もと同僚相手にも、一切の慈悲がないユリウス
一時期ピンチに陥った私だったけれども、ユリウスがなんかどうにかしてくれた。
こっそり逃げようとしたメガネも容赦なくユリウスは捕らえ、エルル村に愚かにもやって来たアナアリア四天王のお三方は、ユリウスが展開した重力魔法の餌食になって現在地べたに這いつくばっている。
「それで、お前たちは、どうやって、この村を突き止めた?」
ユリウスが偉そうに、這いつくばる元同僚を見下ろしてそう言うと、地面に顔を付けたレグリスが、「もっと人生の先輩を労らんかい」と苦しそうに呟いた。
「ほう? どう労わればいいのか、教えてくれるか? 先輩」
とユリウスが言うと、レグリスから更に痛みにうめく声が漏れた。
多分、重力魔法の重さを上げたっぽい。レグリスの体から何かがきしんだような音がする。
容赦ない。ユリウスさん、容赦ない。
元同僚相手にも、一切の慈悲がない!
しかし、それでいい。
なにせこの迷惑四天王には、私の愛するエルル村を半壊させたという重い罪がある!
「あーん、もうこれ以上はやめてぇー! この場所を突き止めたのは、そこにいるクラークってやつよ! 私とレグリスは知らないわ!」
セレニエールが、もう限界とばかりにそう白状した。
「ちょ、セレニエールさん、仲間を売るなんて、それ、ひどくないですかぁ!?」
とひ弱メガネが嘆く。
どうやら、犯人はあのひ弱メガネのクラークらしい。
ユリウスの氷のような鋭い眼差しがメガネに向かった。
「なるほど、お前か。どうやってこの場所を特定した?」
「ひ……! 僕は、別に、何も……」
とか言って、クラークがあたふたしている。
そういえば、クラークってどんな魔法が使えるんだったっけ。
漫画では、全ての四天王が倒れた後に台頭してくる準ラスボスみたいな感じだったけれど、表に出て自分の力で戦うタイプじゃなかった。
基本的には、魔神官の血を使って、ホムンクルスと呼ばれる魔法生物を作り出しては、聖女たちに放って追いつめてる感じだし。
ホムンクルス……?
もし、メガネが、漫画通り、ホムンクルスを使って戦う術に長けているとしたら、もしかして、近くに……?
私はそう思うと嫌な予感がして、周りを見渡した。
特に、怪しい影なんて……。
と思っていると、視界の端に一瞬だけ、魔力の流れを感じた。
その方向は、ユリウスにとってちょうど死角になる位置で、私は咄嗟に駆け出した。
何かが飛んでくる! ユリウスに向かって!
「ユリウス、どいて!」
私はユリウスを庇うように魔力の塊の前に躍り出て、右手を突き出した。
私の突き出した右手の指の間から、何か、魔力を覆った小さな人のようなものが、こちらに突撃しようとしているのが、かすかに見えた。
謎の光る人型のタックルを食い止めるため、ほぼほぼ無詠唱で、とりあえず自分の魔力を力いっぱい右手から解放する。
自分の魔力と、突然襲ってきた魔力の塊、それが合わさって強烈な光が眼前に広がって私は思わず目をつむった。
爆風のような風圧と、ズンという音が聞こえてくる。
髪の毛が、熱風で後ろに引っ張られ、そのまま私の体ごと吹っ飛ばされそうだったけど、どうにか足を踏ん張って、耐える。
風の音がうるさくて周りの声も届かない。
でも、食い止めて見せる! 私だって、泣く子も黙る四天王の一人だったんだから!
右手だけは構え続けて魔力を放ち続けると、此方に向かって来た何かが潰えた感覚がして、私は放った魔力を止めた。
一瞬強い風が吹き荒れて、すぐに静寂が訪れる。
恐る恐る目を開けると、目の前の土がめり込み、その先の森のようなものが、一部焦土と化していた。
荒い息を整えながら、下を見ると、えぐれた土の上に黒い何かが落ちている。
さっきこちらに向かってきた光の塊の本体のようだ。
やった!
私、食い止めたんだ!
すごいぞエルル! 流石よエルル!
と思ったところで、突き出していた右手がだらんと下がる。
力なく下がった腕に目を向けて、私は息を呑んだ。
右腕には、たくさん裂傷ができていて、血が流れてるし、一部、焦げてもいた。
さっきの攻撃を受け止めきれなかったのか、それとも自分の魔力に耐えられなかったのか、分からない。
分からないけれど……。
「い、いたい」
思わず呟いて、痛みで涙が眼に滲んだ。
だって、痛い。血が出た。しかも焦げてるし……!
痛い、痛いけど、ここで泣いたらせっかくかっこよくユリウスのピンチを助けたというのに、台無しだ!
「エルル!!」
私が泣かないように我慢していると、背中から、ユリウスの慌てるような声が聞こえた。
ユリウスは、私の目の前に来てくれて、私の腕の傷を見た。
その瞳が、動揺しているように揺れている。
「エ、エルル、腕が、血が……」
か細い声でそう呟くユリウスが、私よりも痛そうな顔をして、顔色すら悪い。
自分よりも動揺している人を見つけて、なんというか、少し落ち着くことができた私は、痛みで滲む涙をどうにか引っ込めた。
「べ、別に、そんなに痛くないわよ! ユリウスが無事なら、良かったわ!」
そう虚勢を張って心なしか胸も張る。
本当に、全然痛くないもん。
こんなの、魔神官が作る治癒薬があれば治るし……。
あ、でも治癒薬は、ローランの村人をエルル村に勧誘する時に、使ってしまった。
ユリウスも持ってないって言ってたし……。
あれ、じゃあ、私の腕、このままずっと痛い……?
また少し涙が復活してきた。








