第4話 レベル差? あってないような物だ
「よし、必要なものは買ったな? 行くぞユウジ!」
「ああ、そろそろ俺も待ちきれそうにない」
「お前……昔戦闘狂とか言われたことない?」
全く記憶にございません、はい。今、俺たちは王都の城の裏に開いた洞窟の穴の前にいた。
「しっかし、なんでこんな穴があるんだ? ゾンビだとかスケルトンだとかいるんだろ? 街の人がうっかり襲われたりしないのか?」
NPCとはいえ、リアルすぎるのでなんとなく心配してしまう。でも、似てるならNPCとプレイヤーを区別する必要もないのかもな。うん、その方が気分的にも楽だな。
「穴が空いた理由は分からないらしい。数ヶ月前に突然空いたそうだ。アンデッドは何故か穴の外にはこないらしいからあの人達も安全だろう。迷宮内のモンスターは無限湧きで始末してもしょうがないから、解放して、使用可能にしてるらしい」
なるほど。あと龍太も俺と同じような考え方なみたいだな。俺はあの世界を知ってるから割り切りづらいだけだけど、龍太もやっぱり特殊なのだろうか。
まあいい。
「行こう」
「ああ、ようやく初戦闘だ。俺が慣れるまではよろしくな、勇者」
「頑張れよ、初心者」
「ふ、そう言っていれるのも今のうち。ゲームにおいては俺が上手だ。すぐ追いついてやる!」
「そう簡単には追いつかせねえよ。ゲームでもな」
俺たちは洞窟へと入っていった。
洞窟の中は明かりなどは全く灯っていなかった。道自体は一本道なので迷うことはないが、光がないとどうにもならないので、俺と龍太は街で最初に支給されていたお金でランプを買っていた。右手にランプを持ちながら、龍太と話す。
「おい、一匹も魔物出てこねえじゃねえか! どうなってんだ!」
「俺が知るか! もしかしたら狩り尽くした奴がいたのかもな」
魔物を狩り尽くした奴……十中八九プレイヤーか。少しきになるな。
「あ、多分あいつ今スポーンした奴だぞ」
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名前 スケルトン Lv14
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メニューと似たウィンドウが表示されている。スケルトンか。骨でできた人型のモンスター。よく居るよなーこういう魔物。ところでLv14って書いてあるんだが?
「リュウタクーン?」
「いや、ほら。Lv高いやつ狩った方が効率いいじゃん?」
龍太の明るい笑みに苦笑で答える。全く、こいつは。
まあ、まずは戦闘に集中しよう。俺の予想だと、下手するとワンパンされる恐れがある。よって攻撃は喰らえばアウト。あのスケルトンは、武器を持っていないタイプだ。よって奴の攻撃は素の体を使った攻撃しかない。リーチは短く、当たりづらい。
俺は街で買った長剣をメニューのインベントリから取り出し、握った。久々の緊張感が体を走る。一撃受けたら終わりか、ああ。いいな、いい響きだ。
「楽しませてくれよ?」
地面を蹴って、スケルトンにこちらから近づいていく。広げた手を振り上げて攻撃の構えを見せる。ただ、骨とはいえ手を使った攻撃というのは、ボクシングや拳術のような構えをとらなければ、実際はほとんど当てられない。何故なら武器を使う時と比べて、リーチも速度も上がらない。つまりだ。
「当たらねえよ……!」
体を傾け、攻撃を回避。剣を奴の右腕と肩の関節部分に差し込みつつ、地面を蹴り、その勢いで腕を切り離す。
「やっぱそれだけじゃダメか……」
敵はアンデッド。普通に腕を切っただけでは、くっつけて戻されるし、ダメージも大して入っていないだろう。さて、どうするか。
「光槍!」
突如、光でできた槍がちょうど俺が腕を切り離したところに打ち込まれた。スケルトンの切り離された腕が消滅した。
「アンデッドは光属性魔法を使えば、再生できなくなるそうだぜ!」
「ナイスだ! この調子で落とそう!」
それから先はもはや作業だ。俺から見れば奴の攻撃を食らう気はしなかったし、奴は次々と四肢を落とされ、最後は光の塵になって消えた。
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スケルトンを倒した!
レベルが2に上がった!
レベルが3に上がった!
レベルが4に上がった!
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いやあ、ねえ。一気に上がったな。Level14を倒した甲斐はある。
「ところで、龍太。お前、魔法使えたの?」
「いや使えねえ。アイテムを使ったんだ」
アイテム?
「ジェムって言ってな。魔法を石に込めたものと言われてるらしい。これを持って唱えれば石に込められた魔法を使用できるそうだ」
「へえ、便利だな」
「ああ、一回使うともう使えなくなるけど、普通のやつは」
今……なんて言った? そして、最初にあんなもの配られてなかったはずだ。
「……ちなみに買ったんだよな? お値段は?」
「一個2000G」
…………ジーザス。
おい、1G=一円なんだぞ? あいつはそれを何発ぶっ放した? 場合によってはPKになってでも仕置きが必要だ。
「待て待て、剣を抜くな! 普通はって言っただろ、普通はって!」
「どういう事だ?」
「俺のスキル《創りし者》だよ。まずは光のジェムを2つ買ってこのスキルで素材にしたんだ。それで、調整を加えたジェムにできた」
「なるほど、同じアイテムができたのか」
「ああ。それで使用回数を無制限にできた」
そうか、なら4000Gは使ったわけだ。
「待て、落ち着け! これには深いわけが!」
言い訳は無用……ん?
「おい、龍太。遊んでる訳じゃなくなったらしい」
「そのぐらいわかる」
光の届かない洞窟の奥に、誰かいる。ずっととんでくる、首筋を走る寒気のような殺気がそれを物語っている。
「へえ、経験値がここにも……おお、久しぶりの獲物か。暇つぶしに骨を狩って待ってて良かったぜ」
暗いところから出てきたのは、大男だ。肩幅は俺の倍ほど。所々にある筋肉もすごいな。そして、ここに居るスケルトンなどを容易に狩っている。よって、かなりの高レベルと予想できる。
「友好的にお話し……させては貰えねえか」
「俺様はPKさ。ここで初心者狩りをするにが趣味だ」
「同レベルで勝てねえからって弱い者いじめとは、発想が雑魚だな」
そう軽く挑発すると、奴は簡単に乗ってくる。その反応を見て、俺はこれからの行動を決めた。
「龍太、詳しいデスペナとPKをキルしたらどうなるか教えてくれ」
「……! デスペナはアイテムの半分をランダムにロスト。経験値の十分の一もロストする。場合によってはさらに増える。あと、このゲームではPKをキルしたところで何も言われねえ。むしろ感謝されるだろう」
「そうか。じゃあデスペナになったら辛いだろうなあ?」
それを聞いて、俺が考えた事が分かったのか龍太が驚いた顔をする。
「やるのか? 俺の予想だとあいつはLv30いってる可能性もあるぞ」
「問題ない。所詮はステータス頼り。行けるところは高が知れている」
俺は剣を構える。
「龍太は下がってろ。魔法も打たないように」
「ああ、了解だ。頼むぜ、相棒!」
「てめえら……さっきから何を勝手なことを言ってやがる?」
あーあー怒っちゃって。さっきのスケルトンよりは楽しめそうなんだから冷静にやってほしいもんだ。その方がまだ強いだろうから。
「俺はLevel38だ! 俺様こそが最強なんだ! 貴様ら雑魚に倒せると思うなあ!」
奴が突っ込んできた。スケルトンよりは流石に全然早いな。インベントリから出したであろう両手斧を持ってこちらへと連続で振ってくる。
下、横、そのまま回転して斜め上。さらに振り下ろし……やっぱりな。
「なぜ当たらない! Level20にも達していない雑魚のくせに!」
「……クク……ハハ」
「何がおかしいんだああああ!!」
なぜ当たらないか解説しよう。ステータス上あいつは俺より強い。それは間違いない。だが、力を持つのと、それを使うのとではスペックが大きく異なる。そして、そのスペックの差を縮めるには、その力を使う術を学ぶしかない。
それを学ばなかった奴では、どんなにSTRがあっても斧の重さに振り回され、攻撃がワンパターンになる。どんなにAGIがあっても足運びを知らなければ大したスピードは出ない。ステータスは万能ではないのだ。
いま、戦闘において奴は俺より間違いなく弱い。
「さて、そろそろ終わらせに行くとしようか」
そう呟いて奴のワンパターン攻撃を避け、地面をさらに強く蹴り、右側へ。その壁を蹴り、天井へ。それを縦横無尽に繰り返し、俺は奴を翻弄する。多分あいつは見えていないだろう。そんな訓練も努力もしてないだろうから。
「俺様が……反応できねえ速さだと!? バカナバカナバカナ! そうか! あいつは俺よりレベルが高いんだ! そのせ……ガホッゲボッボエ」
俺の剣は奴の喉を正確に突き刺した。このゲームはリアルさを重要にしていると言っていた。なら、どんなにステータスがあっても急所を狙えば死ぬと思ったが当たりだったらしい。
「おかしいな」
俺は街であった人を、あちらの世界の人と重ねて、殺すどころか守ってもいいと思っていた。ゲームを普通に楽しんでいる人も同じだ。実際この世界は素晴らしい。けど、な。
「何処にだってどうしようもない奴はいるもんだな……」
剣を捻って首を切り裂く。あっけなく奴は魔物と同じように光の塵となって消えた。