ご乱心のユリウス
おお、リリシュさんったら、かっこいい。
というか、リリシュってあんなにかっこいいキャラ、だったのか。
漫画だと、どちらかと言えば、補佐役に回ることが多いマスコットキャラという感じだったような気がするけど。
さっきのユリウスの魔法を食い止めたリリシュさんは、マスコットキャラというよりも姉御キャラだ。
けれど、結構ギリギリの防衛だったらしく、リリシュの両手が焦げかけている。
次の攻撃は耐えられないのでは……?
いや、と言うか私もぼーっと、解説してる場合じゃない!
暴れるユリウスを止めないと!
こわいけど!
「ユリウス、だから落ち着いてよ! 何で突然怒ってるの!?」
私はそう叫んだけれど、怒り心頭のユリウスには届かないようで、ユリウスは構わず呪文をつぶやいている。
魔法で作った光弾が、複数生成されてユリウスの周りに漂っていた。
あ、あんな量の光弾撃たれたら、さすがのリリシュだって、防げない!
「だから、落ち着いてって言ってるでしょ!? こ、氷の門!」
私は、とりあえず、ユリウスの魔法が聖女たちに当たらないようにと、慌てて魔法を使った。
ユリウスの光弾がリリシュに当たる前に分厚い氷の壁が、防ぐことに成功したけれど、私は、細かい魔法の操作は大の苦手。しかもこんな切羽詰まった状況だと、勢いが止まらず、今いる部屋の壁や物に氷を這わせて凍りつかせてしまった。
やだ、寒い。
聖女たちを逃がそうと扉に手を掛けていたゴレアムが、「くっ! なんということだ、扉が凍りついて開けられない! 閉じ込められた!」と言って、嘆いている。
あ、なんか、逃がそうとしたつもりが、私ったら……。
「エルル、氷を這わせて……頭を冷やせと言いたいのか?」
あ、なんか私の魔法の失敗をユリウスが良い感じに受け止めてくれた!
それにユリウスの目、先ほどの憎悪しかないような瞳ではなく、私を見て動揺するように揺れている。さっきみたいにただ冷たいだけの怒りに身を任せた恐ろしいユリウスじゃなくて、ホッとした。
「だって、ユリウスが! 私の話を聞かないんだもの! 落ち着いてってさっきから言ってるでしょう!?」
「だが、彼らは魔王に繋がっている」
そう言って、ユリウスはアエラ達を見た。
アエラ達も戸惑うように私たちの様子を窺っている。
「そ、そんなわけないよ、だって、アエラは聖女だよ!?」
「ではどうして、ここにアナアリアの四天王が来た! 私たちの居場所がばれたのは何故だ。この村には私の魔法で防御を掛けている。それなのに、村の真ん中に転移魔法が発動していたんだぞ!? ここに魔王の手の者がいない限りありえない!」
「それは! それは、分からないけど……! と言うか、そうだよ! セレニエールたちが来てるんだから、こんなことしてる場合じゃ!」
と私が話している途中で、突然ユリウスが私を抱きしめた。
ええ!?
な、何、突然!?
と思っていると、強い衝撃が辺りを走り抜けるのが分かった。
ユリウスの防御魔法のおかげで助かったけれど、私たちがいたこの部屋の壁や家具などは、私が覆った氷ごと木端微塵にどこかに弾け飛んでしまった。
私たちがいた部屋の屋根も含めて飛んで行ったので、唐突に青い空が目に入る。
そして、視線を少し下げると、拳をこちらに向けて構えたレグリスと、悠然と微笑むセレニエールがいた。
「あーら、ユリウス様ん、久しぶり。私を置いて、どっか行っちゃうなんて、酷い人ねぇ」
そう言って、下着みたいな服に、マントを羽織っただけの格好をしたセレニエールが艶然と微笑んだ。
その隣のレグリスが、正拳突きの構えを解いて、右腕をグルグルと回す。
「ふむ、私の牙狼獣王拳では、ユリウスは殺せなんだか」
先程の建物を吹っ飛ばした魔法は、レグリスの魔法か。
レグリスは、アナアリアでは大変珍しいマッチョ。その戦い方も体術を利用した魔法が多い。
なんか、自分で、牙狼獣王拳とか言って技名つけているけれど、拳を振る風圧を魔法で高めた感じの、ただの風魔法だ。
後ろで、音がして、振り返ると聖女と王子たちが瓦礫をどけて立ち上がろうとしているところだった。瓦礫で服は汚れているようだったけれど、見た感じほぼ無傷。
リリシュがどうやら最後の力であの三人を守ったらしい。ぐったりと聖女の手の中で倒れている。
アエラは、泣きながらリリシュを優しく手で包み込んでいた。
リリシュ……。
セレニエール達、許せぬ!
私は、きっと睨もうと顔を上げて、息を呑んだ。
改めて、外の景色が眼に入って、気づいた。
私の愛するエルル村が、半壊している!








