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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第二章 攻略編
22/49

つまりは恥ずかしくて顔を出せない

 目を覚ます。見慣れた天井があった。

 ゆっくりと身体を起こすが、少しふらつく。


 ……あれ、なんで家にいるんだっけ。それに、何故か身体がカゲヤになっている。ていうかなんだこの黒猫パジャマ。……カゲヤのキャラには合わないけどなかなか可愛いな、ギャップ萌えだ。写真撮っておこう。


 腕時計の機能の一つを発動させ、中空に現れたスクリーンに自身(カゲヤ)の姿を映して撮影する。後でパソコンの方にも落としておこう。


「よしよし……。うん? なんだこの血」


 撮影した画像を眺めていると、部屋の隅に血がついていることに気づく。


 最近血を流した覚えなんかはないが、見る限り新しい物のようだ。まるで昨日床に飛び散ったばかりのような……。


「……昨日?」


 ――脳裏に、俺の手がシエディアの身体を貫いた光景が想起される。


 慌ててベッドから立ち上がり、部屋の外に飛び出る。


「……シエディア!」

「あう。……え、どしたの? そんなに血相変えて私の胸に飛び込んできて……。あ、あれね、ついに私の魅力に気づいちゃったとかそういうアレね! いやー困っちゃうなー、けどけど、私はカゲヤちゃん相手でもインヤさん相手でもどっちでもいけるから――」


 五体満足のシエディアとぶつかる。めっちゃ元気そうだった。


「……あれ? 昨日の怪我は大丈夫なのか?」

「な、ななな何のことかなー? いやほら私ったら天才だし? ちょっとやそっとじゃピンピンしてるっていうか?」

「よくわかんないけど無事でよかった……。ごめん……」

「き、気にしないでいいから! というか、カゲヤちゃん昨日のこと覚えてるの? あれだけでろんでろんだと、記憶残ってないかなって思ったんだけど」

「え?」


 先程思い出した光景から、記憶が連鎖的に呼び起こされていく。


 ……。

 …………。


 ………………!


「あ、あ……」

「あー、思い出しちゃった……?」

「うっ、うあ、うぅ……!」

「……か、カゲヤちゃん、泣いてる?」

「な、泣いてっ、泣いてないしっ! うわあああん!」

「ちょっ、落ち着いて! 魔力! 魔力すっごい出てるから! 地下室壊れちゃうから落ち着いて!」



 着替えて元の姿に戻った。


「……よし、戻ったら落ち着いた」

「よかった……。で、これからまた神光国に戻るの?」

「いや、流石にそれはちょっと……。……けど、やっぱり戻らないとまずいよな」

「まあ、ねえ……。カゲヤちゃんがいないと他のプランも進めにくいし……」


 俺としては、一週間ぐらいは光弥たちに顔を合わせたくないのだが、光弥が神光国にいるのは三日後までだ。時間を無駄にするわけにはいかない。


 ……しかし、すぐにまたカゲヤの姿に変身するのは……いや、それならプランを少し修正して……。


「……そうだな、今日はこのままで神光国に行く」

「このまま?」

「『錬金術師インヤ』として光弥たちに会う。……プランBは中止にして、『本命』のための布石を打とうと思う」

「なるほど。まあどうせ他のプランは確実性が低いし、それなら怪しまれる可能性をなくして本命に絞った方がいいかもね」

「それに、うまくやれば時間が取れて、本命用の武装を改良できるかもしれないしな」

「……あれって武装っていうのかな?」

「そんなこと言うならもうちょっとデザインなんとかしてくれ」

「いや、あれ以上減らすのは無理。……それはそれとして、インヤさん、いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか、本当に大丈夫?」


 ……そう、本命のプランとは、「シエディアが光弥を殺すこと」ではない。「シエディアの手によってカゲヤが光弥を殺してしまうこと」だ。


 シエディアではどうあがいても三日程度のわずかな信頼しか積み上げることができない。それでは背中から刺そうにも警戒されてしまう。


 うまく不意をつければいいが、不意をつけなければ戦闘になるのは間違いない。

 そして戦闘になってしまえば、いくらシエディアがスペック的に光弥達を上回っていても、あのチート野郎に勝つことはできないだろう。

 アルティメットイーヤだって、スペック的には遮断要石(シャットアウター)破壊後の光弥を上回っていたはずなのだ。


 原理は謎だが、恐らく単純な戦闘力では奴には勝てない。


 だが、カゲヤなら違う。


「大丈夫だ。いくらあいつでも、味方相手には剣が鈍るに違いない」

「ひっどい計画よね。好きな女の子と本気で殺し合いしなきゃいけないとか、コウヤくんにとってはトラウマものじゃない?」

「『彼女自身に望まれなくても救う』とか言ってたしいいだろ。本当に、なんでよりによって俺を好きになるんだよ。……言葉にすると精神的にキツいな。ほんとつらい」

「とりあえず、プランを再確認しておこっか」


 ばさり、とシエディアが机の上に計画表を広げる。


 プランの発動場所は障壁塔最上階。ここなら誰にも迷惑がかからない上に目撃者もいない。

 発動と同時に最上階は強固な防壁で隔離して逃げられないようにするし、シエディアには邪悪魔法による結界で彼女自身と遮断要石を守ってもらう。


 筋書きとしては、シエディアが光弥に精神支配の魔法(実際には何の効果もない演出の光)を放ち、カゲヤがそれを庇う、という流れだ。庇うというのが重要である。イメージダウンを防ぐためにも。


 で、ここからは作り話(カバーストーリー)

 勇者パーティ全員を殺して聖剣を奪った後、正気に戻ったカゲヤは魔人シエディアを追う。カゲヤは死した勇者の聖剣を以て魔人を倒し、蘇生薬を奪う。そして実は魔人シエディアこそが伝説の魔王であることが発覚し、各地の障壁塔と魔王城がキノコ雲を上げて爆発する。激しい戦闘によって魔王の心臓の半分が失われたものの、勇者は元の世界に帰ることができ、世界は平和になったのだった。完。


 割と強引な展開だが、光弥達を倒すことさえできれば、後はどうにでもなるはずだ。あまり使いたくはないが、《精神改造》の魔法で彼らの記憶を改竄するという手もある。


 聖剣さえあれば障壁塔なんざ一日で攻略できる。適当にミサイルとかで爆破した後に転移で移動してさくさくっと遮断要石を壊し、無敵じゃなくなった魔王に核爆弾を落とせば終了だ。


「インヤさん、ぶっちゃけこれ……」

「なんだ?」

「……いや、やっぱいいや」

「……何か気になる言い方だな。まあ、とりあえず神光国に戻るから準備してくれ」


 錬金術師インヤとしての装備を纏い、シエディアと一緒に神光国に設置しておいた魔法陣へと転移する。向かう先は光弥たちが泊まっている宿だ。


 「インヤ」として表で活動するのは久しぶりだ。最近は、こっちの姿の時は「イーヤ」として活動することがほとんどだったし。……ボロを出さないように注意しなきゃいけないな。



 アングが俺を険しい顔で睨む。


「……おい腰巾着、テメエ今なんて言った?」

「だから、カゲヤはギルドの緊急依頼で星王国に転移で帰ったって。どうせ後三日ほどやることもないんだろ?」

「魔王討伐以上の緊急依頼なんてあるわけないだろうが! ……お前、あわよくば勇者パーティに入れてもらおうとして、適当な依頼をでっち上げたんじゃないだろうな?」

「いや、俺は別に魔王討伐の名誉なんて欲しくないし……」


 すっかり忘れていたが、アングはインヤのことを嫌っていたんだった。こいつに嫌われたからって何とも思わないが、こうも突っかかられてはなかなか話が進まない。


「とにかく、二日後までカゲヤは帰ってこないから。シエディアと仲良くしてくれってさ」

「チッ……それで、お前は何のために来たんだ? それだけなら、ギルドにでも言付けておけばいいはずだろうに」

「ああ、これを勇者様に渡しに来たんだよ。ギルド経由だと受け渡しに時間かかるからな」


 懐のアイテムボックスから、防具一式を取り出す。

 いかにも勇者でございますと言わんばかりの、王道かつきらびやかなデザインだ。普通の奴が装備したら笑われるだろうが、光弥ならイケメンだし似合うだろ。多分。


 見た目はそんな感じだが、性能は確かだ。ランク的には鉄帝国に渡した魔剣より一段上、というところだろうか。なお、リモコンのボタン一つで着用者に高圧電流が流れるようになっている。

 取り出した防具を見たアングやエイシアが目を見開く。


「こ、これは……」

「イーヤが俺たちのパーティにいた頃に残した魔装だ。装備するには錬金術での調整が必要だから、アングにやり方を伝えに来た。カゲヤは錬金術には疎いしな」


 飄々と嘘をつきつつ、光弥に着用を促す。


「では、勇者様。試しに装備してもらってもよろしいですか?」

「あ、はい。……あの、インヤさんでしたよね。僕とどこかで会ったことありませんか?」

「ははは、自分が勇者様にお目通りするのはこれが初めてですよ。そういうセリフは女性を口説く時に使うものでしょう」


 やはりこいつ侮れんな……。イーヤの変装をしていた時は、仮面につけた変声機で声を変えていたのだが。体格で見抜いたのだろうか。


 錬金魔術を再現する杖を使って、アングにやり方を見せながら光弥に防具を装備させていく。


「……む? おい、この鎧、魔力の通りが悪くないか? なんだか魔力の一部が損なわれているように見えるが……」

「そうか? こんなもんだろ」


 魔力を高圧電流を流すためにチャージしているから当然である。アングもなかなか鋭いが、この仕掛けは発動するまではほとんどわからないように作っておいた。そう簡単にバレることはない。


「わあ……! すごい、格好いいですよ、コウヤ!」

「そ、そうかな、エイシア。なんだか派手すぎるような気もするけど……」


 ……自分で作っておいて何だが、ここまで派手な防具なのに似合うってすごいな。めちゃくちゃ勇者っぽい。

 ともかく、これで今回の目的は達成した。あの防具の高圧電流でも光弥相手では数秒動きを止めるのが精々だろうが、それだけの猶予があれば十分だ。


 こっそりとシエディアに目配せをする。彼女が俺以外に見えないようにして親指を立てるのを確認し、部屋を出る。


「じゃあ、俺はこの辺で……」

「あの、インヤさん」


 扉に手をかけた瞬間、光弥に呼び止められる。


「……どうしました、勇者様?」

「少し話をしたいんです」

「ダメです。それでは」


 扉を開けて、早足で部屋を出る。絶対に面倒な話に決まっている。

 だが、俺が急に扉を開けたせいで、部屋に入ろうとしていたメイドのイティーが転びそうになる。とっさに受け止めた。


「きゃっ」

「おっと……。すいません、大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございますカゲヤさ……あれ?」


 馬鹿な、何故わかった。


「すいません、お客様。何故か人違いを……」

「そ、そそそそうですか、き、きき気にしないでください」

「おいお前、何でそんなに吃ってるんだ」

「い、いや? 気の所為じゃないかアング?」

「インヤさん、話を――」

「はい話ですね勇者様、じゃちょっと話してきますんで初対面のメイドさんさようなら!」

「え、あ、はい……」


 光弥の腕を取り、強引に部屋から出る。


 ……くっそ、本当になんでわかったんだ。急にバレそうになったせいで死ぬほど焦ってしまった。


 話に使えそうな空いている部屋に入り、扉を閉めた。光弥を席に座らせる。


「……で、何の話でしょう」

「はい、影耶のことなんですが――」


 まあそうだろうな、と思いつつ、俺は内心ため息をつきながら対面の席に着くのだった。

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