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1話

……


…うし…ま……


……勇者様……


軽いめまいと共に覚醒する。


「お目覚めですか勇者様」


そこには。


ただの巫女と言うには多少……というかかなり存在感のある女性が座っていた。

銀色に輝くティアラには、かなり大ぶりな真紅の石を中心に、ダイヤらしき石が散りばめてある。


金髪碧眼。誰が見ても美少女と認めるだろう容姿。

ゆったりとした光沢のあるシルクっぽい服がむしろ女性として理想的な身体のラインを強調しているよう。


周りを見回すと、薄暗い部屋の中、壁に紋章の入った盾とクロスさせた剣が飾ってあり、その両脇にふたりの女性が立っている。侍女だろうか……声をかけてきた女性とは明らかに着ている服のレベルが違う。


「初めまして勇者様。わたくしはこの国の王女のリジィナ・イル・ガイラーと申します。この度は、私達の願いに応えて頂き、有難うございます。どうぞ私達の国をお救い下さいませ」


鈴のような声でそう俺に話す姿に。

非の打ちようもないその言葉に。


何故か違和感を抱いてしまう。


「勇者様には我が父である国王から国としての依頼をお願いしたいとの言葉を預かっております。

しかし今すぐというのも気持ちの整理がついておられないのでは?落ち着くまでごゆっくりなされた方がよろしいかと。どうぞこちらへ」

「ちょっと待って……下さい」

「何でしょうか?」

「ここは一体?何故俺はこんな所に?」

「それも含めて部屋で御説明致します。このような殺風景な場所よりは落ち着かれるのでは?」


確かにこの女性……リジィナの言う通りにこの場所は何もない。薄暗い上にじっとりと熱気のこもった空気もどことなく(よど)んだ感じがする。

しかし一番の問題は……どう考えてもここは日本ではないという事だ。何も無いとはいえ、周りの壁の風化具合や、燭台の使い込まれた感じなど、この場所で僅かに得られる情報からも何らかの理由で作られたセットとは到底思えない。歴史の創り上げた重みとでも言うべきか……


しかし。

この女性の言う事を簡単に聞く気にどうしてもなれない。


俺は人の性格は顔に出ると思ってきたし、それが自分にとって間違った判断だった事はないと言い切ってもいい。それが一番表に出やすい部分。それは……


眼だ。

澄んだ瞳をしていても、その中に(にご)りがほんの少し透けて見える。

おそらく自分の顔の印象を最大限に引き出す演技を続けてきたのだろう。


しかし……

俺が目覚めた瞬間の彼女の瞳には。


明らかな侮蔑と共に、害虫を見る様な色が見えた。


すぐに清純そうな仮面に隠されたが、おそらくあれが本性。

ならば……


こちらも『仮面』を(かぶ)るだけの事。

今までと何も変わらない。


いつもの事だ。


「よろしいでしょうか?ではこちらへ」


部屋から出ても薄暗さは変わらない。窓もないという事はここは地下か?


しばらく歩くとアンティークなアコーディオン式の扉の中に箱状のものが見えるエレベーター?がある場所にたどり着く。

扉を開きながら


「どうぞお乗り下さい」


俺を先頭に部屋にいた全員で乗り込む。エレベーターなら階数ボタンのある所に虹色に光る丸い石が埋め込まれている。

そこに侍女らしきひとりが手を当てると、かすかな振動と共に上昇する感覚が。


すぐに停止する感覚があり、再び扉が開かれる。


「こちらへ」


どうやらエレベーター(?)直通の部屋らしい。

ここには窓があり、そこから見える外の景色はすでに夕暮れ。

窓の近くにテーブルがあり、そこにお茶の支度がされてある。

勧められるままに腰掛けると、侍女がお茶を注いでくれる。

紅茶っぽい味のするお茶を飲みながら、窓の外を眺める。


外に見える景色は、遠くにそこそこの標高のある山脈と、裾野から広がる広大な森。人の暮らすような建物は全くない。

窓の外の柵も手の込んだ細工がしてあるが……


ここは牢獄だ。


窓はひとつ。見える景色からは地元の人でなければ地理も判らず、何の情報も読み取れない。


「少しは落ち着かれましたか?よろしければ御説明をさせていただきたいのですが」

とリジィナ。

「まだ多少混乱していますが……お話をお聞かせいただけますか?」

「はい。まずはお名前をお聞かせ下さい。」

「失礼しました。斉藤大樹……ダイジュ・サイトウと申します。」

「ダイジュ……様。ダイジュ様は私達が行った勇者召喚の儀式により、ここ……アーフェルト王国に来ていただきました。」

「何故俺が?」

「有り体に言えば『私達の求める条件に合致した』という事です。そちらの都合を考慮できなかったのは申し訳ないと思っていますが……私達にはその余裕がないのです。」

「どういう事でしょう?」

「今この国は『触れえざる獣』の脅威にさらされています。このままでは我が国は……」

「その『触れえざる獣』を俺に倒せと?」

「その力を持つのはダイジュ様のような勇者だけと言われています。是非ともこの国をお救い下さい」

「しかし……俺は元の世界ではただの一般人です。戦いの経験はありませんよ?」

「幸いな事に、まだ多少の時間の余裕がございます。その時間を使って、ダイジュ様には訓練を受けていただきます。勇者であるダイジュ様であればきっと大丈夫ですよ」


にこやかな笑みを浮かべるリジィナ。


「ならいいのですが……」

「今日の所はこの話はこれくらいにしましょう。今宵はゆっくりこの部屋でおやすみ下さい。明日からは忙しくなると思いますので……」

「ありがとうございます。正直色々あり過ぎて……」

「お察し致します。ひとり残しておきますので、御用の際は遠慮なく御申し付け下さい。では失礼致します」


そう言い残し、リジィナともう1人の侍女は部屋を出ていった。

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