コミカライズ配信記念後日談:偉大なるエルル村村長は、ガイア王国で暴れたい!5
【いつもの】
最弱令嬢、コミカライズ一話、Renta!にて先行配信中です!めちゃ面白いです。エルル可愛いです。好きです。いつも応援ありがとうございます。
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どうぞよろしくお願いします!
私は変装用に来ていた服を破り捨てた。と、同時にかけていた幻術の魔法も取り除く。
服は白いフリルいっぱいのブラウスに、臙脂色のスカート。
幻術で茶色に染まっていた私の髪が、炎のような真紅の色に戻って行く。
夜風に私のふたつ結びの真っ赤な髪が舞った。
ふふふ、聞いて驚きなさい! 私は……!
と名乗ろうとしたら、貴族の視線は私の隣の方にクギ付けになって驚愕の表情をしてることに気づいた。この視線の先って……。
その視線を追うと、涼しい顔をしたユリウスがいた。
「お、お前はユリウス! アナアリアの四天王最強のユリウスではないか!」
「死んだはずではなかったのか!?」
と私を無視して、皆は幻術魔法を解いたユリウスの姿にクギ付けだ。
あー! 私の出番なのにぃいい!
そうだった、ユリウスはガイア王国の一番の有名人だったー!
「ちょっと! ユリウスは後ろに下がってて!」
「わかった」
と言ってユリウスは大人しく後ろに下がった。
しかし、後ろに下がってもみんなの視線はユリウスに釘付けだ。もう!
「このエルル様を無視するなんていい度胸じゃない! でも、いいわ! 今回は許してあげる! 貴方達、耳をかっぽじってようく聞きなさいよ! この私は……旧アナアリア王国四天王の一人、エルル=ファルミル=グレイスデーンよ! もう魔王様は愛してないし、魔王様も私を愛してないけど、今現在偉大な村に愛し愛されてる偉大なるエルル様なんだからね!」
私がそう言ったところで、ユリウスが肘で私を突いた。
「私のところが抜けてる」
こそっとユリウスが言うので、勢いに乗っていた私は「それに……!」と口上を足した。
「この元四天王アナアリア最強の四天王ユリウスにも、最も愛されてるの! この天井を壊したのだって私の指示なんだからね! それに、もちろん、私も私も、その、ユリウスのことを愛してるっていうか……うん、愛してるの。実はね、もう夫婦なのよ。やだ、ちょっとみんなの前で言わせないで、恥ずかしい」
途中で恥ずかしくなってそう言うと、思わず胸のまえで指をいじいじした。
まったく、ユリウスったらなに言わせようとしてるのかしら……やだ顔が熱い。
「な、なんだってー! 元アナアリアの四天王の二人が、ガイア王国を襲いに来ただってぇ!? これはたーいへーんだー!」
とまさに大根役者とはこのこととばかりの棒読みでローランが叫んだ。
あ、いけない。自己紹介の途中で、ユリウスが変なちょっかいかけるから、照れて止まっちゃった。
流れを戻さなくちゃ。
「そう! つまり! そういうこと! 私とユリウスが揃えば、世界最強の存在ってこと! アナアリアとの戦争に勝っただなんて思わないでね! あ、ちなみに今の新生アナアリアをまとめてるセレニエールとレグリスとは私達無関係なんだからね!」
一応セレニエール達のために弁解をしとく。
ふう、言い切った。一仕事終えたわ。
本当は私の爆炎魔法で派手に暴れたかったんだけど、私はもう大魔法を使えないし……うん。これでいいの。
良い見せ場だったわ。
「まさか生きていたとはな……! ユリウス! そして、最強の魔術師及び偉大なる村に愛されしエルルよ! しかし、私とアエラがいる限り、ガイア王国に害をなすことは許さない!」
朗々とした声が響いた。
そう言って前に出て来たのはグイードだった。
真面目な顔をしてるけど、その目が面白そうに笑ってる。
隣でアエラも仕方ない人ですねとでも言いたげな笑顔で私を見ていた。
どうやらローランからここまでの段取りについて、先ほどちゃんと聞いたらしい。
あとはグイードの魔法で私とユリウスが退散すると言う流れでこの計画は終了だ。
グイード達がいなくなると今後のアナアリアの勢力に対抗する術がなくなると言う事実を突きつけることで、グイード達を排除する勢力は一気に激減するだろう。
さあ、やっちゃって! とばかりにグイードの魔剣の一振りを待つ私に、グイードが魔剣を振り上げて……。
「魔力の障壁が……! 剣を振り下ろせない!」
と言って、魔剣を振り上げた体制のまま固まった。
「す、凄まじい魔力です……!」
みたいなことを言ってアエラも苦しげな声を出す。
「グイード殿下にアエラ様を守らなくては……! しかし、なんて魔力の圧なんだー!」
と大根役者のローランまで私のそばにやってきてうずくまった。
そして、うずくまったと思いきや、ローランは地面に複数の魔法陣を描き始める。
あれ、これ、最近ローランとユリウスで特訓してる時戻しの魔法陣?
シナリオにはなかった流れに私が戸惑っていると、ユリウスが私の耳元に顔を寄せた。
「ここにいる、性悪貴族達には多少痛い目にあった方がいいだろう。そのために、君の得意な広範囲の火炎系大魔法を使え」
ユリウスの言葉に私は目を見開いた。
「えっ! で、でも、私、魔力が、足りなくて……」
「大丈夫だ。私とローランがそのためにとある魔法を生み出した。一番の見せ場を君に贈ると、伝えただろう?」
ユリウスはそう言いながらも、魔法陣を宙に描いている。
彼の周りに複数の魔法陣が刻まれている。ローランもそう。
「それでは、エルル、準備はいいか? 一時的なものになるだろうが、エルルへのプレゼントだ。ノモニコット ノモニコット エイン イク……時の門。我が血を贄にして、求めに応えよ。我が英知は絶対の法なり」
そう言ってユリウスとローランは自分の親指を噛んで血を垂らした。
ユリウスの描いた数百の魔法陣、ローランの描いた数十の魔法陣から放たれた光が私に振りそそぐ。
これ……この感覚。
突然、懐かしい感覚が戻ってきた。
喪失したと思っていた懐かしい……私の魔力。
魔力がなくなってからのエルル村での穏やかな日々は幸せだったけれど、どこかでずっと物足りないものを感じていた。
だって、今まであったものが、急になくなったのだ。胸の奥の喪失感は、たまに私を寂しい気持ちにさせる。
でも、今はすごく、満たされている。
最近ローランとユリウスで魔法の練習をしていたのはこのために?
かなり複雑な魔法式だった。
二人掛かりでやらないとうまくいかないものだったのだろう。
「ありがとう、ユリウス、ローラン……」
私が嬉しさで涙が溢れそうになりながらそういうと、胸に手を当てた。
懐かしい感覚がここにいっぱい詰まってる。
私は久し振りに宙に魔法陣を刻み始めた。
ちょうど貴族達が立ち竦む頭上だ。
なくなった天井の代わりとばかりに、大きな魔法陣を刻む。
この陣はもちろん私の得意な火炎系の大魔法。
以前セレニエール達を捉える時にも使おうとした最上級の捕縛魔法。
あの時は発動までには至らなかったけど……! 今なら!
「開け、火の門! 我が叡智は、絶対の法なり!」
詠唱に合わせて陣が光り輝いた。
私の詠唱に合わせて身体中の魔力を流し出す。
しかし、流しても流しても私の中の魔力は切れる気配がない。
そう、この感覚……。この感覚だ。
最高に、気持ちいい!!
天まで届きそうなほどの赤い炎の渦で辺りは昼間のように明るくなった。
「なんだこれは……!
「熱い! 熱い!」
「外に出れないぞ!」
炎の渦の中にいる貴族達は、獄炎魔法の餌食となって苦しんでいる。
そうなの、死にはしないけれど、ジリジリ暑くて苦しいの!
でも、普通の爆炎魔法放ったら死んじゃうんだから、この魔法にしてあげたことに感謝してほしいわ!
「エルル様の火炎魔法、すごい……」
ローランが、呆けた顔でそびえ立つ炎の渦を見上げていった。
「うーん、私を陥れようとした者達ではあるが、これはちょっとかわいそうなことをしたかもしれないな」
グイードが苦笑いを浮かべていう。
「グイード殿下はお優しすぎる! 殿下のお命を奪おうとした奴らですぞ! これぐらい生ぬるいぐらいです!」
グレアムが憤慨して鼻を鳴らした。
それを聞いていたアエラがクスクスと笑う。
「大丈夫ですよ、殿下。もし大怪我をおった方がいたら、私が治しますし、私もこれぐらいのお仕置きで丁度良いと思います」
とアエラが穏やかに言った。
私は久しぶりの大魔法の感覚に酔いしれながら、三人の会話を聞いているとユリウスが、そっと私の肩に手を置いた。
「エルル、どうだ。気分は?」
「そんなの、最高に決まってるじゃない!」
私は満面の笑みでそう答えたのだった。
あとちょっとだけ続きます!
次回、イチャイチャ回!なにせ二人は夫婦!プリティでピュアピュアな夫婦ですからね!








