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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第二章 攻略編
21/49

結局のところ酔っ払いは無敵

 件のチョコは結構良い酒を使っているらしくなかなか風味がよかった。食事前なのに結構たくさん食べてしまったが、カゲヤの姿なら食べた物は魔力に変わる。その気になればいくらでも食べられるから問題ないだろう。

 軽食代わりにチョコをつまんだ後、どこぞの高級そうな店へとやって来た。


「それで――」

「へえ、じゃあ――」


 シエディア達が色々と話しているが、いまいち頭に入ってこない。

 まあ最近は忙しかったからな。疲れているのかもしれない。


 それを見てとったのか、光弥が俺に話しかけてくる。


「……影耶、顔赤いけど大丈夫?」

「ぅん? そう……か……?」


 首筋に手を当てて見る。少し温かいような気もするが……風邪か? いやいや、最強美少女のカゲヤちゃんが風邪なんてひくわけがない。


 けど一応栄養摂っておくか。……あれ、この姿だと食べても……えっと、なんだったか。まあどうでもいいか。


 とりあえず適当な料理を食べる。……うん? なんだかいまいち味がよくわからない。

 口直しにちょうど今運ばれてきた飲み物でも飲もう。


「あ、カゲヤさん、それは酒――」


 アングが何かを言おうとしていた気がするが、既に俺は口をつけた後だった。



 カゲヤちゃんの頼みで、勇者を殺っちゃうことになった。

 正直ちょっと面倒くさいなー、と思うが、カゲヤちゃんが元の世界に帰ってしまうのは嫌だし、何より可愛い娘のお願いだ。

 そのためには、あまり興味のないこの王女のお話も頑張って聞かねばなるまい。


「それで、光弥は白い悪魔を一撃で真っ二つにしたんです!」

「へえ、そうなんですか、コウヤくんはすごいですねえ、流石は勇者です」


 で、その可愛い娘だが、なんだかぼーっとしているように見える。……私の会話をサポートしてくれるはずだったのだけど、どうしたのだろうか。


「カゲヤちゃん大丈夫?」

「うん……? シエディア……?」

「ママって呼んで。ああ、それお酒じゃない、飲まない方がいいよ。はい、水」


 あまり知られていないことだが、高級な酒というのは一種の魔法薬だ。いくらカゲヤちゃんが食物を魔力に分解すると言っても、魔力を帯びた酒精を体内に取り込んだら酔ってしまうかもしれない。


 ……しかし、毎回言っているのに一向にママと呼んでくれない。いつも適当にお母さんとか呼ばれてはぐらかされるし……。


「ありがと……ママ……」

「えっ!?」


 急に念願の呼称をしてもらえた私は咄嗟にカゲヤちゃんへ向き直る。

 うっかり呼んでしまったのかと思ったが、それにしては恥ずかしがっていないし、言い直しもしない。

 これは、まさか――


「……酔ってる?」

「ええー……? あはは、最強美少女のカゲヤちゃんが酔うわけないだろー……?」

「(めちゃくちゃ酔ってる!)」


 こ、これはどうしたらいいのだろうか。私としてはもっと酔わせてみたいが、この状況でそんなことしたら絶対後でカゲヤちゃんに嫌われるだろう。キャラが崩れたとか言って怒られるに決まっている。それは嫌だ。


「さ、最強美少女……?」


 ダメだ。もう既に崩れかけている。なんとかフォローしなければ。


「もう、カゲヤちゃんったら相変わらず冗談が下手なんだから、みんな本気にしちゃってるよ?」

「んぅ……? そう……?」

「……!」


 か、可愛い! これは可愛い! いつものクールビューティーを装った演技が見事に失われ、ふにゃふにゃになったこの無防備感! しかも精神が男性(インヤさん)なせいか、その状態に対して危機感を感じていない! それが余計に無防備さに拍車をかけている! 可愛い!


「えっと、カゲヤちゃん疲れてるみたいなんでちょっとお先に――」

「カゲヤは疲れたりしないしぃ……」


 いけない、一人称が自分の名前になっている。いや、インヤさん(カゲヤちゃん)にとっては三人称のようなものなのだが。ややこしい。


「……あのもしかしてカゲヤさん酔って――」

「違うの! いやこれはアレ、えーと……」


 いい感じの言い訳が思いつかない。頑張って考えなきゃ、なんとか有耶無耶にしてここから離れれば、転移アイテムで帰れるし――


「影耶、やっぱり風邪なんじゃ――」

「風邪じゃないってばぁ……、ほら……ね?」

「――っ?!」


 カゲヤちゃんがコウヤくんの手をとり、自分の首筋に当て、にっこりと微笑んだ。


 ……あ、あかん! これは落ちる! コウヤくん落ちちゃう! 絶対ハートずっきゅんしてる!

 ああ、王女がすごい顔で睨んでる。お姫様がしていい顔じゃないよこれ。何この誰も得しない修羅場。こんなに混沌とした状況だったなんて。


「それより……それ、飲むから取って……」

「い、いや影耶、やめておいた方が――」

「……なんで、邪魔するんだ……?」

「だって――」

「ああもう、うるっさいなぁ……」


 凄まじい量の黒い魔力が静かに放出され、神光国の夜闇が深淵と見紛うほどに深くなる。明らかに人間――というか一個の生物が出していい力ではない。どう考えても力のセーブが甘くなっているし、普段無意識で精神にかけている、自重という名の枷が外れかけているようだ。この状態で魔王と戦わせたら無敵の障壁とか関係なしに普通に勝てるんじゃなかろうか。

 これはとにかく早く離脱させないと絶対まずいことになる。


 とりあえず酒瓶を握ったカゲヤちゃんの手をひいて、席から立たせる。


「えーとじゃあまあそういうわけで! また明日! あ、王女様ほんとごめんなさい! 悪気はないと思うので許してあげてください!」

「あぅ……ママ……ふらふらする……」


 ……くっ、可愛い! この場で抱き締めたい!


 そんな欲求に逆らいつつ、カゲヤちゃんを店の外まで連れていき、物陰に隠れる。彼女の懐から転移アイテムを探り、いつもの地下室へ転移した。


 地下室に戻って一息つく。インヤさん特製の防御結界や防音結界が幾層にも張られたここなら、どれだけ暴れても大丈夫だ。部屋の中がどうなるかはわからないけど。


「ふぅ……よし、帰ってこれた……」

「ん……? ただいま……?」

「はいはいおかえりー。ああもう、可愛いなあ」

「えへ……だろー……?」


 うーん、良い! よしよし、もっと飲ませよう。

 カゲヤちゃんならいくら飲んでも中毒で倒れるなんてことはない。身体能力と、それに付随する再生力は抜群に高いのだ、この状態のまま寝かせれば、明日には二日酔いになることもなくスッキリと目覚めるだろう。


「じゃあはい、お酒。ママがいるから安心して飲んでいいからね」

「ん……んく……」


 ゆっくりとグラスに口をつけ、酒を飲み干していく。


「はふぅ……」

「かーわーいーいー!」

「んぅ……くすぐったいからやめろよぉ……」

「そうだ! お風呂、お風呂入ろう久しぶりに!」


 泥酔した人を風呂に入れると血の巡りが良くなって余計に酔いが回るとか聞いたけど、まあ大丈夫でしょ。危なくなったら改変魔法で酒精を抜いてあげればいいし。


 一年前に、冒険者デビューするカゲヤちゃんのため、インヤさんと二人で考えた装備(コスチューム)を脱がしていく。

 ……うむ、素晴らしいプロポーション。我ながら完璧な仕事をしたと自賛せざるを得ないわね。


 カゲヤちゃんを抱き上げ、風呂場に運んでいく。普段なら勝手にこんなことすればオリハルコンワイヤーで縛られて半日放置されるだろうけど、今は完全に無防備かつ無抵抗だ。

 よーし、今夜はたっぷり弄りまわしてやろうっと!



 弄りまわしすぎて殺された。いや、比喩表現でもなんでもなく。


「ひ、昼に渡されてた蘇生薬がなかったらそのまま死んでた……!」


 私のいたずらを嫌がったカゲヤちゃんに、凄まじい魔力の篭った手加減の一切ない一撃をお見舞いされたのだ。まあ死んでも魔界に強制送還されるだけではあるけど。

 ……うん、流石にあそこにあれをああしようとしたのはまずかった。これからは少し自重しよう。


 カゲヤちゃんは、可愛らしい猫耳フードのついたふわふわの黒いパジャマを着て寝ている。何事もなかったかのように、ベッドの上で丸まってすーすーと小さな寝息を立てていた。


「……添い寝するくらいはいいよね?」


 カゲヤちゃんの隣で横になり、布団を被る。


 うん、母親だからね、添い寝ぐらいはおっけーおっけー。

 まあ魔人には親も子もいないから、母親というのがどういうことをするのかいまいちよくわかってないけど……それはそれとして、この子とインヤさんは数少ない私の大切な人だ。勇者なんかに取られるわけにはいかない。


「明日は早めに起きて、色々準備しないとねー……ふあ」

「むにゃ……」


 あくびをしながら私はカゲヤちゃんを抱きしめ、眠りにつくのだった。

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