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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第一章 召喚編
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相手がチートであろうとも負けられない戦い(シリアスガチバトル編)

シリアスガチバトルだけで5000字ぐらいになったのでシリアスガチバトルのシーンは全カットされました。ラブコメだから仕方ないね。

 障壁塔の階段を登っていく。

 ここには罠を設置していないので、特に警戒もせずアングと雑談しながら歩く。いや一応警戒するフリはしているが。


「……ところで、この塔って何階ぐらいあるんですかね?」

「一フロアの天井がかなり高いから、そんなに階数はないな。六階……いや、五階、だな」

「へえ、見ただけでわかるもんですか」

「あー、うん、多分それぐらいだというだけだ」


 階層の数だけで言うなら六階だが、六階は屋根裏部屋のような小さな部屋にポツンと遮断要石シャットアウターが置いてあるだけだ。


 魔王を無敵にする謎の物質、遮断要石の破壊は何度か試みた。

 だが、そもそも物質というよりエネルギーとか空間の歪みに近い物であるらしく、物理的な干渉ができなかった。恐らく強力な魔法素材を使い潰せば破壊できるが……湯水のように素材をつぎ込んだ魔剣テイレシアスでも、完全に破壊することはできないだろう。それこそ魔王の心臓でもないと無理だ。

 遮断要石を破壊する専用のアイテムを作ればいけそうな気がするが、まず間違いなく材料が集まらない。一個人がモンスターを狩って素材を集める、なんてやり方じゃ多分十年はかかる。調べてみたら星王国も聖剣作るのに数百年かけたらしいし。


 そんなことを考えているうちに、二階へと到着する。

 二階には特に何も設置していない。部屋を作る壁すらなく、天井を支えるための柱がいくつかあるだけだ。


「……何もありませんな。二階は手抜きでしょうかね?」

「はぁ、はぁ……。そ、それなら、少し休憩、していきませんか? 先程の戦闘で、魔力も、消耗しましたし……」


 見るからに階段を登ってスタミナ切れのエイシアが休憩を提案する。

 まあ、王女に冒険者並の体力があるわけもない。ある程度戦闘できるという方がそもそもおかしいのだ。光弥がチートなせいで目立ってないが、彼女も間違いなく天才チートである。

 移動用の魔法というのはあるが、星の魔法で移動に使えるのは勇者召喚などの特殊な魔法だけとのことだ。


「そうだね、もうすぐお昼時だし、軽く何か食べておいた方がいいかもしれない。最上階に行くだけでも結構時間がかかりそうだし」

「ほら、コウヤもこう言ってますし、ね?」


 腕時計を見る。……そうか、もう昼時か。この姿だと空腹にならないから時間感覚が曖昧になりやすい。

 俺も光弥のせいで気が昂ぶっていたし、一旦休憩しておくか。


「私、コウヤのためにお弁当作ってきたんですよ!」

「そうなの? ありがとう、エイシア」

「ああ、なら俺は薬草茶でも淹れましょう」


 エイシアが二人分の弁当箱を取り出し、アングも自分の弁当箱と薬草を……、ちょっと待て、アングお前めっちゃ料理上手いな。錬金術師だからか。これが錬金術師の調理能力なのか。

 魔法で生み出した水を魔法の炎で沸かしながら薬草をすり潰して錬金術で加工する、ということを同時に行っているアングに驚いていると、露骨に光弥とエイシアがイチャつき始める。


「あ、あの、コウヤ。私、お弁当作ってきたので、『あーん』ってやってほしいな、って……」

「いいよ。はい、あーん」


 飯食わなくてももう満腹だな。


「影耶は食べないの?」

「私は昼は抜くタイプなんだ」

「前に夜は抜くタイプって言ってなかった?」


 ……そういえば宿でそんなこと言った覚えがある。


「……今日は昼を抜きたい気分だから」

「規則正しい食事をしないと良くないよ、はい」


 そう言いつつ、光弥がミートボールっぽい料理を俺の前に差し出してくる。なんとなく察していたがやはりこういう流れになるのか。この世界はなんて理不尽なんだ。今までだらだらと異世界生活を送ってきた罰だとでもいうのか。

 しかも光弥は箸でミートボールを差し出してきた。フォークとかで差し出してくれればフォークごと受け取れたのに。ファンタジー世界で箸なんて使ってんじゃねえ。


「……アング、小皿か何かないか」

「薬草茶淹れるために使ってます。そのまま食べればいいじゃないですか」


 嫌に決まってるだろ。感情的にもキャラ的にも。俺に取っちゃ男にあーんされるとか普通に罰ゲームだし、カゲヤちゃんはあーんとかされる子じゃないんだぞ。

 そこで、エイシアが不満そうな顔をしていることに気づく。……よし、これだ。


「……私はその料理より、王女様の弁当箱に入っている串に刺さった料理が食べたい」

「え、けど――」

「いいですよカゲヤ! はい、どうぞ!」


 エイシアが間に割り込んで料理を差し出してくる。俺はそれを串ごと受け取ってゆっくりと食べた。


 最初は何のためについて来たんだと思ったが、エイシアがいなければこういったイベントが多発していたであろうことは間違いない。すごく助かる。

 そんな感じで隙あらばラブコメ系イベントを発動させようとしてくる光弥をいなしつつ、俺たちは休憩を終えたのだった。



「三階は……迷宮かな?」

「そんな感じですね」


 三階は通路を多くしてある。とはいっても、別に迷うような作りじゃない。これは、プランBを発動させるための布石の一つなのだ。

 罠らしい罠も置いていないので、特に問題もなく四階への階段の方に向かう。


「何があるかと思ったけど、意外とすんなり来れたね」

「油断するのはよくないですよ、コウヤ。戦力を一箇所に集中させるのは戦いの基本ですし、最上階に全ての戦力を用意しているのかもしれません」


 エイシアがそんなことを言う。やはりこの王女様は優秀である。


 階段の方に進むにつれて段々と通路が狭くなっていく。

 自然と俺達は一列になっていく。さり気なく光弥たちの様子を伺うが、特に警戒心を抱いているようには見えない。


 俺は懐に入れたトラップ発動機を、ボタンの順番を確かめながら押していく。だが、一番大きなボタンは指で抑えるだけでまだ押さない。

 そして、事前に刻んでおいた小さな目印を光弥が踏んだ瞬間を見計らい、大きなボタンを押した。


 ――ガコン! という大きな音を立てて、床に四つの落とし穴が開く。


「っ!?」「なっ……」


 光弥とアングはとっさに飛び退こうとするが、全面に油を塗っておいた通路と壁面はそれを許さない。

 エイシアは反応することもできず、そして俺は特に反応することなく落ちていく。


「《瞬間着替え》、《初期化》」


 スロープのようになった穴の中を落ちながら、俺は身体を戻し、イーヤへと変装する。穴はそれぞれ別の場所に繋がっているのでそれを見られることはない。アングとエイシアは隠し部屋の牢獄へ。光弥は二階へ。そして俺は二階と三階をつなぐ階段へ。


 階段の踊り場へ着地する。そこそこ高い所から落ちたせいで足めっちゃ痛い。カゲヤの状態で着地してから元の姿に戻るべきだった。


「っく……。まさか、落とし穴なんて単純な罠で……」


 階段の向こうの光弥の声を聞きながら、俺は階段を降りて――光弥と一対一で相対した。


「……イーヤ!」

「ははははは! 言っただろう、我の目的はお前の聖剣のみだと!」


 ――戦力を一箇所に集中させるのが戦いの基本であるならば、戦力を分散させての各個撃破もまた基本だ。


 誰にも気を遣う必要のないこの状況でこそ、俺は全力を出せる。

 魔剣士カゲヤでも、錬金術師インヤでも、鍛冶師イーヤでもない。


 ――チート能力者、佐藤陰矢としての全力を。



 コツリ、コツリという足音が響き、階段から仮面の男が降りてくる。


「……イーヤ!」

「ははははは! 言っただろう、我の目的はお前の聖剣のみだと!」


 僕を見たイーヤはオーバーな動きでマントを翻し、高笑いを上げる。


「他の者たちは無事だ。お前が聖剣を差し出せば、すぐにでも解放してやる」

「……聖剣には魔法の契約がある。仮に渡したとしても、お前には使えないぞ」

「ふん、私は鍛冶師だぞ? 剣を改造することなど造作もない」


 たとえそうだとしても、聖剣は渡せない。仮にこいつが聖剣を使って魔王を倒したとしても、僕が魔王の心臓を得なければ、元の世界に帰ることは――


「ああ、我が魔王を倒した時には、魔王の心臓を使ってお前を帰してやる」

「――何?」

「聖剣を譲り渡してもらう礼だ。もっとも、心臓の半分は我がいただくがな」

「……それは、ダメだ。――僕は、影耶と一緒に、元の世界に帰る」


 一瞬、イーヤが動きを止める。……そして、疲れたようにため息をついた。

 その仕草からは、先ほどまでの少し演技臭い態度が消えているように見えた。


 まるで普通の人間になったようなイーヤが、僕に語りかける。


「影耶と一緒に、ね……。それは本気か? 自慢じゃないが、俺に任せれば絶対に魔王を倒せる。この世の誰よりも早く、誰よりも確実な手段で、誰よりも犠牲を出さずにな。……幸運にも、まだ魔王は本格的に動くことはできない。お前がやったとしても、大きな被害が出る前に倒せるだろうが……。何故わざわざたった一人の、何も知らない女性のために戦おうとする? 勇者と呼ばれてはいるが、お前だってただの一般人だろう?」

「……お前の言う通りだ、僕は勇者なんて器じゃない。けど――僕は、鈴木光弥は、一人の人間として彼女を救いたいんだ」

「……ん、んんなるほど。だが、彼女はそれを望んでいるのか? お前の独りよがりの正義感でカゲヤを元の世界に帰したとして、それで――」

「違う」


 イーヤの言葉を遮る。

 そして僕は、彼女と出会ったあの日からずっと抱いていた気持ちを口にする。


「彼女を帰したいのは――僕が、影耶を好きだからだ。正義感なんかじゃない。ただ、彼女と共に生きたいから……僕が、僕自身の手で、魔王を倒して、影耶と一緒に元の世界へと帰ってみせる」


 それを聞いたイーヤは、ゆっくりと天を仰いだ。そして、仮面の上から顔を抑える。

 そして、肩をすくめて僕へと問う。


「……そう、か。……独りよがりであることは否定しないのか?」

「ああ、この気持ちは絶対に譲れない。たとえ、彼女自身に望まれなくたって」

「……ふ、ふふふふふ、ふはははは!!」


 まるでヤケクソのような高笑いを上げ、イーヤがこちらへと向き直る。

 仮面を着け直したイーヤは、元の態度に戻って決闘の口上を言い放つ。


「いいだろう! 我は我にとって譲れないもののために! 貴様は貴様にとって譲れないもののために! 今、この場で決着をつけよう! 正義も悪も、勇者も魔王も関係ない、ただ自身の願いを貫くためにな!」

「ああ、来い!」


 イーヤから紫電が溢れ、僕の聖剣が光に煌き――戦いが始まった。



 そして、俺は光弥に勝った。


 なんだよもうこいつ、ガチ恋とかホント勘弁だわ――とか思いつつ、光弥の元に歩いていく。

 死んではいないが、気絶しているのは間違いないようだ。


「まあ、いくら光弥が強いって言っても、年季が違うからなあ……」


 俺がこの世界にきてもう三年が経つ。流石に異世界にきて一ヶ月ちょっとの相手じゃ負けようがない。なんで今までこいつにいいようにされてきたんだろうな。不思議だ。

 だが、光弥は確かに強かった。ロボやら麻酔銃やら追尾ミサイルやら毒ガスやらの無体な兵器を使わなければ、それなりに時間がかかったことだろう。


「一応、この戦いの記憶だけ消しとくか。《精神改造》」


 この魔法はあまり使いたくないが、直近数分の記憶をいじるだけなので許してほしい。


 ともかく、これで全ての勝利条件を達成した。俺は光弥をボコれて、聖剣を手に入れ、カゲヤのイメージは下がらない。完璧だ。


 周囲の目さえなければざっとこんなもんだ。アングとエイシアを閉じ込めた牢獄は魔法抵抗の高い材質で作ったし、もはや俺を邪魔するものは何もない。

 あとは聖剣を改造するだけだ。


 俺は、光弥が握ったままの聖剣に手を伸ばす。












 ――そしてその瞬間、聖剣が消えた。






「は?」


 いや、聖剣だけじゃない。光弥も消えている。


 あたりを見渡すが、誰もいない。


 超スピードで光弥を連れて逃げ去ったのか? いや、今のは超スピードどころか、転移のような現象だった。だが、光弥に転移魔法は使えないし、そもそも確実に意識を失って――


「あ――」


 ――光弥は異世界に召喚されて一ヶ月ちょっと。

 つまり、始めてあったあの日から、()()()()()()()()()()()


「エイシアの、勇者召喚魔法か……!」


 一ヶ月経って星の並びが崩れる前ならば、魔王の心臓なしで勇者を召喚・送還できる。


 やられた。

 魔法で破壊できない牢獄に閉じ込めて、完全に無力化したつもりでいた。まさかこんな芸当が可能とは。


 もはや完全にプランBは破綻した。


「仕方ない……」


 俺は懐からリモコンを取り出し、通信ボタンを押す。

 通信先は、最上階にいるゴーレム。


『御用デショウカ、サー』

「ああ。お前を使うつもりはなかったんだが……。――出番だ、アルティメットイーヤ。最上階で待機しててくれ」

『リョウカイ』


 多数の戦力を集中させるプランAも、敵の戦力を分散させるプランBも失敗した。


 ならば――、一個の圧倒的超戦力で、真正面から全ての敵を殲滅する。


「《自己改造》、《瞬間着替え》……。……とりあえず、急いで三階の隠し部屋に行かないとな。今から牢獄作ってそこに入らなきゃ……」


 カゲヤに変身して胸の谷間にリモコンを隠しつつ、俺は階段へと走っていった。

コウヤ:仲間がいると強い

インヤ:ぼっちの方が強い

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