ホラーなリリシュ軍団到来
セレニエールの言葉に甘えて、私達は早速魔王城に侵入した。
現在魔王城に侵入したメンバーは、私、ユリウス、アエラ、王子、ゴレアムの5人だ。
夢のドリームチームがどんどん削られていく。
しかし、正直ユリウスさんがいる限りなんかどうにでもなりそうだから問題ない。
「ここが、魔王城……」
と物珍しそうにゴレアムが呟いた。
魔王城には魔法の灯が空中にキラキラと漂う感じで、なんとも幻想的だ。
ガイア王国にはない感じだろう。
魔王城の中にも衛兵はいるけれど、彼らもセレニエールの魔法で放心状態となっているため素通りができた。
しばらく魔王城を進むと、唐突に「キャハハ」と少女の笑い声が聞こえてきて、足を止める。
この声は……。
「リ、リリシュ……?」
アエラが震えるような声でそう言った。
この笑い声、リリシュの声だ……。
その笑い声は、「きゃはは」「うふふ」「ははは」と1つの方向からじゃなくて、至る所から複数聞こえてきて、羽音も複数、聞こえる。
でも、辺りを見渡しても、姿は見えない。
これは、漫画のリリシュも得意にしていた透明化の魔法だ!
私はとっさに対抗するための呪文を唱えると、まるでカーテンが開いたかのように周りにいた何者かの様子が露わになった。
いつのまにか、私たちの周りは、数十体の妖精……リリシュに取り囲まれていた。
彼女達は、虚ろな目で、口だけで笑顔を作っていた。
「私、リリシュ! 貴方の名前はアエラっていうの? 良い名前ね」
「アエラ! こっちよ! きて!」
「ねえ、アエラ、この国を救いましょう?」
「私と一緒にいこうよ!」
「アエラ、大好きよ!」
「自信を持って! アエラは神様に選ばれた聖女様なんだから!」
「アエラ、元気を出して、アエラならできるわ!」
「アエラは私が守るから!」
彼女達から明るく優しげな声が漏れるけれど、目は虚ろ。
それに、同じ声、同じ顔でそんなことを繰り返し喋るその様子は完全にホラー……。
複数のリリシュによるホラー展開に、私達が一瞬固まったところで、一匹のリリシュが、グイード王子に向かって体当たりをするかのごとく突進してきた。
やば、ホラーなリリシュにビビってる場合じゃない!
と思っていると、突進してきたリリシュを腰に下げた剣を素早く引き抜いたゴレアムが、叩き切った。
そして、その真っ二つに切られたリリシュが、ちょうどアエラに目の前にポトリと落ちていく。
その姿は、リリシュと一緒に長く過ごしてきたアエラにとっては、強烈だったようで、
「いやぁああああああああああ!」
と、悲痛な叫び声を上げた。
そして、そのままくらりとよろめくアエラは、どさりと床に倒れそうになって、慌ててグイードが駆け寄って抱きかかえた。
「す、すみません、 王子! とっさのことで、配慮に欠けた行為を……! アエラ殿の様子は!?」
と、引き続き体当たりをかます複数のリリシュを盾や剣で防ぎながらゴレアムがアエラの様子を尋ねる。
「心配ない。気を失っているだけだ」
とグイード王子がアエラの様子を見て答えてくれたけれど……アエラの顔色、めっちゃ悪い!
「大丈夫!?」
と言いながら私も近くに行こうとしたけれど、そんな私の目の前に、「アエラ! アエラアエラ! ネエアエラ!」と言いながら別のホラーなリリシュが現れた。
口だけ笑って虚ろな目……まじ怖いんだけど!
私、そう言う人形系のホラーとか苦手なんだけど!
とか思っていると、目の前のリリシュがいきなり凍りついて、床にごとりと落ちた。
「エルル、私から離れるな」
と言いながら、私をかばうようにユリウスが来てくれる。
どうやらさっき凍らせたのはユリウスの魔法みたいだけど、でも、アエラが……!
と思いながら、アエラの方を見ると、先程気絶したと思われたアエラが、目を覚ましていた。
そして、近くに倒れているリリシュに手を伸ばす。
「リリシュには、私の魔法が効かなかったの。それは妖精だからだと、リリシュに言われてそう信じていた。でも、違ったのね。リリシュはホムンクルスだった。クラークと言う人が作ったお人形……。だから、私の力が効かなかった。……グイード様、お願いです。リリシュを、私達の仲間を安らかに眠らせてあげてください」
そういうアエラの声は、ゴレアムとユリウスがリリシュと戦っている喧騒の中だというのに、ものすごくはっきりと聞こえた。
「……分かった」
アエラの言葉に、そう答えたグイード王子が立ち上がり、腰から、魔剣を引き抜いた。
両手で掲げるように持つ。
「光の精霊よ、我に力を……」
そう唱えたグイード王子は、暫く瞑想するように佇むと、目をカッと見開いて、
「シャイニングフラッシュ!」
と叫んだ。
こ、これは! 漫画の後半戦でおなじみのグイード王子の必殺技じゃないか!
と、思っていると、グイードから強力な光が瞬いて、思わず目を瞑った。
眩しい!
て言うか、リアルで目の当たりにすると、なんて言うか、必殺技の名前、もっとなんか、かっこいいの無かったの!? 安易過ぎない!?
ボス戦を前に覚醒したグイードによるシャイニングフラッシュ。
そんなフラッシュのシャイニングな感じがなくなったタイミングを見計らって私は目を開けた。
すると、先程まで空中に飛び交っていたリリシュの姿が消えていた。
シャイニングフラッシュは、邪悪なるものを滅する魔法だって、漫画だと説明されていた。
漫画の後半戦で、クラークが操るホムンクルスに対してかなり有効な攻撃魔法だったわけだけど、邪悪なるものを滅するって、概念が曖昧過ぎない?
まあ、私は正義しかないから滅されることはないけど……あ、ユリウス!?
と思って慌ててユリウスの方を見れば、怪我なくそこに立っていたのでほっと胸を撫で下ろした。
よかった、ユリウスは邪悪じゃなかったみたい。
「解呪の魔法か。それもかなり強力なものだ」
魔法の剣を腰に収めたグイード王子に、ユリウスが興味深げにそう言った。
シャイニングフラッシュってそういう系の魔法だったんだ。へー。
邪悪とかは関係がないようだ。
「あなたにそう言われると自信になる」
と言って微笑んだグイードは、後ろにいたアエラに手を貸して立たせた。
「アエラ、リリシュは、眠ってもらったよ」
「……ありがとう、ございます。グイード様。それに、辛い役目をお願いしてしまいました」
そう涙ながらにお礼を言ったアエラとグイード王子が、抱き合った。
「あんな姿になったリリシュを、弱い私は、もう、見ていられませんでした……。リリシュは、ただの操り人形で、私たちのことを何も思っていなかったかも知れないけれど、でも、私、リリシュといて、楽しかった。偽りの笑顔だったのかもしれないけれど、それでも、リリシュの微笑みに元気を貰えていて……」
泣きながらそうアエラが話を続けると、グイード王子が「ああ、そうだね」と頷く。
「綺麗な空を見た時、気持ちのいい風に吹かれた時、夜空に星のきらめきを感じた時、私は、きっとまたリリシュのことを思い出すでしょう。リリシュの軽やかな声や大好きだった笑顔、そしてリリシュを消した今日のことを、その罪を。そして、その度に、私はリリシュの魂が安らかであることを祈ると思います。……グイード様、どうか、魔王の手の者に祈りを捧げる私を、許してください」
「いいんだ、アエラ。その時は、私も祈る。君の隣で、君の側で、君と同じ気持ちで、私も祈る。祈らせてほしい」
とアエラとグイードが、抱き合いながらリリシュとの別れを惜しんでいた。
漫画で読んでいた分、なんていうかこの二人の絆を目の当たりにして、ちょっと泣けてくる。
ゴレアムだって、なんか男泣きしてるし。
となんだか、感動のムードいっぱいのところで、「そんなことをしてる時間はない。さっさと行くぞ」とユリウスの冷たい声によって遮られた。
一人でスタスタと先を歩く男ユリウス。
感動ムードが唐突に終わりを告げた。
いや、まあ、確かにユリウスの言うことは正しいけれども!
ちょっとぐらいいいじゃんね!
と私は未練がましく思ったわけだけれども、当のアエラとグイード王子は、気持ちの切り替えができたらしく、「はい!」と二人して、いい返事をして、おとなしくユリウスの後を追ったのだった。








