リリシュの正体
アエラの名前を呼びながら、繁みから現れた人影のうちの一人は、アエラの仲間のグイード王子だった。
彼は、アエラの他に人がいることに気づいて、「何故、お前達が……!」と言って、腰に佩いた剣を抜き放った。
同じく一緒に現れたゴレアムも戸惑うように私たちを見る。
うん、きっと何が何だか分からないだろう。
私だって、改めてこの現場を見ると、正直何が何だか分からない!
ユリウスがいて、私がいて、セレニエールもレグリスもいてそしてアエラがいて、そしてグイードやらゴレアムやらまでやってきて、漫画のメインキャラクター大集合だし、アエラはそのレグリスの腕を治してるし、私もさっきアエラに怪我を治してもらったし……!
いやこれ、ホントに、なんて説明しよう。
なんて、考えていると、レグリスのおでこにこっつんこを終わらせたアエラが、立ち上がった。
「すみません、グイード殿下。勝手な行動をしてしまって……! あの、剣を納めてください! みなさん、悪い方ではないのです」
グイード王子にそう言ったアエラだけれど、グイード王子は、まだ状況が飲み込めずに戸惑うようにアエラを見た。
「ア、アエラ、これは、一体……? いやそれよりもそこから離れるんだ。彼らは、アナアリアの四天王じゃないか!」
王子はそう言って、アエラの近くにいるセレニエールやレグリスを見た。
いや、睨んだと言ってもいい。少しばかり憎しみを感じさせるような鋭い目でセレニエール達を睨んでから、再びアエラに顔を向けた。
「特にそっちの二人は、リリシュのカタキだ!! そうだろう? あいつらの奇襲で、リリシュは……!」
そう声を荒げるゴレアムの顔が辛そうに歪む。
そうか、確かリリシュは、彼らの攻撃を庇って、倒れたんだっけ……。
ゴレアムの悲痛な声に、エルル村での一幕を思い出す。
でも……。
「グイード殿下、ゴレアム様、私が、この場に来たのには、訳が、あります。その……リリシュの、リリシュの気配を感じたからです」
アエラがそう力なく言った。
顔色が悪い。
「リリシュの? しかし、リリシュは私たちを庇って、死んだ……」
戸惑いつつもそう返す王子にアエラは頷いた。
「そう、リリシュは死にました。私を庇って、力尽きたリリスはしばらくして光と共に消えた。でも、先程、この場所で、微かにリリシュと似た魔力を感じたのです。それで私は、慌てて、リリシュの魔力を、感じた、この場所へ……」
そう話しながらどんどん泣きそうな声になるアエラは、とうとう言葉を止めて、辛そうに目を伏せた。
そんなアエラの話を聞いていたグイードは目を見開いた。
「リリシュは、生きていたのか?」
王子の問いかけに、アエラは戸惑う瞳を揺らして、そして静かに首を振った。
「分から、分からないんです。わ、私が見た時には、確かに、リ、リリシュはいて、でも、それは、リリシュだったけど、リリシュじゃなくて……だって、リリシュは……!」
と、とうとうアエラの瞳から大粒の涙を流した。
泣きながら戸惑うように吐き出すアエラに、グイード王子が私たちに向けていた剣を下ろして、アエラに近づく。
「アエラ、どうしたんだ? 何があった?」
そう言って、アエラの肩を優しく抱いて、さりげなく私達からアエラをかばうように抱き寄せた。
そしてグイードは、再び敵意に満ちた瞳で私たちを睨んだ。
「アエラに一体何をした。……こんな風に戸惑う彼女は、初めてだ。お前達がなにかをやったのか?」
「違う、違うんです! 殿下! 彼らは、彼らは何も……! すみません、ちゃんと、私が、説明しなくちゃ、いけないのに……でも、私もよく分からなくて、だ、だって、リ、リリシュが……」
と言ったアエラの顔色は青ざめて、そしてやっぱりその先を言えないようで言葉を止めた。
多分、アエラは、優しいし、何よりもリリシュのことが好きだったから、その先のことを言えないのかもしれない。もしくは自分でも、そのことを認めたくないのかもしれない。
だから、アエラが悲しむかもしれないけれど、私が代わりに言うべきだと思った。
「リリシュは、アナアリアの四天王の一人のクラークってやつが作ったホムンクルスだったのよ」
私がそう言うと、アエラが私の方を見て目を見開き、そして小さく頷いて、涙を流した。
私の隣でユリウスが「なるほど、そう言うことか」と呟いた。
さすがのユリウスさんは、クラークの発言の一部始終を知らずとも色々と察したらしいけれど、基本的に情報の足りないゴレアムとグイードが目を見開く。
「ホムンクルス? どういう、ことだ?」
そう言って、グイードが戸惑いの瞳を私に向ける。
「話せば、長くなるわ。他にも色々説明しなくちゃいけないこともあるし、アエラも治癒魔法を使って、疲れてるだろうし、泣いてるし、私もお腹が空いたし。だから、詳しいことは……私のエルル村に戻ってからにしましょう」
私がそう言うと、少しばかり迷うように眉を寄せたグイードだけど、アエラの様子を見て、ゆっくりと頷いた。
「分かった。そうしよう。君は、あの時、私達を守ろうとしてくれていた……信じよう」
王子がそう言うと、私のそばにいたセレニエールが、優雅に髪を払った。
「……そうね、私も色々聞きたいことがあるし、魔王様の正体のこととか……。エルル、聞かせてもらうわよ?」
セレニエールの言葉に私は頷いて、そのあとなんだか、暗ーい雰囲気のまま、アエラのすすり泣きをBGMにエルル村に戻ったのだった。








