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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第一章 召喚編
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この構図だと俺がヒロインみたいに見えるので本当にやめてほしい

 対人戦最強ゴーレム、アルティメットイーヤ。

 名前はまるっきり冗談だが、性能はすさまじい。

 大きさはイーヤとほとんど変わらないものの、神青銅オルハルコンの骨組みに聖白銀ミスリルのワイヤー、金剛鉄アダマンタイトの身体をベースとした超硬度、超駆動性、超魔法伝導性を持つ世界最強のゴーレムだ。

 他にも貴重な魔法素材を燃料・消耗品として大量に積んでいる。これが俺がアルティメットイーヤを動かしたくなかった理由だ。それらを抜きにしてもこいつだけで今回の出費の大半を占めている。


 俺は懐から取り出した魔法ノートパソコンで、階段を登ってくる光弥たちの様子を眺める。


『イーヤ……!』


 アルティメットイーヤの体格は俺と似せているし、ロングコートと仮面を着けさせ、フードを被らせている。いい感じに光弥たちはアルティメットイーヤを(イーヤ)と勘違いしたようだ。


 俺はアルティメットイーヤのスピーカーと繋がっているマイクに向かって叫ぶ。


「ふはははは! よく来たな、勇者たちよ! ふふふっ、大人しく聖剣を差し出していれば我も手荒なことはしなかったというのに……愚かなり、巫女姫エイシア! あのような狡い手段で我を出し抜くとはなぁ! 貴様は、我の逆鱗に触れたのだ!」


 そして、アルティメットイーヤに通信を入れる。これうっかりするとマイクを間違えそうだな。気をつけないと。


「じゃ、それっぽい演出で仮面とコートを脱ぎ捨ててくれ」

『リョウカイ』


 アルティメットイーヤ……長いな、アルイーヤでいいか。アルイーヤは全身から不気味に輝く魔力を放出し、仮面とロングコートを消し去って金属のボディを晒す。


『なっ……!? ゴーレム!?』

「これこそが我が本性! 鍛冶師イーヤ……否、鋼鉄の悪魔イーヤの真の姿である! ゆくぞぉ!」


 俺のセリフが終わると同時にアルイーヤが駆け出す。多少強引な導入だがこのへんほとんど台本用意してないのだ。勢いで誤魔化す。


 すさまじい速度の突進はもはや人間の動体視力程度では捉えられない。

 唯一反応できたのは、冒険者として豊富な戦闘経験を持つアングのみだった。人間の魔術師としては最高峰のスピードで魔法の防御を作り出す。


『《固岩の壁盾》……、がはっ!?』

『アングさんっ!』


 だが、無意味。人智を超越したアルイーヤの腕力の前では岩の壁などガラス板の如し。

 壁を突き破って金剛鉄アダマンタイトの拳がアングの腹に突き刺さり、部屋の端に飛んでいく。見た目は派手だが、衝撃で吹き飛ばして気絶させただけだ。アルイーヤの高い制動力は、人間には真似できない絶妙にして精密な手心を実現する。


『星結界――天秤座リヴの分銅ッ!』


 エイシアの星魔法によって、不可視の引力がアルイーヤにかかる。


「ふん、甘いッ!」

『――! そんな、単純な魔力放出だけで……!?』


 アルイーヤに供給する魔力を一時的に増やし、結界を吹き飛ばす。

 しかし、ほんのわずかアルイーヤの動きが止まった一瞬で、光弥は必殺技の発動準備を終えていた。


『双聖一刀・白龍剣!』


 白い一撃とともに響く轟音。カメラの映像が一瞬白く染まる。

 人間が為し得る攻撃としては最高クラスの一刀。この剣の前ではいかな鋼であっても消し飛ぶだろう。


「何かしたか?」

『無傷……!?』


 だが、それすらも無意味。凝縮された魔力を纏う金剛鉄アダマンタイトの身体は、龍の牙すら通用しない。


 アルイーヤは何事もなかったかのように高速移動でエイシアの背後へと回る。


『消え……』

「後ろだ」


 トンッ、と延髄に手刀を叩き込んだ。フィクション作品で達人がよくやるやつである。

 エイシアはその軽い一撃で気を失い、床に倒れ伏す。


 さて、後衛二人は倒れた。とはいえどちらも軽い攻撃なので、すぐに起き上がってくるだろう。

 アルイーヤは即座に光弥へと向き直り、瞬間移動を繰り返しているような超スピードで接近していく。


『っく!』

「ちっ、やはり聖剣というものは厄介だな」


 生半可な剣など叩き折るアルイーヤの拳が聖剣によって受け止められる。何で出来てるんだろうなこの剣。

 だが、数合ほど剣と拳をあわせるだけで、光弥は目に見えて精彩を欠いていく。もはや詰みは目の前――


『《土の杭》!』

「なっ!? チッ、もう目が覚めたか」


 アングの魔法によってアルイーヤの足元に段差が生み出され、軽くバランスを崩す。あいつ後衛のくせに頑丈だな。もしかしてカゲヤが何回も気絶させたから耐性がついたのか。


『コウヤ殿! 援護をし続けるから、時間を稼いでくれ!』

『でも――』

『いいから! 俺に考えがある!』


 アングがエイシアに回復薬ポーションを飲ませながら、アルイーヤに妨害のための魔法を放つ。なんでこいつはこんなに器用なんだ、数日前までこんな便利キャラだとは思ってもみなかった。


 アングと光弥による妨害重視の攻撃により、上手く攻めることができなくなる。しかし、多少妨害された程度でどうにかなるほどアルイーヤは甘くない。


「目障りだ、消えろ!」

『ぐあああああっ!』


 光弥を無視して、アングに魔力の放出をあわせた拳圧を食らわせる。光弥よりこいつの方がよほど厄介だ、流石にこれでしばらく目がさめることは――


『《牡羊座アリの使徒――天の遣いよ、かの者を我が元へ》!』

「ッ、またか!」


 エイシアの勇者召喚魔法で、光弥がエイシアの元へと転移する。


『エイシア!』

『光弥、そこに隠し階段があります! 早く――()()()()()()へ!』

「……! 貴様ッ!」

『イーヤは私が食い止めます! 《山羊座カプの貝殻》!』


 エイシアから強い魔力が放たれ、強力な斥力によってアルイーヤの身体が押し返される。

 魔力放出で魔法を消し飛ばすが、矢継ぎ早に魔法が繰り出され、なかなか進むことができない。ドンゴ三世ほどの巨体なら話は違っただろうが、等身大のアルイーヤでは展開される力場に逆らうのが難しい。


「寝ていろ、巫女姫!」

『きゃあっ!』


 拳圧を食らわせるが、斥力で相殺されたのか、気絶させるまではいかない。こんなことなら遠距離攻撃できる機能を搭載しておくんだった。

 しかし、拳圧に煽られて一瞬魔法が止まる。アルイーヤは、その隙をついて一気にエイシアへと突撃した。


 だが、エイシアへ腕を振り下ろす直前、光弥が階段から飛び降りてくる。


『はあああああっ!』

「くっ!」


 嫌な予感がして、とっさに腕で聖剣を防ぐ――


 ――が、防いだ腕は斬り飛ばされた。


「なっ……! ッ、アルティメットイーヤ、光弥の能力を解析しろ!」


 アルイーヤに通信を繋いで能力を解析させる。


―――――

鈴木光弥 男性 異世界人 16歳

聖剣術/ランク10(完全開放まであと60%→50%)

神聖魔法/ランク10(完全開放まであと60%→50%)

肉体強化/ランク10(完全開放まであと60%→50%)

魔力増大/ランク10(完全開放まであと60%→50%)

????/ランク10(完全開放まであと100%→90%)

―――――


「…………!」


 ……やられた!

 最上階に設置されていた遮断要石が破壊され、聖剣の封印が解かれている!


 遮断要石は物理的な干渉ができない。できれば拠点の倉庫にでも回収しておきたかったが、俺には移動させることができなかったのだ。


『イーヤァ!』

「この、チート野郎が……!」


 拳と剣をぶつけるが、衝撃とともに拳が潰れ、アルイーヤの身体が吹き飛ばされる。


「……クソッ! アルティメットイーヤ、魔力を過剰供給する! 全力で突撃しろ!」

『リョウカイ!』


 俺は全力でアルイーヤへと魔力を注ぎ込む。

 バチバチと紫色の魔力がアルイーヤの身体から溢れ出し、全身の部品が崩壊していく。俺の魔力には超硬度をもった金属すら耐えきれない。唯一魔法伝導性の高い聖白銀ミスリルのワイヤーのみが過剰供給された魔力に応え、今までの数倍の力を込めた駆動で光弥へと突進する。

 アルイーヤは間違いなく壊れるが、いかに力が解放された光弥であってもこの一撃を防ぐことはできないはずだ。


 カゲヤさえ粉砕するほどの超威力の攻撃を前にした光弥は、聖剣を鞘に納め、白い魔力を注ぎ込む。その魔力の輝きは今までの比ではない。金属でできた鞘にヒビが入っていき、眩い光が漏れ出している。


『《双聖一刀・白龍剣》!』


 そして、紫電を纏ったアルイーヤと、光弥の白い一撃が衝突した。











 俺は、完全に粉砕されたアルイーヤを画面越しに見ながら魔剣テイレシアスを手に取る。


「……帰るか」


 カゲヤの姿に変身し、パソコンなどを懐にしまっていく。


 何かもう、一対一じゃない戦闘でアイツに勝つのは無理な気がしてきた。つらい。


 ――だが。


「これで終わりだと思ったか?」


 俺は通信機のスイッチを入れる。


「ドンゴ二世、これが最後――プランDだ。アングとエイシアは怪我をしないようにして塔から落とす。回収しろ」

Yes,(イエス、)Ma'am(マム)

「西側から落ちていくから、上手く受け止めろよ。……俺は瓦礫の中を落ちる。落ちた後は瓦礫の中に隠れて光弥の蘇生と聖剣の回収をする。崩れ方を調整して巻き込まれないようにするから、怪我はしないはずだ」


 そして、俺は四階の床に手をつける。


「仕上げだ。《大規模改造》!」


 塔全体から凄まじい光を放つ紫電が舞い――障壁塔は、崩壊した。



 鋼鉄の悪魔イーヤを倒した僕は、息を荒らげながら膝をつく。


「はぁっ、はぁ……」


 ギリギリだった。イーヤは間違いなく、アングさんとエイシアを殺さないようにしながら戦っていた。全力で来られていれば、アングさんの機転で遮断要石を破壊できていなければ、倒れていたのは僕の方だっただろう。


 加えて、遮断要石を破壊した瞬間に溢れ出した力は、僕の手に余るものだった。あと数秒長く戦っていれば、僕の身体は無茶な駆動で動かなくなっていただろう。


「コウヤ、アングは気絶しているだけです。かなり強い衝撃を与えられたようなのでしばらくは目覚めないでしょうが、特に後遺症が残るようなこともないと思います」

「そうか、よかった……」


 エイシアには吹き飛ばされたアングさんを診てもらっていた。彼女は簡易的な治療魔術を使えるが、アングさんはまだ目を覚ますことが出来ないようだ。

 だがこれでイーヤを倒し、本来の目的である遮断要石の破壊もできた。残念ながら生け捕りは叶わなかったが……。


「コウヤ、アングを背負ってください。ドンゴも戦いで傷ついているかもしれませんし、早くいってあげましょう」

「そうだね、結構しんどいけど……。明日絶対筋肉痛だなあ……」


 そして、壁のそばにいるエイシアとアングさんのところへ行こうとした瞬間――視界が光に染め上げられる。


「何が……」「眩しいっ……!」


 光は数秒で収まった。周りを見渡すが、特に変化が起きたようには見えない。


「なんだったんだ……?」

「わかりませんが、早く離れた方が……」


 ――エイシアがそう言おうとした時、壁ごと床が崩れた。

 エイシアとアングさんをのせたまま、地上へと障壁塔の一部が落ちていく。


「きゃあああっ!?」

「エイシアっ!」


 とっさにエイシアの方へ駆け寄ろうとするが、天井から落ちてきた瓦礫に行く手を阻まれる。


「くっ! 邪魔だっ!」


 聖剣をふるって瓦礫を斬り払おうとするが、力を使い切った僕では障壁塔の硬い瓦礫を排除することはできない。


 だが、その時一陣の風が吹いた。


「ドンゴ!」

Year(イェア)


 地上から飛んできたドンゴがエイシアとアングさんを受け止める。


「ドンゴっ、早く、コウヤを! このままじゃ――」

No,(ノー、)Danger(デンジャー)

「いいから! 命令です、私のことはいいからコウヤを――」


 天井が崩れ、エイシアの姿が見えなくなる。

 障壁塔は外側から次々と崩落していき、窓が瓦礫に塞がれて飛び降りることさえできなくなる。


 このままでは崩落に巻き込まれて死ぬのは間違いない。


 だが、その時僕の頭の中に、自分の命を守るという考えはなかった。

 あったのはたった一つ。


「――影耶っ!」


 四階へ続く階段へと走る。

 瓦礫が降り注ぐが、聖剣を盾に突き進む。


「《白龍剣》!」


 階段は既に瓦礫で埋まっていたが、白い一撃で一瞬だけ隙間を作る。無茶な使い方をし続けた鞘が砕け散ったが、今はどうでもいい。


 影耶は四階の広間で立ち尽くしていた。

 周囲に瓦礫が降り注ぐ中、逃げるどころか動くことすらない。まるで生き延びることを諦めたかのようだった。

 僕がやってくるのに気づいた影耶が、こちらを向いて目を見張る。


「……なっ、光弥!? なんでこっちに――」

「――決めたんだ、君と一緒に帰るって。僕は――君が好きだから」


 そして、障壁塔が完全に崩落した。

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