背中を押して
アンリ様主催の企画「恋に身を焦がす夏」参加作品です。
R15は保険です。
「齋藤真理さん、好きです。俺と付き合ってください」
「あ、あたしも、桜井君のこと……あの、よろしくお願いします」
高校時代からいいなと思っていた桜井亮介から告白されたのは、つい1か月ほど前。
切っ掛けは、ゴールデンウイークに、母校の女子バレー部の練習に差し入れに行ったことだった。
練習後、後輩の桜井香奈とファミレスでお茶することになり、話の流れでぽろっと
「そういや、香奈のお兄さん、同じ大学なんだよね。学食でたまに見かけるよ」
なんて言ったのが始まりで。
「先輩、兄貴の顔なんて覚えてたんですか? だって、先輩と違って、うちの兄貴なんて、地味で目立たないでしょ?」
確かに桜井君は、パッと見、目立つ方じゃない。でも…
「そりゃ、見た目は地味かもしんないけどさ、レギュラーだし試合でも活躍してたし、目立たないってことはないんじゃない?」
「え、だって、活躍ったって、スパイク決めるのは真壁先輩だし、兄貴なんて…」
ああ、格好良くスパイク決めてもらいたいんだ、妹としては。
「でもさ、真壁君がスパイク決められるのだって、桜井君がいいところにボール上げてるからじゃん。
どこを狙うべきかとか、どこがブロック薄いとか、真壁君がどこ跳ぶかとか、全部一瞬で計算してボール上げる位置決めて、狙いどおりに上げるんだよ。
縁の下の力持ちじゃない? 十分格好いいと思うけどな、あたしは」
そう、彼は、試合以外でも、周囲に気を配って部内の人間関係を円滑にしてた。
エースアタッカーの真壁君がご多分に漏れず俺様君だったのに、浮くこともなくチームワークが取れてたのも、桜井君がうまくまとめてたからだ。
「格好いいですか?」
「格好いいよぉ!」
「…じゃあ、兄貴と付き合ってもいいとか、思います?」
「え?」
「そうですよね、思いませんよね」
「ちょっとちょっと! 何、今のどういうこと? 桜井君、あたしのこと、何か言ってたの!?」
彼が、あたしのこと気にしてくれてる?
「特に何か言ってたとかいうわけじゃないんですけど。
あたしの勘なんですけどね、多分、兄貴って、高校の頃、先輩のこと好きだったんじゃないかなぁって。
もし、先輩が兄貴でいいなら…」
「あの! お、お願いしていいかな?」
「わかりました。
兄貴なら、多分大丈夫です。でも、ちょっと時間くださいね」
「うまくいったら、お礼に何か奢るから!」
「期待してます」
7月に入る頃、待ちに待った香奈からの連絡があった。
そして、あたしは桜井君…亮介と付き合い始めた。
8月に入り、何度かデートしたけど、亮介は紳士というか、草食系だった。
さすがにキスはしたけど、そこから先に進もうとしない。
あたしを大事にしてくれてるのはわかるんだけど、そろそろ手を出してきてほしい。
それとも、津島先輩のことを気にしてる?
…あたしは高1の頃、男子バスケット部の津島先輩と付き合ってた。
結局、先輩が卒業して、自然消滅みたいな感じで別れちゃったけど、亮介は多分そのことを知ってる。
あたしが処女じゃないのを知ってるから、かも。
もし、そうでないなら。
明日こそ、亮介と…。
亮介が親から借りた車を運転して、海に遊びに行った。
その帰り道。
「ね、亮介。あたしのこと、ほんとに好き?」
「なんで? 俺、何か疑われるようなことした?」
「キスしかしてくんないから。ちょっと不安。
高1ん時のこと、知ってるからかなって」
「男バスの? 知ってるけど、別にそんなの気にしてないよ」
「じゃあ、なんで?」
「一応、俺なりに大事にしてるつもりだったんだけど」
手を出さないのが大事にしてることとは限んないんだから。
「ね…。今日、お願い…」
「…わかった」
帰り道沿いのホテルに入って。
あたしは、シャワーを浴びてる亮介を待ってる。
先輩の時は、こんなとこ入らなかったし、シャワー浴びたり、浴びてるの待ってたりっていうのは初めてだ。すごくドキドキする。すること自体は、初めてじゃないのに。
「ごめんね。初めてじゃなくて」
「あのさ。俺が好きなのは、今の真理だから。
そんなん気にすんなって」
亮介。やっと…
「ずっと、離さないでね。
卒業しても、ずっと」
「わかってる。離さないから」
んっ、亮介、亮介!
ずっと一緒にっ!
この作品は、同じ企画参加作品「兄貴への恋」と連動しています。
そちらは、タイトルからもおわかりのとおり、桜井香奈がヒロインとなっているため、ハッピーエンドではありませんが、そちらも併せてお読みいただくと、ちょっと深くなるかと思います。