四天王VS元四天王①
「もうそのくだらない茶番は終わったか? お前たちの目的はなんだ? 先ほどエルルの心臓がどうとか言っていたが……」
ユリウスが呆れたような様子でそう言うと、準備運動のように伸びをしていたレグリスが、改めてこちらに向かって構えた。
「ユリウス、おぬしには関係のないことよ。なぜなら、お前はここで、この剛腕のレグリスの手で死ぬのだからな!!」
「お前の力でそれができると思うのか?」
ユリウスの言葉に、レグリスは余裕の笑みを浮かべる。
「おぬしが現れて、私は四天王の最強の座を明け渡したが、それはお前の便利な魔法の数々を省みて譲り渡したものよ。こと戦闘においては、わしはお主に負けるつもりは毛頭ないぞ!!」
そう言ってレグリスがふんと再び勢いよく息を吐くと、彼の筋肉が膨れ上がった。
レグリスが着ていた服が弾け飛ぶ。
「うわぁ。レグリスさんまで半裸になった。なんでこっち側の陣営肌色成分多いんですか? 言っときますけど僕は絶対にそんなことはしないですからね。あと、僕は戦闘員じゃないんで、ここで眺めさせてもらいます。あなた方がピンチになったら、1人で逃げるのでそのつもりで」
クラークが、ちょっと距離を置きながらそう言うと、セレニエールが「元々あんたにはなにも期待してないわよ」と言って髪をかき上げた。
向こうはやる気だ。
でもこちらだって、やる気なんだからね!!
「ユリウス! レグリスの相手はあなたに任せるわ! セレニエールは私に任せなさい!」
私が高らかにそう宣言すると、ユリウスはちょっと渋い顔をした。
なんで、ちょっと嫌そうなんだろう! 私じゃ無理だと言いたいのだろうか!
ユリウスの真意を確かめようとしていると、「師匠! 村人を防御結界を張ってある場所まで誘導しました!」と言ってローランがやって来てくれた。
「皆無事なのね!?」
私が食い気味でそう確認すると、ローランが満面の笑みで頷いた。
ああローラン! なんてさすがのローランなんだろう!
この天才魔術師! 天才! 天才! ローランは天才!
さすが漫画の世界じゃ私を倒すだけはある!
「ローラン、よくやったわ! さすがよ!」
エルル村の四天王の一人に任じてあげる!
私はこちらに駆け寄ってきたローランにそう声をかけると、ローランの背中をさすがの敬意を込めてバンバン叩いた。
ああ、なんて立派に成長したことだろう。
出会った頃は、ちょっと生意気な子供みたいなやつだったのに!
よし、これならもう負ける気しないわね。
私の大魔法で、セレニエールなんかけちょんけちょんよ!
と思っていると、ユリウスが揺らめいた。
揺らめいたユリウスが消えたと思ったら、レグリスが拳を突き出している。
ローランの背中を叩くために少しばかりユリウスから離れていた私にまで、レグリスの風魔法の余波を感じた。
ユ、ユリウス、え、どういうこと!? とちょっとばかり混乱していると、レグリスのすぐ後ろにユリウスが姿を現した。
あ、あのユリウス独特の攻撃の避け方、見たことある!
私が魔王の正体を暴くために、魔王宮に忍び込んだ時、ユリウスに目くらましの魔法を使ったら、あんな感じで避けられた。
なんなのだろう、あの呪文、かっこいいんだけど。
私も、渾身の攻撃を避けられて、慌てる相手に『残像だ』とか言いたい。
ユリウスの便利魔法の一つを見て、あれいいなぁと思っている間にもレグリスの猛攻は続いていて、拳をユリウスに当てるために振り回し続けている。
ユリウスはそれを涼しい顔で残像避けしてるんだけど、ちらりと私とローランの方を見て、「……ローラン、エルルの補佐につけ」と言った。
お、どうやら、ローランの補佐付きで、セレニエールとの対戦相手は私に決まったようだ!
ローランも「はい!」といい返事をして、私の近くに来てくれた。
「ローランは、後ろに下がってなさい。セレニエールは、精神感応系の魔法が得意で、心が弱い状態だと、意のままに操られる可能性があるの。あんまり彼女の目を見ないように、あと胸も」
さっきは、あのセレニエールの格好を非難したけれど、あの恰好にはそれなりに意味がある。
あの恰好だと、男の人が魅了魔法にかかりやすくなるらしいのだ。
私は念のためローランそう伝えると、「わかりました」と元気よく返事してくれた。
あんまり、セレニエールの注意がローランの方を向かないようにしないと……。
だって、漫画のローランは、セレニエールに倒される。
セレニエールの得意な精神感応系魔法は、魔力抵抗値が高い人でも、その人の心の弱さや闇につけ込んで発動することができる。
村が疫病で全滅したという辛い経験は、漫画版のローランに暗い影を落としていて、性格も今とは違って少し影のある感じだった。
その心の闇をセレニエールにつつかれて、意識を乗っ取られたローランは、一時期聖女を裏切りセレニエールの仲間になるも、最後の最後で正気を取り戻して聖女を守るために自害する……。
ここにいるローランはあまり影のない性格だけど、そう言う事情を考えると、あまりローランとセレニエールを対峙させたくない。
私はローランを庇うように前に出て、セレニエールの前に腕を組んで立ち塞がる。
セレニエールは、私と目が合うと、面白そうに微笑んだ。








