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第9話 『剣聖』

 俺は後ろの方へいた、龍太と沙夜の元へと歩いて戻った。


「勝ったぞーって痛!」

「勝ったぞじゃねえ馬鹿野郎!」


 理解できん。なぜ俺が殴り飛ばされた。


「あんな切り札あんなら最初から使え! 全力で助力した俺が馬鹿みたいじゃねえか!」

「いや、誤解だ。そもそも【創世の刻】は《勇者の記憶》でも出せなかったんだ。ほらこれを見ろ!」


 俺はそう言って《勇者の記憶》の画面を見せて証明しようとするが。


「言い訳無用だ!」

「危な。RPG-7俺に打つな!」


 もう色々と龍太が兵器を使ってくるので死ぬ気で避ける。


「じゃあ何でさっきは出せたんだ? ああ!?」

「知らん!」


 それにしても、スキルにもないものを何でこのゲームで出せたのだろう? まさか……ここは……?


「あの! お二人とも!」

「「何だ! 今それどころじゃねえ!」」

「ギルド職員さんに見つかっちゃいましたけど……いいんですか!」


 ……え? よく見たらなんか変な人がいるな。仮面を被ってて顔は見えないが、沙夜より少しだけ高いから背はまあ平均と言ったところだろう。


「ねえ、君たち? そんなに遊んでるけど、入り口で今ここに入ったら罰金を処されるみたいなことは聞いたよね?」


 そういえば、そんな事言ってたなー。そういえば。どうしようか。


「ここには今高レベルの魔物がいて危険だから」

「それ、こいつが倒しました!」


 待て、龍太! 俺を売るんじゃない!


「へ?」

「おい! それは……」

「いや、もうこいつが一発で! ねえ?」

「そうですね。あの人がやりました」


 あれ、沙夜も協力してない? ねえ?


「くく……アハハハハハ!」


 あれ、なんか笑ってる。リアクションに困る。


「君が討伐した……か。こりゃあいい。僕も正直言ってこの仕事は退屈だったんだ。街に偶然<超越>が僕一人しかいないからって、所詮はレベル79程度の魔物と戦わされるとは、とね」


 話の流れが怪しくなってきたな。<超越>は確か、街で聞いたことがあるな。限界を突破した世界でもトップレベルの強さにつけられる称号だったか。


「でも……案外そうでもないかもしれない」

「へ?」


  突然のお心変わりですか。というか俺はとっとと退散したい。


「一つ、勝負をしよう?」

「え、俺は帰らせてもらいたいんだが……?」

「じゃあ、罰金増額で。足りない分は働いてもらうよ?」

「ええ……」


 そんな強引な。ところで、仮面をつけていて、そしてあの金色の剣。どっかで聞いたこと

あるな。もちろんゲーム内で。まあいい。とりあえず一回勝負して、帰らせてもらおう。


「勝ったら罰金は無しでいい。君たちが望むならリッチは僕が討伐したことにしてあげよう」

「負けたら?」

「特に何もない。ただ君達がリッチ討伐のパーティとして目立つというだけだ」


 条件はとてもいいな。ただ。


「もし、君が本気を出してくれたなら」


 仮面の下からでも伝わってくる、この感覚。明らかに只者じゃない、な。ただ逃げられそうもない。


「いいだろう。仮面は取ってもらえないか?」


 こいつの正体は把握しておきたい。


「いいよ。まあこれもファッションのようなものだしね」


 ()()の仮面が外され、その素顔があらわになる。やはりか。今まで仮面の効果で見えなかった金色の髪、金色の剣に赤い宝石が埋め込まれ、ドラゴンが飛んでいる姿のような紋章が鞘に埋め込まれた剣。そして、右目の緑と左目の赤。左右で色の違う、特徴的な目。


「ルールは君が3分以内に、僕に触れられたら君の勝ち。それ以外は僕の勝ちだ」


 『剣聖』エルミナ・アルミス。最強を求めるものに与えられる称号を持ちしもの。それは即ち、最強に最も近しもの。


「じゃあ……始めよう」


 彼女が地面を蹴った。いや、俺はそう想像するしかない。全く「見えない」のだから。俺は瞬時に頭を切り替える。これはゲーム感覚で勝てる相手ではない。しかもステータスには大きな差がある。恐らくそのせいで動体視力も下がっている。また、身体能力に頼った瞬間にこの試合は終わる。

 

 だから、俺は奴の動きを感覚のみで捉えた。奴の剣の速度に合わせる必要はない。合わせることもできない。ゆっくりの斬撃一つで、奴の無数の斬撃を払いのける。触れたら勝ちなのだから、体の動きをとらえる必要はない。剣にだけ集中しろ!

 

 ただ、このままでは防戦一方だ。それに、使い慣れていない日本刀で勝てる相手ではない。ならば、武器を変える隙を作るだけのこと。


 剣撃の合間に、回し蹴りを放つふりをする。奴が取る手は避けて攻撃か、ガード。好戦的な性格を考えれば、必ず攻撃に来るはずだ。この試合を始める時の奴の目はそうゆう奴の目だった。それを利用して、動きを読み、回転の勢いで、浄牙を振る。剣に当たった感触がある。そのまま剣を振り切り、剣ごと見えない敵を吹き飛ばす。


 これで距離を取れた。ようやく止まった奴の姿が見える。


 この打ち合いに掛かった時間は3秒に満たない。


「やっぱり、面白いね君は! 僕の思った通りだったよ!」

「本気を出さないでここまで強い人に言われてくないな」


 奴は鞘から剣を出さないで振っていた。安全のためとでも思ってるのか? ただ、少しイラついた。


「いやー今の受け方なんてすごかったね。僕の剣撃の重なっている線を一瞬で……」

「おい」

「……何だい?」

「人に本気出せって言っといて、自分は手抜きか。……ふざけるなよ……」


 俺は本気の目を見せる。自分が本気を他の奴に出せと言われて出すのだ。戦いを知るものとして、それに手を抜かれるのは不快感しかしない。

 奴は一瞬目を閉じる。


「……すまない。少し君を勘違いしていたようだ。謝るよ」


 ついに剣を抜くか。『剣聖』。


「俺の我儘に付き合ってもらって悪いな」


 そう、これは我儘だ。誇りと言う名のくだらない我儘。彼女から見れば、弱者である俺のそれは無価値といってもいい。それでも、彼女はそれを聞いてくれた。多分本人も俺と同じような気持ちがわかるのだろう。彼女は再度笑い、構える。


「『剣聖』アルネス・アルミス。僕の全てを持って貴方に挑もう」

「ユウジ……カガ」


 俺は一瞬迷った。だが、本当の名を名乗った。これが礼儀だ。俺は武器を持ち変える。慣れてない、浄牙を置き、初期装備の長剣に持ち帰る。形が昔と同じで扱いやすいからだ。強度は低いが、《勇者の記憶》で解放した魔力操作により、魔力で無理やり補強した。この試合中は壊れないだろう。そして、身体能力強化も有効化する。


「身体能力強化」


 これが今の俺に出せる全力だ。


「俺の全てで、強者(おまえ)を倒そう」


 そう宣言し、俺は自分から突っ込んだ。彼女の姿が搔き消える。だが、姿が見えない程度で俺が戦えないと思うなよ? 今度も全ての斬撃を防ぐ……のではなく、全ての斬撃を叩き返した。


「やるね」


 俺には何も見えちゃいない。感覚で感じ取っている。まともな戦法ではやり合うことすらできない速度。だから俺は先を読むことだけに専念した。彼女が一回剣を振る時、その10手先まで読む。もはや予想ではない。ただの勘だ。


 でも、外さない。


 感覚だけで彼女の斬撃を捉え張り合う。回転しながら剣に蹴りを加え、追撃する。ただ、追撃は悪手だ。自分の方が遅いのだから、逆に攻撃される上、攻撃のパターンが受けている時と変わるため、予想もしづらくなる。


 まあ、それは普通の人の場合だが。


 当たり前のように俺が来るのに合わせて剣を振り上げた。恐らくそれで決めるつもりだろう。まあ剣を振り上げたというのも俺の予想の中でしかなく、見えているわけではない。攻撃に合わせ剣を当てる。その瞬間、俺の剣は粉々に砕けた。『剣聖』の目は驚きに見開かれ、動きが止まり、姿が見える。その隙を、俺は逃さない。


「タッチ。俺の勝ちだ」


 俺は追撃する瞬間、魔力操作による、武器の強化をやめていた。向こうからは『剣聖』に代々伝わる剣と打ち合っても壊れないような剣が、突然粉々になったように見えるはずだ。人間というものは、予想外なことには誰だって驚く。


「ハァ……負けちゃったか」

「約束は守ってくれよ?」

「うん、守るよ。どうぞご自由に。今なら見張りもいないはずだよ」


 ふう、終わった。疲れたな。でも、楽しかった。本当の戦いはこうでなくてはつまらない。


「じゃ、僕はもう行くね。君の名前は一生忘れないだろうね。僕の唯一の敗北として」


 相変わらず視線が只者ではない。怖い怖い。リベンジマッチとか言われそうだな。まあ、その時はその時で楽しもう。


「あれ、あれあれあれああれえ?」


 突然『剣聖』は慌てて周りを探し始めた。


「僕の仮面知らない!? どこ!?」


 ええ……突然慌てんすか。ファッションとか言って取ってたじゃないですか。


「楽しい勝負の為だからだよ! 僕、あれがないと昔から人見知りで……どこぉー!」


 紐で自分の首にかけているが、面白いので放っておくことにしよう。




 

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