四天王第2位、魅惑のセレニエール
セレニエールから発せられた甘い香りのような魔力が、魔王城の周りにも広がっていく。
そうか、これはセレニエールお得意の精神感応魔法だ!
私が改めてレグリスが捕らえられた辺りを見渡すと、レグリスの周りにいた衛兵達がぼーっとした顔をして立ち止まっている。
レグリスも拘束が解けたようで、こちらに向かって大きく手を振っている。
私達は、自由になったレグリスのところまで下りると、私は無事なレグリスの元に駆け寄って、とりあえずレグリスの膝下の辺りを蹴った。
「痛い! な、何をするんじゃ、エルル!」
「こっちのセリフよ! まったく、あんなにかっこよく下に降りたと思ったら、何拘束されてるのよ!」
あといい年こいてテヘペロなんてしてるんじゃないわよ!
「まあ、まあ、エルル嬢、それぐらいで。無事に、魔王城には入れそうなのですから」
とグイードがその甘いフェイスに笑みを浮かべて声をかけてくると、隣のアエラも「そうですよ」と微笑ましそうに笑っていた。
だって、こんな奴が元アナアリアの四天王第三位なんだってなったら、それより下の私の立場がないでしょ!?
「とりあえず、さっさと先に行きなさい。ここは、私がなんとかするけど、それほど長くは持たないわ。もって2時間ぐらいってとこね」
確かに、こんな広い範囲に影響を及ぼすような魔法、そう長くは持たないよね。
とか考えていたら、そんなセレニエールの背後に、何者かの動く影が……!
「セレニエール! 後ろ!」
と叫んだ時には、その何物かの凶刃がセレニエールに迫っていて、ヤバイと思った私の耳に、ドン! という何かがぶつかるような音が聞こえてきた。
「危ない奴のう。婦女子の背後から襲うとは、けしからんやつじゃ」
というレグリスの声が聞こえてきた。
セレニエールを守るようにしてレグリスが立っていた。
そして、レグリスの視線の先には、吹っ飛ばされたフードを被った何者かの姿。
手には、先程セレニエールを襲おうとしていた刃が握られている。
どうやら、レグリスがセレニエールを助けてくれたみたい。
レグリス、やるときゃやるね!
この分なら、まあ、エルル村の八神将あたりに任命してあげてもいいかも。
「こいつは、魔神官の一人だな」
ユリウスが倒れた男の側に寄って顔を確認してからそう呟いた。
魔神官……?
魔神官が、魔王城の外にまで来るなんて。
「確か、魔神官って魔王のホムンクルスなんでしょう? どうやら、私の魔法、ホムンクルスには効きが悪いみたいね」
セレニエールが忌々しそうにそう言った。
と言うことは、クラークの作るホムンクルス達も効いてないってことか。
レグリスが、私の方を振り返った。
「とりあえず、早く魔王城に行って勝負をつけなくてならんということには変わりない。セレニエールの魔法で衛兵の動きが止まっている間に行ってこい。わしは、ここでセレニエールを守ることにする。セレニエールに何かあれば、衛兵達も襲ってくるからのう」
そう言ったレグリスは、なんだかちょっとばかしカッコよかった。
セレニエールもレグリスがそばにいてくれることになって安心したのか、ちょっとホッとしたような顔をする。
「分かった。じゃあレグリス、ちゃんとセレニエールを守りなさいよ! ちゃんと守れたら、白髪のオジジという異名と共に、正式にエルル村八神将にしてあげるんだから!」
「は、白髪のオジジ……」
とレグリスが不満そうに呟きと
セレニエールが吹き出すように笑った。
「ふ、ちょっと、白髪のオジジって、エルル、命名センスなさ過ぎ。それに、レグリスは元々、エルルみたいな赤い髪でね、赤髪の鬼神だなんて呼ばれてたんだから、もっといい名前考えてあげなさいよ」
ええ!? 白髪のオジジってめっちゃかっこよくない!?
私がセレニエールに言われた衝撃の言葉に目を見張っていると、セレニエールが手をあっち行けみたいな感じで振った。
「まあ、いいわ、あんた達、早く行きなさい。……ユリウス、くれぐれもエルルのことを頼んだわよ」
そう念を押すようにセレニエールが言うとユリウスが力強く頷く。
「言われなくとも」
「私の心配は無用よ! なんていっても、エルル村の偉大なる村長なんだから! 速攻でクラークはボコボコのボコだし、魔法陣なんてボロボロのボロにしてきてあげる!」
私がそう高らかに宣言すると、セレニエールがなんだかいつもと違って、優しそうに微笑んだ。
「……ねえ、エルル、無事に魔王の復活を阻止したら、あなたに話したいことがあるの。だから、ちゃんと生きて帰って来なさいよ」
話したいこと?
なんだろう。
ユリウスにしてもセレニエールにしても、どうして全てが終わった後じゃないと話せないんだ。
まあいいけど。
「もちろんよ、私は絶対に戻ってくるわ。だって、エルル村の偉大なる村長なんだからね!」
私は笑顔と共にそう言うと、セレニエールとレグリスを置いて、魔王城へと踏み出すことにした。








