聖女ご一行との話し合い②
「こちらのお嬢さんは、いったい、なんだ……?」
ゴレアムが訝しげに私を見たあとに、ユリウスにそう尋ねた。
立派な淑女に対して『いったいなんだ』っていうのも失礼な話だけど、でも、いいわよ。
いったいなんだと聞かれたら答えてあげるのが世の情けだもの!
私は大きく息を吸い込んで、我こそがエルル村を最も愛し、エルル村に愛されたエルル村の頂点エルル様だと答えてあげようとしたら、口の前にユリウスの手が伸ばされた。
勢い込んで吸い込んだ息が、ユリウスの手に邪魔されて、うまく吐き出せない。
フガフガいう私の横で、当のユリウスは涼しげな顔で口を開いた。
「彼女のことは後回しだ。その前に君たちの考えを聞きたい。私に手を貸してくれるのかどうかだ」
ちょっと、なんで私のことは後回しなのよ!
名乗らせてよ! 我こそは! って言わせてよ!
「なにをぬけぬけと! お前に協力などするものか!」
ゴレアムがユリウスに食って掛かる勢いでそう言うと、不快気な様子でユリウスが口を開いた。
「なるほど。ならば安心しろ。私が欲しいのは、私の術を見破ることができたアエラとかいう女だけでいい」
ドキッとした。
『私が欲しいのはアエラだけ』
そのセリフには覚えがあった。
漫画の中でユリウスがアエラに言うのだ。魔王国を裏切り、仲間であったはずの四天王を倒し、心を痛めていないか問いかけたアエラに、ユリウスがそう答えた。
やっぱり、ユリウス、アエラに惹かれ始めてたりするのかな……。
なんだかもやもやしながらユリウスのアエラを見る瞳を見ていると、ユリウスの視線が少し下がった。
アエラの肩に乗っている妖精に視線を移したようだ。
「それと、その肩に乗っている妖精も使える。まさか、異界に隠れ暮らしているはずの妖精に会えるとは。妖精族は人間よりも魔術師としての素養が高いと聞く。元々魔術を人間界に広めたのも妖精だという話もあるしな。ゴレアムと言ったか、嫌ならば別に貴方の助力は不要だ」
ユリウスがそう言い放つと、ゴレアムが顔を真っ赤にして「こやつ……!」と言って殴り掛からんばかりだったけれど、隣の王子がそんな荒ぶるゴレアムの肩を抑えた。
「ゴレアム、大丈夫だ。冷静になれ。……ユリウス、あまり私たちを刺激しないでくれ。貴方が今までガイア王国にしてきたことを思えば、冷静で居られる方が難しい。私とて、本当は今すぐ貴方を殺してしまいたいぐらいなのだから」
そう言って、王子は底冷えするような視線をユリウスに向けた。
私なんかは、正直ゾクッて、ちょっと、怖気づいてしまいそうだったけれども、さすがに四天王最強のユリウスはその視線をいつもの無表情で受け止めている。
流石ユリウスさん。四天王最強はやっぱり違うのね。
と思ったけれど、しばらくしてユリウスの目が少し伏せられた。
「……そうだな、すまない。刺激するつもりはなかった」
ああああ、あ、謝った! ユリウスが謝ったーーー!
思わぬユリウスの言動に、私含むユリウス以外の全員が、ビックリした顔でユリウスを見た。
皆の視線を独り占め中のユリウスは、目を伏せたまま話続ける。
「私は、正直、このように誰かに助力を乞うことに慣れていない。どう接すればいいのか分からないのだ。だが、それでも、力を貸してもらいたいとは思っている」
なんとも殊勝なユリウスに、王子を始め、聖女ご一行は驚きを隠せない表情をする。
私だって、ちょっとユリウスの態度には戸惑ってる。
だって、ユリウスは、エルル村の人たちには比較的穏やかではあるけれど、なんというか、外部の人には厳しいというかなんというか。
なにせ元魔王軍四天王ですからね。
さっきまでだって、聖女ご一行にはどちらかと言えば、まるで悪役四天王みたいな態度だったし。
しばらく絶句していた聖女ご一行だったけれど、比較的驚きが少ない聖女が口を開いた。
「それほどお困りのことがあるのですね。一体どのようなことにお困りなのですか?」
そうそれ! それよ!
私もそれが気になったの。
私ね、実はよくわからないままこの皆さんの会合に村長として参加していたわけだけれども、いったいユリウスがそうまでして、聖女ご一行にお願いしたいことってなんなのだろう。
静まり返るお食事会で、先ほどからずっとみんなの視線を独り占めのユリウスは、ゆっくりと口を開いた。
「私と一緒に、魔王を倒しに行ってもらいたい」
え? 魔王を倒しに行く?
ユリウスの予想外の一言に、再びお食事会に緊張が走るのが分かった。








