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魔王城侵入大作戦開始

 前世の漫画でも、結局魔王様の正体はわからなかった。

 もしかしたら最終巻には書かれていたのかもしれないけれど……。

 もう! つくづく口惜しい! なんであのタイミングで死んじゃうんだよ! 前世の私!


 前世の私の不甲斐なさを心の中で罵りながら、屋敷の地下に半径10メートルほどの大きな魔法陣を描いていく。


「ノモニーエト ノモニーエト エイン イク ……転移の門。我が血を贄にして、求めに応えよ。我が英知は絶対の法なり」


 完成した魔方陣から、輝く銀色の光が溢れ出し、そしてしばらくして、光が失せた。

 私は魔方陣から離れて、自分の手の甲を切る。

 滴る血を小さな瓶の中に垂らして、ある程度の量が溜まったのを見て、血を止め、瓶の蓋を閉めた。

 よし。


「カンナ、大事な話があるわ」

 私の魔法の儀式をずっと怯えたように見つめていたカンナにそう声をかけた。

 そのカンナに、私の血が入った瓶を差し出す。


「私はこれから、魔王様の法を犯す。多分、生きて帰れない。生きて帰れたとしても、きっと私はこの国の反逆者。もし、私が戻らず、国の奴らがこの屋敷を襲うようなら、使用人全員連れて、この転移魔方陣で外に逃げなさい。魔方陣の中心にこの私の血をたらせば、魔法が発動する。転移魔方陣の中にあるものすべてをガイア王国の辺境に転移するようになってる。屋敷にある宝石類とかお金になりそうなものは持って行っていいから、ガイア王国に着いたらあとは自分たちでどうにかして生き抜くのよ」

 そう説明して、押しつけるようにカンナに私の血が入った小瓶を渡すと、カンナは驚愕の瞳で私を見上げた。


「エ、エルル様! 何をするおつもりなんですか!? もう戻れないかもしれないって……! 私、いやです! 離れ離れになるのはいやです!」

「もう、決めたの。私のわがままでこの屋敷に連れてきて、最後まで面倒を見ないで、勝手なことばかりで……悪いって思ってる。私は、結局のところ、バカなエルルで、四天王の中で一番最初に倒される雑魚で、面汚し、なのかもしれない。……カンナ、ごめんね」

 私はそう言って、地下の部屋から出た。

 止めようとするカンナの声が聞こえるけれど、もう止まれない。

 前世の記憶を手に入れて、聖女に気をつけながら、細々と生きる道だって、あったのに。

 

 恋愛だってしてみたかった。もっと美味しい食べ物だっていっぱい食べたかった。

 憧れの漫画の世界に来たんだし、聖女を一目見てみたかった。

 登場人物のキャラを見て、その漫画の名場面をこっそり生で見るのも楽しそうだ。


 でも、私は、確かめずにはいられない。

 たとえ、魔王様を裏切った反逆者として追われることになっても、死ぬことになっても。

 魔王様の正体を……確かめたい。

 私が信じて愛したものを知りたい。


 魔法の力は、知恵と技術の結晶。

 私達魔術師は、知識の探求者だ。

 一度気になって、知りたいと願った思いを止められない。


 だって、魔王様がそういう風に、私たち魔術師を育てたのだから。



ーーーーー



 魔王様がいらっしゃるという魔王城の前に着いた。

 門の前には、見張りがいる。

 四天王の一人剛腕のレグリスの配下の兵士だろう。


 四天王は国の軍事力を司っていて、それぞれ軍の中で役割を持っている。

 四天王最強のユリウスは、国の武力である魔王軍の最高責任者だ。

 今、ガイアの戦争で侵略をしている兵士たちはユリウスの命で動いている。


 四天王二番手の誘惑のセレニエールは、魔王軍の副責任者で、ユリウスの補佐を行っている。

 軍で二番目に強い権限を持っている。


 四天王三番手に当たるレグリスは、主に国の治安を担っている。前世で言えば、警察のような役割で、戦争には参加しない。

 

 そして四番手の私は、攻撃魔法の研究機関の長を司っていた。

 最近就任したばかりで、しかもその役目も、これでもう終わりだけどね……。


 私の後任は誰だろう。

 本来なら、四天王の交代は決闘で決まる。

 私も、先代の四天王の一人を倒して得た役職だった。

 いや、もう後のことを考えるのはよそう。

 今は目の前のことに集中だ。


 私は覚悟を決めると、魔導解析の魔法を右目に展開させる。

 幾何学模様の魔法陣が、目の前に広がりそして収束し、右目に映る世界に別の色が入っていく。


 城の防衛に使っている魔法の解析が始まった。

 転移反射、守護壁、魔法探知、侵入者警報……。

 やっぱり、色々魔法かかってるよねぇ。


 でも、今日は運良く剛腕のレグリスは城にいないし、やるなら今しかない。

 私は四天王の一人だから、城の中に入るのはどうってことないけれど、魔王様がいらっしゃる魔王宮は、城の奥のそのまた奥。

 私の権限で以ても入れないような魔王城の奥なのだ。


 厳重に魔法で守られていて、少しでも立ち入れば、感知されて、捕まる。

 魔王城の防衛魔法を一時的にでも作動しないようにしなくちゃ……。


 魔王様のお姿を拝見する前に捕まるのだけはいやだ。

 私は絶対に、魔王様に、会う。死は覚悟してるけれど、それは魔王様の正体を確かめてからだ。


 四天王の中では最弱だけど、それでも私は四天王の一人。

 魔王宮への侵入だって、やれないことはない。

 準備をすれば、魔王宮までは行ける。魔王様にだって、会える。


 ちょっと帰り道は、心許ないけどね……。

 それでもやる。

 確かめたい。今まで私が愛してきたものの正体を。


 私は丈のある草に隠れるように設置してある人の頭ぐらいの大きさの青い魔法石に触れた。

 魔王城を囲むようにして、遠く離れた場所にこの魔法石と同じものが6か所設置されている。

 その魔法石には、共鳴と遅延魔法の魔法陣を刻んである。

 魔神殿に忍び込む今日の日のために私が用意したものだ。


「ノモンエイク ノモンエイク エイン イク……遅延の門。我が血を贄にして、求めに応えよ。我が英知は絶対の法なり」

 呪文を唱えて、血を魔法石に垂らすと、魔法石は青白く発光した。


 ちょっと地味だけど、大規模な魔法が発動した、はず。

 魔道解析の右目で、改めて魔王城を見てみると、城の守りである防衛魔法に一見するだけじゃばれない遅延魔法が影のようにこっそりと施された。

 これで、私が魔王宮に侵入しても、すぐには防衛魔法は発動しない。


 こういう細かい魔法は私苦手だから、成功するかどうかひやひやしたけれど、成功だ!

 流石、私! 四天王のエルル様なだけはある!


「だって、私は、魔王様を最も愛し、魔王様に最も愛され……あ、いつもの癖が……!」

 苦手な分野の大規模魔法に成功して、思わずいつもの魔王様を讃えるセリフを吐こうとしてしまった……。

 これから、魔王様の法を犯すというのに、私って奴は……。


 いや、だって、何か大きな魔法に成功したときとか、いつも言ってたし!

 くっ! 侵入する前から、精神攻撃してくるなんて……流石魔王様!

 じゃない、まずは落ち着こう私!


 大体、こんな夜の森の中、一人で高々に声を上げるっていうのは、うら若き乙女としてどうだろう。

 私は、深呼吸で気持ちを落ち着かせると、再度魔道解析の目で、私の遅延魔法が無事にかかったことを確認して急いで王城に向かった。


-----------


 魔法を使って、一飛びで、魔王城の門に辿り着いた。

 これでも四天王なので、表門の見張りは顔パスで通れる。

 私は素知らぬ顔で、中に入り、まっすぐ目の前のでかい建物、魔王城へ向かう。

 私は、ゆるぎない足並みで魔王城の、奥の奥に進んでいく。

 行き会う人たちが、四天王のエルル様のお通りだとばかりに、道を開けてくれるのでどんどん進む。


 そして、徐々に人の気配がなくなり、心なしか空気も重たく感じてきた頃、地味な見た目の扉が見えた。

 扉の前には、見張りが二人ほど立っている。


 あの扉の先に行くことができるのは、魔神官のみ。

 つまりあそこが、魔王宮の入り口だ。


 コツコツとまっすぐ進む私を最初は訝しげな目で見ていた見張りだったけど、やってきたのが四天王の私だとわかって慌て敬礼をした。


「エルル様! このようなところで如何されましたでしょうか!」

 見張りの一人がそう声をかけてきた。

 私は胸ポケットから、小瓶を取り出してフタを開ける。


「日頃から勤めを果たすあなた達に、ご褒美を持ってきただけよ」

「ご褒美、ですか?」

 惚けた顔をした見張りに、手に持っていた瓶を差し出した。

「疲れを癒す魔法薬」

「魔法薬? あ、しかし、ここで、魔法薬の蓋を開けてしまうと、魔力を感知されて、けい、ほう、が……」

 二人の見張りが、眠りの魔法を施した魔法薬の匂いを嗅いで倒れた。


「悪いわね。ていうか、結構あっさりここまで上手くいっちゃったわね。こんな脆い守りでこの国大丈夫かしら。剛腕のレグリスになんか一言言った方がいいような気がしてきたわ」

 幸せそうに寝ている見張りを見下ろしながら、思わずそんなことをつぶやく。

 まあ、四天王の一人である私が、まさか魔王宮に忍びこむなんて、誰も考えないもんね。


 それに、外に張られている防衛魔法だけで事足りると言えば足りるしね。

 あれはなかなかに強力だ。私だから、遅延魔法がうまくいったものの、そんじょそこらの奴らじゃ無理ね。

 なにせ私は、最も魔王様を愛し、げふん!


 もうこの流れはやめよう。

 私は、一旦心を落ち着かせてから、目の前の扉に手を当てた。


 この扉はただの扉じゃない。

 魔法がかかっている。

 私は魔法を解析し、一つ一つ、魔法の紐を解くように、分解していく。


「だから、私、こういうちまちました魔法苦手なんだけど」

 そんなことをつぶやきながらも、ちまちまと扉にかかった魔法を解析をする。

 扉に掛けられたのは、暗号の鍵魔法。

 扉に掛けられた魔法の言葉の対になる言葉を唱えることで、開錠される。


「西の篝火」

 カチ

「夢の虚像」

 カチ

「ぼっちの才能」

 ……。

 あ、間違えた。

「孤高の才能」

 カチ


 それから10節ほどの言葉の対を唱え終わると、最後に一際大きな解除音が鳴り、扉が開かれた。

 ノブは回していないけれど、扉が勝手にギギギと音を鳴らして開いていく。


 この先に……魔王様が。

 と思ったけれど開いた先は、地下へと続く暗い階段だった。

 流石に扉が開いたらすぐ魔王様ってわけにはいかないか。

 私はその階段を一つ、また一つと慎重に降りていく。

 しばらく降り続けると、段差がなくなり、一本の長い通路につながった。

 薄暗くて良く見えないけれど、奥に扉が見える。

 きっとあの扉の向こうに、魔王様が―――


「そこで何をしている?」

 突然声を掛けられて、思わずビクッと肩が上下した。



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