第12話 想像権限
俺はあの後またこちらの世界へ来ていた。
「いやー助かったわ。マジで! ははは」
「はははじゃねえ。何にやられてんだお前は」
こうして龍太と話している。何を話しているかだが、事の発端はこちらに来てからすぐに腹痛に苦しんで倒れていた龍太を発見したことだ。俺はその時少し慌てて声をかけたのだが、それの原因は単純なものだった。
元の世界での空腹である。
この時、龍太は腹と背中がくっつきそうなぐらいいてえ……などと証言していたため、俺はすかさず龍太を蹴り飛ばし、リアルでの飯を食えと進言してやった。
「あまりゲームに浸かりすぎるのもよくないですよ?」
まだあまり話しているわけでもない沙夜にまで言われている。呆れた奴だ。
「まあ、俺の話は置いといて」
あまり置いといていいわけでもないが。
「で、お二人さん。これからどうする? まだ全然今日時間あるよな」
「やっぱりまだレベルが足りないな。動きが見えもしないのは流石にきつい」
「対『剣聖』ってとこか? まあ、大会もあるらしいしな」
ん、大会ってなんだ?
「え、知らないのか、雄二。『剣聖』はお前をもう本戦出場者として登録したとか言ってたが」
あのバカ、勝手になにしてやがる……
「で、大会って武闘大会だよな。あの闘技場を使うってことか?」
「そうだ。ギルドが運営する大会で、本戦は16人のトーナメント戦。8人はギルドから強いやつを選んで出すらしい。あ、お前その一人な」
「……」
「残りの8人は予選で決めるそうだ。基本的なんでもあり。相手を舞台から落とすか、戦闘不能にすれば勝ち。開催は1週間後だ。あ、ゲーム内の1週間な」
なるほど。まあ、予選が省けるなら勝手に選ばれはしたが楽だな。1週間で、この中は外の3倍早く時間が経つから、だいたい2日後か。今日は木曜だからちょうど土曜。参加は余裕でできそうだ。
「それにしても、たったの1週間で参加者が集まるのか?」
「それは俺も疑問だったけど、ああいう特別な闘技場は本当にレアならしくて、あるだけで人が集まるらしい。だから、早めに宣伝した方がいいっていうのがギルドの考えだそうだ」
なるほど、ね。それなら、闘技場の装飾も気合い入れないとな。
「ということで、俺もレベルを上げたい。だから、雄二の装飾の仕事が終わったら街を移動しねえか?」
「街を移動?」
「他の街ですか! 楽しみです」
沙夜が嬉しそうにしている。沙夜は昔から色々なところを見るだとか、観光だとか好きだったからな。病院にずっといた時期があるからかもしれない。
「で、どんな街に行くんだ?」
龍太はニヤリと笑う。
「迷宮といえば迷宮都市はつきものだぜ。俺たちが向かう先は、迷宮都市エゼルグランクだ」
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俺は二人と一旦別れて、ギルドをまた訪れていた。夜までの時間にある人と話したかったからだ。その人はマントを被った小さい少女だ。俺は彼女が待っていた正面の席へ座る。
その瞬間周りの空気が歪んだ。ミナが頭にかぶったマントを外し、素顔を露わにする。
「これは……?」
「……風による……防音結界……」
防音結界? かなり凄まじい結界だけどな。正直出入りもきつそうだ。誰がやったのだろう……恐らくミナではない。俺はこの世界にもある魔力の流れをなんとなく感じ取れるから分かるのだ。まあ、それは今はどうでもいいことではあるが。
「お金……大丈夫……?」
「ああ、ちょうどリッチ討伐で大金をもらってな」
龍太たちはその金で旅のために買い物してるしな。
この疑問は最近湧いたもの。そして、今日ミナを呼んだ理由。
「ここには、心や想像が現実に影響するシステムがある。違うか?」
これの根拠はいくつかある。
一つ目は俺の【創世の刻】。あれは《勇者の記憶》にもない本来使えないはずの力だった。それがなぜか使えた。それが使えたのは俺がそれを強く想像したからではないだろうか。俺はあの時【創世の刻】が欲しいと強く願ったからな。
二つ目はメニューの事だ。ミナの言ったあると思えばあると言う言葉。それはこのことにも繋がっているのではないだろうか。この世界ではやろうと強く、強く、思えばやることができる。そんなものがあるのではないか?
「……存在……する……ただ……なんでもは……無理……」
一息置いてからミナは続ける。
「……その人の……適正……による……限界も……ある……」
確かにそれはそうだ。例えば俺が突然魔法が使えたりするのは明らかにおかしい。
「……ただ……これを極めた者……人は……〈超越〉……呼ぶ……」
そうか、〈超越〉って言うのはそう言う称号だったのか。ステータス以上の力を発揮できる存在。つまりステータスを〈超越〉した存在。
「……また……私たちは……この力……想像権限……と呼ぶ……」
「想像する権限ってことだよな?」
ミナは頷く。
「……知ってるのは……ここまで……大会……頑張れ……」
「ああ。ありがとう」
「……ちなみに……ユウジ以外の……ギルドからの出場者……全員〈超越〉……」
それはそれは。楽しい大会になりそうだ。
「……ところで……あいつ……いない……?」
「龍太か? あいつなら今買い物だ。呼ぼうか?」
ミナはムッとした顔をする。
「……別に……いい……!」
余計なお世話だったらしい。また姿をかくすと、とっとと結界を破って出て行ってしまった。最後の情報の料金はまだ支払ってないのにな。やれやれだ。
しばらく待つと、結界が解除された。さて、俺のもう一つのギルドへ来た目的を果たすとしよう。俺は受付にいたエミネさんに話しかけた。エミネさんに話しているのは他にギルド職員に知り合いはいないからである。
「エミネさん、夜に俺は闘技場の装飾をする予定だったんだけど」
「あ、はい! から聞いてるです。ありがとうございますなのです。エルミナが迷惑かけてごめんなさいなのです……」
エミネさんは軽く頭を下げた。
「いやいや全然……ではないけどまあそれはいいからさ。予定を早めることってできるかな?」
「ええと……今聞いてみるのです」
聞いてみる……か。そばに誰かいるわけではない。ただ微かに風を感じた。この人……やっぱり。
「あ、大丈夫みたいなのです。今から行くです?」
「ああ、それで頼む」
「じゃ、案内するです」
案内? あそこに行く程度なら1人でも余裕だと思うのだが。俺が疑問に思っていることを察したのか、エミネさんが説明してくれた。
「ギルドからの転移ゲートはすでに開通してるのです。一瞬でいけるのです」
「ああ、もうできてたのか。それは便利だな」
エミネさんに着いて行くと、ギルド内に転移ゲートはあった。
「見た目はただの扉……か」
しかし、ドアノブを握ってドアを開けると、それはあの穴の底へと繋がっていることが分かった。本当に便利だ。
「あ、来たね。早くやってくれると言うのはありがたいよ。って危な! 結構力強目だったよね!」
「うるさい」
適当に殴ろうとしてみるのだが、さすがに避けられてしまう。まあそうなる前提でやったわけではあるが。
まずは、その闘技場とやらをみるか。俺はそのままエルミナを無視して、穴の奥にある道へと進む。しばらくすると、広いところへ……
「……すごいな、これは」
闘技場は、本当に巨大だった。中央に舞台があり、それを囲むように観客席が設置されている。観客席は中央を見やすいよう高い位置に設置されている。天井も高い。そして上には何か光っているものがある。鉱石……だろうか。そのおかげで中はとても明るかった。舞台の周りには水が流れている。その水に光が当たって、綺麗に反射している。本当に綺麗なものである。
俺は舞台の中央へと歩き始めた。まだ【氷結連鎖】は《勇者の記憶》ではまだクールダウン中だ。しかし、超えられるはずだ。イメージしろ。願え。あの力を。
来い、【氷結連鎖】
一気に闘技場の中に決して温度が下がったわけではないのに、何かが凍っていくような圧倒的な雰囲気が広がった。中で作業していたギルド職員もこれを見て、多くの感情が目に浮かんでいた。多分驚きだとかそう言うのが多かっただろう。この世界でも、神装の力は異常なのだ。
まあ、それは置いといて成功したな、想像権限の行使。魔法を使う感覚と似ているので案外うまくいった。ただ、維持するのはしんどいな。3分も持ちそうにないか。
じゃあ、急いで終わらせてしまおうか。




