閑話:ユリウスの望み
お久しぶりです!
すみっません!更新が!滞ってしまい!
寒くて!(ひどい言い訳
もう前回の話なんか、忘れてしまったよ!って方のために、あらすじ!
あらすじ:
魔王の正体が魔法陣だとしったエルルは、ユリウス等と一緒に隣国ガイア王国に移りスローライフを送っていたが、
魔王軍四天王がエルルの心臓を求めてやってきて、絶体絶命のピンチ!
でもユリウスが最強だったのですんなり撃退。
と思いきや、謎の攻撃を食らって片腕を痛めたエルルに、
ユリウスが幻惑魔法にかかってやっぱり絶体絶命の大ピンチ!
エルルはいったいどうなっちゃうの!?
という感じでした!
そして今回は、ユリウス視点。
お気を付けください!
私は起き上がって目を開いた。
だが、目を開けても深い闇に包まれていて、何も見えない
ここは、どこだ?
先程まで、私は確か……。
そうだ、アナアリアの追っ手が来た。
それで、彼らを追い詰めて、そして……。
「アナアリアの魔の手から、エルルを守り、次からは私の可愛いエルルが傷一つつかないように、閉じ込めてしまおう」
自分のすぐ後ろでそんな声が聞こえた。
「誰だ?」
そう言って、振り返るがそこには何もない。ただ闇が広がっている。
「私はお前だよ。ユリウス」
また後ろから聞こえた。
しかし振り返っても、見えるのは暗闇だけだ。
私はお前?
確かにその声は私の声のようにも聞こえる。
まさか、ここは、セレニエールの幻惑魔法の中か……!?
いや、そんな、馬鹿な。
幻惑魔法は心に弱さがある者しか、掛からないはず……。
一体何があった?
私がそんな魔法に掛かるはずがない……。
確か、私は、あの時、セレニエール達がやって来て、それで……。
『ユリウスに守られて、ユリウスの言いなりなんて……魔王に騙されていたあの時の私と一緒じゃない! 私はアナアリアにいた時のように、誰かの言いなりに動いて満足しているような人形じゃ無い!』
エルルの言葉を思い出して、めまいがした。
そうだ、そうだった。
私は、あの時そのエルルの言葉を聞いて惑い……セレニエールの魔法に掛かったのか。
「ユリウス、私の手を取れ。そうすればお前の望みが叶う」
再び声が聞こえたかと思うと、私と同じ姿形をした者が目の前に現れた。
それが不敵に笑って、右手を差し出していた。
「私の、望み?」
「そうだ。エルルを自分だけのものにしたいんだろう? 綺麗な恰好をさせて、安全な家の中で、自らの言う事全てを受け入れる人形のようなエルルが欲しいのだろう? だから、誰の目にも触れさせないよう閉じ込めて、自分無しでは生きていけないようにする。それがお前の望みだ」
私と同じ姿をした者から出たおぞましい欲望に、目を見開く。
「そんなこと、望んでなど、いない。……それを望めば、私は魔王と、同じになってしまう」
そう答える私の声は、震えていた。
『誰かの言いなりに動いて満足しているような人形じゃ無い!』
そう言った辛そうなエルルの顔が脳裏によぎる。
魔王は、エルルを、いや、アナアリア王国の民全てを、魔王のために生きる駒、魔王無しでは生きられない存在にしようとしていた。
エルルは魔王のその傲慢さに傷つけられた。
私は、もう二度とエルルを傷つけたくない。魔王のようにはなりたくない。
……だが、幻影の言葉に先程からどうしようもなく惹かれてしまう自分がいる。
私の望みは……。
もう一人の私が、惑う私にニヤリと笑うと再び口を開いた。
「彼女は弱いくせにでしゃばって、腕にひどい怪我を負った。だが、ちょうどいいじゃないか。このまま片方の腕も、両の脚も燃やしてしまえばいい。そうすれば、彼女は、お前無しでは生きていけないんだ。それがお前の望みだ。そうだろう?」
「望んでは、いない」
「いいや、望んでいるはずだ。私はお前だ、よく分かる。お前が認めたくないのなら、全て、私に任せてくれればいい。そうすれば、お前はまどろみの中で全ての望みが叶う。次に目を覚ました時には、エルルの全てはお前のものだ」
そんなこと、望んでいるわけが……。
ないと、言い切れるだろうか?
なんて甘い響きだろう。
それに、どうしたことか。
意識が曖昧だ。どうしようもなく、眠い。
このまどろみに、そのまま委ねてしまえば、私の望みが叶う?
目をつむると、かつて私が愛した、いや、愛していると思っていたアナアリアでの日々が浮かんできた。
アナアリアは、ぬるま湯のような国だった。
魔王の言う事さえ聞いていれば、心やすらかに過ごせる。
自分で考えることなく、魔王の言う事を聞いて生活すればいい。
魔王に忠誠を誓い、魔王のために動くことになんの疑問も持っていなかった。
私が魔王に疑問を持つようになったのはいつ頃だろうか。
そう、確か、私が四天王の第一位となり、戦争の指揮を執り始めた頃……。
戦時中、何故か魔王は、もう一歩のところでガイア王国にとどめを刺せるという場面になると、撤退の命を出す。
その時に、魔王の真意が気になった。
魔王とは、私たちが愛する魔王という存在が何者なのだろうかと、ふと気になったのだ。
私は、その抱いてはいけない疑問を打ち消すべく魔王宮に侵入した。
今まで忠誠を誓った偉大な人物がそこにはいるはずで、私が抱いた些末な疑問などを吹き飛ばしてくれるに違いないと、そう、思ったのだ。
だが、そこには私が思い描く魔王はいなかった。
魔王とは、ただの、魔法陣だった。
アナアリアの魔法使いはすべて、ただの魔法陣のために生きていたのだ。
思いもかけない現実に呆然としたが、私はすぐにいつもの自分を取り戻した。
例え魔王が存在しないとしても、今後もあの魔法陣が魔王として、私に次にやることを教えてくれる。
それならこれからも、変わらず楽に過ごせるではないかと。
そう、私は、思考を停止したのだ。
今まで私が信奉していたものに裏切られていたという事実に、向き合わず、思考を止めて、蓋をした。
私は、ただ、怠惰で臆病者だったのだ。
そんな時にエルルに出会った。
彼女は、私と会った時、ぽつりと魔王についてのことを口にした。
その思いつめたような表情に、彼女が魔王に疑惑を抱いていることが分かった。
彼女も私と同じように、魔王宮に忍び込むかもしれない。
彼女は、魔王の正体を知ったらどう反応するのだろう。
私と同じように思考を止めるのだろうか……。
魔王の正体を知ったエルルは、涙を流した。
信じていた魔王がいないと知って、悲しみ、憤り、戸惑い、そして涙を流したのだ。
エルルの涙を見て、私は初めて自身も魔王の正体を知って悲しんでいたのだと気付かされた。
私は向き合うことを恐れていた。悲しむことを拒否していた。
涙を流すこと、悲しむこと、惑うこと、それらは弱い者のやることだと、受け入れられずに……。
でも、それは違うのだ。悲しみも涙も受け入れて前に進もうとするエルルこそが、強かった。
私はただ逃げていただけだ。
そうだ、エルルは、強い。
私などよりもはるかに。
自分に向き合うことができる強さ、人を思いやれる強さがあった。
私は、そんな彼女に惹かれたのだ。
それなのに、彼女の自由を奪い、自分の安心感のために彼女を閉じ込めることが私の望みだろうか?
幻影が言うように、彼女が私以外に頼る者がいない状態にすることが、本当に私の望むことなのだろうか?
違う。
そうだ、違う。
私は、そんなことを望んでなどいない。
微睡む意識に抗うように、私は再び瞼を上げた。
そして、私の姿を映した闇に向かって口を開く。
「私は、自由を愛する彼女が好きだ。あの無邪気な笑顔を守りたいと心から思うし、自分の感じたことを素直に表現する彼女の心が愛しくて、彼女に少しでも近しい者になりたかった。だから、私はそんなものを望まない!」
私が、自分の気持ちを確認するようにそう答えると、私の幻影が苦しげに膝を折り、ゆらりと消えた。
そして、暗闇の世界が歪む。光が見える。セレニエールの幻惑魔法の、出口だ。
目覚めなければ。
そして、エルルの元へ。
ーーーーーーー
「ユリウスさん!? 起きたんですか!?」
重い瞼を開くと、目の前にローランがいた。
顔を青白くさせたローランを見て、嫌な予感がした私は、すぐに上体を起こして彼の肩に掴みかかった。
「エルルは? エルルはどこにいる!?」
「すみません! 俺、エルル様を守れなくて!! アナアリアのあいつらに連れてかれてしまって……!」
そう言われて、慌てて周りを見渡すが、エルルの姿も、襲撃して来た四天王の姿もなかった。
くそ……。
「申し訳ありません。ユリウス様、私共のせいなのです。力弱い私共を助けようとして、エルル様は自らの心臓にナイフをあてがって人質とし、この村に危害を加えないことを条件に向こうに渡ったのです……」
ジャスパーと名乗っていた男がそう言って、膝を突いて泣き崩れる。
そうか、あいつらの狙いはエルルの心臓だから……。
「……ローラン、奴らは、帰りもこちらに来た時に使った転移魔方陣で帰ったか?」
「はい、こちらに来る時にも使っていた魔方陣でそのまま行ってしまいました……」
そう言って、悔しそうに唇を噛むローランの肩に手を置いた。
「なら、まだ間に合う」
私は、そう声を掛けて立ち上がった。








