そういえば漫画の最終巻、読んでない
先ほどのレグリスの一撃で、私たちがいた建物の部屋はもちろん、その奥の建物も半壊し、近くの建物の窓ガラスは全て割れている。
と言うか、なによりも!
「エ、エルル村のみんなは!?」
そう叫んだ私の周りで、熱風が舞う。
私の魔力が、暴走し始めてる。
ダメだ、魔力抑えなくちゃ、でも、皆が、見当たらなくて、不安が、感情が、抑えられない……!
と思っていると、私の手を、ユリウスが握り込んだ。
「落ち着け、エルル。……大丈夫だ。村人はローランに頼んである」
ユリウスにそう言われて私は弾かれたようにユリウスを見上げた。
熱風がピタリと止まる。
「ローランに? 無事ってこと?」
ユリウスがコクリと頷いた。
本当に!? そう言えば、半壊した村の中に、怪我したり倒れたりしている人も含めて人影が見当たらない……!
皆無事に避難してる?
「今のところは、無事であるはずだ。それよりもまずはあれらをどうにかしないと。それに聖女を騙るガイア人も始末しなければならない」
ユリウスが、そう声を掛けてきた。
聖女を騙るガイア人って、アエラのことよね?
「だ、だから! アエラは……」
と、かばおうとしたけれど、でも、確かにアエラ達は、怪しい、のかもしれない。
魔王とつながりがある? でも漫画ではそんなこと書かれてなかった。
あ、いや、でも私、漫画の最終巻を読んでいない……。まさか、漫画の最終巻で、裏切者が出ているのだろうか?
それとも、私が漫画通りじゃないように、他にも漫画通りに動いていない人がいる?
私は、改めて後ろを振り返って、アエラ達を見た。
必死にアエラがリリシュに回復魔法を掛けているけれど、回復する様子がない。
多分、もう、リリシュは……。
それでも泣きながら魔法を使う聖女と、その様子を痛ましそうに見守るグイード王子。二人を守るように、こちらとセレニエール達を警戒し、何かあれば自分が犠牲になる覚悟の顔をしているゴレアム。
その三人の様子を見ると、やっぱり漫画通りの彼らで、やましいところなんて感じない。
悪を断じて正義を信じる、強くて優しい人達に思えた。
やっぱり、私には、彼らが悪い人だとは思えない……。
「ユリウス、アエラは、悪い人じゃない。ユリウスが魔王を倒すつもりなら、アエラの力は絶対に必要になる」
「だが……」
と呟いて、何か思案顔のユリウスだったけれど、私は構わずアエラの方を向いて「あなたたち、逃げなさい。ここにいたら巻き込まれるわよ!」と叫んだ。
「でも、リリシュが……」
「ここであなたが死んだら、リリシュも浮かばれないでしょ!」
私がそう言うと、アエラは、少し泣きそうな顔になった。
「……アエラ、行こう」
王子の静かな声が聞こえると、アエラが、黙って立ち上がる。
その顔には、覚悟を決めた強さがあった。
そう、アエラは、どんな困難だって、諦めない。立ち上がり続けることができるんだ。
「すまない。……助かった。この貸しはいずれ」
王子がそう言って、私は何も言わずに頷いた。
そして走り去る音が聞こえる。
よかった、逃げてくれた……。
そうだよ。聖女は絶対に必要だもの。聖女なら、アナアリアの魔王の支配を終わらせてくれる。
「エルル、君は甘過ぎる」
そう言って、なんだかんだ私が聖女を逃がすのを見逃してくれていたユリウスが呆れたように呟いた。
「別に、甘くなんかないわよ。……大体今はもう聖女に構ってる暇なんてないじゃない」
私がそう言って、視線をセレニエールたちに向けた。
そうだよ。なんと言ってもアナアリア魔王国の四天王のお二人が雁首揃えてやって来たのだ。
それで聖女の相手をしようだなんて、さすがの四天王の最強のユリウスだって分が悪いはず。
だいたい、私のエルル村をこんな風にした罪は許しがたい!
村の皆は、ユリウスの話だと無事みたいだけど、建物は壊れてるし、良く周りを見れば氷が覆って凍り付いているようなところもある!
エルル村を凍り付かせて何するつもりだったんだ!
許せない!
あ、いや、氷が覆ってるのは、もしかして、私の魔法?
……ふ、深く考えてる場合じゃない、これは全部セレニエール達の仕業だ、うん!
絶対に許せない!
私は妖艶な笑みを浮かべるセレニエールを睨んだ。
「ふーん、何をするつもりなのかと、様子を見ていたけれど、エルルったらあのガイア人に何か思い入れがあるの? 本当、あなたって変わってるわよねぇ」
そう言って、セレニエールがふふふと笑った。
「うるさいわね! 黙りなさいよ! このおばさん! 大体前から思ってたけど、そんな肌を露出した格好もういい歳なんだから止めなさいよ!」
私がそう言って腕を組むと、私の言葉の意味が最初理解できなかったのか、え? という感じで顔を強張らせたセレニエール。
そしてどんどんと顔を赤くさせると、叫んだ。
「な、な、な、な、なんですってーーー! おばさん、ですってー!? よくも言ってくれたわね! エルル!!!!」
そう地獄の使者のような恐ろしい声がセレニエールの口から漏れた。








