エピローグ1 その後のアナアリア
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!
後残り3話ですので、今日一気に更新しますー!
よろしくお願いします!
魔王の魔法陣を壊してから、早数ヶ月が経過した。
あの時のクラークが引き起こした魔法陣の魔力災害は、アナアリアの中心地である王都の尽くを壊した。
ただアエラの力のおかげで、人的な被害はない。
みんなして、復活したからね。
でも、魔王の魔法陣の導きがなくなって、アナアリアは指針なき国になった。
そのため、アナアリアの国民が混乱しないように、一旦セレニエールとレグリスが、アナアリアの代表としてあの地に残って、王国の再建に奮闘している。
アエラは、祖国ガイア王国に、魔王討伐の知らせを掲げてグイード王子やゴレアムと共に凱旋した。
ガイア王国と、アナアリアの長い戦争が終わりを告げたのだ。
とは言っても、アナアリアとの戦争が終わったら終わったで、ガイア王国では、どうやら王族内での王位継承争い等で、色々ごたついているらしく、グイード王子の戦いはこれからだ、みたいな感じらしい。
そして私はユリウスと一緒に愛すべき偉大なるエルル村へと帰った。
まずは村の復興作業。
そして、畑を耕し、藁を編み、糸を作り、家畜を育て……大変なこともあるけれど、エルル村の人達と、穏やかな毎日を送っている。
「エルル!」
エルル村の女性陣と一緒に機織りをしてたら、ユリウスに呼ばれた。
ユリウスの方を見れば、手にはなにやら紙が握られている。
「セレニエール達からの知らせが届いた」
「ええ!?セレニエール達から!?」
私は思わず立ち上がってユリウスのそばに駆け寄った。
「アナアリアのゴタゴタが片付きそうだから、遊びに来いと言ってる。どうする?」
「行く!」
私の即答に、ユリウスが微笑みながら頷いた。
懐かしい!
一緒に魔王を討伐した仲間の誘いなんだから、断るわけがないじゃない!
久しぶりに会えるのめっちゃ楽しみなんですけど!
それに、セレニエールとは、魔王の復活を阻止したら、話したいことがあるって言ってたのに、アナアリアが、魔力暴走であんなことになって、話を聞く機会をすっかり逃してしまったのだ。
この機会に、セレニエールと交わしたあの時の約束を果たせるかも。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「へー随分、元通りになってるじゃない!」
私は周りの景色を見ながらそう感想を述べた。
ここは、新生アナアリア王国。
現在、セレニエールとレグリスが頑張って立て直している国だ。
セレニエールの誘いを貰ってすぐに、ユリウスと一緒に飛んでやってきた。
最後に見たのは、一面緑と崩壊した建物というなんとも世紀末な見た目だったけれど、今ではきちんと建物が並んでいて、人通りもある。
心なしか、私が暮らしていた時のアナアリアよりか活気があるような雰囲気だ。
「セレニエール達は、あのおっきな屋敷にいるのよね。行くわよ、ユリウス!」
「そうだな」
私の出発の音頭に合わせて、そう頷いたユリウスが、さりげない所作で私の右手を握った。
しかも、これは、恋人繋ぎ!
「ユ、ユ、ユ、ユ、ユリウス! こんな人目があるところで、こ、こんなの! エ、エ、エッチなんじゃないの!?」
「……そんな反応をされるような、いかがわしいことをしたつもりはないんだが」
と、突然の恋人つなぎに動転して荒ぶる私にユリウスのいつもの冷静な声が降りてきて、すこしばかり冷静さを取り戻した私はハッとした。
た、確かにちょっと過敏な反応だったかも。
でも、だって、人前だし、突然だし……!
そ、そうよ、突然なのが、悪い!
「う、うるさいわね。わ、分かってるわよ。手をつなぐくらい、別に、ふ、普通だもん! 私達、もう夫婦なんだし……でも! 突然だとびっくりするから、許可よ! このエルル様に許可を求めなさい!」
「分かった。エルル、このまま手をつないでいいか?」
と、ユリウスが、微かに微笑みながら声をかけてくれたので、一気に気分が良くなった私は頷いた。
「……うん。特別に許可してあげる」
へへ、ユリウスと手を繋いで見慣れない街を歩くなんて、デートみたい!
「やだわ。レグリス、聞いた? 今のやりとり。うぶねぇ。ちょっと私かゆくなってきた。うぶ過ぎて」
「もちろん、聞いておったぞ、セレニエール。うぶよのう。うぶうぶよのう」
唐突に二人の人に声をかけられた。
しかもうぶだとかうぶとかうぶうぶって言われた気がする!
と思ってそっちに顔を向けると、なんと懐かしい二人組がいた。
「あれ? セレニエールに、レグリス!?」
「あんた達がこっちに到着したのが見えたから迎えに来たわよ」
と、レグリスの腕に絡まるように腕を回しているセレニエールが言った。
「久しぶりだな。それにしても、国の代表二人が、こんなところにまで呑気に出歩いて大丈夫なのか?」
とユリウスが、疑問を投げかけているけれども、いや、私それより前に気になることあるんだけど。
なんか、二人の距離近すぎない?
だって、セレニエールとレグリス腕組んでるし、セレニエールの胸がレグリスの腕に押し付けられてるし。
「治安の問題ならなんの問題もない。我ら二人に敵うものなど、おぬしぐらいしかおらんしな」
とレグリスが笑って答えているけれども、私の疑惑の眼差しに気づいたらしいセレニエールがニヤリと笑った。
「そう言えば、まだ言ってなかったわねぇ。実は私とレグリスも、夫婦になったのよ」
セレニエールの口から漏れた衝撃の一言で目が点になった。
「へ!? 夫婦!? 二人が!? いつの間にそんな仲になったのよ!」
「えー、いつの間にっていうかぁ、なんか自然のなりゆき、みたいな? ね、レグリス」
「そうじゃのう。いつも一緒におったし、セレニエールは綺麗じゃからのう」
「いやーん、綺麗だなんて照れちゃうわ。ま、実際綺麗だけど」
とレグリスとセレニエールが楽しそうに会話をしている。
え、マジで。
未だに信じられない思いでいる私は、「ねえねえ、本当に!?」と確かめた。
いや、だって信じられないんだもん。
「別に不思議なことないじゃない? 元々私とレグリスは、婚約の契りを結んだことだってあるし」
マ、マジで!? そうだったの!?
アナアリア王国の婚約の契りとは、これすなわち魔王に命ぜられるままに、魔王が選んだ人達で子供を作るという一大イベントである。
私とユリウスも、元々魔王に言われて、婚約者として出会ったわけで。
いや、でもそうか。基本的に、魔王はより強力な魔術師同士を、交配させて、より強い魔術師を産みだそうとしていた。
四天王の一角である私とユリウスが選ばれたのも、そのお互いの優秀さがあってこそで。
セレニエールとレグリスっていう組み合わせだって十分にあり得る話だ。
「全然、知らなかった。レグリスとセレニエールって、婚約者だったんだ。あんまり四天王同士で交流とかなかったし、普通に仲が悪いのかと思ってた」
「ま、と言っても、婚約の契りの期間はもう随分前に終わってたけどね。子供を産んで、施設に預ける年齢まで育てて……それで、規則通りお別れしたのよ。子供もレグリスも」
「ああ、そっか。アナアリアは、子供ができたらそれでおしまいだもんね。子供ができなくても、婚約期間は一定期間で終わるし……って、セレニエール達子供産んでたの!?」
「あらー、当たり前じゃない。産んだわよ。私に似てて可愛い子だったわ」
え? セレニエールって今何歳なんだろう?
私の記憶が正しければ、私が物心ついた頃にはセレニエールがずっと四天王の2位にいるんだけど。
その間、子作り期間で、四天王の位を退位してた話は聞いたことないんだけど。
「あの頃の、レグリスはね、本当にかっこよかったのよぉ。まあ今の白髪の渋いレグリスも素敵だけど、当時は炎のような赤い髪をなびかせて、アナアリア王国最強の男で、四天王の第1位。私ずっと憧れてたの。だからね、魔神官からの通達で、婚約者がレグリスだって聞いたときは、もう一生魔王様に忠誠を誓いますー! って思ったほどよ。ま、裏切ったけどね」
「ワハハハ、照れるのう。四天王第1位になるとな、魔王からよく婚約者をあてがわれるんじゃが、その中でもセレニエールの事は印象に残っとる。まっこと美しい娘じゃった。そして胸が大きかった。他の誰よりものう」
と、レグリスとセレニエールが再び二人の世界に入りそうだったのだけど、少しばかり気になる単語が出てきたので私は首を傾げた。
「ねえ、レグリス。四天王第1位になると、魔王からよく婚約者があてがわれるって本当?」
「おお、そうじゃぞ。まあ、王国最強の男であるわけだしのう。その子種が欲しいのじゃろう」
え、もしかして、四天王の第1位って、魔王の最強魔術師爆誕計画のためのなんていうか、種馬というか……。
私はゆっくりとユリウスの方を見上げた。
「ねえ、ユリウスも四天王第1位だったよね? ユリウスも、私以外に婚約者がいたの……?」
私は、ふとよぎった疑問を隣のユリウスに投げかけた。








