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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第一章 召喚編
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魔王は俺が倒すからこのイケメン勇者をさっさと帰してやってください

「めっちゃ眠い」


 半目でつぶやきつつ、食堂へ向かう。

 普段より大分早い起床だ。


「流石に王城に行くのに遅刻するわけにもいかないしな」


 食堂に入ると、それなりの数の客が朝食をとっていた。


「ロッジさん、おはようございます」

「ん? インヤじゃねえか、今日は早いな」


 少し驚いた顔のロッジさんが俺に声をかけてきた。


「今日はカゲヤが用事あるらしいんで、代わりに仕事しに行くんですよ」

「……おお、そういえばお前って魔剣士カゲヤのパーティメンバーだったんだっけか」

「一応籍置いてるだけって感じですけどね。他のメンバーも大体サポート要員ですし、実質カゲヤのワンマンパーティです」


 当然だが、他のメンバーなんていない。

 魔剣テイレシアスほどの自己改造用素材はそうそう作れないので、幻を見せるマジックアイテムでいくつか架空の冒険者名義を取っておいたのだ。

 ワンマンパーティどころか一人である。パーティでもなんでもない。


 一応、今も「偽装腕輪」から幻術が発動されており、俺の髪色を黒ではなくこげ茶色に見えるようにしている。


「一応今日中に帰ってくるつもりです」

「そうか、気をつけろよ」


 食事を終えた後、とりあえず着替えて装備を身に着け、宿の外に出る。

 そのままギルドに向かうフリをして宿の裏側にまわり、周囲に人がいないことを確認して地面に隠されたスイッチを順番通りに踏む。

 ガコン、と音がして地面に穴が開く。

 穴の中に設置された階段を降り、いつもの地下室へと入る。


「……こんなんロッジさんにバレたらどうなるんだろうな」


 いざという時のために地下室だけ消滅する自爆スイッチとかつけておくべきだろうか。


 偽装腕輪を外し、枕元に置いてある腕時計を代わりに着ける。

 そして服を脱いでテイレシアスを手に取り、自分を対象に改造魔法を発動。


「《自己改造》」


 紫電が走り、剣が身体と融合する。


 《自己改造》自体は魔剣がなくてもできるが、素材無しで自分を改造してもあまり高いスペックは出せないし、適当な素材で極端な改造をすると最悪元に戻れなくなる。


「……よし」


 平静を保ちつつ、服を着る。下手に自分の姿を意識すればこの後の予定が変わるのは間違いない。そういうのをやるならもっと色々準備してからやるべきだろう。以前やろうとしたら途中で恥ずかしくなって中断したけど。


「うん、いい感じだな!」


 鏡に姿を映し、くるりと回る。

 ファンタジー風に改造したブレザー制服のスカートがふわりと揺れて、先日作成した投げナイフ用のホルダーが太ももに装着されているのが垣間見える。

 カゲヤの装備はこの世界に来る前にプレイしていたネトゲのプレイヤーキャラクターの物を参考に作成した。ブレザーの女子制服を黒と青紫を基調にエセ女騎士風に改造したようなデザインだ。一言でまとめるなら暗黒姫騎士女子高生、みたいな感じである。

 まるっきりコスプレだが、どの装備も貴重な魔法素材を使った超高性能マジックアイテムだ。

 見栄え重視でスカートをやたら短くしているので戦闘などで激しく動けばすぐに中身が見えるが、スカートに施した効果で外からは影しか見えない。魔法って便利。


 Ⅴランク冒険者にのみ渡される転移護符テレポーターを懐から取り出し、冒険者ギルドへ瞬間移動する。なお、このアイテムの作成者は俺である。


 転移した瞬間、突如現れたカゲヤに驚くリセプの姿が目に入る。


「久しぶり、リセプ」

「ひ、久しぶり、カゲヤちゃん」


 実際は三日前に会っているが、この姿で会うのは久しぶりだ。とは言ってもリセプとはインヤよりカゲヤの姿で会うことが多いので、久しぶりと言ってもせいぜい二週間ぐらいだ。


「転移護符での移動は何回か見てるけど、やっぱりまだ慣れないなあ……」

「この国にはⅤランク冒険者が私を含めて二人しかいないからね。転移護符には欠点も多いし、何より使われ始めてまだ日が浅いから、見慣れないのは仕方ないよ」

「まあ、それもそうだね。それで、今日は王城に?」

「ああ。ちょうど予定が空いたんだ」


 カゲヤのイメージは「高潔で硬い印象のある美少女」である。この演技ロールプレイにはあまり口調を変えすぎるとボロが出るから、という意味もあるが、理由の八割はただの趣味だ。キリッとした女の子いいよね。時々可愛らしい姿を見せるとなおよし。自分()以外には見せたことないけど。


「なんかね、高位の冒険者や有名な英雄が何人も呼ばれているみたい。国内だけじゃなくて国外からも」

「へえ……。理由については伝えられているの?」

「ううん。まだ外部には伝えたくない、って言ってた。いずれ一般にも情報が来るみたいだけど、今は城内にしか事情を知っている人がいないみたい」


 ……なんだか怪しい。行かない方がいいだろうか。

 だが、せっかく数十分かけて着替えてきたのに、このまま帰るのはもったいない。他にカゲヤへの用事や依頼も入ってないから、地下室の撮影スタジオで一人撮影会ぐらいしかすることがない。


「まあ、いいか。とりあえず行ってみるよ」

「頑張ってね。あ、今度暇な時に食事にでも行かない?」

「……う、うん。予定が合えば、行ってもいいかな」



 王城につくと、城の中でも最も大きな広間に通された。

 この城には何回か訪れたことがあるが、ここに案内されたことはあまりない。

 中にはこの国の貴族や、リセプの言っていた高位の冒険者達がやってきていた。


 国内外から集めたにしては冒険者の数が少ないが、中にはこの世界の情報に疎い俺でも知っているような有名人が何人もいる。

 戦闘者のみならず、他国の重鎮であるような人間も少数ながら来ているようだ。


 広間に入ると、いくつもの視線が俺に向けられているのを感じた。

 大体は戦士としての実力を測るような目だが、中にはカゲヤの身体を舐め回すような、見るからに好色な貴族の視線もあった。その気持ちはよくわかる。めっちゃ可愛いからね。


 何人かが俺に声をかけようとしていたが、その前にこの国の王が広間にいる面々に向けて話を始めた。


「スペイディア星王国に訪れた冒険者、大使、貴族の諸君。本日君たちに集まってもらったのは他でもない。巫女姫エイシアによって災厄の誕生が確認されたからだ」


 この国、スペイディア星王国には、王家にのみ伝わる特殊な魔法が存在する。

 イメージとしては占星術、だろうか。

 星の位置や周期によって強大な魔法の発動を補助したり、特定の事象に対する未来予測を行うことができるらしい。

 そんな魔法の使い手として名高いのが、この国の第三王女、巫女姫エイシアだ。


 王は一旦間をおくと、毅然とした口調で予知の内容を伝えた。


「――二ヶ月前、新たなる魔王が生まれたことが判明した」


 ざわざわと集まった人々が声を漏らす。


「知っての通り、魔王はこの世界における最大の災厄だ。数百年前、いくつもの国が魔王によって滅ぼされ、百を超える英雄たちが散っていき、万をはるかに超える兵が死んでいった」


 魔王。

 この世界に来てから何度か聞いたことはあるが、正直おとぎ話か何かかと思っていた。

 だが、魔王とくれば多分アレだ。異世界モノに定番のアレがいるに違いない。


「だが、我が国は一ヶ月前、巫女姫の力によって魔王を唯一倒しうる勇者の召喚に成功した!」


 やっぱり勇者だった。定番中の定番だ。


 その後も、王によっていかに魔王が強力か、それを倒せる勇者がいかに心強いか、そしてそんな勇者を召喚した星王国がいかに素晴らしいかがアピールされる。


 正直、話を聞く限りではそれほど魔王が強いようには思えなかった。

 確かに白兵戦では(カゲヤ)が十人いても勝てないだろうし、魔法の一撃で敵軍を壊滅させるというのは凄まじい。並みの剣では傷さえつかず、数千度を超える竜の息吹でさえ殺しきれないなど、なるほど最大の災厄と呼ばれるだけはある。



 しかし、それぐらいなら核融合を起こすマジックアイテムでも作って落とせば塵も残さず蒸発させられる。



 流石に環境のこととか色々考えるとそんな無体なことはできないが、勇者が負けるようなことがあってもなんとかなるというのは確かだ。というか数百万度の超高熱に耐えるようなのが相手だったらもう誰が何しようがどうにもならない。

 だが、勇者に何かめちゃくちゃ強力な剣なんかを渡して、人々に大きな犠牲が出る前に瞬殺してもらうとかはいいかもしれない。

 同じ異世界人だからといって何かをしてやるつもりはないが、国に被害が出るというなら話は別だ。

 俺がそんなことを考えている間に話が終わったらしい。


「それでは……勇者コウヤ・スズキよ! 前へ!」


 どうやら勇者は日本人らしい。


 広間に現れたのは、黒髪黒目の日本人の少年だ。

 顔つきを見るに、高校生ぐらいだろうか。いかにも勇者という感じの凛々しい顔をしたイケメンで、細身ながらなかなかたくましい体つきをしている。

 もう一目でわかるぐらい勇者って感じだ。なんというかコイツがいれば何もしなくても無条件で勝ちそうなオーラがある。帰るか。


 俺がこっそり帰ろうと出入り口に近づいた時、王が大きな声で呼びかけた。


「冒険者の諸君に集まってもらったのは他でもない、勇者殿と共に魔王を討伐する旅に出る仲間を探しているのだ! 報酬は魔王討伐の名誉と、世界的に見ても最高の魔法素材である魔王の心臓だ!」


 ぴくり、と足を止めて振り返る。

 魔王の心臓。最高の魔法素材。


 欲しい、すごく欲しい。


「勇者殿の帰還は本来、星の位置が整っている一ヶ月後までしかできない。だが、魔王の心臓があれば星の位置に関わらず超大規模魔法である異世界移動を行える。勇者殿の送還に使われる魔王の心臓の余り、半分を仲間となった者に進呈しよう」


 え?

 たった半分?


「仲間の選定については――」


 王の言葉が続くが、俺はそれを遮って手をあげた。


「お待ち下さい、王様」


 半分だけしかもらえないなんて冗談じゃない。


「む? 『異界の魔剣士』カゲヤ殿か。どうしたのだね?」

「勇者殿が魔王を討伐する必要はありません。私一人で十分です」


 異様に大きいざわめきが広間に響く。


「何?」

「勇者殿は本来この世界とは何の関わりもない人間のはずです。それを命がけの戦いに駆り出すなんて、決して許されることじゃないでしょう?」

「貴様、王を咎めるつもりか!」

「一介の冒険者が、無礼な!」


 俺の言葉を聞いた聖王国の貴族たちが、声を荒げる。


「……静まれ、皆の者。カゲヤ殿、それは勇者殿と同じ異世界人としての言葉か?」

「はい。私の国は平和な所です。戦争どころか、人と争ったことすらない若者ばかりです。この世界に来る前の私もそうでした。……この一年、全てが命懸けでした。見たこともない巨大な魔物、いかに力をつけようと抗えない悲劇……。何度不条理に嘆いたかわかりません」


 必死に言葉を紡ぐ。別に核融合じゃなくても、その気になれば魔王なんてどうにでもなるのだ。今から一ヶ月ならタダでできる勇者の送還なんていう不必要な事に貴重な素材を使わせるわけにはいかない。


「私がこの世界に訪れたのは偶然です。……帰る手段もありません。ですが、今なら勇者殿を送り返せる。魔王は必ず私が倒します。どんな手段を使っても、どれだけ非道にこの身を貶そうとも」


 全力のキメ顔を王と勇者に向ける。頼む、これで落ちてくれ。最悪核融合使うから。


 今まで無言だった勇者が一歩前に出る。


「勇者殿――」

「……すいません、王様」


 勇者が王に頭を下げ、こちらに目線を向けながら宣言する。







「僕は――僕が、魔王を倒します。だから、カゲヤさんと僕の送還に魔王の心臓の全てを使って下さい」






 ……。


 …………。


 ………………は?

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