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すでに悪いこと(人攫い)をしてました 後編


えっ? ここにいたいの?


「あ、カンナ、ちょっと、そういう、土下座みたいなポーズはやめなさい! 別にいたいならいてもいいわよ! ほら、ただ、私、勝手に連れてきちゃったから、だから、その、本当は、嫌なのかと思って……! とりあえず、床に頭をこすりつけるのはやめて立ちなさいったら!」


 私がそう言うと、カンナはヒックヒックと声を上げて泣きながら立ち上がった。


 というか、一体どういうこと……?

 カンナ、全力で泣いてる。ガイア王国に帰りたくないの……?

 そう言えば、さっきカンナはもう両親とは死別してるって言ってたし、だからかな。

 行くところがないなら、居てくれていいけど。むしろいてほしいけれど。

 使用人が一気にいなくなったら、私大変だし。


「カンナが、居たいなら、いていいのよ。……でも、他の使用人達はそうじゃない、わよね。カンナ、悪いけれど、他の使用人にも声をかけて、ガイア王国に帰りたい人がいるか確認してくる? ガイア王国に帰りたいって言うなら、私が責任を持って帰らせるからって、伝えて」


「ど、どうして、そのようなことを……?」


「さっきも言ったでしょう! 私、勝手に連れてきちゃったから、だから、悪いと、思ったのよ。こんなの、今更国に帰して、ごめんなさいで済むなんて思ってないけれど、でも、今更でも帰してあげたくて……」


私がちょっともじもじしながそう言うと、カンナは潤んで目をいっぱい見開いた。

すっごく驚かれてる。まあ、驚くよね。

今まで、当然のことのように連れてきて、当然のことのように使用人としてたんだし。


「そ、そうですか。エルル様がそうおっしゃるなら、一応声はかけてまいりますが……その、多分ガイアに戻ろうとする者はいないと思いますけど……」


「そ、そんなわけないじゃない! いいわよ、そんな、気を遣わなくて! いいからさっさと言ってきて!」


私が、いつものわがままロリ四天王のノリでそう言うと、カンナは慌てて部屋を去っていった。


連れてきた人たちに、私のこと許してもらえるかな。

いや、無理か、許してもらうとかそういう発想はやめよう。

完全に善意でやったことだったけれど……無理やりさらうなんて、前世の世界では、犯罪だ。

許してもらわなくても、謝罪だけはしよう。


ていうか、『ガイアの聖女アエラ』の話で、私が最初に倒されたのって、この人さらいをしている時にアエラに見つかって、倒されてたよね、確か。

なにやってるんだ、私。当然の報いじゃないか...。


しばらくして、カンナが屋敷の使用人を引き連れてやってきた。

パッと見て、10人ほど。

この数、さらってきた人全員っぽい気がする。

うん、私って奴はよくも10人も人さらいをしたものだ。


ていうか、どうして、私の部屋に10人ほどの人がぞろぞろ入ってきたの? 私恐いんですけれど!

確かに広い部屋だけれども、さすがに10人入ると、すっごく狭いよ!?


どうしよう。もしかして、私このまま彼らに復讐されて死亡エンド?

聖女に倒されるその前に、自分でさらってきた使用人に殺される四天王。

それは確かに四天王の面汚しだ!


ビクビク震えていると、カンナが前に出てきた。


「エルル様、ガイア王国から連れて来た屋敷の使用人すべてに声をかけてまいりました」


うん、見てればわかるよ。連れてきちゃったもんね。

連れてきてほしいとは言ってないんだよ?

声をかけて、帰りたい人がいるってなったら、こう、自ら赴いて謝罪して、そして帰す予定でいたんだよ?


私は震えそうな唇を開く。


「み、みんなよく来たわね。とりあえず、最初に、皆には伝えなくてはいけないことが」


「エルル様! どうか我々をガイア王国に戻すなどそのようなことはおっしゃらないでください! なんでも致しますからぁ!」


「え……」

まずは謝ろう、謝ったら許してくれるかも、なんて、淡い幻想を抱いて、謝ろうとしていた私は、中年の使用人の言葉を聞いて思わず目を点にさせた。


どういうことだ……?


帰りたくないのか……?


そしてその中年の声を皮切りに、他の使用人達も必死になって戻りたくないと懇願してくる。


私が聞いてもいないのに、ペラペラと己の生い立ちを語りだす使用人達。


どうやら、この屋敷に連れ去られた人は全員、カンナのように、家族や職や大事なものを失い、絶望的な状況の時に私に連れ去られてきた奴ららしい。


そう、私は元々善意で、人さらいをやっていた。

やったことは本当に自分勝手で迷惑なものだとは思うけれど、

ここに住めば幸せになれると信じて、人を攫っていた。

だから私はガイア王国にいる不幸そうな、なんか幸薄そうな顔をした人を選んで攫ってきていた。


でもその人選ってホント、ただの勘で、勢いに任せて攫ったわけで、彼らの生い立ちを理解したうえで攫ってるわけじゃない。

なんか辛気臭い顔をした人を見つけては、とりあえず攫っただけで……。

しかし私の勘はなかなかのものだったらしい。

攫った人全員が、何らかの理由で故郷を離れたいと思っていたようだから。


「えっと、じゃあ、みんなここにいてくれるの……? 私のこと、怒ってないの?」


使用人たちの話を聞いて最後にそう確認すると、使用人達は泣きながら満面の笑みを浮かべ、頷いた。


「よかったぁ!」


思わず心の声を漏らしてそう笑顔を向けると、使用人達が、「エルル様、かわいい」「可愛すぎる」「エルル様のためなら死ねる!」という声がちらほら聞こえてきた。


可愛くて、良かったぁ!

これが前世で聞いていた可愛いは正義の法則か!


本当に、よかった……!

私、まだ遅くない!

いまからでも、聖女に一番に殺される四天王の運命を回避できる!


連れ去った人には許してもらえたし、うん、もう、これからは人さらいはしない。

今までは運よく、不幸な人達を攫えてていたみたいだけど、これからも必ずそうとは限らない。

実際、聖女アエラの物語の中でのエルルは、どんどんこの人さらいがエスカレートして、そのうち村単位で人を攫い始めて、その噂を聞きつけた聖女に殺される流れだった。


……私、死にたくない。しかも私が死んだら、悲しまれるどころか、『この面汚しが!』とか言われるんだよ!?


あ、でも、いま魔王国アナアリアとガイア王国は戦争をしているから、私が四天王である限り、ガイア王国との、聖女との戦いは避けられない……?


というか、その前に、この国、おかしい、よね。

ちょっと、記憶がよみがえってから、うっすら気づいて、見て見ぬふりしてたけれども……。


これから私、どうしようか……。




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