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僕らの村のコワガミサマ  作者: 津月あおい
プロローグ 何気ない日々の終わり
1/39

ジュン姉が見つけた砂金

 0401/11:30/ジュン姉/足下ヶ浜

 ――僕は、あの人以外に友達を作ることはしない。


 この思いは、わりと何年も持ちつづけている。

 学期はじめのざわつく教室内。

 始業式が行われた体育館。

 どこでもこの日、僕はずっと黙っていた。


 HRが終わったら、速攻で駐輪場に向かう。

 じいちゃんのお古の自転車。これにまたがって、遠い遠い自宅を目指す。

 学校がある「貝瀬(かいせ)市」という港町から、山を一つ隔てた先の「境雲(きょううん)村」へ。

 海岸沿いのいくつもの坂とカーブを越え、また下っていく。


「はあ、はあっ……」


 村の入り口にある「足下ヶ浜(あしげがはま)」へ着くころには、もうかなり息があがっていた。

 ちなみに、ここまで三十分強もかかっている。

 死にそうな思いをしながら砂浜までやってくると、ふとそこにジュン姉の姿を見つけた。最後の気力を振りしぼって声を出す。


「おーい、ジュン姉!」


 すると、ジュン姉はくるりと振り返った。


「あ、リュー君! おかえり」


 にぱっ、という擬音がぴったり合うような、無邪気な笑顔だった。けど、ジュン姉はあれでも僕より五歳年上だ。

 美人で巨乳で、ちょっとだけ抜けてるカンジの隣の家のお姉さん……それが「ジュン姉」だった。


「ただいま。なにしてんの?」


 自転車を停めながらそう訊くと、ジュン姉は左手の上にある物をひとつつまみあげた。


「ふっふっふ……これ!」

「ん?」

「綺麗でしょ?」


 そう言って、目の前に淡い水色の物体がかざされる。

 それは……たしか「シーグラス」というやつだった。ガラス瓶などのかけらが、波で何度も洗われて角が取れたもの。


「うん。たしかに……綺麗だね。でも、なに? どうして集めてんの?」

「えっとねー、なんか綺麗なものが落ちてるなーって見てたら、いつのまにか集めてたの!」

「あ、そう……」


 いつものことだ。

 ジュン姉はあまり深く物事を考えない。今回も気の向くまま散歩していたら、いつのまにか「こう」なっていたのだろう。


「あ、リュー君。そういえば中学三年生、になったんだよね?」

「ああ、まあね……」


 なんとなく気恥ずかしくて、頭を掻く。

 

「ふーん。いやあ、大きくなったねえ。あ、そうだ。あとこっちもね、見て。もっと綺麗なの!」


 そう言ってジュン姉は別のかけらを見せてくる。今度は水色ではなく……「金色」だった。

 え? 金、色?


「ジュン姉、こ、これどうしたの?」

「ん? 拾ったんだよ、その辺で」


 そう言って砂浜の一角を指し示す。

 それはシーグラスよりはかなり小さな、豆つぶくらいの大きさのものだった。

 でも、見たことのない輝きをしている。


「まさか……こ、これって『金』?」

「え? キン、ってあの金? まさかー。あ、でもすっごいキラキラしてるよね! 綺麗~」


 そう言って、ジュン姉は嬉しそうにそれを見つめた。

 村の北側にはかつて金山があった、と前に母さんから聞いたことがある。今でもたまに砂金が川で採れるらしい。けど……こんなに大きなつぶが見つかるのは衝撃だった。


 見たところ、メッキのような安っぽい感じは見受けられない。

 これは、売ったらかなりの額になるんじゃないだろうか。


「ジュン姉、それかなり『レア』だよ」


 意味ありげにそう言うと、ジュン姉は急に瞳をキラキラさせはじめた。


「レア? レアか……。すごい! わたし知らない間にレアアイテムをゲットしちゃってたんだ!? いやー、やったー!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、ジュン姉は砂浜から道路の方へと猛ダッシュで走り出す。


「は? えっ。あっ、ちょっと待って! ジュン姉、危ないって!!」


 幸い車は左右どちらからも来ていなかったけれど、僕はあわてて自転車に乗った。

 ジュン姉は、かなり足が速い。

 引きこもりの癖に、運動能力はばつぐんなのだ。


 長い髪を振り乱しながら、その姿はあっという間に遠ざかっていく。そして、突然右腕だけをぶんぶんと振り回しはじめた。


「え? なに……何してんの?」

「これはっ、いらっなーい!!」


 そんなことを叫びながら、ジュン姉は何かを海の方へと放り投げる。


「えっ!? ちょっ……!」


 それは、どうもさっきのシーグラスのようだった。

 水色とか、緑色、茶色の破片が、弧を描いて次々と海へと飛んでいく。

 まさかさっきのでかい砂金も捨てようとしている? そこに思い至った僕はジュン姉の手元を大急ぎで確認しにいった。


「じゅ、ジュン姉っ!」


 追いつくと、それだけはちゃんとジュン姉の左手に収まっていた。

 思わずホッと胸を撫で下ろす。

 あれ、僕なんでいまホッとしたんだろう? あれは僕のものじゃないのに……。

 そう思ったけど、途中でジュン姉に話しかけられてその考えを止めてしまった。


「あっ、ねえリュー君。早くおうち戻ろ? 帰って、リュー君のおうちでゲームしよ!」

「……あ、うん」


 あいまいに頷くと、僕たちは境雲村の中心部へと向かったのだった。

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