4話
ギィイイン!!
剣と剣がぶつかり合い、耳障りな音をたてる。
「オラオラぁ!そんなモンかぁ!?」
つばぜり合いのままの姿勢でそう罵る騎士団の男。
力の検査を終えてから三日が過ぎた。
結果は『力はあるが眠っている』という物だった。まぁ自分に目に見える形での力なんてないのは自分が一番わかってる事だ。眠っている力というのもオブラートに包んで俺に告げただけの事だろう。
そして俺は戦うための訓練を始めた。剣の持ち方から始まり、どう振るか、どう切るかを経て実践的な訓練に移行している段階だ。
……正直手を抜きながらの訓練ってのも色々大変だったりするが、それはそれで自分の訓練にはなる。
何が大変って、無意識に相手の攻撃に反応しそうになる身体を相手にバレない様に程々に反応させるってのがなぁ。
本気を出せばリジィナ辺りが喜んでいいように使おうとするだろうし。それにこちらの世界の剣の実力も探れたり。
「そんなに死にたいなら実戦に出る前に俺が殺してやるぞ!!」
そう吠えるクリーグ。
こいつら基本鎧や盾頼りの動きをするから、倒すのはそう難しい事じゃない。八方目も知らない様だし……
しかし、刀と剣の違いや、鎧への対応など学ぶ事は多い。剣道の様に特定部位しか狙わない武道とはやはり実戦で磨かれただけあって汚さが違う。そういう部分を学ぶ必要があるからな。
クリーグの突きを剣で流すが、そのまま膝が腹に飛んで来る。ほんの少しだけ蹴りに合わせてステップバックする。当たると同時にこんなもんか……と見当を付けた勢いで後ろに吹き飛び、壁にぶち当たって苦しげに呻いて力を抜く。
「まだまだまともにゃ闘えんか。まぁまだ三日だしこれでも上出来か」
「……ありが…とう……ございました」
苦しい息をしながらそう言う。実際には大したダメージはないがな。
「そうそう。明日からはお前の担当が代わるからな。俺は交代で森に行かなきゃならん。……同情するぜ」
?
「アバラの一本や二本は覚悟しといた方がいいぞ。じゃあな」
つまり今まで森に行ってた連中と交代するって事か?クリーグじゃ物足りない所だったからちょうどいいか。
次の日。
訓練所で新しい担当を待つ俺の前に現れたのは……
全身を真っ黒な毛に覆われた二足歩行する猫だった。
……
猫だ。
俺の身長175よりは低いが、160くらいはあるか?
直立したデカい黒猫がちゃんと騎士団の制服を着て、装備も整えている。
こちらの世界へ来て初めて呆然としていると
「はじめまして。アーフェルト瑠璃騎士団副団長をしているエスティア・ミースだ。君の訓練担当を拝命した。よろしく」
声からすると女性……か?
しかし、話した内容はともかく、声のトーンや吐き捨てる様な話し方を聞く限り明らかに不機嫌だ。
……俺なんかしたか?
「何をしている?さっさと準備してくれないか?それとも私の様な者とは訓練できないのか?」
「『私の様な者』とは?」
敢えてとぼけてみせると
「貴様は目が悪いようだな。団長には全くの役立たずと報告するしかなさそうだ」
「私は異世界人ですよ?あなた方の常識はわからないもので」
顔がまるっきり猫なだけに、表情から感情を読み取るのは難しそうだが……よく見ると長い尻尾が大きく揺れて、自らの足をぺしぺし叩いている。
お怒りだなぁ。
「フン。訓練を受ける気はあるんだな?ならば時間がもったいないとは思わんのか!」
言われた通りにとっとと準備を終らせて、訓練場に剣を持って立つ。
「剣を教えるつもりは無い。身体で覚えてもらう」
そう言うが早いか、もう剣が首筋に迫っている。反射的に剣を立てながら斜め後ろにに跳び退る。やべ手加減する余裕ないぞ!?
「ほう。報告と違うな?今まで手を抜いていたという事か。天下の瑠璃騎士団員がなめられたものだ」
それからは嵐の様な攻撃に晒されっぱなしだった。なんとか急所は外せたが……全身くまなく痛い。ただ……瞬発力はあっても持久力はそうでもないようだ。本気でやらなければいけない時は、その辺がつけ込む隙になりそうだ。
「それが貴様の本気か。そこそこ楽しめそうだ」
そう言い残し、背中を向けるエスティア。
「明日もこの刻に。……まだやる気があるのならな」
振り返り、明らかな冷笑を浮かべながら、そう言い残し歩み去る。
……まぁ全力を出してると勘違いしてくれてありがたいとは思うが。
しかしどうしたんだこの身体は。元の身体の二割……いや三割増しに全てが底上げされている感じだ。これが眠っている力なのか?
……うん。まぁ違うわな。この程度の身体能力ならおそらくエスティア並か少しだけ上って所だろう。これで『獣』に立ち向かうなんて無謀にも程がある。簡単に誰かに殺される事はないだろうがな。