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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第二章 攻略編
25/49

最終的にどうなるかというと

 絶対俺の思い通りにはいかないだろうな、と思っていたが、まさか魔王が出張してくるとは流石に予想できなかった。

 ……確かにさっき、ここに来れるのは魔王ぐらい、とか話してたけど、まさかアレがフラグだったなんて誰も思わないだろ。

 勇者こうや視点で考えると鬼畜難易度のクソゲーもいいところだな。俺という存在も含めて。


「い、いやいやシエディア殿、こんなところに魔王が――」

「黙っていろ、魔術師。余の発言に割り込むな」


 魔王サニウスが、アングに向けて煩わしそうに手を振る。


 あまりにも軽い動作から、大魔力を秘めた青い光弾が撃ち出された。

 熟練の冒険者であるアングでさえも反応できないほどのスピードで飛翔する光弾。当たれば風穴が空くどころでは済まない。


「――危ないッ!」


 とっさに剣を抜いて光弾を斬り裂いた。

 魔力が解け、余波の爆風が舞う。アングとともに軽く吹き飛ばされた。


「つぅ……大丈夫か、アング?」

「げほっ……すいません、助かりました」


 アングが血を吐くが、大した量ではない。口の中を切っただけのようだ。

 ……しかし、今のはかなりギリギリだった。カゲヤの反射神経でも反応が間に合わないとは……たしかに魔王というだけある。


「カゲヤちゃん……!」


 シエディアが俺を心配そうに見るが、問題ないと視線で返す。


「ほう。人間がアレを防ぐか」

「当然じゃない、私の娘よ」


 魔王相手にもそのスタンスでいくのか。ぶれないなお母さん。


「……で、あの程度の嫌がらせに目くじら立てて、復讐しに来たってこと? わざわざ何も知らない配下に私を召喚させたのもそのためかしら。王を名乗る割にずいぶんと器が小さいのね」

「裏切り者をいつまでも見逃していては我が威光に傷が付く。此度は逃さぬぞ、シエディア。甚振って魔界に還す程度では済まさん、貴様はここで殺してやろう」

「やれるものならやってみなさいよ。魔王程度が、この私――崩改の魔人シエディアに勝てるとでも思っているのなら」


 演出に使おうと思って防具につけた《瞬間着替え》の機能で、シエディアが白い全身鎧から黒いビキニアーマーへと着替える。

 一応断っておくが、デザインは本人の希望である。とんでもなく似合っているとはいえよくあんなの着れるよな。俺には無理だ。


「崩改の魔人……!」

「知ってるの、エイシア?」

「百年前の文書に、散見される高位の魔人の二つ名です。まさか、神聖騎士であるシエディアさんが魔人だったなんて……」


 シエディアが指を鳴らし、改変魔法を放つ。

 魔法が向かった先は、アングが吐いた血だ。青い雷とともに血が魔法陣を形づくる。


「《全体改変》。――魔界より来たれ、我が従魔。《誓邪の召喚・三魔神狼ケルフェルス》!」


 青雷の中から響く遠吠え。

 現れたのは、銀の体毛を持つ巨大な狼。口からは冷気が漏れており、一対の狼頭の装飾がついた氷の鎧を纏っている。

 その辺りのモンスターなど比較にもならない圧倒的な迫力。かつてここにいたハルメーというアンデッドより遥かに強いのは間違いない。


「《他者改変・全性能強化オールブースト》ッ! 行って、フェルス!」

「ヴォオオオ!」


 さらにシエディアが改変魔法で強化を施し、強力になった狼――フェルスが魔王に突撃する。

 魔王が光弾を放つが、フェルスはそれを難なく躱す。こっちに流れ弾が来るが、それはシエディアが邪悪魔法の結界で防いだ。


「ヴォアァッ!」


 一瞬で魔王に肉薄したフェルスが、剣のように伸びた巨大な爪を魔王へと叩きつける。

 恐るべき威力で放たれた剛爪。この爪の前では鉄はおろか、物理法則では考えられない硬度を持った魔法の金属さえ切り裂かれるだろう。


「――つまらんな、この程度か?」


 ――だが、世界最硬の金剛鉄アダマンタイトさえ三枚に下ろすような爪を受けても、魔王の身体には傷一つなかった。


 魔王は振り払うようにしてフェルスに裏拳を喰らわせる。

 フェルスが吹き飛ばされ、俺たちの背後にある壁へと叩きつけられた。


「ヴォ、オゥ……」


 床に落ち、ピクピクと痙攣するフェルス。氷の鎧にはヒビが入り、最初の威厳は見る影もなかった。

 最上階に気まずい沈黙が流れる。いや、気まずいとか思っているのは俺とシエディアだけかもしれないが。


 シエディアは無言で目をつむり、何事もなかったかのようにニヤリと笑う。だが、付き合いの長い俺にはわかる。その笑みが微妙に引きつっていることが。


「……ふっ、ここまでは余興よ。――立ちなさい、フェルス」

「ヴォゥ……」


 震える脚で立ち上がるフェルスに、青い雷を纏った手のひらを押し付けるシエディア。


「いくわよ、魔王サニウス。ここからが私の本領! 《他者改変――我が従魔は(ウェポン・オブ・)具足となりて(ヴァウスビースト)》!」


 フェルスの身体が光とともに収束する。青雷と魔力が一点に集まり、三叉の槍(トライデント)の形へと変わった。

 槍に変化したフェルスを握るシエディア。瞬間、彼女の身体から冷気が舞い、氷の鎧が作られる。


「せぇいっ!」


 無防備に立つ魔王へと一瞬で距離を詰め、槍を薙ぎ払う。

 先程以上の強力な一撃が叩き込まれるが、魔王は身動き一つしない。


「無駄だ。余の鱗一枚一枚に展開される遮断障壁には、如何な力を以てしても傷一つつけられぬ」

「……なるほど、これが、無敵の空間遮断ね……。なら、氷漬けにして封印するまで!」


 槍の先端に吹雪が凝縮したような絶凍の冷気が生まれる。――そして、繰り出される無数の刺突。


 カゲヤの動体視力でも捉えるのがギリギリの神速の連撃。もはやまともな人間が介入できる戦いではない。

 しかし、魔王はそれらを全て両手で受け流していく。余波だけで彼らの周辺温度が一気に下がっていくが、冷気で動作が鈍るということもない。


 とはいえ、効果がないというわけではないようだ。魔王の腕に魔力を帯びた氷が纏わりつき、動きを阻害していく。


「……ふむ、やるな」

「余裕ぶってる場合? 確かにあなたは強いけれど、このままじゃ私を殺すことなんて絶対にできないわよ?」

「その通りだな。では――先に聖剣を回収し、お前の処刑は後でゆっくり行うとしよう」

「え? くっ――」

「――《神縛りの龍鱗》」


 魔王が槍を弾き、シエディアに指を向ける。

 指の先から爪のような鱗が伸び、すばやく変形してシエディアを拘束する。


「けど、これぐらいの拘束じゃ――」

「やれ、四天王」


 魔王がどこかへと呼びかけた瞬間、シエディアの足元に魔法陣が生み出された。


 そして、魔法陣へと飲み込まれていくシエディア。


「――! まさか――!」

「常の貴様であれば、四天王総員での強制召喚さえも破棄しうるのだろうが……余の鱗に縛られた状態で、これを防ぐことはできぬだろう?」

「くぅ、ちょっ……か、カゲヤちゃん! ヘルプ!」

「……光弥! 神聖魔法!」

「え!? ――み、《禊の波動》!」


 怒涛の展開に呆けていた光弥から、魔法を無力化する神聖魔法が放たれる。

 俺なら魔法陣から引きずりだせなくもないが、魔王の目の前で隙を晒すのは流石に無謀だ。


 だが、シエディアとの間に魔王が立ちふさがり、邪悪魔法の結界を作り出す。


「余が神聖魔法に対処できないとでも思ったか?」

「なっ……」

「ああっ!? カゲヤちゃんっ、あいるびーばっ」


 シエディアが完全に魔法陣へと沈み、その姿が消え去った。


 ……ちょっと心配だが、最後に右腕の拘束を解いて親指立てていったし、大丈夫だろ。


 しかし、どうするか。とりあえず、今更プランがどうのと言っている場合ではない。


 まあ、いざとなったら対魔王用のチート兵器がある。だが、どれぐらい有効かわからないし、周囲に甚大な被害が出るので転移や結界発動のアイテムなどを使って上手く状況を整えなければならない。


 もしくは、シエディアをこちらに再召喚するという手もある。……召喚するための隙と、人間の血と肉片をどう用意するかが問題だが。


「(あとは、ビーストモードか……)」


 アレなら周囲に被害を出すこともなく、魔王に有効打を与えられる。魔王を倒せるかどうかは未知数だが、撃退する程度のことはできるはずだ。

 ……できる限り使いたくないが、やばそうだったら使うか。


 とりあえず、流れを見てどうするか考えよう。



 シエディアさんが消え去り、魔王サニウスが僕たちへと向き直る。

 未だに困惑が抑えきれないが、聖剣を抜いて魔王へと構える。


「さて、聖剣それを返してもらうぞ、今代の勇者。そして、今代の巫女姫よ」


 僕たち二人だけに押し寄せる暴風のような威圧。だが、エイシアは体を震わせながらも、魔王に対して気勢を上げた。


「……な、何をふざけたことを! 聖勇剣スペードは、我が王家の国宝です! 断じてあなたの物では――」

「うむ、余がニ千年ほど前に作った星王国の伝説は、しっかりと伝わっているようだな。剣に施した隠蔽魔法も薄れてはいないらしい」

「え……?」


 エイシアの顔が固まる。

 僕たちがとっさに聖剣に目をやるのを見ながら、魔王は言葉を続けた。


「その剣の真名は『聖勇剣スペード』などではない。貴様の手に握られた『星幽剣ジョーカー』こそ、余の逆鱗から作り上げられた――勇者の力を封じるための魔剣だ」

「なっ……」

「そもそも本来なら勇者に聖剣など必要ない。その剣は勇者が持つ真骨頂の一つ――圧倒的な成長力を奪い取り、自身の物とする。各地に設置してやった(・・・・・・・)遮断要石を喰らい、成長した星幽剣を同化させたその時、余は真に無敵の存在となる」


 衝撃の事実に僕たちが驚愕する中、唯一普段と変わらない様子の影耶が、魔王に向けて問いかける。


「魔王サニウス。一つ聞くが……あの、もしかしてその計画ってお母さんのせいで一回失敗してるのか?」

「……ふ、その通りだ。シエディアの娘よ。千年かけて作り上げたこの計画を奴に台無しにされた時は、腸が煮えくり返ったぞ。今回の復活までに聖剣の伝説が存続していたのは僥倖としかいいようがない」

「(ああ、それは直接殺されに来られてもしょうがないな……)」


 影耶が小声で呟いているのが聞こえた。……一体、魔王とシエディアさんの間に、どんな因縁があったのだろうか。


「……では、ついでに聞かせてくれ。遮断要石を壊せばお前の障壁が消えるというのは、嘘か?」

「当然だろう。何故わざわざ自分の弱点を晒す? これもまた、余が作り上げた偽りの伝説に過ぎん」

「そん、な……」


 エイシアが絶望したように呟き、涙をこぼす。

 ……無理もない。彼女は生まれた時からずっとその伝説を信じ、勇者に聖剣を託すために研鑽を積んできたはずだ。それが、魔王が作り上げた偽りだったなんて……。


 影耶が悲痛な目でエイシアを見て、魔王に向き直り再度問いかけた。


「……最後に聞かせてくれ。――何故それを、私たちに教えた?」

「――貴様らが、ここで死ぬからに決まっているだろう?」


 放たれる殺気。とっさに武器を構える僕たちを見ても、なんら臆することなく魔王は語る。


「できれば、もう一つか二つ遮断要石を破壊させておきたかったが……。今代の勇者は歴代と比べてもはるかに強い。この辺りが頃合だろう」

「たった一つで十分とは、ずいぶんと謙虚だな」

「何、ここで勇者を精神支配し、余の背後にある遮断要石を破壊させればいいだけの話だ。余に比類する圧倒的な魔力を持っていれば精神支配の魔法もはねのけただろうが、今の勇者ならば問題ない」

「――え!?」


 影耶がビクリと反応し、魔王と僕をチラチラと交互に見る。


 魔王はそれを気に留めることもなく、手に光弾を作りだす。

 膨らんでいく光弾からバリバリと青紫色の稲妻が舞い、障壁塔が揺れる。……間違いなく、先程アングさんに放ったものよりはるかに強力だ。


「勇者よ、貴様の神聖魔法でなければ防ぎきれんぞ」

「ッ――くそっ!」


 放たれる光弾。とっさに皆の前に飛び出し、神聖魔法を纏わせた聖剣で受け止める。

 神聖魔法である程度威力が減衰しているにも関わらず、凄まじい衝撃が全身に響いた。


「ぐ、ッ……あああぁッ!」


 魔力を込め、全力で剣を振り払う。

 光弾が炸裂し、爆風が僕たちを吹き飛ばした。


「くぅっ……!」

「きゃあっ!」

「ぐあッ!」


 僕は何とか勇者としての筋力で押し留まったが、エイシアとアングさんは部屋の端へと吹き飛ばされた。


 だが、体勢が崩れ、魔力を使ってしまった今、魔王の指先に灯る魔法を避けることはできない。


「終わりだ。《支配の邪光》」


 辺りに砂塵が舞う中、一直線に放たれる光。

 僕はそれに対して何も出来ず、反射的に目をつむり――


「光弥っ!」


 ――僕の前から響いた声に、目を見開く。


「影……耶……」


 僕を庇って支配の魔法を食らった影耶が、ゆっくりと地面に倒れ伏した。



 魔王さえ超える魔力を持つ俺は、あっさりと精神支配の魔法を跳ね除けつつ、地面に倒れた。


「影……耶……」

「庇ったか……。……ふむ、これもまた一興だ。シエディアの娘……カゲヤと言ったか? 立て」


 支配されてないことがバレるかもしれないとドキドキしたが、思ったより魔王の目は節穴だった。やったぜ。


「は、い……」


 俺は朦朧とした演技をしながらふらふらと立ち上がり、魔王へと近づく。


「カゲヤよ。――命令だ、勇者を斬れ。聖剣を握れるよう腕の一本だけを残し、余に献上せよ」

「……っ!」


 息をのむ光弥の声。


 見事に都合のいい命令を出してくれる魔王に向けて、俺はにっこりと微笑んだ。


「了解しました、魔王様……ええ、喜んで殺します」

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