表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第二章 攻略編
19/49

そして再会から始まる新たなる戦い

二章開始です。

 家に帰ると、一年ほど前に召喚した魔人シエディアが我が物顔で寛いでいた。


 シエディアは、俺がカゲヤを作る時に手伝ってくれた女性の魔人だ。

 カゲヤはもともと、俺が酔った勢いで作ろうとしたホムンクルスの美少女だったのだが、こいつのせいで何故か俺が美少女になってしまった。まあ、今では結構楽しめているので別にいいが。


「えーっと……。うん、久しぶり。一年ぶりか? ああいや、シエディアからすると……」

「ママって呼んで」

「……お母さんからすると違うんだっけ?」

「ううん、私からしても大体一年ぶりだね、元気だった?」


 シエディアは元気そうで何よりだ。

 彼女は、インヤと一緒に作ったカゲヤを娘か何かのように思っているらしく、カゲヤに自分のことをママと呼ばせたがっている。正直よくわからないし恥ずかしいからやめてほしいが、呼ばないと拗ねるのである程度妥協している。


「元気だけど、ちょっと……いや、結構な問題が発生してる」

「へえ?」


 俺は勇者・鈴木光弥と出会ってからの事のあらましを説明する。


 光弥が俺と一緒に元の世界に帰ると言い出したこと、カゲヤが光弥より強いことを示すために戦ったが神聖魔法のせいで負けたこと、魔王は障壁塔に設置された遮断要石シャットアウターがある限り無敵なこと、その遮断要石は勇者の聖剣がなければ壊せないこと、勇者が死ななければ聖剣は使えないこと、聖剣を奪うために障壁塔に罠を張って待ち構えたが失敗したこと……。


 一通りのいきさつを聞いたシエディアは、ふむ、と頷いてこう言った。


「つまり、カゲヤちゃんがやったってバレないように勇者を半殺しにして、その後魔王をぶっ殺して、最終的に勇者だけ帰せばオッケーってこと?」

「だいぶ荒っぽい理解だけど、大体そんな感じ。話が早くて助かる」


 シエディアは結構馬鹿だが、頭が悪いわけではない。一回の説明で大体の事情を把握してくれたようだ。


 なるほどなるほど……、とつぶやきながら彼女は目を細め、歯を見せて妖艶に微笑む。


「――それで、あなたは私に何を望むのかしら? 我が叡智より産まれし娘よ――」

「あ、急にそういう雰囲気出さなくていいから。要は契約しろってことだろう? ほら、魔力ならいくらでも渡すから」

「せっかくカッコつけようとしたのに……。まあ、その通りだよ、今のままじゃ一週間も現界できないしね」

「前回は適当に魔力を込めたけど、今回はちゃんとやるよ。いくらでも持っていってくれ」

「そう? まあ、カゲヤちゃんの魔力量なら問題ないか。じゃあ、がっつり吸い取るけど大丈夫?」

「ああ、遠慮なくやっていい」


 そして、俺が了承した瞬間、何の躊躇いもなく俺の首筋に噛み付くシエディア。

 身体中から魔力が吸い取られ、背筋にぞわぞわとした感覚が走る。


「ひゃああああ!?」

一回しか受け取れ(ひっはいひはふへほへ)ないからじっとしててはいははひっほひへへへ

「おまっ、ひぅ、前の時は魔法陣に手を当てるだけだっただろ!」

こんなに大量の(ほんはひはいほうほ)魔力をちまちま受け(はほふほひはひはふへ)取ってたら日が暮れ(ほっへははひはふへ)ちゃうし(はふひ)

「ぜ、絶対半分ぐらい嘘だ! ひゃぅ、どさくさに紛れて触るなぁ!」


 一瞬突き飛ばしそうになったが、中断するともう渡せなくなるというのならそういうわけにもいかない。

 背筋に走る感覚に耐えながら、シエディアの魔力吸収が終わるのを待つ。


「……な、なあ、もういいか?」

「んー……」

「……おい、実は終わってるんだろう?」

「れろ……」

「何舐めてんだこの馬鹿!」

「へぶっ!」


 シエディアの腕を取って巴投げの要領で天井に叩きつける。


「いたた……。もう、ちょっとしたおふざけだったのに……」

「やっぱりふざけてたのか……。それで、結構な魔力を渡したけど、今回はどれぐらい地上に居れそうなんだ?」

「……どれくらいだろ? 私もこれだけ魔力を貰ったのは初めてだから、正確な期間はわからないけど……三ヶ月は確実かな?」

「それだけあれば十分だ。じゃあ、神光国の障壁塔に向かうか」

「え、神光国の障壁塔に?」

「そうだよ。何か問題でもあるのか?」

「いやー、実は……」



 死した英雄(レヴナント)のハルメーは、障壁塔の最上階で神光国の街並みを見下ろす。

 アンデッドを焼く日光が窓から差し込むのが鬱陶しいが、強化された彼には木漏れ日程度の日光など効きはしない。


「シエディア様はどこかに去ってしまったが、この力があればここから見える街全てを滅ぼすことなぞ造作もない……」


 ハルメーはかつてある国で狂戦士として恐れられた五人兄弟の四男だ。死後に死した英雄(レヴナント)となった彼らは生前以上の狂気を以て世界を蹂躙した。だが、そんな彼らと相対したのが神光国の神聖騎士だ。神聖騎士達により兄弟のうち三人が滅ぼされ、それ以降生き残ったハルメーとその兄は、神光国に復讐することだけを考えて力を蓄えていた。だが、アンデッドの彼が天敵とも言える神聖騎士を倒すのは簡単なことではない。

 そんなハルメーに魔王は力を授け、さらなる力を得る方法として魔人シエディアの召喚法さえも授けてくれた。


 ハルメーは地上に向けて巨大な魔法陣を構築する。魔王の一撃に匹敵する極大魔法が今放たれようとしていた。


「ははははは! これで憎きこの国も終わりだ! もはや私を止める者など……ッ!」


 身体に一筋の日光が当たるのを感じ、身が軽く焼かれる熱さで言葉が途切れる。

 ……どうやら、地上にある鏡か何かが日光を反射したらしい。まさかハルメーを狙ったわけではないだろうが、忌々しいことだ。


「ふん、まあいい……。この国を滅ぼした後には、闇の結界で光が届かぬように……、ッ!」


 今度は別方向から光が当たった。この程度で大きなダメージを受けるハルメーではないが、鬱陶しいのは変わりない。

 さっさと滅ぼしてくれよう、と魔法の構築を進めるが、そんなハルメーにまたも光が当たる。


「ッ、この――、ガッ、クッ、ぐぅぅ!」


 何条もの光がハルメーへと刺さる。間違いない、この光は何者かによる攻撃だ。


「忌々し――ガハッ、グッ、ッ――ええい、《深淵の帳》!」


 闇による防御結界を生み出す。さすがにこれでは極大魔法を構築することもままならない。

 一息ついたハルメーだったが、結界越しに光が煌めいているのを見る。


「だが、結界がある今、ただの日光など――何?」


 光が煌めいているのは一箇所ではない。数十、数百、数千……、否、それ以上の光が、地上どころか空中を含めたあらゆる所で煌めく。


「な、な、な……!」


 光は一点に収束し――障壁塔の最上階ごと、ハルメーを焼き尽くした。



 結論、太陽は最強。

 元の姿に戻り、仮面とロングコートを身につけた俺は、魔法の鏡を持った大量のドローン達を転移魔法陣で倉庫に帰していく。

 アルキメデスの逸話を真似た兵器だが、本来これほどの威力はない。光量を増す魔法や、異世界特有の金属があってこその力だ。


 まあ、こんなことしなくても普通に倒せたのだが、魔法以外の強力な遠距離攻撃のテストとしては丁度よかった。日光のある場所という条件はあるが、効果範囲も絞れるしなかなかいいかもしれない。だが、これだと蘇生できないほど跡形もなく蒸発させてしまう危険もある。ある程度の威力調節が課題だな。


「しっかし流石に大掛かりすぎるな……。普通に大口径の狙撃銃とか使った方がいいか? けど、物理攻撃だとエイシアの星魔法で反射されそうなんだよな……くそ、軽くでいいからレーザーの勉強とかしとくんだった」

「……インヤさんって、手加減無しだと理不尽なぐらい強いよねえ」

「あ、今は周りに誰もいないからいいけど、この格好の時はイーヤって名前だからそこのところよろしく頼む」

「はいはい。それで、障壁塔を攻略したのはいいけど、これからどうするの?」

「作戦会議だ」


 改造魔法で融解した最上階を修復するついでに、床から机と椅子を生やす。

 席について仮面を外し、シエディアと向かい合う。


「多分、前回は悪役として堂々と表に立ったのが敗因だと思うんだ」

「そうかなあ……。何か根本的に違う気がする……」

「いいや、そうだ。だから今回の作戦は単純だ――味方として、背中から刺す」

「単純すぎる……。本当にそんなので大丈夫なの?」

「実際にはもっと色々考えてるが、多分いけるはずだ。だいたい英雄の最期っていうのは味方の裏切りだからな。けど、カゲヤがそれをやるわけにはいかない。だから――」

「――私の出番、ってわけね?」


 その通りだ。俺と互角に戦えるシエディアならば強さとしても申し分ないし、どうせしばらくしたら魔界に帰るので犯罪者になっても特に問題ない。そもそも既に結構悪いことしてるっぽいし。


「いやそれは召喚者の願いを叶える、ってことで呼び出されてるんだから仕方ないじゃない。力を授けるだけで自分で手を下すことはほとんどないし。まあそこらへんは魔人によるんだけどね」

「……その辺ちょっと懸念材料だよな。殺す直前でビビったりしない?」

「あはは、インヤさんみたいなチキンと一緒にしないでよ」

「おい」

「だってどうせ生き返らせるんでしょ? けど、カゲヤちゃんと一緒にお出かけできなくなるのはちょっと困るかなぁ」

「……あとで変装用のアイテムとか作っておくよ」


 その後、シエディアと綿密な打ち合わせを行い、作戦の準備を整えた。

 前回の失敗を踏まえ、様々なプランを用意したし、障壁塔に限らず神光国の様々な場所にトラップを配置した。

 光弥の生体情報は前回の戦いで入手したので、光弥以外の人間に対して発動することはない。


 加えて、シエディアの装備を整えておく。

 素の状態でも十分強いので、ほとんど変装目的の装備だ。まあバレてもどうにかなるので、少し印象を変えるだけで十分だろう。


「ねえねえ、これどう? 頭良さそうでしょ? 似合う?」

「眼鏡かぁ……。うん、喋らなきゃ似合うぞ」

「ちょっとそれどういう意味?」


 賢者風装備、盗賊風装備、騎士風、クノイチ風、魔女、踊り子……。様々な装備コスチュームが試作されていく。人のことは言えないが、完全に遊び(コスプレ)感覚だな。

 最終的に、カゲヤと対になるような白いカラーリングの重戦士装備になった。魔人なのに神聖そうというギャップである。基本的に見栄え重視なので、重厚そうな見た目に反して防御力は皆無だ。一応魔法がかけられているが、効果としては動きやすくて着心地が良いというぐらいしかない。


 とにかく、これで、決戦の準備は整った。


 カゲヤに変身した俺は、シエディアを連れて、神光国の郊外にある光弥たちとの待ち合わせ場所に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ