第5話 誰だってたまには失敗することもある
「本当にやっちまうとはな……お前レベルが高い方が強いっていうゲームの常識が……」
「まあ、俺はリアルでやってるからな。流石に大人気なかったか?」
「まあ襲ったバカはあっちの方だ。アイテムもありがたく貰おう」
そういえばデスペナはアイテムの一部をロストするんだったか。それがこちらにくるわけだな。
「インベントリに自動的に行ってるはずだ。あとモンスターからのドロップもな」
そう言われてメニューを操作する。あーなるほど。あいつの持ち物が骨、腐肉、骨ってこれ絶対ここの魔物のドロップアイテムだろ!? 297個ぐらい合計であるんだが!? まさかあいつ、本当にここの魔物だけでレベル上げてたんじゃ……
「どうかしたか? なんで変なもの見たみたいな顔してるんだ?」
「……いや、何でもない」
「その間は絶対なんかあっただろ……まあいいや。一旦帰ろうぜ、そろそろ時間だろ?」
ああ、もう60分も経ったのか。楽しいと時を忘れるって本当だな。俺は出口へと体の向きを変える。
「あとひとつ言っていいか?」
「なんだ、龍太?」
「戦闘中ガチで満面の笑みは流石にちょっと怖い」
スイマセンデシタ。イゴキヲツケマス。
「気をつける気ねえよなあ!?」
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「えっと……ここで、素材換金できるんだな?」
「ああ。商人とかにも売れるらしいが、まずはお馴染みのギルドで行こうぜ」
まだ時間があったので、俺たちは冒険者ギルドに素材を売りに来た。しかし……建物が案外広くて、どこに行けばいいのかわからんぞ?
「ここ、ギルドってガチか? 俺には小さな中世のショッピングモールにしか見えないんだが?」
「悪いな。俺もだよ、雄二」
そう、本当に広くて、色々と人がいるのだ。それでいて、フロアマップなどがないのでわからない。ちなみに、3階ぐらいあると予想。広さは……パッと見ただけでは判断できないので、とにかく広いと言っておこう。
「これ、しらみ潰しに探したら30分は掛かるぞ……?」
「……ギルドは……あそこ……」
そう言って来たのは隣にいた子供だった。子供と判断したのは身長からであり、俺より頭2つぶんほど小さい。顔も隠れるほどの大きなマントを着ているため、体も顔もほとんど見えない。ただ、声からして女の子だ。
「……ギルドは……あの人混みの……向こうの……区画……」
その子はもう一度指差した。
「おお! 助かるぜ! ナビゲーションするNPCでも配備されてたのか?」
龍太はそんな気軽な声を上げたが……俺は少し違うんじゃないかと思う。
「……私……プレイヤー……」
「やっぱりか」
そう、管理AIは関与しないと明言していた。こんな事で便利なNPCを配備していては、リアルもクソもあったもんじゃないからな。
「……そこの人……なんて言うの?」
「俺はユウジ・アーマフォートだ」
「……私は……ミナ……シャロン……ユウジ……鋭い……お前…………鈍い」
「何で俺だけお前呼ばわりなんだよ!」
ミナがこちらを向いた。うん? 正面からでも顔が不自然に影になってて見えない。何かのアイテムか。
「……馬鹿には……お前……十分……」
「まあ、それはそれとして。ミナ……って呼んでいいんだな?」
「……問……題……なし……」
「俺の扱い、心なしか悪い気がする」
よし、ミナも手を出して親指を立ててグーとやってくれた。龍太? あいつは頭いい時はいいけど、普段は大して頭良くな……馬鹿だから仕方ない。無視して話を進めよう。
「ミナはここに詳しいのか?」
「……のー……この町に来たのは……昨日……」
「ゲーム開始は?」
「……現実で……3日前……」
確か、このOBTが開始された日だな。と言うことは中々の上級者か。色々と聞いてみたいな。
「他の街からきたって言ったな? 何できたんだ?」
そんな上級者がいわゆる、初心者用の街であるここにくるとは考えづらい。何かあると考える方が自然だ。
「……私……情報屋……やってる……情報……仕入れに……」
「なるほど。つまり何の情報を持ってきたかは」
「……ゆー……りょ……」
なるほどな。これで、この街で何か起こることははっきりした。何かあるから情報屋がくるわけだ。ただ、情報屋か。色々と聞いて見たいことがあるな。
「……これ……あげる……」
突然ミナが手から何かの文字がたくさん書かれた紙を手渡してきた。
「……これ……アドレス……」
「アドレス? メニューにメッセージ機能とかあったか?」
「……携帯に似た魔道具……ある」
なるほど。確かに、そんなものを持っていた人がいたような気がする。
「……ユウジ……将来……有望……これは……さーびす」
「ありがとな、ミナ」
ミナは俺たちに背を向けた。
「……私……もう行く……頑張れ……ユウジ…………強く生きろ……アホ」
「誰がアホだこの! って無視かよ! ムカつくやつだなおい!」
「まあまあ。彼女の情報は貴重だ。有り難くもらっておこう」
アドレスが書かれた紙もインベントリに入れられるのか。便利だな。
「龍太、ほらギルド行くぞ」
「ああ、わかった」
「龍太、そうおこんなって。お前も最初はああだけど、ミナともまともに会話できるようなるって。ほら、ミナもゲーマーっていうのは気にしないだろうから」
「おい、何であいつが俺の彼女候補みたいに言ってんだ? 俺は別に彼女いねえの困ってねえし? 俺はロリコンじゃねえし? あんな奴はこっちから願い下げだ!」
「はいはい、冗談だから怒んなって」
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ギルドの中は、酒場のようになっており、中もかなりの賑わいを見せていた。どこで買取してもらうんだろう? とりまあそこにいる受付嬢っぽい人に話を聞いてみるか。
「おい、雄二。あれ見ろよ!」
龍太が指差したのは俺が話を聞こうと思っていた人だ。よく見ると、彼女は緑井色の髪と緑色の目をしていた。それ以外は耳が長いという以外人と違う点はない。
エルフ。その人種がパッと思い浮かんだ。
「すいません、俺たちドロップアイテムを売りに来たんですけど……」
龍太が鼻の下を伸ばして……いた訳ではない。あのエルフが美人ではないという訳ではないのだ。整った顔立ちとあの翡翠色の目や髪は男達から見れば魅力的なものだろう。エルフには美人が多い。まあ、多いというだけででやばいのもい……話を戻そう。龍太は彼女とかがいないと言っても、本人はそれほど気にしてないし、欲しいとも思ったことがないらしい。あいつも中々変わり者なのだ。
「あ、はいなのです! こちらで承ってるのです」
「おお! おい、雄二こっち来いよ」
「……! ああ」
「どうした? なんか驚いたことでもあったか? まさか辻崎さんと言う人がありながら、お前……」
「違う! ただ……」
少し、エルフにしては雰囲気が明るすぎると思ったのだ。俺の知ってる中では、一部の里にこもっていて、外部のものに基本的に不信感を持っているような暗い種族という記憶があったのだが。あ、でもここは別にあの世界じゃないんだし、本物を知らない現実世界の人が作ってるんだから、違くて当然か。
「まあいいや。えっと……アイテムを出せばいいのか?」
「えっと……そちらにある魔道具を使って欲しいのです。手をかざすとメニューに似た画面が出て、アイテムを移動させられるのです!」
ふむふむ。ん? インベントリによく見たら変なのがあるな。
「なあ、これって売れるか?」
「え!? ……これって誰かからもらったです?」
「いや、普通に手に入れた。多分こいつ倒したから」
討伐の証:PK(Lv38)
「これ、何?」
「えっと……あ、お二人はなんて呼べばいいです?」
「ああ。俺はユウジ。そっちはリュウタだ。そっちは……?」
「私はエミネ・シミルと言うです。ユウジさんとリュウタさんは訪問者なのです?」
ん、訪問者って何だ?
「エミネ先生しつもーん。訪問者って何ですかー?」
「はいはい、龍太くん。この世界にはたまに常識を全く知らない人が居たりするです。そういう人たちは大体異世界から来たっていうです。なので私達はそういう人達を訪問者と呼ぶです」
俺の疑問を龍太が質問するとエミネは笑って答えてくれて居た。本当に気軽に話せる人だな。
「あと討伐の証の説明なのです。この世界では罪人などに裁きを与えづらいのです。死んでも蘇っちゃうのです。なので、犯罪人などを討伐するために、神様が討伐の証のシステムを作ったです。罪を犯しちゃった方を倒した人にはこうして証が与えられるです。証はお金などと交換できるです!」
なるほどなるほど。罪人は普通の人に狙われる訳だ。そうして、罪を犯させないようにしてるんだな。
「お金以外には何と交換できるんだ?」
「えーと、武器があるのです! レアウェポンなのです」
「レアウェポン?」
「ハイです。強くて人間が量産できないようなものをそう言うのです。インベントリにいれれないので、死んでしまうと必ず落としてしまうです。近くのギルドで回収してるのですけど、たまに、犯罪者のものや、寿命でお亡くなりになった方のものも持ち込まれるです。それらと交換できるです。ふう、長くて疲れたです」
「説明ありがとな。じゃあ、武器を見せてもらっていいか?」
個人的に武器の方が興味があった。手に入るならお金より、そっちの方がありがたい。
「ハイなのです。あ、先に換金したお金を渡すです。骨がいっぱいなのです」
「ありがとう。龍太、適当にお前に渡しとくわ」
俺はもらった金のほとんどを龍太に投げる。
「ああ。俺よりお前に使わせた方が面白そうだろ?」
俺と龍太はニヤリと笑った。
「ああ、楽しみにしててくれ」
「いつか戦ってみた」「それは遠慮する。コワイ」
今度からはもっと笑いながら戦闘してやろうか。
「エミネさん、案内してもらえる?」
「あ、はい! こっちなのです」
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「ここなのです。好きなのを1つ持っていけるです」
「へえーたくさんあるな」
数十本の武器が置いてある倉庫に連れてこられた俺は、武器を物色していた。ただ、目を凝らすと簡単にウィンドウが見えてどんな武器だかわかるようになってるみたいだから、便利だな。それにしても、だ。
「ところで、エミネさん」
「何ですか?」
「この刀……何?」
俺はとある一本の日本刀を見ていた。他の武器は壁に掛けられていたり、棚に入れられていたりするのだが、その刀は普通に転がしてあった。そして、その武器には鞘がなく、岩が突き刺さっていた。もう一度言う。岩が突き刺さっていた。状態としてはエクスカリバーを地面ごと切り離したような感じだ。
「それはですねーある人がとある迷宮から持ち帰ろうとしてたものなのです。ウィンドウを見ると、性能はいいのですけど……」
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名前 浄牙(岩付き)
スキル 〈聖属性Lv1〉〈岩付き(切れ味補正−9999)〉
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「聖属性武器って珍しいのです。スケルトンとかのアンデッドに魔法以外で、まともに攻撃できる貴重な武器なのです。ですけど……ねえ」
「切れ味補正が完全に殺しにきてるな。呪われた武器じゃねえか、ほとんど」
うーん、アンデッドに効くのもいいし、日本刀は使ったことないから、持ってみたいんだけどなあ。探してみたのだが、他に日本刀はなかった。と言うことで、だ。この呪いを解くとしよう。
「エミネさん、俺これをもらうよ」
「え!? でも、それ呪われてるのです。誰にも抜けてないのです」
「いや、俺はとあるアーサーという偉大な方……と同じ名前の人に呪いの解き方を教わった」
俺は浄牙を岩ごと振り上げ……壁に叩きつけた。
「えええ!?」
浄牙についた岩が粉々に砕け散った。そして、刀身の先の方が床に落ちた音がした。右手には残りの刀が握られている。
うん、流石にそう上手くいかないよな。