決戦前夜 前編
しばらく毎日更新をするので、話数に注意ですよ!
聖女御一行に元アナアリア四天王の二大勢力が力を合わせて、魔王を倒すと固く誓い合ったその日のうちに、私たちは、エルル村の村人たちの避難のために転移魔法で元ローランが住んでた村へと移動した。
何せ明日から、村の主要戦力総出で魔王打倒のために旅立つのだ。
まずは後顧の憂いを失くすために、エルル村を移転しての安全確保が最優先事項である。
そして、エルル村の安全を確固たるものにすべく、ローランがユリウスに防御魔法を教わりつつ、村全体に結界魔法陣を描いた。
そうして守りも固めてもう明日魔王城へ行くために英気を養うだけの夜。
私達は新たな仲間たちとの結束力も高めるべく、魔王討伐前夜祭としゃれこむことにした。
野外パーティーだ!
「ほら、食べて食べて! わがエルル村の四天王の一人、伝説の料理人メイデの魅惑の料理を食べて! あまりのおいしさに、ほっぺがとろけること間違いなし! あの元アナアリア魔王軍四天王ユリウスでさえ、メイデの料理の前では、ただの食べ盛りの少年のような豹変を見せる悪魔の料理よ!」
エルル村界の新入りである聖女御一行の表情が未だに硬いので、我が四天王の一人メイデによる唸るほど美味しい食事を勧める。
おいしい食事のおかげもあってか、しばらくすると少しばかり緊張している様子だった聖女ご一行やセレニエール&レグリスペアもリラックスしてきたようで、楽しそうに談笑したりする声も散らほら。
結構砕けてきたようだ。
と言うか、むしろ砕け過ぎて、何故かゴレアム対レグリスの腕相撲が始まり、そこからヒートアップして『キャラがちょっとかぶってるんじゃ!』とか言い合いながら殴り合いが始まり、多分全然関係ないのにセレニエールが『私のために争わないで!』と言い始めたりで、もうてんやわんやである。
その勢いで、先程ローランが描いたばかりの守りの結界の一部をゴレアムとレグリスが壊してしまい、二人のいい大人が、ローランにめちゃくちゃ怒られたりした。
アエラも終始笑顔でそんなドタバタの様子を見ていて、そんな笑顔のアエラをグイード王子が、こっちが恥ずかしくなるくらいめちゃくちゃ愛しそうに微笑んでアエラを見つめてて……やっぱりあの二人はもうすでに、恋人同士だったりするのかな……。
となると、ユリウスが、もし、もしアエラのことを好きになっても、ユリウスはアエラにふられちゃう感じで……そしたら、そうしたら……。
と考えて、ちょっとばかし、喜んでしまいそうな自分がいて、びっくりした。
何これ、私、こんなこと考えるなんて、とっても悪いやつじゃないか。
ユリウスは、仲間だし、エルル村四天王栄光の第一位の位を授けてもいいと思ってるくらいなのに、ユリウスの気持ちを応援できないどころか……ふられそうなユリウスを想像して喜ぶなんて……。
そう思って、なんとなしに隣にいるユリウスの方を見ようとしたら、ユリウスがめっちゃ私のことを見ていて、バチっと目が合った。
少しばかりアルコールの入った飲み物を片手に、なんだか男のくせに色気すら感じさせる微笑みで私を見ていて……。
「な、な、な、な、何を見てるのよ!」
私が、思わずびっくりしてそう声を荒げると、ユリウスは首をひねって「見てはいけなかったか?」といつもの調子で答えた。
「べ、べ、べ、別に見ちゃいけないってわけじゃないけど……」
いやだって、だってめっちゃ見てるんだもん!
ちょっとユリウスの様子を見ようと思ったらさ、すでにユリウスに私が見られているとかさ……え、これ、深淵!?
私がユリウスを覗く時、またユリウスも私を覗いてるとか、そう言うこと!?
あまりのびっくり具合に意味不明なことをツラツラ考えていると、「エルル、少し話がある。二人だけで。できれば他の者には聞かれたくない。少し場所を変えたいが、今時間はいいか?」とユリウスが真剣な顔で話しかけてきた。
え、ふ、二人だけで……?
なんで二人だけなんだろう。なんかちょっと気恥ずかしいんだけど。
でも、あれかな、明日決戦な訳だし、こう色々とエルル村の村長である私に確認せねばならないことがあるのかな。
「べ、別にいいけど……」
と私が答えると、ユリウスがさっと立ち上がって、手を差し出してくれた。笑顔付きで。
何このこそばゆい流れは!
しかし差し出された手に罪はない。
ここは淑女としてその手を取ろうじゃないか、と慎重に手を伸ばしてユリウスの手に自分の手を重ねた。
そして、私はすごすごユリウスの手に引かれて、ちょっとみんながいるところから離れた場所へと移る。
「そ、それで、こんなところでなんの話よ」
と、改めて暗がりに連れていかれた私は、目の前のユリウスに尋ねた。
「明日アナアリアに向かう前に確認したいことがある。……本当に、エルルは、魔王の復活を望んでいないと思っていいか?」
なんだか改まった様子のユリウスに投げかけられた問いに思わず目が点になった。
「ん? そんなの当たり前じゃない。私達は、魔王の復活を阻止するため、あの魔法陣を壊すために明日乗り込むわけでしょう? だいたい、魔王を復活させるためには私、死ななくちゃいけないじゃない。私そんなの絶対にいや!」
私が当然のことを言うと、ユリウスが少しばかりためらうように再び口を開いた。
「もしもの話だが、エルル、君の命を犠牲にしなくても、魔王が復活するとしたらどうだ?」
「なにそれ。もしもの話だなんて、ユリウスらしくないわね。まあ、どちらにしろ、私が死ななくっても、魔王なんて、復活させる気サラサラないわよ!」
と私がはっきりと話してるのに、ユリウスはそれでも心配そうな表情を崩さない。
「本当か? エルルは、かつて魔王のことを信じていた。子が親に向けるような愛情を、いや、それ以上のものを捧げていた。今は、その正体が魔法陣だと知って、裏切られた気持ちが強いかもしれないが、もし、魔王が復活したとしたら、実体を持つ。感情も持つだろう。そうなったら、エルル、君が望む通りの愛を、魔王は注いでくれるかもしれない」
ユリウスの言葉を聞いて、あまりの衝撃具合に、息を飲んだ。
いや、まあ、そう言われてみれば、そういう風に考えることもできるかもしれないけれど……。








