エルルの自己紹介タイム
迫りくる私の自己紹介タイムに高まる期待!
私は一応確認を兼ねてユリウスの顔を見る。
言ってもいい!? 言ってもいいよね!?
私の視線に気づくと、ユリウスは少しばかり眉を寄せて、考えるような仕草をした。
そして王子に視線を向ける。
「グイード、改めて確認だが、あなた方は、魔王を倒すことに手を貸してくれるということでいいのだな?」
「当然だろう。先程も言ったが、それが我らの悲願だ」
「そうか……」
と言って、ユリウスはまだ渋り顔。
なんでそんなに渋るのよ!
だめ、もう我慢できない。
私はすっくと立ちあがった。
「私のことが知りたいというのなら、いつでも答えてあげるわよ! そう、我こそんんん!」
再び、ユリウスに口を塞がれて、口から息をふがふがと吐き出した。
なんで!? なんで言わせてくれないの!?
「すまない。共に魔王を倒す者として、あまり隠し事はしたくないのだが、彼女のことは絶対に魔王に知られたくない。……決して口外しないと誓えるだろうか?」
なんだか必死なユリウスに、王子はちょっと戸惑いながら「もちろん、誓えるが……」と答えたあたりで、私は自分の口を塞ぐユリウスの手をどけた。
「ちょっとユリウスっ! どうして、さっきから私の名乗りを邪魔するの!?」
「さっき言っただろう。魔王に絶対に知られたくないからだ。あまり軽々しく自分の正体を明かそうとしないでくれ」
「べっつに軽々しく正体を明かすつもりなんてないわよ! 私はいつも自分の名前を教える時は、重々しく明かしてるわ! だって、毎回50文字以上はかけて伝えるもの!」
「名乗り方の重さのことを言っているのではない」
えっ? じゃあ、どういうこと?
私が分からず屋のユリウスが何を言いたいのか分からなくて、眉を顰めていると、グイード王子の楽しそうな笑い声が響いてきた。
え、なんで、突然笑い出したの?
本当に楽しそうに笑ったグイードが、目に溜まった涙を拭って口を開いた。
「クク、ユリウス、貴方が、慣れないながらも私達に助力を求めようとしたのは、彼女のためか?」
そう王子が面白そうに尋ねると、ユリウスはこくりと頷いた。
「ああ、そうだ。私は彼女に自由をあげたい。誰におびえることなく暮らせるように」
さっきまで分からず屋のユリウスだったのに、急に恥ずかしげもなくそう答えるもんだから、私は思わずユリウスの顔を見た。
「ユ、ユリウス……」
思わず名を呼ぶとユリウスがゆっくりとこちらを見る。
「穏やかに、誰に支配されることもなく、彼女とこの村で過ごしたい」
そう言ったユリウスは、いつもの涼し気な顔だけど、私を見るユリウスの瞳が、なんだか熱を持っているような気がして、胸がきゅっとなった。
もしかして、ユリウスは、私のこと……。
……いや、だめだ!
私は咄嗟に視線を逸らして、下を向いた。
……やばいやばい。
あやうく、勘違いしそうになるところだった。
ユリウスが私のことを好きかもしれないとか、そういう感じの……。
ユリウスは、アエラを好きになる。ユリウスはアエラを好きになるんだ。
勘違いしちゃだめだ。
私はすぐ勘違いするし、今までだってずっと、勘違いして生きてきて……。
魔王に愛されていると思い込んで生きて来たあの時みたいになりたくない……。
「ふふふ、とっても仲がいいんですね」
と、アエラがふふふって微笑みながら言うと、王子やあのゴレアムでさえ、何故か微笑ましいものを見るような目で私達を見始めた。
何!? 何が言いたいの!?
べ、別に私何も勘違いしてないわよ!?
「な、何よ、その目! か、勘違いしないでよね! あと、大体ね、ユリウス! ちょっと聞きたいことがあったんだけど、魔王を倒すも何も、魔王ってあれよ!? どうやって倒すの!?」
そうそう、だって魔王の正体って、地下の部屋にある魔法陣じゃないか!
私がそう声を荒げて主張すると、アエラの肩に乗っていた妖精が、飛び上がった。
「何、貴方たち、魔王の正体知ってるって言うの?」
そう聞かれてユリウスが、改めて姿勢を正した。
「魔王を倒すためには、魔王の正体について話す必要がある。それは、あなた方にとって信じがたいことかもしれない。それでも、これから私が話すことは真実だ。私を信じ、その真実に向き合う覚悟はあるだろうか?」
ユリウスの言葉に、王子、アエラ、ゴレアムが頷こうとした時、ユリウスが、突然勢いよく立ち上がった。
あまりの勢いに、テーブルに用意されたスープが少しばかりこぼれた。
ちょっと、私のスープが! と文句を言おうとしてユリウスの顔を見て、止めた。
ユリウスの顔が、ひどく青ざめていた。
「ユリウス、どうしたの?」
「村の中心に、転移魔法の魔力反応が……」
そう言って、ユリウスは窓のところに走っていき、勢いよくその扉を開いた。
私も、ユリウスの後を追って、恐る恐る窓の外を見る。
右目に魔道解析の魔法陣を展開すると、青い空に魔法陣の輝きが見えた。
宙に浮いているあの陣は、転移の魔法陣。
そしてその陣から、3人程の人影が飛び降りて来てる……?
あ、あれって……。
「誘惑のセレニエールと、剛腕のレグリスじゃない……!?」
思わずつぶやいたのは、かつての仲間の名前。
そう、今まさにこの村にやって来たのは、私とユリウスと同じ、アナアリア魔王軍四天王の残りの二人だった。








