

「大丈夫です。確かに数百年前は、ドラゴンが君臨する世界有数の高難易度ダンジョンだったという話も聞きますけど……現在は迷宮そのものに強力な封印がかかっていますし」

「でも、何かの弾みで封印が解けることだってあるんじゃ?」

「いえ、誰が施したのかはわかりませんが、封印は魔王でさえ壊せないほど強固です。竜公国の近くで魔王すら超える魔力が放出されるようなことでもない限りは問題ありませんよ」

「へえ、それなら安心だね」



 インヤと魔王核の、魔王すら超える大魔力の激突により、大迷宮の封印の要――封星剣ウィルドカルドが密かに砕け散る。


 それと同時に、竜公国の地下、迷宮の心臓部にて、一体の老いたドラゴンが目を覚ました。


 彼の名は龍王スペクル。竜公国ジョルカーの守護神として伝わる、魔王に伍する力を持った伝説のドラゴンだ。


 今は伝説に名が残るのみではあるが、かつては魔王から竜公国を護るため、自身が誇る大迷宮を以て死力を尽くし戦った。


「……ここは……ワシの迷宮? 一体、何百年経った……? そうじゃ、ワシは確か……」


 数百年の眠りから覚めたスペクルは、少しづつ記憶を掘り起こしていく。


「……そう、ワシは、数百年後復活する魔王に備えるため、勇者が持つ星幽剣に封印を施したはずじゃった……」


 不老であるスペクルにとって、数百年など僅かな年月に過ぎない。遮断要石を壊し、成長した星幽剣を危険視したスペクルは、封星剣ウィルドカルドを媒介に、自身と迷宮さえも巻き込む強大な封印魔法を発動させたのだ。


 そのまま星幽剣は二度と使えなくなるはずだったのだが……誤解によって先代勇者と戦闘に入ってしまい、傷を負ったスペクルでは、不完全な封印しか施すことはできなかった。


「この、封星剣を砕き、ワシを目覚めさせた強力な空間魔法の魔力波動……そうか、魔王と星幽剣の同化を止めることはできんかったか……。……何か、別の魔力も混じっとるが、まあよいか」


 長い時を生きたスペクルは、細かいことに頓着しない傾向があった。味方サイドであるはずの先代勇者と戦闘に入ってしまったのもそのためである。


「一刻も早く、防備を固めねばならん。――迷宮に命じる。モンスターを大量に生み出し、迷宮内に配備せよ! 竜公国を護るぞ!」

溢れ出るポンコツ臭……。

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