3話
「それで今現在の状況は?」
「猟師の証言では、森の奥へと入っていったとの事。今の所直接的な被害はございませんが……ケルベロスが出現した事が噂という形で他国にも伝わっています」
実害ないならほっといてやれよ。
「境界には監視を付けて、どのような事態になっても連絡だけは入る様な体制を整えています。何と言っても、二百年前一国を単独で滅亡させた存在です。我が国の民にも不安が広がっており、国を棄てようとする者まで現れる始末で」
そんなモン俺にどうにかしろって言うのか。無茶過ぎるだろうよ全く。
「勇者と呼ばれる方々には、様々な力が備わっています。ダイジュ様にもきっとその力がある筈です。どうか私達の国をお救い下さいませ。そのための協力は惜しみません。お願い致します」
「余からも頼む。我が国を守って欲しい」
「……どうすればいいのですか?」
「おお!その気になってくれたか!」
「……何が出来るかわかりませんが、私に何か出来るのであれば」
「ありがとうございますダイジュ様!」
「……具体的にはどうすれば」
「まずはダイジュ様がどのような力をお持ちか確かめようと思います。それから戦うための訓練を受けていただきます。それでよろしいでしょうか?」
もうとっくに道筋は出来上がっているんだな。
「はい。よろしくお願いします」
「では早速確かめに参りましょう。よろしいですねお父様?」
「よい。如何程の時が残されているのかもわからんのだ。では勇者殿。よろしく頼むぞ」
「わかりました。やってみます」
「ではダイジュ様こちらへ。失礼致しますお父様」
「うむ」
退出の挨拶を交わし、部屋を出る。
それでこれから何処に?
「これから試しの魔石を使わせていただきます。」
そう言って歩き出すリジィナ。
さっき言ってた力を確かめるってヤツか。
「その先の事は、試しが終わってから考えたいと思います。まずはダイジュ様の力の方向性を確かめないと……」
力……ねぇ。
ある前提で話をしているが、なかった時は処分される可能性がある……というか多分されるだろうな。今まで極力他人の目に俺をさらさない様にしていた所を見ると。
見せてなけりゃ隠密理に処分出来るからなぁ。国中が獣の出現で不安になっているこの状況で、俺の存在を隠す理由なんてそのくらいしかないだろうし。
程なく着いた部屋の扉を開けさせるリジィナ。
「父の許可が出ました。準備は終わっていますね?」
中にいるローブを着た幾人かにそう声をかける。
部屋の中心部には、ぼんやりと乳白色に光る石の集合体が鎮座している。そこから四方八方に伸びるコードは部屋の隅の暗さで先がどうなっているかはわからない。
「ダイジュ様。こちらの石に両手で触れていただけますか?そしてそのままでしばらくお待ち下さい。」
言われた通りにひんやりする石に両手を置き、周りを何となく見回す。
しばらくすると、バタバタしていた人達がセッティングを終えたようで、それぞれ配置についたような雰囲気がする。
「では始めます。ダイジュ様は気を楽になさっていてください。」
リジィナのその一言で、俺の触っている石が乳白色から段々白く輝き出す。まぶしくて目をつぶっているとリジィナの声で
「終わりました。もう手を離されて結構ですよ」
「結果はどうなりましたか?」
「すぐにはわかりません。石に記憶させたダイジュ様の力を分析するのにしばらく時間が掛かるのです」
石を見ると、細かく分かれている石の一つ一つが様々な色に輝いている。
「その石単体の色だけではなく、隣り合った石の色とも関係してくるので、分析が終わるまで丸一日程かかるでしょう」
その辺を目処に、俺がどうなるかが決まるって事か。
「わかり次第お伝えしますので、それまでお部屋でごゆっくりなさってください」
「わかりました。この状況で何もできないという事は、かなり焦りを感じるのですが……俺の力がどういうモノかがわからないとどうしようもないという事も理解しています。申し訳ありませんが、部屋でじっとしておきます」
「この国の事を慮っていただき感謝致します。ダイジュ様の力の詳細がわかりましたら、早速動いていただきますので、休める内に休んで下さい」
その言葉で、扉の横で控えていた侍女が動き出し、護衛(という名の見張り)と共に俺をこの部屋から連れ出す。
部屋を出る時に振り返ると、石の周りに集まり、激しく討論する研究者(?)とリジィナが見えた。
――――――――――
「かなり複雑な色彩ね。私達の求める力はあるのかしら?」
「判断が相当難しい所です。飛び抜けた力という物は認められませんが……しかし潜在的に眠っている可能性もあるもので」
「……簡単に役立たずとは言い切れないという事ね。全く厄介な。次の勇者を呼べないじゃない」
「当面力があると仮定して訓練を行い、その結果で判断なさるのがよろしいかと」
「しょうがないわね。判断に迷ったらそのまま『獣』にぶつけるという手もあるし」
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