真実を知る話し合い3
ちらりとアエラの様子を見てみると、彼女の顔色はすでに悪く気落ちしている風だった。
でも、このことに触れないわけにはいかない。話さなくちゃ。
私は深呼吸をして、気持ちを固めると、口を開いた。
「リリシュは、クラークが作ったホムンクルスだったのよ。つまりクラークの魔法によって作られた疑似生命体。エルル村の場所が特定できたのもリリシュのせいだと思う。偶然、立ち寄った村に私達がいて、きっと喜んでクラークに報告したんでしょうね」
「ど、どうして、そんなことを? なぜ、私の元にホムンクルスなんかを……? だって、リリシュは元気でかわいくて、いつも私達を助けてくれた! 私に聖女の力を! 神さまの力を教えてくれたのも、リリシュだったわ!」
先程までずっとだんまりしていたアエラが、涙をこぼしながらそう一気に攻め立てるように話した。
「それは、多分、アエラが、魔王の血筋だからだと、思う。リリシュは、魔王の血筋の特異な力を持つ者を成長させるために遣わされたホムンクルスだったのよ」
私がそう話した後、アエラが呆然とした顔で「魔王の、血筋?」と呟いた。
「うん、これははっきりと分かってるわけじゃないんだけど、クラークが言っていたの。魔王の血筋の特異な力と無限の魔力があれば、奇跡の力を、魔王を復活させることができるって……。多分だけど、アエラの治癒魔法は、魔力さえ尽きなければ、生き物を生き返らせることができるほどの潜在能力があるのだと思う。だから、リリシュは、アエラにその血に宿る力を目覚めさせ、魔王討伐というもっともらしい目的をあげて、アエラに魔法を教え、使い方を経験させて、いつかくる奇跡のような魔法を使う時に問題なく使えるようにしたかったのだと、思う」
今思えば、前世の漫画の中でも、リリシュは誘導的な行動を取ることが多かった。
アエラの力をつけさせて、魔王を復活させるために魔王城へ誘う役目を持っていた、のかもしれない。
漫画でエルルはアエラ達に倒された場面があったけれど、その時のエルルの死体は綺麗なものだった。
それは少女漫画的なお約束だと思って、大して気に留めてなかったけれど、あの後心臓だけ綺麗に抉り取られていたのかもしれない。
そして魔王を倒すために、魔王城へやってきた何も知らないアエラに、リリシュがうまく誘導して、私の心臓を贄に捧げて、魔王復活のために魔法を行使されていたとしたら……。
前世で見ることができなかった大好きだった漫画のオチを想像して、背筋が震えた。
「そんな、リリシュが、リリシュ……!」
アエラがそう呟いて、また涙を流す。
隣にいたグイードが気づかわし気に、そんなアエラの肩を抱いた。
アエラだけじゃなく、ゴレアムやグイードにとっても、リリシュは仲間だったはずで、二人もきっと辛いだろうな。
「つまり、魔王は今は魔法陣だが、元は人間だったということか。そして、アエラの力を使って、体を取り戻そうとしている、そう言うことだな?」
アエラを慰めるようにアエラの肩を抱くグイード王子がそう静かに言った。
「そう言うことね」
と言って私が頷くと、セレニエールが鋭い目で私を見た。
「あのアエラって子の力の話は分かったけれど、エルル、貴方の心臓が狙われている理由が知りたいわ。無限の魔力? 本当なの?」
そうセレニエールに問われて、本当なんですと頷こうかと思ったけれど、私としてはそれについてはいまいちピンと来ていない。
確かにユリウスにも魔力の永久機関になり得るとは聞いていたけれど……。
少しばかり考えている私に代わって、そのユリウスが代わりに答えてくれた。
「確かにエルルは、魔力を無限にもたらす力を所有している。魔王は、アナアリアにいた時エルルにそれを確かめるための実験を繰り返し行わせていたらしく、おそらくそのことは確信しているだろう。魔王は、エルルの心臓を贄に捧げて、アエラに魔法を行使させるつもりだ。そうすれば、無限の魔力と共に、アエラが力を行使できると、あの魔法陣は計算している」
そう言ったユリウスが少しばかり浮かない表情で、「だが……」と小さく呟くのが聞こえてきて、顔を向けた。
しかし目が合ったユリウスは、何でもないとでも言いたそうに軽く首を横に振った。
なんだろう。ユリウスにしては自信がなさげというか。気になる。
とか思っていると、セレニエールが深い溜息を吐いた。
「確かにエルルの魔力は多いとは思っていたけれど、そんな特異体質だったなんてね。それにしても、魔王っていうか、その魔法陣を作った人間、正気じゃないわね。とっくの昔に朽ちた体を復活させるってことでしょう? ……そんな魔法、聞いたことないわ。そうやって蘇らせたとしてホムンクルスの類似品ではないの? 生前の記憶を持っているわけでもなく、能力も性格も生前通りとは行かないんじゃないかしら」
「だから、アエラの特別な力を使うのだろう。治癒魔法。アナアリアにはない概念だ。その力で、人体錬成とは違うやり方で、体を創るのではないか? 先程見ただろう?レグリスの腕を再生させたのを」
ユリウスがそう言うと、その場が沈黙した。
たしかにね、アエラのあの凄まじい力を見ると、もうなんも言えないよね……。
そして、少し落ち着いてきたらしいアエラが、口を開いた。
「確かに、無限の魔力があれば、私は、人の体を完全に再現できるかも、しれません。でも、それをするためには、決定的に足りないものがあります。体を創る元となるもの、です。つまり魔王の体の一部。風化したものではだめです。新鮮なものでないと、だめなのです」
アエラのその言葉に、レグリスが、興奮したように声を上げた。
「なんと、もしや魔王の読み間違いか? もうアナアリアが建国して500年以上経過しておる。魔王の遺体をどこかに保管していたとしても、おそらく風化し、ミイラとなっているはずじゃ! これならば、魔王は復活できないのではないか?」
とレグリスが、テンション高く言うと、ユリウスが首を横に振った。
「いや、魔王の体の一部は、風化せずに、アナアリアの中枢にたくさん転がっている」
「どういうことじゃ?」
「魔神官だよ。ホムンクルスを作る時に、いや、ホムンクルスじゃなくていい、大掛かりな魔法を使う時、外に放出する魔力をよりコントロールしやすくするため、我らは自分の血を贄にして、魔法を行使する。おそらく、魔王は我々が魔神官と呼んでいるホムンクルスを作る際に大量の血を使った。魔神官の体内には、風化せずに魔王の血が保存されている。その証拠に、魔神官には、アエラと同じような力が使えただろう。アエラほど強力なものではないが、治癒薬を作り出せる」
ユリウスの言葉に、アナアリア勢ははっと息を呑んだ。








