聖女ご一行との話し合い①
その後私たちは、場所を移すことになった。
なんかボロボロの部屋の中で、男たちがにらみ合う殺伐とした空間になってたからね。
気分転換に部屋を変えましょうって、震えるジャスパーが提案してくれた。
あのムードの中で、震えながらも場所変更を提案できるジャスパーの勇気すごい。
ジャスパーは我がエルル村の四天王の一人に任じよう。
四天王ジャスパーの勇気のおかげで、エルル村のおいしい食事でも食べながら、ゆっくり穏便に話し合おうということになったので、エルル村特産の野菜を使った料理長自慢の料理をテーブルに広げて、私、ユリウス、アエラ、リリシュ、グイード、ゴレアムとのお食事会が始まった。
ユリウスは本当は、私に席を外して欲しかったらしいのだけど、それは断固として拒否をした。
だって、この村はエルル村! 私の村だもの! 代表者の私不在で色々と話し合いが行われるのは嫌だ。
あと私がいなくなったら、ユリウスが王子とか殺しそうで嫌だ。
因みにエルル村四天王の一人、震撼のジャスパーは、震え過ぎた影響で、現在は別室でお休みをとらせていただいてます。
それにしても漫画で知っている人たちが、こうも一堂に会してくると、なんだか感慨深いものがある。
しばらく様子を窺うような感じで始まった無言のお食事会で、一番最初に口を開いたのはユリウスだった。
「君たちが一番知りたいであろうことからまず伝える。私は以前魔王国アナアリアにいた四天王の一人に間違いない。だが、今はもうあの国とは縁を切っている。いや、正確には縁を切ろうとしている。今は逃亡の身。身を隠しつつガイア王国の辺境にあるこの村に身を置いている。私のことを警戒しているようだが、今の私には魔王国アナアリアの四天王としてガイア王国を攻めるつもりは毛頭ない」
「……そのようなこと、信用できるものか」
ゴレアムが厳しい顔でそう言って、ユリウスを睨みつけたけど、ユリウスは涼しい顔でゴレアムの睨みつけを流し、再び口を開いた。
「どのように思われようとも、今の私にガイア王国を攻めるつもりはない。ガイア王国を攻めるつもりならば、わざわざガイア王国に移り住むような回りくどいことはしない。力押しで十分に勝機はある。それは、実際に苦境に立たされている君たち自身が分かっているはずだ」
そう言い切ったユリウスに、ゴレアムやグイードから怒りのオーラを感じる。
いや、うん、ユリウスの言ってることは正しいんだけど、なんていうか、ユリウスったら、もっとなんか柔らかい言い方できないものだろうか。
当のユリウスは二人の怒りには気にも留めずに、アエラの方に視線を向けて、「貴女は、私に力を貸すと言ったな?」と問いかけた。
「はい。貴方からは悪い感じはしません。何かお困りならば、助けになります。私は聖女です。良き者に力を貸すために、神様から力を得ました。過去のあなたがどうであろうと、私は自分の直観を信じています」
ユリウスの言葉に、アエラがそう答えて和やかな笑顔で微笑むけれど、ゴレアムはより一層眉を顰めて厳しい顔をした。
「アエラ殿、そうたやすくあれを信用するのはいかがなものかと。確かにアエラ殿には、人の善悪を見抜く力があると聞きますが、あれは、アナアリアの四天王が一人、冷酷無慈悲のユリウスです。彼には、何人ものガイア王国の同胞が殺されている」
ゴレアムがそうユリウスを睨みながら唸るように言って腕を組んだ。
先程からゴレアムはテーブルに広がる料理には一口も手を出していない。
多分食べる気がないのだろう。
まあ、今まで敵だったのだから当然なのかもしれないけれど。
漫画の時も、ゴレアムはユリウスを受け入れるのには時間がかかっていた。
アエラのピンチを何度もユリウスが救って、それでやっと信用するようになるのだ。
ゴレアムの意見を静かに聞いていた王子はかすかに頷いた。
「私も反対だ、と言いたいところだが、そちらの言い分を聞いてから決めるのでも遅くないはずだ。先ほどあなたの姿を見て思わず斬りかかろうとしてしまったことは、謝罪する。咄嗟のことで私も冷静さを欠いていた」
王子がそう淡々とした様子で言った。
ゴレアムと違って、荒々しさは感じないけれども、やっぱり料理には手をつけてないし、ユリウスを見る彼の視線は厳しいものだ。
「いや、謝罪はいらない。あの時は、私こそ冷静さを欠いていた。あの時私は、君たちを殺そうとしていた。私の殺気に反応してしまったのも仕方がないことだろう」
ユリウスが悪びれる様子もなくそう言うと、ゴレアムの顔が真っ赤になって、テーブルに手をドン! と叩きつけて立ち上がった。
あぶなっ! 料理長自慢のコンソメスープがこぼれる!
「貴様、殿下や聖女殿に殺意を向けるなど!」
万死に値するぞ! とでも言いたげに鼻息荒く主張するゴレアムだけど、ちょっと食事中のテーブルをバンするのは、マナー違反じゃない!?
咄嗟にスープ皿を持ち上げてなかったら、私のスープがこぼれちゃうところだった!
「ちょっと! 私のスープがこぼれるじゃない! だいたいさっきからうちの料理に手も出さないなんて、失礼じゃない!? すっごくおいしいんだから! もうすっごいんだから!」
私は、思わず声を荒げてそう主張する。
だって、さっきゴレアムがテーブルにバンしたことで、咄嗟に皿を持ち上げた私とユリウス以外のスープは溢れたし、綺麗に盛り付けられた料理が崩れたんだもん!
唸るようにそう吠え付くと、ゴレアムが訝しげに私を見た。
まるで初めて私の存在に気づいたかのような感じで。
なんでこんなところに子供がいるのだろうみたいな顔してる。
まあ、失礼しちゃう!
いっとくけど、15歳以上は大人のアナアリアの国じゃ、私はとっくに成人済みの大人なんだからね!








