クラークって名前、聞いたことがある
先程まで、基本的に余裕をぶっこいていたセレニエールが顔を真っ赤にさせて憤怒の表情で私を見る。
その顔が言っている。
若さが憎いと。
あ、やだこわい。
さすがに煽り過ぎたかもしれない……。
セレニエールさんの怒りのボルテージの高さに私はそっとユリウスの背中に隠れた。
「ちょっと、ちょっと、セレニエールさん。この勢いでエルルさんを八つ裂きとかしないでくださいよ? ちゃんと心臓だけは、綺麗な状態に取っておかなくちゃいけないんですから」
ゴレアムとセレニエールの後ろに控えていた、メガネを掛けたひ弱そうなのがヒョッっこり出て来て、呆れたようにそう言った。
え、なんか心臓とかすっごい物騒なこと聞こえたんだけど?
と言うか、彼はだれだろう。やっぱり、なんだか見覚えがある気がする……。
セレニエールやレグリスと一緒に行動してるってことは、新しい四天王?
私の後釜だとしたら、四天王第四位がトップを務める魔術の研究機関の人か。
それで、見たことがあるのかな。
でも、基本的に魔術の研究機関の人は、魔王様に言われた研究をただひたすらしてるだけで、同じ機関にいるというのにほとんど顔を合わせることもないし……。
「分かってるわよ!ちゃんとエルルは生け捕りにするわよ! あんたは、黙ってなさい!クラーク! 大体あんた新人のくせに、生意気なのよ!」
「と、言われましても、エルルさんが言ってることは概ね僕は賛成派なので。セレニエールさん露出し過ぎですよ。僕の集めた情報によると、その格好でガイア王国を歩けば痴女と呼ばれること間違いなしです」
「はあ!? クラーク、あんた、いい加減その生意気な口を閉じなさい! あー分かったわ! どうせあんたも若い女の方がいいってことね!? 私の成熟した美しさが分からないバカな男は全員死ねばいいのに!」
「僕の話ちゃんと聞いてます? 若さの話ではなくて品性の話をしてるんですけど」
そうメガネの人が言うと、セレニエールは、鬼のような形相をした。
こわい。
と言うか、セレニエール、さっきあのメガネのことクラークって呼んだ。
クラークって聞いたことある。
どこで聞いたんだっけ。
えっと確かに、ずっと前、いや、最近……?
あ……!
そうだクラークって、あれだ! 漫画で見たことがあるんだ!
漫画の後半に出て来た聖女の敵だ!
私含む四天王がみんな聖女に倒され、ユリウスも抜けて、戦力ダウンする魔王側に現れた新たな悪役!マッドサイエンティストチックのクラークだ!
自ら戦いには行かないけれど、魔神官の血のようなものを使ってホムンクルスを作って、聖女に放ったりするなかなかに厄介な敵だった。それに、何か、特別な研究をしていたような気がする。
その研究がなんだったのか、最終巻を読んでいない私は分からないけれど、結構ヤバそうな雰囲気を漂わせていた。
その底知れない相手が、憤怒のセレニエールに対して肩をすくめて彼女の怒りを流そうとしている。
私とユリウスが四天王を抜けたことで、もう彼が台頭してきたと言うことなのかな。
しかし、セレニエールに襟元を掴まれガクガク揺すられているクラークさんからは、漫画でのヤバそうな雰囲気をイマイチ感じないけれども。
「セレニエール、クラークを放してやれ。この場所を突き止めたのも彼の尽力あってのことよ。それにわしは分かっておるよ。女の美しさは、若さじゃない。……胸じゃ。わしはお主の格好は胸がよく見えて気に入っとる」
横から、レグリスがそう言った。突然のセクハラ発言である。
仲間のセクハラ発言にセレニエールは、ピタリとクラークをガクガクさせるのをやめた。
そしてゆっくりとレグリスの方を見る。
「な、なによ、レグリスったら、こんな人前で❤ もう、しょうがない人ねぇ」
と言って顔を赤くさせたセレニエールは、パッとクラークを解放してもじもじした。
さりげなく腕を使って胸を寄せ、谷間を強調させたりしている。
セレニエール、なんというチョロインだろうか!
そんなことを思っていると、ぼそっとユリウスがこぼした。
「こんな愚かな奴らが侵入したからと言って、あれほど冷静さを欠いた先程の私が恥ずかしく思えてきた」
私もこくりと頷いた。








