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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第二章 攻略編
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要するに修行という名の殺人

 神光国の街で準備を終えた俺たちは、神光国の郊外、街と障壁塔のちょうど中間に位置する場所へと向かっていた。


 あたりに人もいないので、超人的脚力を躊躇うことなく発揮する。すさまじいスピードだが、カゲヤの状態なら軽いジョギングみたいなものだ。魔人として身体性能が高いシエディアも、問題なく俺に追走する。


「……あ! カゲヤちゃん太ももに投げナイフのホルダーなんてつけてるー! そんなに生脚強調して見せつけたいのね!」

「い、いいだろ、別に……。せっかくシエ……お母さんがこだわって作った身体なんだし……」

「かーわーいーいー!」


 ……カゲヤの姿だと、シエディアがことあるごとにからかってくる。今はもう自分でも思い切り楽しんでいるが、ああいう風に言われると少し恥ずかしい。


「けど、そんなんだからコウヤくんに惚れられちゃったんじゃないの? 思わせぶりな態度とっちゃったりしてさ」

「あいつにはむしろ嫌われるように動いたつもりなんだけどなあ……」


 まさか、光弥もアングと同じでMなのか? ……逆に優しくしてやった方がいいのだろうか。


 そうこうしているうちに目的地に到着する。

 あたりにはいくつかのテントのようなものが設置され、申し訳程度だが防御用の柵などもある。例えるなら極めて簡易的な軍事拠点と言ったところだろうか。


 ここは、神聖騎士達が使っていた障壁塔攻略の拠点だ。少数精鋭で乗り込んだそうなので、あまり大規模な陣地は作られていない。

 その神聖騎士達はハルメーとかいうアンデッドに殺されてしまったが、まだ何人かの騎士が攻略し終わった障壁塔を調査するためにこの拠点に詰めている。


 シエディアが、気軽に騎士の一人に声をかける。


「やっほー。勇者は来てる?」

「こ、これはシエディア様! いえ、まだ勇者様は来ておられません」

「ふうん。まあちょっと早く来ちゃったしね。ありがと」


 シエディアが騎士に敬われているのは理由がある。

 流石に身元がわかっていない者を勇者パーティに入れるのは無理だと思い、神光国の王に対して力と金と恩でほとんどゴリ押しの交渉をし、シエディアに一時的に神聖騎士になってもらったのだ。

 筋書きはこうだ。


 死した英雄(レヴナント)ハルメーに召喚された魔人シエディアは、彼が行う暴虐に心を痛めていた。契約によって逆らうことのできなかった彼女だったが、一瞬の隙をついて障壁塔から逃げ出した。彼女は唯一の知り合いであるカゲヤの元に趣き、契約を上書きしてもらう。悪から抜け出し聖なる力を得たシエディアは、街を滅ばさんとするハルメーを、その輝く一撃で打ち破ったのだ。ついては魔王討伐にも協力したいそうなので街を救った恩と引き換えで便宜を計ってほしい。具体的にいうとシエディアに街を救った神聖騎士の肩書きを与えて、魔人であることを隠してほしい。


 ……まあ、色々と嘘だし、これから先迷惑をかけることが確定しているので申し訳ないが、国を壊滅させるような凶悪モンスターを倒したことで許してもらおう。仮に何か問題が起こっても、そこまで酷いことにはならないだろうし。多分。


 しばらく待っていると、ドンゴ二世が牽く馬車がやってきた。


 馬車から降りてきた光弥達が、俺のそばに立つ見慣れない女騎士を見て問う。


「えっと影耶、その人は?」

「彼女は――」

「初めまして、カゲヤちゃんの母です♪」


 ……この状況でも(カゲヤ)が娘という設定を貫くつもりらしい。

 けどせめて妹とかにしてくれないだろうか。光弥達も困惑してるし。


「……えーっと……」

「ああ、うん。その人が勝手に言っているだけだから気にしないでくれ。別に私が本当に彼女の娘というわけでもないし」

「違うもん、カゲヤちゃんは私の子供だもん」

「わかったわかった。話が進まないからお母さんは少し黙ってて」


 気を取り直して、事前に考えておいた設定を思い出しつつ話を続ける。


「この人の名前はシエディア。私の以前からの知り合いで、この国の神聖騎士の一人だ。今まではあまり名が知られていなかったんだが、つい先日障壁塔を攻略して名を上げた」

「……道中で噂を聞いてはいたけど、障壁塔が既に攻略されたっていうのは本当だったんだ」

「ああ。ここからの詳しい話は……お母さん、説明してくれ」


 シエディアに説明を譲る。演技力と、ちゃんと設定を覚えているかの確認だ。

 そんなに心配はしていないが、いざとなったらフォローしよう。


「塔の中のモンスター達は先行した騎士達が殲滅したんだけど、ボスモンスターが問題でね。街に大魔法を放つ直前に倒したのはいいんだけど、最上階に結界を張られちゃったの」

「結界、ですか? それなら僕の神聖魔法で無効化できると思います。鉄帝国の障壁塔を攻略して、魔力も上がりましたから」

「えっとね……。ま、いいか。説明が面倒だから、直接連れて行っていい?」

「……まあ、いいけど」


 少し不安だが、設定はしっかり覚えているようなので問題ないだろう。


 馬車に乗った俺たちは、シエディアの案内で神光国の障壁塔へと向かうのだった。



 モンスターは既に殲滅されているので、特に問題もなく最上階の手前へと辿り着いた。俺たちが設置したトラップもあるのだが、まだ状況が整っていないので一時的に停止させておく。


 最上階全体を取り囲む結界は、薄気味悪い灰色の魔力で構成されていた。


「《禊の波動》!」


 ぶわ、と光弥の神聖魔法が周囲に広がる。俺まで巻き込むのはやめてほしいが、専用防御アイテム『邪龍の環』で無効化したので問題ない。一度発動すると壊れるので改造魔法でまた修理しないといけないが。


 それはともかく、最上階の結界に神聖魔法がぶつかったにも関わらず、結界は無傷のままだった。


「なっ……」

遮断要石(シャットアウター)を守るこの結界は、恐らく高位の邪悪魔法で作られているわ。単純に超強力な魔力をぶつけるか、時間経過じゃないと無効化は不可能よ」


 と言いつつ、シエディアが自分で作った結界を見る。うまく顔を背けて他の三人に表情が見えないようにしているが、ものすごいドヤ顔である。


「けど、時間経過と言ってもそんなに時間がかかるわけじゃないの。私の見立てではあと四日と八時間ってところかしら」

「ほう……いやに具体的ですな、流石です」

「ま、まあね。ほら、私ったら天才だし」


 アングに言われて微妙にどもった。


「それぐらいなら、他の国の障壁塔を攻略しに行くより、この国で結界が解けるのを待っていた方が良さそうですね。ほとんどノーリスクでコウヤの強化ができます」

「うん、王女様の言うとおり。そこで私からコウヤくんへ提案があるんだけど……修行してみない?」

「しゅ、修行?」

「ええ、ただ待っているのは勿体無いし。コウヤくんは近接戦の実戦経験が少ないらしいから、少しでも戦闘訓練をしておいた方がいいでしょう? 旅の間に教えられればいいのかもしれないけど、カゲヤちゃんはそういうの向いてないしね」


 まあ、アイテム頼りのなんちゃって剣士だからな。適当に剣をぶん回して剣の方が勝手に動いて斬ってくれるだけなので、教えることなんてできるはずもない。


「なるほど……。わかりました、シエディアさん、よろしくお願いします!」

「うん、よろしく。結構厳しくいくから、覚悟してね?」


 よし、と俺は心の中でほくそ笑む。

 当然まともな修行などするわけがない。修行に見せかけてヤる気満々である。


「じゃあ、とりあえずバンジージャンプからいってみようか!」

「え?」



 バンジーの途中で縄を斬って落とした。


「ああああああああ! くっ、《禊の衝撃》ぃいいいい!」


 のだが、魔力を放出することで勢いを殺され、普通に着地された。


「チッ……」

「……いや、これ本当に修行なんですかシエディア殿? 俺には普通に殺す気しか……」

「いやいや、今のも修行だよ修行」

「そうだぞアング、さっさと次行こうか」



 全身縛った状態でモンスターの前に放り出した。


「う、うおおおお!」


 のだが、光弥は手刀に魔力を纏わせ、縄を斬って逃げ出した。


「……よし、これでコウヤくんは手刀で戦えるようになったね。うん、これも修行修行」

「いや、それ今考えたんじゃ……」

「何言ってるんだ光弥、それじゃお母さんが何も考えずにモンスターの前に放り出したみたいじゃないか」

「そうそう、これも私の計算どおり! じゃあ次行こう」



 逃げ場がない場所に追い込み、巨大な鉄球をぶつけてみた。ちなみに光弥は素手。


「はぁっ、はぁっ……!」


 のだが、手刀で地面に穴を掘られ、そこに逃げられた。


「い、今のは本当に死ぬかと思った……!」

「チッ」

「今チッって言いましたよね!? これ絶対に僕を殺す気ですよね!?」


 ……流石にこれ以上はまずいか。これ以上怪しまれれば殺すのが難しくなる。


「お母さん、そろそろまともに修行をしよう。えーっと、アレだ。ほら、光弥の覚悟も十分に見れたし」

「……そうね。ごめんねコウヤくん。えっと、あの、アレ。魔王を倒すためには命をかける覚悟とかそういうのが必要だったから。ほら、そのために蘇生アイテムも用意してたんだよ?」


 そう言って、シエディアは事前に渡しておいた蘇生薬を取り出す。蘇生アイテムはこの世界において最高クラスの貴重品だ。大国でも一個持っているかどうかというレベルである。俺は五個ぐらい持っているが。


「そ、蘇生アイテム!? アング、あれは……」

「……ええ、間違いありません、本物の蘇生薬です。しかもかなり確実性が高い、良質の……。恐らくは伝説級の代物でしょう」

「死を間近で体験するっていうのは生半な手段じゃできないからね。世界を救う勇者様のためなら、蘇生薬の一本や二本なんて安いものよ」


 事前に考えておいたそれっぽい説明で、光弥達を安心させる。

 まあ最初から生き返らせる気ではあるし、まるっきり嘘というわけでもない。


 俺はさりげなくシエディアに近寄り、耳元で囁いてプランの変更を提案する。


「(そろそろプランを変更しようか)」

「(オッケー。次はどのプランでいく?)」

「(Bで。街である程度信頼を得てから、油断しているところを殺る。いけそう?)」

「(了解、まかせて。)……じゃあ、そろそろ暗くなってきたし、街に戻ってご飯でも食べよっか! コウヤくんたちがどんな戦いをしてきたのか教えてくれる?」


 そう言いつつ、シエディアは街に歩いていく。


 とりあえず、今日のところはこれぐらいでいいだろう。あまりやりすぎて怪しまれても困るし、今夜は普通にシエディアと光弥達の仲を取り持つか。


「いいですね、この国の料理は美味しいですし。スイーツでも有名なんですよ?」

「へえ、そうなんですか王女様」

「ええ、カゲヤも甘い物が好きなんですか? 意外ですね」

「そ、そうですか? えっと、それでどんなスイーツが有名なんでしょう?」

「チョコですね。最近はお酒入りのものが人気らしいですよ」

「へえ……」


 カゲヤの身体はアルコールに弱いから少し不安だが……。まあ、チョコに入れる程度のアルコールで酔うことはないだろう。どんな味がするか楽しみだな。

Q.フラグですか?

A.フラグです。

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